6.猛犬にはしっかりと首輪をつけなければならない。
病室では、和葉が美麗を連れ戻したことによって、再び三人となった。
美加は二人が戻ってくるまでの間、必死に和葉から借りたハンカチで顔を整えていた。
涙も洟も見せられるものではないし、そのままだったら和葉に何を言われるのかわかったものでない。
しかし、赤くなった目だけはどうしようもなかった。
美麗が追求してこないことを願うだけ。
しばらく席を外していた美麗は、花瓶に代わるものをずっと探し回っていたらしい。
挙句の果てには、病室への戻り方がわからなくなって彷徨っていたところを和葉に見つけてもらって、連れてこられたのだそうだ。
病院の構造など、そんな複雑にできているとは思えない。
なので、美麗が気を遣ったのではないかと予測できた。
美加と和葉に積もる話でもあると思って、あえて時間をかけていたのかもしれない。
そんな風に見せないので、何とも言えないところではあるのだが、戻ってきた時に迷っていたとはにかんだ表情が、わざとらしく見えてしまったのだ。
和葉は戻ってくるなり、丸椅子を持って窓際へと行ってしまった。
そこでのんびりと外を眺めていた。
見舞いに来たのはいいが、そこまでして美加と話をする気がない表れなのだろうか。
それとも、美麗が美加と話したがっていたために、譲ってくれたのかもしれない。
基本的に素直でないので、何とも言いようがないところだ。
和葉が何も話さないことで、美加は美麗との話に、意気投合というほどにワイワイと進んだ。
嫌味という邪魔が入らないからこそ、話に花が咲いたのだ。
そう見ると、和葉は女同士の取り留めのない話につき合わされたくなかったのか、付き合いきれなかったのか。
付き合いきれないのも道理なのかもしれない。
何が好きなのかから始まり、他愛のない話が色々と織り交ぜられていくのだから。
普段だと物静かにコーヒーをすすっているか、美加に嫌味を言っているかのどちらかしかないのだから、和葉にとって内容の伴わない話というのは、実に耳障り以外の何ものでもないのだろう。
商人は常に利益を最大限に――とかどうとか言っているのだから、無益に意識を向けることなどないのかもしれない。
――どれだけ話した後だったか、美加と美麗の話がいつまでも続くことに、終わりが見えないことにいい加減飽きてしまったのだろう。
話を切るように和葉が立ち上がった。
「僕たちはそろそろお暇しましょうか。
事務所はヘカテに任せていますが、さすがに僕なしじゃ商談などが入った場合に、成り立ちませんからね」
小さく伸びをしながら言ってくる。
美麗はまだ話し足りないようで、「えぇ」と不満を返している。
美加も折角独りから解放された思いで、今までの分を取り返そうと思うほどに話をしていたい気分だ。
でも、自分の都合を押し付けるわけにもいかない。
また次の機会に話をすればいいだけのこと。
「さ、帰りますよ。
あなただって、宿題をやらなければならないでしょうに」
「宿題って――言わなくてもやりますよぉだ。
いつまでも子ども扱いしないでほしいな」
「中学生はまだ子どもです」
「もぅ――」
さすがに兄である和葉には敵わないということか。
それとも和葉の性格を知るからなのだろうか。
美麗はぷんすかと頬を膨らませるものの、それ以上に何も言い返すことはなかった。
拗ねてしまったのかと思わせておいて、美加へと振り向き――
「また来てもいいですか?」
と、人懐こい笑みを向けて尋ねてきた。
その姿は、先程まで感じていたピョンピョンと跳ねる兎でなく、人懐こい仔犬だろうか。
ハタハタと尻尾を振って鼻を突きつけてくるような愛くるしさが感じられた。
人に懐かない黒猫と人懐こい仔犬――あべこべな組み合わせに、美加は笑んだ。
血がつながっていないのだから似てないのは当たり前として、こんなにも正反対であることがおかしくてたまらない。
「私はしばらく動けない身だから、美麗ちゃんの好きな時に来てくれていいわ。
今まで話し相手もいなかったし、大歓迎」
「本当ですか? やったぁ。
そうだ。今度から私のことを〝ミリィ〟って呼んでくれませんか。
家族と親しい友人からそう呼ばれているんです。
ですから、美加さんにもぜひ呼んでほしいです」
「ミリィ?
