10.撒き餌は何を誘い、何を釣り上げるのか。
千代が目を覚ませば、部屋には誰もいなかった。
見知らぬ部屋に、どうしてここで寝ていたのか、と疑問に思いつつも、ベッドから這い出て居間へとやって来る。
テーブルの上にラップされた皿を見つけ、近づいた。
いくつかの野菜を炒めた簡単なもののようだ。
他にスープがある。
皿のそばには書置きがあるのを見つけ、見やれば「レンジで温めて食べてください。遊慧」と記されている。
書置きを手にすると、くしゃくしゃと丸めてゴミ箱へと放った。
「私は私のしたいようにするからいいの。
遊慧が何を企んでいるのか知らないけど、あの女が〝餌〟になるなんて思えないけどね」
皿へと目を移す。
そして、居間を見渡して、美加の部屋へとついてきて、そのまま泊まったのだと思い出した。
疲れていたから今まで眠ってしまったのだろう。
美加の存在に身を委ねて、心を許してしまったのだろうか、と考えてしまう。
でも、あの女に懐いているわけではない、と恥ずかしさにかぶりを振って、誰もいないながらも顔を赤らめた。
席へと座り、ラップを取れば、野菜にフォークを差して口へと運んだ。
冷たいままであることに気づいて、顔をしかめた。
レンジで温めることも忘れて、何をしているのだろう、と自らの穏やかでない心に、余計に恥ずかしくなってしまった。
◇
朝のラッシュ時間が過ぎ、人の姿も次第に減っていく。
朝の忙しさとは別の、この時間ならではの世界が広がっている。
依然遊慧は先を歩み、美加はついていくだけが続いている。
どれだけ歩き続けただろうか。
目的があってなのか、目的もなくなのか、人がいないところばかりを歩いたかと思えば、人の集まるような店舗なども巡った。
他にも色々と歩いただろうか。
人のいないところは軽く見渡した程度で、人のいるところは店員もしくは関係者に遊慧が二言三言話をする程度で、次へと向かう形となっていた。
美加は遊慧にどこへ行こうとしているのか、目的は何なのかを尋ねるかどうか戸惑っていた。
いや、どこへと向かっているのかは別として、目的は霞を捜すことなのだろう。
ならば、霞のいそうな場所、行きそうな場所を巡っているのかもしれないと予測できた。
それはいいのだが、まだわからないことがある。
千代が一緒だと否定されるようなことであり、美加が一緒だと捜し出せるかもしれない、ということだ。
千代が美加を何かと避けようとしているから、一緒にいることを単に否定しているだけなのかもしれない――と出かかったところで、そうとは思えないという考えが出てくる。
千代が避けるからなどでなく、〝美加と一緒〟であることに意味がありそうだ。
でも、それ以上はわからなかった。
そろそろ昼を迎えるだろうか。
結構な時間歩いて、疲れてきた。
美加は休みたい気持ちで遊慧の背中を見るのだが、遊慧は疲れた様子もなく歩き続けている。
自分の体力のなさに辟易としてくるのだが、そんなことを考えていられない、と遊慧を追いかけることに専念。
「――なかなか姿を現しませんね。
霞お嬢様の行きそうなところを歩いてきましたけど、〝餌〟にはならないということでしょうか。
これほど〝上質な餌〟を、私は他に知らないのですが」
遊慧が足を止め、振り返ってくる。
周囲には誰もいない。
遊慧が導いてきたのだから、誰もいないのは遊慧が考えてのことだろう。
梅雨の時季が相まって、ただでさえ湿っぽく思える路地。
工場らしき建物と高い塀があり、両脇には塀に囲まれているので日当たりが悪い。
人の通りも少ないことの表れなのか、街灯すらもないので夜ともなれば真っ暗になること間違いないだろう。
昼でさえ薄暗いのだから。
「やっぱり、あなたに何かが起きないと、霞お嬢様はお出になられないのでしょうか」
遊慧の目が細まる。
いつもの穏和な遊慧とは思えない怖さがある。
喉元に刀を突きつけられているような感覚。
無論、遊慧は刀を持っているわけではなく、その視線が刀のような冷たさと鋭利さを持っている。
美加は息を呑み、遊慧の視線に耐えることしかできない。
今まで怖い目に遭った時と同じ、白矢や自分に害を及ぼそうとする魔具を前にした時のように、体が動かない。
「――冗談です。
お気になさらないでください」
遊慧の表情が戻った。穏和な笑み。
先程の遊慧が嘘のように、夢でも見せられていた気分だ。
「あなたに何かあっては、それこそ霞お嬢様に顔向けができません」
「私に? 話が見えないのですけど」
自分と一緒にいることが霞を捜し出すためにことなのだと、これで決定付けたようなものなのだが、理由までがまだわからない。
自分に何かがあれば霞が出てくるという考え自体が、どのようにして出てきたのだろうかという疑問だけが残る。
遊慧は面食らった顔で――
「あなた自身のことなのに?
