30 アイラ、上司から事情聴取される
帰宅後、有無を言わさず私は夫人にがっちりと手を握られていた。
夫人の後をとぼとぼと付いていき、夫人の部屋の応接室に入る。
夫人に促されてソファに座り、メイドが準備してくれたお茶をいただいた。
「さぁ。アイラちゃん今日起こったことをまずは説明してもらえるかしら?」
公爵様にはおそらくアーロンがタイミングを見て報告してくれるだろう。
だから私はジョエル様と3回目のダンスを踊り終わってからの話を夫人に細かく伝えた。
「もう。アイラちゃん気をつけなきゃカラスってばれちゃうでしょう?
アーロン君に感謝しなきゃねぇ」
その通りだったので何も言えず申し訳なく思いしっかりとうなずいた。
「まぁこの話はいいわぁ。
これからのあちらの対応次第でこちらの対応も変わるからぁ。
私が聞きたいことは……わかるわねぇ?」
「いえ……あの……先に夫人にお伺いしたいことがあるのですが……」
「うん。いいわよぉ」
「私はジョエル様の仮の婚約者なんですよね?」
話しずらい事だったのでいろいろとどう伝えるべきか考えた。
しかし考えてもどうしようもなかったので自分なりに簡潔にまとめて伝えた。
顔を上げて夫人を見ると固まっていた。
私は聞き方を間違えたのかと少し慌てて
「あの……」と声をかける。
夫人は我に返ったのか、困ったように笑いながら話し出す。
「んーと……ものすごくいろいろ省いた質問な気がするわね。
アイラちゃんが説明しにくいなら私の質問に答えてくれる?」
コクリとうなずく私を見て満足そうに夫人は続ける。
「まず、私が出しているジョエル様に関する任務に少しは進展はあった?」
「はい。前回お話していなかったのですが、花祭りの際、ジョエル様の耳や顔が赤くなる理由を聞きました」
「良ければその話を教えてくれる?」
私は素直に花祭りの時にジョエル様から教えてもらったことを夫人に伝えた。
「なるほどねぇ。じゃぁそれを聞いてアイラちゃんはどう思ったのぉ?」
「嬉しかったんだと思います。胸があたたかくなりました」
「じゃぁ今日、ジョエル様に抱きしめられたときはどう思ったのぉ?」
夫人の言葉に私は思わず固まった。
先ほどあった事をいつの間に……。
アーロンしかあの現場を見ていない事を思い出し、絶対にアーロンが夫人に話したんだとあたりをつける。
ここは素直に答えるしかない。カラスの女王の目を誤魔化すことは不可能だと察した。
「嬉しかったと思うのですが……。
心臓が大きく脈を打ったので驚きました。
今までそんなことは起こったことが無かったので……。
もしかしたら私は不整脈なのかもしれません。
帰宅前にジョエル様に会った時にも心臓が大きく脈を打ったので……。
夫人……どうしましょう?」
夫人は珍しく
「はぁ……」と額を抑えてため息をついた。
私は何かまずいことを言ったのだろうか。
やはり不整脈持ちのカラスはまずいよなと落ち込む。
そしてため息をつく夫人を見て夫人が思ったような成果を上げられなかったことに更に落ち込む。
思わず王妃様にいただいたドレスをギュっと握ってしまう。
そんな私に気づいた夫人が焦ったように声をかけてくれる。
「まぁ! アイラちゃんごめんなさい。
何も問題ないわよ?
んー。じゃぁまず想像してみて?
アーロン君に抱きしめられた時も不整脈はおこるかしら?」
質問の意図が分からなかったが言われた通りに想像する。
先ほどジョエル様に抱きしめられたことをアーロンに置き換えてみる……。
「実際に抱きしめられたりしたことがないので正しい回答か分かりませんが……。
不整脈はおこらなさそうです」
「じゃぁ。アーロン君がミレッタちゃんを花祭りで抱きしめたという報告があったんだけど……。
それを見たときアイラちゃんはどう思った?」
「ミレッタがかわいらしくて素敵だなと思いました」
「例えばなんだけど……。
ジョエル様がマリア嬢を抱きしめたとして……。
もしそれをアイラちゃんが見てしまったらアイラちゃんはどう思うのかしら?」
思わず想像してしまい眉間に皺が寄ってしまっているのを感じた。
しかしどうしても戻すことができず、どんどん皺が深くなる。
「……花祭りの時にマリア嬢がジョエル様の腕に抱きついたんです。
それを見て思わずジョエル様の手を強くひいてしまいました。
今まではそんな事無かったのですが……。
……不快なんだと思います」
夫人はにっこり笑って「そうね」と言い続ける。
「それはね、アイラちゃんの中でジョエル様が特別な男性だからだと思うわ。
その感情の名前を私が教えてあげることは簡単なのだけれど。
アーロン君やミレッタちゃん、それにジョエル様と一緒に悩んで解決しなさい。
私から言えるのはそれだけよ。
あと最初にアイラちゃんが言った質問の『仮の婚約かどうか』というのはジョエル様に直接確認しなさい」
ジョエル様が私の中の特別……。
もやもやしていたものが一つすっきりしたように感じた。