美麗だからミリィ?
ううぅん……」
「本当はお父さんが〝ミリィ〟って名前をつけたかったらしいんですけど、それに漢字を当てたつもりが〝美麗〟になってしまったそうです。
今となっては笑い話になっていますけど、私も〝ミリィ〟って名前もいいかなって思って。
だから、近しい人から呼んでもらおうかなって」
「そうなんだ」
美加は話を続けながらも和葉をちらりと見やれば、眉をひそめている。
いつまでも話が終わらないことに相当苛立っているようで、今にも嫌味のオンパレードが炸裂しそうだ。
それを考えると、思わず顔が引きつってしまう。
そのことは美麗にも伝わっているようで、和葉の様子を窺いながら、話を切るタイミングを計ろうとしている。
ヒシヒシと伝わってくる無言の和葉のプレッシャーが、二人を呑み込もうとしていた。
◇
和葉たちが病院を出ると――
桜の木々が見えるのだが、五分ほど花を咲かせていた。
これからどんどん桜色に染め上がっていくことだろう。
その木の下に、和葉は佇む女の姿に目が行った。
ただの女なら気にすることもない。
しかし、気にせざるを得ない女ともなれば、思わず構えてしまう。
深紅の髪を風になびかせ、のんびりと〝春〟を見て、感じて、暖かな風にその身を預けて楽しんでいるように見える。
鮮やかな様相は春の陽気を背景に、紅い花が咲いているとでもいうべきなのかもしれない。
咲耶霞。
和葉は足を止めていた。
唇を噛み締めて、まだ日の沈みきっていない時間帯だというのに、物騒な輩が出てきたものだ、と口の中で毒づいた。
目を細め、真っ直ぐに霞を見据える。
病院の前に、それも〈異端狩り〉を名乗る者が訳もなくいるとは到底思えない。
病院なのだから、何かを患って通院するということも考えられないこともないが、それよりも誰かを待っているような佇まいに感じた。
ともなれば、この病院に〈異端〉に関わる誰かがいるということになる。
白矢に狙われた美加のことを探りに来ているのかと考えられるが、それなら病院の前で待っていることもないだろう。
病室まで入っていけばいいだけのことだ。
他に〈異端〉がこの病院にいる可能性もあるが、別の理由を真っ先に思い当たった。
〝和葉を待っていた〟――目的として考えられるのは、これだ。
このまま霞を無視して行ってしまおうか。
美麗は〈異端狩り〉と何ら関係のないところで生きている。
一緒なら無理にこちらへと関わろうとしないのかもしれない。
でも、〝かもしれない〟というだけで美麗を巻き込むわけにもいかない。
こちらとしては、霞に用など全くないのだ。
そもそも会いたいとすら思っていない。
和葉が霞に警戒の目を向けていることが、美麗にも伝わっているようだ。
それか和葉から異様な雰囲気を感じ取ったか。
和葉に倣って足を止めて、こちらへと見て何か言ってくれることを待っているようだ。
その目には緊張さえ窺えた。
「先に帰っていてもらえますか?