いえ、わかっていれば、私と共に行動することの意味もわかっていた筈ですね」
独り納得の様子。
美加は余計にわからないと首を傾げるしかない。
「となると、あなたはあなた自身のことをわかっていない。
そもそも、ネコジシの者たちも、わかった上であなたと一緒にいるようにも見えませんでした。
本当に、職務上で一緒にいるだけなのだと感じました。
なるほど、これでは〝血が途絶えた〟と思われても仕方がないことです」
「どういうことですか?
何を言っているのか……わかりません」
「わからなくてもいいことです。
知らなくても問題ありません。
わかってしまえば、知ってしまえば、後戻りできなくなります。
〝人〟として生き、〝人〟としての道を進むのでしたら、知ろうとしないでください。
〝人〟としての幸せが欲しいのなら、私が今話したことを忘れてください。
霞お嬢様のように、こちらの〝世界〟に足を踏み入れないでください」
遊慧は美加に背を向けて歩き出した。
美加は遊慧の背中を見据えたまま動けなかった。
遊慧の言ったことを理解しようと考えを巡らせ――めぐらせ――メグラセ――答えに至らなかった。
ネコジシ商会へと行って和葉に相談してみたい――けど、遊慧の言っていることが正しければ、和葉も知らないことになる。
誰に何を聞けばいいのか。
そもそも、〝世界〟とは何なのか。
いくら考えても駄目だった。
結局、魔具を始めとして、自分が関わろうとしても知り得ないばかりの〝世界〟が、目の前で行く先を阻んでいる。
このまま、誰にも何の役に立たないだけで終わってしまうのではなかろうか。
それが怖い。
そうなれば、独りになってしまうのではないかという危惧だけが襲ってくる。
色々と考えているうちに遊慧が遠退いていく。
美加はかぶりを振り、遊慧を追いかけた。
遊慧の近くまで追いついたところで、遊慧が足を止めた。
「霞お嬢様でなく、別の輩が〝餌〟にかかったようですね。
情報を色々とリークした結果なのでしょうか。
小物には興味がないのに」
再び、遊慧の目が細まる。
しかし、美加には向いていない。
なら、何に向いているのだろうか。
美加は見渡す。
ぞろぞろと姿を現す黒尽くめの男たち。
目出し帽を被っている。
さらには、艶のない黒のミニバン――シボレー・アストロの二台が前後から近づいてきており、挟み込んで逃がさないように止まった。
後部の観音開きのドアが開くと、黒尽くめが追加分だと言わんばかりに出てきた。
ブルパップ形式の短機関銃――FN・P90で武装しており、あっという間に美加と遊慧は囲まれてしまった。
目出し帽なのでイヴァン大佐の率いるロシア人なのかと見るものの、どことなく雰囲気が違う。
以前見た目出し帽の男たちとは思えなかった。
美加は驚きのあまりに声すら出ない。
唖然と男たちを見渡すのみ。
遊慧は冷静に状況を見ているようだ。
「大人しくしていれば、危害を加えるつもりはありません」
前方を塞いだアストロの助手席から、ゆっくりと降りてくる男が口を開く。
彼だけは目出し帽をつけておらず、またグレイのスーツ姿で武装も手にしてない。
ブロンドの髪をなびかせ、二人の前へと近づいてくる。
弁護士か大企業の商社マンか、裕福そうな身なり。
「我々についていただければ、我々としてもあなた方にとってもいい話になると思います。
その上、我々の質問について素直に答えてくれればなおのことです」
男はニカリと白い歯を見せて笑む。
