13.事柄を紡ぐ猫。
「さてさて、そちらは何かあるかしら? 事件とカズくんに、何かつながりがあった?」
煙草で一息ついて落ち着いたというのだろう。紫煙をくぐらせつつ、霞が美加へと尋ねてくる。今の霞には、殺気立つ千代と違った怖さがある。
紫煙をまとった姿が、底の知れないとても深い何かのように、呑み込んでくるのではないかと思えてしまう。
でも、それは飽くまで霞の存在感が思わせるのであって、実際のところ、笑みを向けて和やかにしようとしている気持ちも伝わってくる。
「実は――」
美加は和葉とのやり取りを話した。
夜のビルの屋上でのこと。和葉の目的。何かしらの形で事件について知っているかもしれないということ――。
霞は手元に残る書類に目を通しつつ、相槌を打ちながら話を聞いている。
話すか話すまいか悩んでいたが、結局話すことを選んだ。これでどうなるのか分からない。霞がどう動くのか分からない。分からないだらけだが、霞ならきっといい結果を導いてくれるのだと信じてのことだ。
「そう。カズくん――いえ、ネコジシは魔具を持ち出した猫を追っているのね。ああ、そう。ここでもつながったって感じね。こちらは偶然なのかしら。それとも似ているだけなのかしら。
もしかしたらの話なのだけど、ネコジシの捜しているのは、矢鮫のオバ様のところの猫じゃないかしら。〝持ち出した〟というところが同じなのよね。矢鮫のオバ様なら、ネコジシの社長――前社長のことね。仲がいいもの。だから、猫捜しを頼んでいてもおかしくないだろうし。
――で、カズくんは関係のない別件だって? 残念ながら、猫と魔具に関することなら、私と関係付けされるのよね。ともなれば、千代ちゃん」
霞が千代へと見やる。千代はどこか嫌そうな顔をしている。霞姉さんのためならば、を口癖としている千代が何ゆえこのような顔をするのか。
「千代ちゃん、言う前からそんな顔されると、とても言いづらいんだけど」
「たとえ、霞姉さんの頼みごとだとしても、好き嫌いぐらいあります。それに、何を頼むか予想できてしまえば、こんな顔にもなります。〝ネコジシの動向を探れ〟と言うのでしょうから」
「分かっているじゃない。じゃ、宜しくね」
満面の笑みを浮かべる霞。対して、千代は今まで殺気立っていたのが嘘だったかのように、「はい、分かりました」と消沈している。
美加の隣に座る浄一からは、今にも笑い転げそうに震えていることが伝わってくる。それがまた千代にも伝わっているようで、ギリッと金属の鋭さを持つような視線を向けられる。
浄一に向けられているはずなのに、美加が向けられていると感じてしまい、肩をすぼめた。
書類に目を通していた霞の手が止まる。その目つきが変わった。
「公安って、この人だったの。ふうん、カズくんが嫌がるのも分かるわ。仕事に関しては生真面目なんだけどね。ねちっこくやっていたからね。魔具を持った者全てを嫌っていたのよね。それも生真面目すぎる性格からなんでしょうけど。どんな感じで見られていたのかを考えれば――私だって清々するわ」
霞の冷ややかな目。書類を千代へと渡すと、千代が顔をしかめている。こちらも嫌悪が最大限にあらわとないっている。いや、むしろ憎悪といってもいい目だ。
「となると、この人の追っていた物が、事件に関わる魔具ということでしょうか?」
千代は書類をテーブルへと置き、霞へと尋ねる。霞は「そうかもね」と答えるだけ。曖昧な言い方をするところから、確証まではないのだろう。
ただ、言葉を紡ぐように、魔具の名を言った。
「〈賢者の石〉」
――と。
美加は息を呑む。ここへと来る前に、弓月が言っていた名前と同じだから、驚きもある。
