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29 アイラの王宮舞踏会任務(4)



あーやられたなと思いながら、マリア嬢に続いて王宮の廊下を歩く。



他の貴族の夜会などでは時々いかがわしいことする目的の部屋が準備されていることがある。


しかし格式高いこの舞踏会で更に王宮ではそういう部屋は準備されていない。

複数の応接間が休憩所として準備され、そこには休憩中の貴族を対応するメイドや侍従がいる。




マリア嬢に案内されながら歩く方向は、その休憩室がある廊下だった。

しかし、そこを通り過ぎ角を曲がる。

ここは休憩室ではない。




部屋に案内され、メイドを呼んで来るというマリア嬢を見送る。



部屋の明かりをそっと消し、扉のすぐそばの壁に張り付くように立つ。

もしマリア嬢が返ってきた時、扉が開いた瞬間にそっと外に出ようと思っていた。




扉近くの壁に張り付いて外の様子をうかがっていると複数の足音が聞こえ話し声が聞こえた。


「マリア嬢の話ではここにアイラ嬢がいるらしい」


「今日マリア嬢は機嫌が悪かったよな。

まぁあのドレスを見たらしかたないが……。

で俺たちはどうするんだ?」


「まぁ襲うことまでしなくても、ドレスを脱がす程度でいいだろう。

良いところでマリア嬢が発見して俺たちは会場に戻ればいい」


扉が開いて3人が中に入ってきた。




「あれ暗いぞ」


「部屋をまちがえたか?」


「えっ?」


声とともにそっと彼らの後ろを順番に静か動いた。


一人は手刀で落とし支えながら床におろし、立て続けに頭を回し蹴りとかかと落としで気を失わせた。


反撃が来るかと思ったのにあっさりと意識を刈り取れたことに手ごたえのなさ感じる。

同業ではない安心感から明かりを再び灯す。



3人の侵入者の方を見ると舞踏会の参加者らしい正装姿の令息が倒れていた。


とりあえず顔を確認するかと令息達をひっくり返して顔を確認していると音もなく扉が開いた。


一瞬で警戒態勢をとったが

「はぁー……おいアイラ……」

と顔を出したのはアーロンだった。



「アイラお前そのドレスの格好でここまでしたのかよ……。

ほんと洒落にならねぇくらいすげぇな」


「あっ殺してないよ。意識取っただけ」


「そりゃそうだろ。

舞踏会で流血騒ぎとか洒落にならねぇよ。

で? 顔は見られたか?」


「見られてないよ」


自信満々に答えたのにアーロンは何とも言えない表情をしながら話し出す。



「お前は……戦闘で興奮したのはわかるが……。

いったん落ち着け。

そんでそっちにしゃがみこめ。

これは俺がやった。いいな」



私がやったのに……。

と思いながらも私がやったことがばれると色々まずい。

仕方ないとアーロンに指さされたところで床に座り込んだ。


それと同時に扉が開かれ

「なっなんで……?」

声を出したのはジョエル様を連れたマリア嬢だった。



扉から顔を出したジョエル様が血相を変えて

「アイラ!!!!」

と私の元に走り寄りいきなり抱きしめる。



「私は大丈夫です……」


意識して声を小さくして答えようとしたが抱きしめられた驚きで無意識に声は小さくなってしまった。



「アーロン説明を!」


私をきつく抱きしめたまま、アーロンに説明を求めるジョエル様とともにアーロンに目を遣る。


ちゃっかりマリアの後ろに立ち、逃亡を阻止しながら説明を始める。



「はい。休憩室に向かおうとした際、休憩室ではない場所にこの者達が向かっているのを発見しました。

角を曲がったところで見失ったと思ったのですが、女性の悲鳴が聞こえました。


急いで近くの扉を開けると、こちらの3名がアイラ嬢を囲んでいたのでアイラ嬢の悲鳴だと判断し早急に意識を失わせました」



「なるほど。

こいつらはゴルダン伯爵令息マレック、ギード子爵令息ミランとガルーダ子爵令息マリオだな。

捕縛せよ」



冷たく言い放つジョエル様の顔は抱きしめられているために見えない。

ほのかに香る柑橘系のコロンの香りに状況に反して落ち着く。



アーロンが動き出したのを見てアイラ嬢に視線を移すと真っ青になって震えていた。


「マリア嬢。君にも話を聞く」


容赦なく言われ退路を断たれたマリア嬢はそこにへたり込みながら小さく

「はい……」と答えた。




貧乏伯爵家らしく舞踏会に参加していなかった両親。

その代わりに付き添いとして公爵夫人が縁戚を代表として同席を名乗り上げてくれた。



護衛として扉の前には二人騎士が立っており、王宮のメイドに手伝ってもらい汚れたドレスから王妃様がお使いだったドレスをお借りし着替えた。

王妃様は私の姿を見て心配そうに私の事を気遣ってくれた。



「気にしないで?

若いデザインでもう着ないものだから……。

よかったら着て帰ってね?」


そっと私の腕をそっと優しくさすって王妃様は退室された。



夫人とは護衛騎士の手前、詳しいことを話すこともできずにいた。


夫人はそれでも心配そうに

「もう大丈夫だからね」と私の肩を抱いてくれていた。



しばらくして、ジョエル様とアーロンが入室してきた。



「本当はまだ目の届くところにいてほしいが……。

アイラと縁戚だと公爵が今日は君を引き取ろうと言ってくれたから、今日は夫人と公爵邸に帰ってくれるか?」


ジョエル様が私のことを心配そうに近づいてのぞき込みながら聞いてくれる。



その目を見てまた少し固まってしまいながら

「ハイ……」と返事する。


自分が想像していたものよりも固い声が出た。



「今日はもう帰ると良い。

詳しいことは明日以降にしよう。夫人アイラを頼む」


「お任せくださいませ。

明日も私たちがアイラに付き添います。

伯爵にはこちらからご連絡差し上げますので、ジョエル様もご無理なさらないように」



退室の挨拶を夫人として馬車に乗り込む。



「アイラちゃん? あらあら。

事件のほかに何かあったのねぇ。

まぁ詳しい話は屋敷に帰ったあとお茶でも飲みながら話しましょうか」


あんな事件があった後とは思えない明るい雰囲気で帰宅することになった。



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