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〖Sin Zeruchs〗破壊の神腕  作者: 雨音 研心
第二幕 ギャラルホルンの声音
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#6 阿羅牙宗一郎の目覚め

 目が覚めた時には青白い半透明の液体の中にいた。


 思わぬ出来事に刮目し、目が大量の液体に晒されるが、目に異物感はない。


 しかもその姿は全裸である。戸惑いよりも羞恥心が先行する。


 ガラスのような円形の装置に液体は貯められていて、私はこの中に閉じ込められている。


 息をすることが困難な状況だ。


 普通なら呼吸困難でとっくに死んでいるはずだが、現に今生きている。


 目覚めてからも一度も呼吸はしていないのに、体は酸素不足であると訴えてこない。


 不思議なことに、そもそも呼吸という行為自体が不必要だった。


 「人間の体ではないのか」とまで思うが、それを確かめるにはここから抜け出さねば。




 何故この状況にいるのか、全く分からない。


 私はその場で記憶を遡る。


 必死に思い出そうとする。


 その努力も虚しく、何も思い出せない。


 思い出せそうで思い出せない時の喉に何かが痞える感じもない。


 液体の中で「あー」や「おーい」などと言ってみるが、液体の中で喋ると出来るはずの大きな気泡は全く見えない。


 息を吸っていないのだから、息を吐くことも必要ない。


 しかし人間であればそれだと喋ることはできないはずだ。


 「まあ、呼吸していない時点で、私の体は人間……いや、生物ですらないということか」


 液体の中で「なんて最悪な朝だ」と嘆くが、朝であるという確証はない。



 液体中を移動して、ガラスのような物体に手が触れた。非常に頑丈だ。


 外界からの光の屈折の仕方から100㎜程の厚さだと考えられる。


 これは脱出できそうにない。


 そう結論付けた時、向こう側から光が差し込む。


 暗闇が支配していた部屋は一筋の光によって全貌が明らかになった。



 光に照らされた部屋は、いかにも怪しげな研究所を彷彿とさせる物々しさを醸し出している。


 周りには私が入っている装置と同じような物体が見えた。


 光源は、ライトであろうか。


 全体を明るく照らすほどの光量は持たないが、部屋全体を把握するのには十分だ。


 ライトの光はこちらに向いた。


 何をされるか分からない状況だ。


 念のため、寝ているふりをする。


 ライトは間違いなくこちらに迫ってくる。


 少し不安になるが、わざわざ、ここに閉じ込められているのだから、殺傷目的ではないと祈る。


 しかし、ライトの持ち主はこの施設の人間でない可能性もある。


 なぜか私が入る装置だけが放つ青白い光は、とてもこの部屋を照らす光量はないが、近辺を照らすぐらいの能力はある。


 光源が近づくにつれて、その姿が明らかになる。


 青白い光に微かに照らされた、ライトの持ち主は、ダルマ型の黒いロボットであった。


 宙に浮き、中央にある大きなカメラでまじまじとこちらを観察してくる。


 「ん?」


 すると頭に予兆なく情報が流れる。


 それは非常に複雑で、とても可視化や具現化できるようなものではない。


 文字にも見える、たくさんの記号が、頭の中を覆い尽くしている。


 突然のことに困惑しつつも、情報に対して意識を集中してみる。


 すると、段々と情報が“映像化”してきた。


 それは私を撮しているこのロボットが送信している映像だった。


 その送信先は、ここからそう遠くはない。


 この階から数十メートル程、上がったところにこのロボットの操作権限を持つクライアントがあると知覚できた。


 そんなことまでわかってしまう。


 一体、どうなっているのだろうか。


 ここにいてはまるで埒があかない。


 このロボットを乗っ取ることは可能であろうか。


 そうすれば、この施設のコンピュータをクラッキングしてここから脱することができるかもしれない。


 私は意識を集中して、このロボットの権限を送信先のクライアントから私に移行させる。


 するとロボットは、大きな音を立てて、床に落ちた。


 けたたましげに落下したため、周りに人がいたら大変だと周りを注視するが、誰もいないようだ。


 「成功したのか?」


 確認のため、動かしてみると、そのロボットは操り人形のように、私が指示した通りに動き出した。


 「よし、成功だ」と心の中でガッツポーズを浮かべる。


 ロボットにはこの施設に関するあらゆる情報が保存されていた。


 この施設の建築図面に、各部屋の設定温度、施設のメインコンピュータへの介入権限などだ。



 とりあえずここからの脱出を試みる。


 どうやらこのロボットだけでは、この装置のコンピュータに入ることはできないようなので、私は施設のメインコンピュータへのクラッキングを試みる。


 メインコンピュータなのだから、セキリティが厳重すぎて入れないかとも危惧したが、そんなことはなかった。


 すんなりと、コンピュータ内部に侵入できた。


 そればかりか、コンピュータの管理者権限を獲得することができた。