つまりは、弓月は公安職員の追っている魔具が何かを知っていたのだろうか。もしかしたら、ここの誰よりも事件のことを知っているのかもしれない。警視正という役職柄、色々と情報が下から上がってくるのかもしれない。
「あら、その顔――もしかしなくても、心当たりあるってところかな?」
目ざとく霞が見やってくる。怯えるわけではないが、こちら心を読み取られた気がして、より驚いてしまう。
しかし、聞いただけの言葉なので、どう答えてよいのか。でも――
「本庁の方が、その名前を口にしていました。私には何のことか分かりませんでしたが」
素直に答えるだけだ。隠すようなことでもないので、問題がないだろうと判断した。
霞は一度頷き――
「〈賢者の石〉、〈哲学者の石〉、他にもいくつか名前があるわね。伝説、伝承などに出てくる物よ。名前だけが何よりも有名すぎて、本当にあるかどうか、誰も分からないのだけどね。伝説というのは、捻じ曲げられたり、適当に作られたり、様々なものだけどね。正直、よっぽど伝説やらに興味のない人から見れば、眉唾物としか思われない物よ」
自らの眉をなぞりながら言った。
「〈パラケルススの石〉ですね。錬金術で作られた物だとか。よくフィクションに登場する名前です。幻想小説を好む人からしてみれば、あまりにもありふれているので、大半の人が知っているのではないでしょうか」
遊慧が人数分のコーヒーを持ってきて、それぞれの前へと並べていく。
「あら、遊慧ちゃん、いつの間にそんなことまで。魔具には関心がないと思っていたのだけど」
「ですから、フィクションなどで使われているので、名前だけなら」
遊慧はそう答えると、いつものようにカウンタへと戻っていく。話に入ってくるのかと思いきや、知っている名前だから答えただけに過ぎないようだ。ゆえに、〝魔具という物には関心を持っていない〟というスタンスを全く変えていない。
霞は「なるほど」と湯気の立つコーヒーをすすった。熱かったからか少し顔をしかめ――
「とまあ、〝一般人〟でもそれなりに名の知れた代物ということね。舌、回ってるかしら。喉を潤そうと思っても、猫舌なのに無理して熱いのを飲むのも駄目ね。
で、公安が追っているからといって、私としては〈賢者の石〉なんて物を全く信じていないのだけどね。でも、そんな信じられないものでも、事件に関係があるのかを疑いだすと――」
ため息をつく。乗り気ではないようだ。自ら〝眉唾物〟だと言っているのだから、そんな物あるわけがないと見てしまえば、気が乗らないのも分からないわけでもない。
ないものをどんなに追いかけたところで、あるわけがない。それこそ、UFOやUMAといったものと同じである。信じている人間だけが追いかけ、信じていない人からしてみれば探すという行為自体が馬鹿らしく見えてしまう。
それが魔具の世界にもあるというだけのことなのだろう。
千代とて、ずっと渋い顔をしていたのに、〈賢者の石〉の名前を聞いて、さらに渋い顔になっている。
浄一を窺ってみるが、何を考えているのか、のうのうとしているだけだ。情報を扱う人間からしてみれば、存在の有無よりも存在の情報の有無の方が大事なのだろう。霞の話から新たなる情報を得られるかどうか、見ているのではないのだろうか。和葉が事務所で銭勘定している時の顔と似ているように見えるのだ。こればかりは、美加も厭くだけだ。
「ネコジシは千代ちゃんに任せてしまったから――これは私が扱うってこと? 気が重いわ。あるかどうかも分からない物のために動くなんて。
遊慧ちゃん、代わりにやる?」
遊慧は〝一般人〟という扱いじゃなかったのだろうか。美加は怪訝に見ていると、霞の冗談であるように、遊慧から笑いが返ってくる。
「コーヒー豆の仕入れでしたら、喜んでやりますが」
飽くまで遊慧は魔具に関わることも、その気もないようだ。