僕は少しばかし話をしなければならない人がいるようですから」
美麗へと告げた。
本当なら霞と関わっていたくない。
だが美麗と一緒では何かしらに巻き込ませてしまう恐れがある。
それは避けたい。
だからこそ、霞に付き合ってやることを選んだ。
美麗は心配そうな顔をしてくる。
和葉は大丈夫だと言い聞かすように頷いて見せた。
霞へと視線を移し――
霞と対峙するからといって、即狩られることなどない筈だ。
霞は和葉がネコジシ商会の者であることをよく知っている。
むしろ、この場合は〝ネコジシ商会の和葉〟だからこそ、用件があるのだと考えられた。
これなら一触即発ということにはならないだろう。
美麗に動く気配がなかったので、美麗へと視線を戻す。
もしかしたら、美麗は霞の存在そのものに何かを感じ取って動けないのかもしれない。
〈異端狩り〉という存在を知らなくとも、彼らの異様さを感じることはできる。
怖気ついてしまったのだろうか。
和葉はもう一度言い聞かすように頷いてやった。
それで納得までしていないようだったが、美麗は早足で和葉から離れていく。
ともかく動けなかったわけでないようで、よかったと胸を撫で下ろした。
美麗は何ごともなく霞の横を通り過ぎ、そのまま去っていった。
ずっと桜を眺めていた霞は、美麗が去っていく背中を見送ったところで、和葉へと見やってくる。
何もせず桜を見ていたのは、ただ待っていただけでなく、話すタイミングを窺っていたのかもしれない。
美麗に対して意識をしているようではなかった。
美麗が去るのを待っていたとさえ見えた。
霞がゆっくりとこちらへと歩んでくる。
その姿は、春風の暖かさを兼ね備えていながらも、春風ならではの強風がいつ吹くかわからない怖さがある。
「や、カズちゃん」
和葉の前までやってくると、霞はどこも怖がる必要なんてないんだよと言わんばかりにフレンドリーな挨拶を向けてくる。
しかし、和葉には未だ霞の意図が掴めない。
眉をひそめ――
「その名で呼ばないでください」
「じゃ、カズくん」
「それも却下です。
そもそも、この街の〈異端狩り〉たるあなたが、どうしてそこまで馴れ馴れしいのかわかりません。
以前はもっと刺々しかった印象があった筈ですが」
「〝心を穏やかにしないと生き永らえない人間〟だっているってことじゃないかな、ユリちゃん」
「ですから、変な名前で呼ばないでください。
これだから、年上の女というのは好かな――」
和葉が最後まで言い終える前に、背後に気配が生まれた。
何か硬いものを背中へと宛がわれているようで、言葉が途切れてしまう。
和葉は霞がここにいる時点で一応予期していたことなので、動じることはない。
霞へと視線を向けたまま、ため息をつく。
「やはり、あなたがいるということは、〝金魚のフン〟もどこかに潜んでいると考えていてもおかしくないですね。
とはいえ、背後を取らないと気が済まないというのは、〝弱者としての習性〟なのでしょうかね」
「――黙れ。
自分の立場がわかっているの?」
和葉が鼻で笑ってやると、背後の気配からドスの利いた声が返ってくる。
和葉の物言いに憤慨しているようだ。
それが見て取れるように思いどおりの反応だったために、和葉はさらに鼻で笑った。
背中に宛がわれているものが小刻みに震えている。
手が震えるまでに、憤慨したと見ていいのだろう。
殺気すら感じる。
どう見ても和葉が現状不利――なのに、明らかに和葉のペースで話が進んでいく。
それを見ていた霞が楽しげなものを見たと笑った。
「千代ちゃん、カズくんを虐めては駄目よ。
それとも、カズくんに千代ちゃんを虐めないようにお願いしたほうがいいのかな?」
和葉にとっては虐められているつもりも虐めているつもりもない。
和葉なりのいつもの嫌味を――〝日常〟を口にしただけに過ぎない。
とはいえ、背後の気配から殺気が消えないことにはどうしようもないので、黙って様子を窺うことにした。
背後から気配が離れていくと、それは霞の横へと並んだ。
怒気の孕んだ三白眼で睨んでくる。
今にも噛み付きそうな猛犬というべきだろうか。
手には小太刀が握られており、鞘へと収めて懐へと――人目につかないようにした。
実に〝首輪のついていない猛犬〟というものは物騒でいけない、と和葉はかぶりを振る。
「さて、ここで立ち話をするのも何だし、場所を移さない?」
喧嘩をしないようにね、と幼稚園児を宥める保母のように霞は言った。
◇
街の憩いの場、喫茶「シュヴァルツ・カッツェ」。
小さい店であるが、美味いコーヒーと美人店主がいるということで、界隈ではそれなりに有名なところだ。
何よりも商工会の男どもが店主目当てにこぞって集まるのだから、どちらがメインなのかわからない。
店は外見が小さいとあって、中も小ぢんまりとしている。
