【第31話:何もないデスヨ】
「あなた何者デスか? 人にしてはヤケに強スギまセンカ?」
そいつは魔族だった。それは一目見ればわかった。
顔には下顎から突き出した鋭い牙が見え、頭には渦巻き状の2本の角いわゆる羊の様な角がある。そもそも腕が4本ある人間なんていない。
そうではなくて何故今このタイミングで、魔族がこの獣人の里で襲ってきたのかがこの時のオレにはわからなかった。
後になってこのゲルロスが魔王に類する魔獣だと言う話を聞いて「なるほど」と思ったが、この時点でオレはゲルロスの事を単なる醜い犬の魔獣だと思っていたので仕方ない。
「オレは危ない犬がいるって聞いて駆けつけた保健所の者さ」
「ホケンジョとは何デスカネ? よくワカリませんが、とりあえずゲルロスは回収させて貰いマス」
「させるとでも?」
オレはイタズラを思いついた子供のようにニッと笑うと、【月歩】を左右ジグザグに連続発動して魔族に一気に詰め寄る。
そして音速に迫る突きを放ち、2つの剣で十字受けしてくる魔族を突進力を利用して体勢を崩す。
そのまま薙ぎ払いから突きを放って突き上げると、今度は反転させて袈裟斬りにするのだが……今度はいつの間にか手にした2つの盾で受け流されてしまった。
一旦距離をとって【雷鳴】を放つと、今度はそれを追いかける様に【月歩】で詰め寄り、雷と同時に3段突きから回転させて石突きで顎をカチ上げるように振り上げる。
しかし……その全てが巧みに2つの剣と2つの盾に阻まれてしまう。
強い! オレはまだ上がったステータスを扱いきれなくて抑えているが、それでもそのステータスはもはや人のそれを超えている。
その上で母さん仕込みの技や奥義を繰り出しているのに、攻めきれない。
そもそも雷槍ヴァジュランダで思いっきり突いて貫けない盾というのは、同じ神話級か少なくとも一つ下の伝説級の装備ではないのか?
魔族と言うのはわかっていたが、それこそさっきのコイツの言葉じゃないが強すぎないか?
「これは驚きマシた。強いトハ思ってましたガ、思ってた以上デス」
「それはオレが言おうと思ってたんだけど……」
魔族は手を抜いている感じではないが、どう見てもまだ全力じゃない。
これは中々骨が折れそうだ。
~
オレは持てる技の全てで魔族に猛攻をかけるが、相手が守りに徹しているのもあって有効打が全く出せずに5分が過ぎようとしていた。
「くっ!? 【雲海】!」
守りに徹していると思っていたら隙を少しでも見せれば攻撃に転じてくる。まるで母さんを相手にしているみたいだ。
「ホウ。今のを防ぎマスか。しかしモウ十分時間を稼げマシた」
「なに? どういう事だ?」
魔獣はオレが逃がさないように牽制していて、この魔族の後ろにいる。
他にも何かあるのか?オレは槍を振るいながら、何か見落としがないか探ってみるがわからない。
「周りを見テモ何もないデスヨ。準備してたノハ私の身体の中ですカラ」
そう言うとその魔族のお腹の辺りが光っている。
「な!? 何だ!? ……ってか気持ち悪いなオイ!!」
何事かを見ていると、お腹の光がこぽっと膨らみそのまま食道らへんを通って口から吐き出されたのだ。
蛇が卵を丸呑みする映像とか見たことあるが、あれを逆回転再生させたような感じだ。
ただし、それをしているのが魔族とは言え人の形をしたものがしているのだ。すっげー気持ち悪い……。
「失礼しまシタ。最初は手で持って魔力をコメテタノですが、あなたガ思いのホカ強いモノデスから、飲み込んでお腹で魔力をこめてタノデス」
そう言って吐き出した鈍い光を放つ玉を無造作に後ろに放り投げる。
オレはその玉を先に潰そうと思ったのだが、ここに来て魔族が攻撃に転じてきた。
「サセませんヨ?」
オレは4本の腕から繰り出す攻撃に防戦を余儀なくされ、その玉に近付く事が出来ない。
「つっ!? こっちっ……は、武器一本……なんだっ……少しは手加減……く!? ……しろっての!」
結局後手に回ったオレは懐に入り込まれ、中々こちらの間合いに持っていけず、その玉がとうとう弾け魔法陣が現れる。
するとその魔族は魔法陣の上空に飛び上がると、突如現れた巨大な禍々しい扉の上に降り立った。
「一度コレ使って見たかったのデスよ。コレ魔界門って言うんデスガネ、相手に不足スル事はないと思うノデせいぜい頑張って下サイ。それジャァ、ワタクシはコレで失礼シマス」
オレはあまりの禍々しい気配に警戒のレベルを最高レベルまで引き上げていて、咄嗟にその場から動けなかった。
「ソうソう。アナタ頑張ったのでワタクシの名前をオ教えしてオキマしょう。魔王軍6魔将の1人『技巧のアモン』とイイマス。それではマタ会いまショウ。あナタがイキテいればネ」
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お陰様で日間異世界ファンタジーで5位になる事が出来ました!
これからもご愛読頂けるように執筆していきますので、
どうぞよろしくお願いします <(_ _ )>
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