完全に営業スマイルというべきそれに、美加は訝しく。
「言うことを聞いていただけないのなら、それ相応のことをさせてもらいます。
力任せでもいいですが、あえてこの場合はあなた方の身近な方に不幸が降りるやもしれません、と言っておきましょうか」
男が手を差し出してくる。
遊慧が美加の前へと出て、男の手をピシャリとはたいた。
「大陸の人間が島国の人間を見下すことはよくありますが、侮ってもらっても困ります」
「気の強そうなお嬢さんだ。
正直なところ、あなたには用がないので、ここで死んでもらっても構わないのですよ。
それなのに、わざわざ命を縮めるのですか?
我々は、そちらのお嬢さんさえいれば、いいのですからね。
〝あれ〟を手に入れるためのいい取引材料になりますから」
「取引材料ですか。
あらかじめ言っておきますが、〝私たちのような者〟でもない限り、誰も食いつきませんよ。
ただの〝一般人〟ですから」
遊慧はため息をついた。
そしてそのままに言葉を紡ぐ――
「それにしても、私の撒いた〝餌〟に、あなたのような小物がかかっても意味がないのに。
それも終わりです。
ようやく本命がかかってくださいました」
遊慧は男に背を向けた。
男はゆえに怪訝な目を向けて、手を上げる。
それが合図なのか、目出し帽のP90が遊慧へと向けられる。
あとは、男が手を下ろせば遊慧を撃ち殺してしまうだろう。
美加は遊慧を助けなければならないと思いつつも、体が未だ動かない。
恐怖に萎縮してしまっている。
しかし、男の手は下ろされることがなかった。
男の表情が歪んだ。
あたふたとした様子で、それどころではないようだ。
美加の背後から、ギギギと金属の歪む音が響く。
背後に何があったのか確認のために見れば、後方を塞いでいたアストロがおもちゃのように――いや、ペーパークラフトでできたものを握り潰していくかのように、ひしゃげていく。
音はそれのもの。
半狂乱の男たちが、P90を乱射。
何に向けているのか――
記憶が蘇る。
ロシア人を次々と呑み込んでいった大蛇。
それがまた現れ、今度は目出し帽の男たちを呑み込んでいく。
「心まで、〝蛇〟に呑まれてしまいましたか、霞お嬢様」
この中で唯一だろう、遊慧が冷静さを保っている。
大蛇に向けて、嘆きの言葉を吐いていた。
ひしゃげたアストロが地面を転がった。
目出し帽の男たちも血肉を撒き散らしながら消えていく。
大蛇がゆっくりと美加の前へとやって来る。
鎌首を下げて、見据えてくる。
美加は身動きが取れず、大蛇から視線を逸らすこともできない。
「よく見てください。
あなたは『蛇』と言いました。
あなたの前にいらっしゃる方が、本当に蛇かどうか、その目で確かめてください」
遊慧が言ってくるのだが、蛇かどうか確かめるまでもなく、どこから見ても大蛇以外の何ものにも見えず――
「蛇は飽くまであなたのイメージでしかありません。
よく考えてください。
大蛇なんてものが街にいれば、今頃街はパニックです。
人知れず動いているのです。
人の動きを見て人を避けて動いているのです。
ということは、人の考えがわかるのです。
人の考えがわかるということは、蛇などでなく、人だということです」
遊慧が美加の心境お構いないしに言葉を紡ぐ。
美加にわからせようとしてくれているのだろうが、大蛇でなく人であると言われても、イメージに惑わされていると言われても――
大蛇そのものは靄がかかったものか何かのようで、中心には人らしき影が見える。