いや、落ち着いた造りとなっているというほうが正しいか。
アンティークの棚、古ぼけたジュークボックス。
かつての時代を思い起こさせるためなのか、レコード盤によってミニー・リパートンの「Lovon'You」が流されている。
どれも商工会の男たちの好みによって設けられたもの。
店主は波立ったようなクセのあるセミロングの髪に、ワインレッドの衣装をまとった妙齢の女性。
〝美人〟と称されるだけあって、顔立ちもよく、スタイルもいい。
物静かな雰囲気を持っているが、存在感も兼ね備えている。
かといって己を出していくような威圧感というべきか、嫌らしさは微塵にもなく、花瓶に一本だけ活けられている真っ赤な薔薇といってもいいだろうか。
そうでなければ、しなやかな体を持つ誇り高き女豹なのかもしれない。
店主はカウンターの向こうで音楽に耳を傾けながらのんびりとグラスを磨いていた。
そして、店主とは別に、霞がこの店のオーナーである。
自分の店へと和葉を招き入れたのだ。
和葉ら三人は三つあるテーブルのうち、一番奥の席へと座った。
他に客はいない。
やってきたと同時に、客たちがタイミングよく出て行ったのだ。
コーヒーが用意されると、千代が自らのものと霞の分に砂糖とミルクを入れていった。
「これで落ち着いて話せますね。
あなたたちの縄張りで話をすることは――この際、気にしないことにしておきます。
さて、あなた方が僕の前に現れたということは、何かしらの用件があってのことでしょう?」
和葉はそう言って、砂糖もミルクも入っていないままのコーヒーに口をつけた。
苦味が口いっぱいに広がるが、頭をすっきりとさせてくれたので、これより何を話されようと言われようと、対応できるためのスイッチとなる。
霞は懐から煙草入れを取り出して、煙管を手にする。
ペン回しの要領で三回転させてから、火皿へと刻み煙草を詰めていく。
「あらぁ、そんなにせっかちにならなくてもいいのに。
折角お店で話すのだから、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら話をしてもいいじゃないの。
コーヒー代ぐらい、私が奢るし」
マッチを擦って火皿の煙草へと火をつけた。
二度三度と吹かし、煙を手のひらを使って誰もいないほうへと吐き出した。
「――あ、先に断っておけばよかったわね。
煙草を喫ませてもらうわ。
これがないと気が落ち着かないから。
私を〝私〟として保つためにも、ね」
「ええ、構いませんよ。ご自由に。
それに今さら断ったところで過ぎたことですし、〝金魚のフン〟がずっと睨んでいるので、断るにも断れないといったところでしょうかね」
和葉はコーヒーに映る自分を眺めつつ言った。
どこまでも落ち着き、自分を保とうとする。
千代の殺気はともかく、霞に盾突く気はさらさらない。
霞の縄張り内なのだから、無理はできないと身構えているのだ。
千代はどこまでも落ち着きを保てないのか、立ち上がって、殺してやると言わんばかりに、睨みに力が増した。
「き、〝金魚のフン〟!?
霞姉さん、こいつを斬ってもいいですか?
どこまでも人を馬鹿にすることしかできない男を、肉片に変えてもいいですか?」
「まあまあ、千代ちゃんたらぁ、落ち着いて。
喧嘩をするためにカズくんと話をするわけじゃないでしょ?」
霞は煙を吐き出すと、今にも飛びかかりそうな猛犬――千代を宥めた。
千代は霞へと不満の視線を向けるも、渋々と腰を下ろした。
不満を噛み締めるべくコーヒーをすすった。
こういうところを見ていると、よく飼い慣らされた犬そのもの。
「しょうがないわね。
話を始めましょうか。
このまま放っておくと、カズくんが千代ちゃんを虐め続けるからね。
――そうね、どこから話していけばいいのかな」
霞は煙管をくわえ、火皿の煙草を赫々と染めた。
考えをまとめるための篝火のようだ。
「あなたたちが、白矢から〝あの人〟を守ってくれた。
〝あの人〟は何も知らないようでしたが、あなた方が介入しない限り、生きている道理が通りません。
何よりも、あなた方以外に白矢をどうにかできる人を、この界隈にいないと思いますし」
霞が考えをまとめるよりも早く、和葉が言った。
病院で美加から聞いたことを自分なりにまとめ、そして今目の前にいる霞たちを見て、答えが導き出されたと言わんばかり。
「――あら、わかってたの。
ま、消去法で勝手に答えが私たちへと導かれてしまうのよね。
でもね、私たちが特に何かをしたわけじゃないわ。
白矢と一戦交わったともなれば別だけど、少し話をしただけだもの。
それに、〝あの人〟には私個人として死んでもらいたくなかったのよ。
救急車を呼んだだけよ。
私たち〈異端狩り〉でなくとも、〝一般人〟でもできるようなことをしたに過ぎないわ。
あと、私の存在意義をカズくんなら知っているでしょ?