 まず、私を閉じ込めているこの装置のロック解除をすると、分厚い壁が、瞬時に消失した。


 なぜか液体この液体は、外へは溢れ出なかった。床中水浸しになるのは何となく予想していたが、表面張力らしき力で液体は依然として閉じ込められていた。


 驚くことに、水槽からゆっくりと出てみると、体の表面に付着していた液体が凍り出した。


 「なんだ? 何が起こってる?」しかし、体には“寒い”という感覚はない。


 瞬く間に氷は全身を覆い尽くした。


 これほど瞬間的に液体が凝固したのだから、恐らくこの部屋の温度は極寒である可能性がある。


 「この液体の凝固点が極端に低いとも考えられるか……」


 寒いという感覚がないことはひとまず置いといて、私は歩き出した。


 「これが、来たのはあっちだから……」


 これとは、もはや言いなりとなった黒いロボットである。



 ふと青白い光を浴びている自分自身の体を見る。


 ガッチリとではないが、腹筋はシックスパックに割れ、胸筋、上腕二頭筋ともに十分発達していた。


 「随分といい体をしているな…」


 恐らく私は日頃から鍛えていた人間なんだろう。


 記憶がないため確証も何もないが。



 ロボットを背後に引き連れて、私は出口の前に向かった。


 それまでにわかったことがある。


 ここは如何にも怪しげ施設ではない。


 「まったく…怪しすぎる研究所だな。これは誰だ?」


 そこには私のような状態の人間が、水槽の中で眠っていた。


 私はこの中の一人だったんだな。


 考えたらぞっとする。


 ロボットのライトを用いて、一つ一つ念入りに観察してみるとわかったことがあった。


 「これは……全員死んでるな」


 そう、全員が死んでいた。


 メインコンピュータで、この施設の情報を閲覧すると、そこには《警視庁公安部独立秘密警察》とあった。


 「ここは、警察機関?」


 国家機関であるのは判明したが、遺体が保管されている理由にはなっていない。


 更に調べるとこの施設が《特別遺体保存室》という名称であることがわかった。


 データベースを閲覧するうちにこの施設をこう結論づけた。


 「なるほど……特殊性の高く、明るみに出れば国家的法益に関わる事件の被害者を保存している施設ってことか」


 まだこの施設の全容が明らかになったわけではないが、ある程度は判明してきた。


 「つまり…遺体だらけの部屋ってことか」


 なぜわざわざ遺体を保存しているのか、何故私は生きているのか、などの疑問は解決されないが、この部屋がなんなのかということは解決された。



 「ここが…これが出てきた扉」


 ロボットが出てきた扉をそっと触る。


 すると先ほどのように脳内に新たな情報が入ってきた。


 それはこの扉の奥の景色だ。扉は非常に頑丈で、それが二重になっている。


 また、扉の両側には二人の厳重な武装をした兵士がこの扉を守っている。


 全身型のパワードスーツ程の重装備ではないが、頭部には銃弾を軽く跳ね返しそうな兜をすっぽりと被っている。


 「ん……困ったな」


 この格好、つまりは全裸で出てきたら、相手は混乱し、最悪戦闘になりかねない。


 普通なら戦闘なんて物騒なことは考え難いが、こんな怪訝な施設なのだし、しかも武装しているのだから十分考えられる。


 「困ったな。どうするべきか」


 その時、扉の向こうから動体反応を感知した。決して速くはないが、人間の移動速度としては非常に速い。


 この力は透視とでも言うのだろうか、扉の向こうをもう一度見る。


 こちらに向かって来ているのは人間だと分かったが、それは最初見たときのような、軽装備の兵士ではなく、非常に物々しい武装をしている。


 「あれは……全身型パワードスーツ?」


 これほどの重装備をしてきたということは、単なる調査や護衛ではなさそうだ。


 この施設のメインコンピュータにアクセスしたことが知れ、この部屋の赤外線カメラが私の姿を捉えたのだろう。


 そして私を侵入者と思ってきたのだろう。私一人にどれだけの人員を使うつもりなのだろう。


 「まあ、秘密警察というのだから無理はないか」


 とにかく隠れなければならないな。しかしこの広い部屋では隠れようがない。どうするべきか。



 その時だった。


 私の腕が輝いたのは。


 輝きを放ちながら、細やか微粒子に変化する。遠目から見れば液体とも見えるだろう。


 一つ一つの微粒子は水が流れるように動き出した。

 粒子に変化し、消失したはずの腕は光り輝く神の如き威光を放って復活していた。


 神々しく煌めく腕を中心に大小様々に変化する七本の光の輪が生み出される。


 それはまるで、神話に登場する天使の光輪を思わせた。


 自らの腕でありながら、キリスト教の現代アート美術品を鑑賞している気分だ。


 すると光輪全てが均一の大きさとなり、気付けば正面に向けていた掌を囲む形で空間に固定された。


 数秒もしないうちに掌に熱いものを感じる。


 七本の光の輪から放出された芸術的な光の粒子の数々が掌の中心部で一つの球体を形成する。


 それは空間に灯る美しい光放つ球体だった。


 その美しさから時間を忘れるほど見惚れていたその時だった。



 私の姿は消えた。

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