ならば、こちらが本体ということになり、未だ怯えの残った目でよく見れば――
女だった。
一瞬にして、大蛇であった靄が消えた。
そもそも、大蛇の靄など始めからなく、美加の見ていた幻想だったのかもしれない。
深紅の髪を垂らし、目の色は茶色なのに鬼灯のような赤い色に光っているように見えてしまう。
人の姿をしているだけの別の存在――〝狂気〟を具現すれば、ああもなるのではなかろうか。
その証というべきか、手には紅く染められた刀が握られている。
でも、大蛇から人に変わっただけで、怖さが消えたわけではない。
本来の姿を見てしまったからこそ、より怖さが増した。
美加は腰から下の力が抜け、ストンとその場に尻餅を突いた。
周りのことなど何も見えていない。
目の前の女のみしか見えていなかった。
「何なんだ、お前は?」
男の声が聞こえた。
確かに男がいたような記憶はあるのだが、どんな男だったのか今や覚えていない。
女が動いた。
颯爽と駆け、美加の横を通り過ぎていった。
直後――
何人もの断末魔が響く。
音楽を奏でるように、人の声が、血肉を撒き散らす音が、旋律となって続いていく。
振り返れば、女のみ。
あと、美加の隣に誰かの気配がある。
美加を囲っていた筈の男たちはどうなったのだろうか――見渡しても見当たらない。
心が鷲掴みにされた。
吐き気を催し、耐える間もなく胃の中の物を地面へとぶちまけた。
見る光景が、感じる光景が――世界そのものが違って見えた。
違う世界に迷い込んでしまったのだろうか。
違った世界を呼び寄せてしまったのだろうか。
女がゆっくりと美加の前へと近寄ってくる。
邪魔者が消えたから、ゆっくりと話ができる。
そう言っているかのように見えた。
美加は吐けるものを全て吐き終えた疲労を顔に浮かべながら、むせ返りつつ女を見上げた。
「姫君、何ヲシテイル。
ナゼ、コノヨウナ場所ニイル」
女の口に合わせて言葉が発せられるのだが、女の声とは思えない濁ったもの。
女が別のほう――美加の隣辺り、ちょうど気配のある辺りを見やる。
「四塔ノ娘、何ユエ姫君ヲコノヨウナ場所ヘト導イタ」
「あなたを呼び寄せるためです。
結果、余計な者まで呼び寄せてしまいましたけどね」
美加の隣の気配が答える。
再認識――遊慧であることに気づいた。
美加の前へと歩み、女との間に入った。
「そして、霞お嬢様を返してください。
そのお体は霞お嬢様のものです。
間借りしている〝蛇〟風情がどうこうしていいものではありません」
「人間風情ニ言ワレルトハナ」
女はカクカクと笑う。
「さ、間借りしている身なのですから、それらしくさっさと霞お嬢様に体を返してください」
「黙レ、人間。
ヨウヤクニモ手ニ入レタ、コノ体ヲ易々ト返スト思ウタカ」
女が唐突に刀を振るった。
身構える間もなく遊慧は吹き飛ばされ、地面を転がる。
斬られたのかと見るが、血が出ている様子はない。
でも、痛みに耐えて呻き声を上げているので、刀を避けたわけでもないようだ。
峰打ちを食らったということか。
女は遊慧の前へとゆっくりと歩み、遊慧を見下ろしている。
刀の切っ先を遊慧の眼前へと向けた。
今にも斬られてしまうのではないか、と美加は遊慧を助けなければならないという意識があるものの、恐怖によって縮こまってしまった体は思うように動いてくれない。
それでも力を振り絞って立ち上がった。
足にうまく力が入らず、震えている。
「姫君ハ、ソコデ大人シクシテオラレヨ」