〝誰かを守るために生き永らえている〟ってこと。
そうしないと、〝私としての存在〟が薄れてしまうし」
霞は煙を潜らせながら言う。
愁いのある瞳に妖艶さがあり、どこか恋焦がれる少女のような顔立ちにも見える。
それは指し棒か指揮棒か、煙管を和葉へと向けてくる。
「私のことはどうでもいいのよ。
そう、どうでもいい話なの。
〝あの人〟を助けたのは、確かに話さなければならないことの一つだったのかもしれないけど、重要なのは――」
「〈蒼い王〉についてですか?」
煙を吐きながら言う霞に和葉は答えた。
霞はやや驚いたような顔で、きょとんと和葉を見る。
三度瞬きをして言葉を紡ぐ。
「あら、そちらもわかってたのね。
そのことよ。
白矢がこの街に来ていることをカズくんから聞いて、ずっと追っていたわけなんだけどね。
その矢先というかな、最近この辺りで〈蒼い王〉が見つかったとか手に入ったとか、定かでない情報が流れているのを耳にしたのよ。
カズくんの〝カノジョ〟は、それに巻き込まれてしまったんでしょうね。
青い石のペンダントをしていたし、狙われたと考えていいと思うわ」
「ちょっと待ってください。
何ですか、その僕の〝カノジョ〟というのは?
誤りです。
〝あの人〟とは、ただの職務上の付き合いでしかありません。
――それはそれとして。
なるほど、そういう〝物欲しさ〟が求めて闊歩しているのですか、この辺りは。
そういうのは〈異端狩り〉であるあなたたちの管轄でしょうに。
さっさとどうにかできなかったのですか?」
「そうなんだけどね。
確かな情報が集まっていなかったし、組織立って動かれてしまうものだから、こちらとしては手が足りない状態なのよ。
私の〈異端狩り〉としての立場は、名ばかりのものだもの。
千代ちゃんに色々と動いてもらっているけど、独りじゃどうしても手の届かないところも出てきちゃうのよね。
オマケに白矢がいるから、別件のくせに面倒なのよね。
やっぱり、無理してでも私自身も動かないと駄目なのかもしれないわね。
色々と考えなきゃならないわ」
やぁね、とため息をついた。
一旦煙管を吹かし――
「それでね、カズくんにもお願いがあるの。
まあ、私たちのような〈異端狩り〉の真似事をしろなんて言わないわ。
ただ、こちらも動きやすくしたいから、情報交換かな」
煙管をくわえ、じっと和葉を見据えてくる。
その目は動物を狙う猛禽か、猫か。
答えの選択を与えるように見せかけて、一つの答えを望んでいるのだろう。
「――仕方ないですね。
こちらも情報が欲しかったところですからね。
〈蒼い王〉ともなれば、商会としても手に入れたい一品ですし。
手に入れたら、さぞ商会の格が上がるでしょうからね」
否応なしに答えを求められたことを感じさせないためにも、和葉は考えるまでもないといった様子で即答した。
「そうそう、そう言ってくれると嬉しいかな。
カズくんの〝カノジョ〟を助けたんだし、そのぐらいのことはウンウン頷いてほしいところだものね」
「……ですから、その誤った認識をどうにかしてください」
和葉はげんなりとした様子で、ため息をついた。
霞は和葉の反応を見て楽しむように、笑いながら煙を吹かした。