「遊慧ちゃんにコーヒー豆の仕入れをさせると、予算に収まらなくなるから、遠慮しておくわ。お店をやる以上、ある程度の収入がないとやっていけないもの。
仕方ない――」
やれやれね、と霞はため息をつく。煙管をくわえ、煙草を赤く染める。大きく吸った煙を天井へと放った。
「色々と重なり合って、色々と散らばって……。どれがどこまで関わってくるのかしらね。
ジョウくんには、このあとも情報の収集を頼めるかしら? あなたにはモルゲンシュテルンの行方ね。あ、でも、見つけても手を出したら駄目よ。公安の死因を見ると、モルゲンシュテルンの仕業だと思うから。同じ目に遭いかねないもの」
不意に出てくる犯人の名前に、美加は戸惑いを覚える。浄一は分かったと答えるように手を上げるだけだ。
「え? それじゃ、事件の犯人は?」
美加は、自分だけが何も分かっていないことに、焦りを覚えて思わず問うてしまう。そもそも、どうして犯人が分かるのだろうか。浄一の持ってきた情報に犯人につながる情報があったのだろうか、と。
「モルゲンシュテルンでしょうね。証拠はひとつもないけど。人間の首を簡単にへし折るような人間離れしたのって、この辺りじゃいないもの。屈強な大男がわんさかといる矢鮫組なら、可能性もありそうだけど、彼らが無闇に事件を起こそうとするものなら、〝指を詰める〟どころじゃ済まなくなるもの。状況証拠と消去法から導き出しただけよ。
ああ、警察としては、もっと確実な証拠が欲しいところよね。でも、今のところは難しいかな。〝私たち〟の目を盗んで、この街で好き放題やっているほどだし。
警察なら、聞き込みとやらで情報が集まるかもね。何だって、〝傾奇者〟なんて矢鮫のオバ様に言われているぐらい目立つわけだから」
霞は立ち上がった。軽く伸びをして、カウンタへと歩んで行く。
美加はルドルフのことが書かれた書類を手にする。この男と和葉に、何か関係があったりするのだろうか。そして、〈賢者の石〉という魔具にも――。
「あまり気負わないことだ。気負いすぎると、怪我じゃ済まなくなる。これ、俺の師匠が言っていた」
浄一はポンと肩を叩いてきて、そう言った。
◇
ナーゴと声が聞こえる。
どんな感情を表しているのか、その声だけでは判断がつかない。もう一度、もう二度、声が聞こえた。
どれも猫の鳴き声――。
どこから聞こえるのか、どこにいるのか、見渡しても分からない。
なぜなら、真っ暗な中、何も見えないからだ。
声だけが響いてくる。今にも途絶えそうな、壊れてしまいそうな鈴の音にも聞こえる。
儚げで――でも、決して弱々しく聞こえない。それゆえの、それならではの、孤高、至高があるからだ。
だとするのなら、声だけでなく、もっと姿を見せてくれてもいいはずなのに――訴えようにも声が出ない。言葉が生まれない。
真っ暗な虚空に光が生まれた。こちらの考えが分かっているのか、読まれたのか。
二つの光はまるで目のよう――むしろ、目そのもの。目が釣りあがってくる。猫の目。
その鋭さに、思わず息を呑んでしまう。
ギロリと睨んでくる。いや、単に見ているだけなのかもしれない。その存在感ゆえに、睨まれていると錯覚していることだってあり得る。
怖い――。威圧感に押し潰されてしまいそうだ。ただ見てくるだけのことに、体が擦り切れてしまいそうだ。少しずつ少しずつ削り取られて、全てを失ってしまうのではないのか。
ナーゴ、再び泣き声――。
目が増えた。二つだったものが四つに。四つだったものが八つに。十六。三十二。六十四。百二十八。二百五十六――次々と増えていく。
真っ暗な世界を目で埋め尽くされていく。猫の目だけの世界――。
◇
「げほっ、はっ、がはっ」
美加はむせ返りながら目を覚ました。今まで眠っていただけなのに、呼吸すらも止まっていたのではないのかと思えるほどに息苦しい。酸素を欲している。ゆっくりと、少しずつ息を整えていく。