女の言葉に耳を傾けることなく、美加は遊慧へと近づき、女から遊慧を守ろうとその体に覆いかぶさった。
「ソナタヲコノヨウナ場所ヘ導イタ人間ヲ庇ウ必要ガナイ」
これにも美加は従う気などない。
首を横に振った。
「落トシ前ヲツケサセル必要ガアル。
ソコヲドカレヨ」
「駄目です。そんなこと、させない」
「デアレバ、無理ニモドイテイタダク」
女から刀が下ろされ、代わりに手を伸ばしてくる。
美加の肩へと手をかけ、引き離すつもりだ。
美加は引き離されまいと遊慧にしがみついた。
力を入れると遊慧が苦痛の色を見せるため、あまり力を入れにくい。
でも、力を入れなければ、簡単に引き離されて、遊慧が女の刀にかけられる。
美加は目と閉じ、この状況をどうすることもできず、何かが起きることを願うことしかできなかった。
それが叶ったというべきかなのだろうか――
「遊慧が出しゃばらなくても、正直よかったのよね。
霞姉さんの臭いを追えなかったのは、〝蛇〟のせいだし、〝蛇〟が表に出てきていることがわかれば、〝蛇〟のにおいを追えばこのとおりすぐにも見つけることができるわけだし。
突出しすぎて怪我していれば世話ないわ。
遊慧も結局は〝一般人〟なんだからさ、人間相手ならまだしも、私たちのような〈異端狩り〉の真似事なんて、しないほうがいいし。
というか、〝餌〟にされているのも気づかずについていくその女もどうかしているけどね」
呆れた声とため息。
美加が目を開ければ、すぐ近くにまだ女がいる。
でも、こちらを見ていない。
女の見る方向に声の主がいるのだろう。
声から誰なのかすぐにわかったが、改めて確認するべく見やった。
「朝から出て、ようやく見つけることのできる遊慧には荷が重かったのよ。
私なら、ご覧のとおり、すぐに見つけられるもの。
〝蛇〟のにおいを辿ってくればいいだけだから。
聞いてる、遊慧?」
お嬢様学校の制服をまとった千代。
女子高生に、この状況をどうにかするとは思えないのだが、女子高生らしからぬものを手にしていた。
だからこそ、〈異端狩り〉と呼ばれるのだろうとも感じた。
艶やかな漆黒の鞘に収まった刀。
刀を持っているだけなのに、鞘に収まっているのに、ただものならぬ何かを感じ取る。
何かがあるように見えた。
黒い桜の花びらが散っているかのような、赤い霧のフィルタがかかっているかのような、存在そのものに畏怖がある。
これで刀を抜いたら、何を感じ見ることができるのだろうか。
「遊慧は答えられそうにもないのね。
本当、呆れるしかないわ。
さて、〝蛇〟。さっさと霞姉さんに体を返してくれないかしら?
霞姉さんがいなければ、存在することもままならない〈異端〉のくせに」
「次カラ次ト人間カ。
最初ハ宿主ヲ守ルタメニ出タノダガ、アトハ姫君ヲ守護スルタメ。
ヤレヤレ、コノ国ノ人間ハ、最早姫君ヲ忘レテシマッタノカ」
「姫君? 何を訳のわからないことを言っているのよ。
仕方がないから、力尽くで霞姉さんを返してもらうからね」
「コチラモ力尽クニイカセテモラウ。
今ヤ姫君ヲ守護スルノモ我ト宿主ノミニナッタカ」
千代と女、互いに睨みあった。
千代が刀を抜く。
銀閃が煌めき、氷のような冷たい刀身があらわとなる。
周囲の気温が僅かに下がったかのように、涼しく感じた。
刀にそんな力などあるわけがなく、刀の持つ雰囲気が思わせる。
互いが刀を構えた。
どちらも同じ型。
千代の銀の刀身、女の紅く濡れた刀身――
二人が同時に地を蹴った。