周囲は暗い。時計を手探りで取り、ランプを灯して時刻を見れば、まだ夜明け前。
今日は、一応少しだけ眠れたのだろう。心は眠りを妨げようとするものの、体が眠りを欲した。そして、心よりも体が勝ったからこそ、眠ったのだろう。それだけに、眠ったのだという感覚は乏しい。これなら、勝手に落ちただけ、という認識の方が正しいのかもしれない。
時計を置いて、上体を起こした。寝汗によるものか、夢を見たことによるものか、着ている物が肌に張り付いてとても気持ち悪い。
気だるさを抑えきれず、起きることにした。このまま二度寝をしたところで、眠れやしないだろう。
シャワーを浴びて朝食をとろう。食欲がないので、食べることが叶うか分からないところだが。
熱めのシャワーを頭から浴び、あの夢は何だったのかと考えた。
真っ暗な世界に、いくつもの猫の目がある。
「和葉くん……」
ため息をつく。
和葉と仲違いのような形になってしまったから、あのような夢を見てしまったのだろう。心の弱さが招いた夢なのだ、と決めて、シャワーで洗い流せないものか、と顔から浴びた。
所詮、姑息――姑息にもなっていない。こんなことで洗い流せるわけがない。心が弱いままなのだから、シャワーではどうしようもない。心を強く――と考えても、心が弱いからこその空回り。何もできないまま――。
シャワーから出て、半ば適当に髪を拭き、ベッドへと座る。
沈んだ表情で、横から僅かに射し込んでくる光を浴びる。夜明けだ――悪いことの終わり、いいことの始まりと考えたい。でも、夢の終わり、現実の始まりでもある。
その現実がいいものなら問題ないが、悪いものならと考えれば――
どんよりとした暑さが今日もまた熱くなると語っているかのようだ。より心が沈んでいく。
◇
「申し訳ありません、社長。一度は捕まえることに成功したのですが、逃げられてしまいまして。その後、必死に捜しているのですが――はい、すみません。次からは、このような失態をしないよう心がけます」
和葉は受話器を置いて、どんよりとしたため息をついた。電話をスチールデスクの隅へと置く。
失敗したことを報告して、特に怒られることはなかった。すぐに怒るような相手ではないと分かっているので、どやされないことも予想できたことだった。しかし、それが自分にとって何の意味もなさないことも分かっている。失敗したのだからこそ、叱責してほしいと思う。
何もかもがうまくいかない。頼まれごとも満足にできず――そして、美加とのやりとりもあれ以来何もない。いつもどおりにならないことが、何よりももどかしく、空回りしている原因なのだと考え――すぐに否定した。美加がいようともいまいとも関係ない。今は自分の仕事を全うするだけなのだ、と自らに言い聞かせる。それが一番の問題なのだ、と。
マグカップを手にして、冷めてしまったコーヒーを口にした。中途半端にぬるい。淹れなおそうと考えるものの、半分以上残っているので勿体なく感じてしまって、さらに一口――。
「思ったよりも手こずっていることが問題ですね。さっさと黒猫を見つけ、黒猫につけたままの魔具を回収しなければなりません。そもそも、魔具と離すと煩いからという理由で身につけさせたことが、一番の問題でしたか」
再びため息。視線をマグカップから、部屋の隅――ヘカテを見やる。
ヘカテは読書をしている。難しい顔で何を読んでいるのかと思えば、「猫の気持ちが分かる本」と書かれている。
「何よ?」
ヘカテが睨んでくるが、少女姿とあって何ら怖くない。そんな姿でそのようなハウトゥ本を読んでいるものだから、猫を飼いたがっている少女にしか見えない。それがまた、辟易とさせる。
「いえ、捕獲した黒猫をいとも簡単に逃げられた挙句、ここ数日、一向に見つからないからといって、今さら猫に関する本、それも猫の飼い方についての本を読んで、どうしたいのか分からないと思いまして。
というよりも、黒猫というのは魔女の眷属です。それなのに、〈魔女〉と呼ばれるあなたが黒猫の一匹すらどうすることもできないのは、お笑い種と思いまして」
和葉はニタリと笑んだ。このどうしようもない気持ちをどうしようもないままに、憂さ晴らしをしたくて嫌味をいつものように言うのである。こんなことで心が晴れるわけがない。
ヘカテは頬を膨らませる。〈魔女〉と呼ばれているだけで、魔女というわけではないのだと言いたげだ。
「だったら、〝黒猫〟と呼ばれるカズハが、どうして黒猫と仲良くなれないのさ!」
ああ言えばこう言う、そんな展開へと向かうのは、いつものやり取りといえばいいのか、いつもと違うからこそ別の方向へと空回りを始めてしまうのか。
「言ってくれますね。――いえ、やめましょう。黒猫を逃したお陰で、色々と予定が遅れてしまっています。社長の仕事をさっさと終わらせて、僕は僕のために――」
「それで、ミカとあのままでいいの? ミカがいてもいいのに」
ヘカテとしてはごく当たり前のことを口にしただけなのだろう。いつもと違っているからこそ。
それが、和葉の胸に深々と突き刺さる。チクチクと痛かったものが、ズキズキと痛む。
「あの人は、関係ないことです。無理に、僕のやろうとしていることに、引き入れることはないのです」
感情に任せると何を言ってしまうか分からない。だからこそ、ぐっと抑えて返した。
「カズハがついて来いと言えばついて来たんじゃないの? ミカのことだし」
また深々と突き刺さる。あまりの痛みに、息が止まりそうだ。
「でも、〝一般人〟です。僕たちの世界に、踏み入れさせる必要もないのです」
精一杯の抵抗――抵抗になっているのか、自分でも分からない。
「それなら、和葉はどうなの? 元々〝一般人〟だし。今だって、特に変わらないじゃん」
そうだ――和葉もまた美加と変わらない。魔具を少し知っているだけで、ヘカテのように精通しているわけでもない。霞や千代のような〈異端狩り〉なんて真似ができるわけでもない。飽くまで、ネコジシ商会の事務所を社長から任されているだけ、少し魔具の世界をかじっただけの存在でしかない。
その事柄を改めて突き出されている気がして、気が荒ぶる。
「僕はいいんです! 僕が求める物が、〝こちら側〟にあるから、僕はいるのです。そして、求める物が、あと少しで手に入りそうなところまで来ているんです。なおさら、僕は進むだけです」
コーヒーを一気に飲み干し、席を立つと、コーヒーメーカの前へ。
「――なので、僕の邪魔は、誰にもしてもらいたくありません」
一度は迸りかけた感情を、ぐっと抑え込む。
「ふぅん、そう。カズハがいいのなら、アタシもいいや。あのアホ社長の下でただ働きさせられるよりか、カズハの方がずっとマシだもん」
ヘカテは本を閉じると、立ち上がった。本を椅子へと置き、部屋へと戻っていく。
事務所には和葉独りとなり、椅子に深く座って、コーヒーを飲む。温かいのは確かだが、酷く苦く感じた。安いインスタントだから、と理由をつけ、我慢して飲むことにした。
いつも飲んでいるコーヒーなのに、どうしてこうも不味く感じるのだろうか。思うように事が進んでいないことの焦りなのだろうか。それとも、別の何かが――。
「僕は、是非とも手に入れなければならないのです。どれほどのものか、確かめなければならないのです。だから、邪魔をされるわけにはいかないのです」
誰に言うわけでもない。頭の片隅によぎろうとする顔に、出てくるなと拒絶するように言うのだ。その顔が何よりも恋しいはずなのに――。




