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Chaos Race  作者: 秋島夏里
1/3

01.

 風が凪ぐ夜の廃街。昔の栄えた面影は無く、誰も使わず、傷跡だけが無残に聳え立つビル群と未だ消えない腐敗臭と雨ですら流せない血潮が残るの寂れた血塗れの街跡。


「これでも少しはマシになったよな」


「そうですね。初めての任務の時はこの場に足を運ぶのを少し躊躇いました」


 二つの人の形をした影がビルの間の月明かり照らす道を寄り添い歩く。


 八熊京太郎(やくまきょうたろう)榛原瑞希(はいばらみずき)は元死地のある建物に向かっている途中、任務内容を思い出す。


 某港近くにある廃ビルの一室。その場である取引が行われる。


 二人の上司の支部長の依頼を受けて二人はこの地を訪れた。


 この場所は防衛ラインのさらに奥の危険地帯で人は少なく、警備も下手に導入すると被害を被る為誰も回す様な事はしない。


 故に非合法取引の格好の場所であり、密売やら密輸したものを備蓄するには最適な場所である。


「配置に着く。よろしくな」


 京太郎は先行し、ビル内への侵入した。瑞希はその姿を少し見て、自分の持ち場に移動した。




 京太郎はその部屋に繋がる通気口(ダクト)で取引の様子を見張っていた。


 中には二人見える。だが通気口は狭く部屋全体が見渡せなかった。


「やっと部屋に着いたが…こっちは死角あって人数が確認出来ない。瑞希、外から見た様子は?」


『男が五人です。うちの一人がスーツ姿でそれ以外皆が武装しています。挙動から見てスーツ男がこの集団のリーダーだと思われ、手のブリーフケースを腕と手錠で繋いでいます』


「武装した者は何を持っている?」


軽機関銃(サブマシンガン)です。あと服装はスーツですが防弾だと思われます』


 耳につけたインカムより眈淡々とした声が聞こえる。声の主はこの部屋を外から見張る瑞希だ。主に京太郎の援護を務め、今も狙撃銃を構え、部屋と周辺を見ている。


『来ました』


 瑞希は外からの来訪者の到来を伝え始めた。


『車が三台、ビルの前で止まりました。前の車両以外の二台から人が八人ビルに入って行きます。七人が武装していて、その中の一人がアタッシュケースを持っています。あとの一人は……』


「もう一人がどうした?」


 突然瑞希が黙った事に疑問を感じる。精確かつスピーディが売りな『スクール』一番の優等生がいきなり黙り込むのだから何事かと思った。


「どうしたんだよ?」


 あまり大声を出すと見つかる為小声で瑞希に問いかける。だが返事が無い。その事に不安が募ってきた。


「おい、瑞希?」


『すみません、麻酔弾に切り替えてました。もう一人は子どもです。小柄で性別は確認できませんでした』


 やっと返ってきた瑞希の返事に安堵する。だが子どもと言う単語が出てきて戸惑った。


 なぜこのような場所に子どもが現れたのか。あまりにも異様、あまりにも不釣合い。ただでさえ不法侵入丸出しの外国人相手にする取引だけでいかがわしさが漂いまくっているのにそのうえ子ども登場などもう訳がわからなかった。


 だがやる事は変わりない。京太郎はすぐに腰のホルスターから拳銃を取り出し、実弾が入った弾倉を抜き取って、殺傷能力の低いゴム弾に変える。


『状況を整理しましょう』


「ああ、そうしよう」


 任務時に行うしている最後確認。目的の再確認を目的としたこの行いは混乱している時にはとても有効だ。脳を戻し冷静さを取り戻すせる。


『一つ目です。依頼内容は?』


 まず初めに言い出した者から相手に問いかけ、そして相手が答える。その次は相手が言い出した者に問いかけて、それに相方が答えるが何時も瑞希が先に言い出すので京太郎は何時も先に答える側となる。だが議論(ディスカッション)形式で簡素に行う作戦会議(ブリーフィング)によって目的をさらに明確にし、作戦の成功率を高くしていく。この二人組(コンビ)は作戦開始直前間近に必ずこれを取り入れている。


 最初の項目は依頼内容とし、第二に人数を、最後に作戦の順序を論議する。


「取引されるある物資の奪取する。物資の形状・名称ともに不明だが所長の話では小さなもんで取り扱いには最善の注意を払えとの事だったな」


 対魔物研究所日本支部長の依頼では重要物資と言われておりなんとしてでも奪い取るように言われていた。物資がどんなものなのかは一切口外しながったが依頼金と支部長との関係上断れず、京太郎は依頼を引き受けた。依頼金の金額からものの重要性が伺える。


「次に二つ目だが、…人数は?」


 二つ目の確認事項を問うが今回は聞き辛いものだった。現場に子どもがいるというだけで京太郎の心に何時も以上の緊張がのしかかっていた。自分がこんななのにそれを瑞希に聞き、それに答えさせるのはどうも気が引けていた。


『最初にいたのが五人、四人が武装し一人がケースを持っています。後にきたのが車が三台で二台から八人がビルに侵入。七人が武装し、一人がケースを持っています。内部に計十三人、外部は不明。内部のうち二人が非武装者、うちの一人が子どもです』


 京太郎の問いに瑞希は何時も通り淡々と答える。が最後の言葉には感情が篭っていた事を京太郎は感じ取った。瑞希もまた緊張をしているのだろう。だがその事について掛ける言葉を京太郎は持ち合わせていなかった。


「まずは物資(ターゲット)の外部からの確認する。内部の確認はついては迅速に、状況からまず二つのケースを両者が確認し終えた直前を狙う。瑞希は狙撃で室内にいる者をできるだけ無力化と同時に注意を惹きつける。狙う目安は二人か三人程、ケースに近い者を優先しろ。その後俺が突入し残りを片付け、物資を確認し引きあげる。逃走経路は指定された幾つかのポイントに状況を見ながら退却し、回収してもらう。こんなもんか?」


『はい』


 三つ目の確認事項を京太郎は状況を判断して順序を組み立て伝えた。


 三項目の確認を終え作戦会議を終了を迎える。


『ねえ、京』


 が、瑞希は京太郎の名を呼んだ。


「なんだ?」


『子どもはどうするんですか?』


「む……」


 京太郎にはその事について考える余裕が無かった。一番優先的に考えなければならない事を先延ばしにして考えないようにしていた。


 無事に怪我をさせる事無く終える自身が京太郎には無かった。こちらが非殺傷装備に取り替えても相手はそうとは限らない。十中八九実弾--人を簡単に殺せる装備だろう。そんな相手にこっちが殺されるもしれない。それ以前に子どももまた取引に参加する者の一人なのだから、抵抗される恐れがある。そんな中で子ども傷つける事無く対処できるだろうか?


「できる限り最善を尽くす」


 京太郎にできる返事はそれしか無かった。


 キィ……


 室の扉が開き、ぞろぞろと足音が聞こえてくる。その足音は隊列の取れたものでは無く、各々の歩調が合わさったシンフォニーを奏でている。


『八人が入室。子ども以外の全員が壁側に立ちました』


 死角により遮れていた視野だったがなんとか八人のいる場所が特定できた。だが他の目からの観測情報ではなんだか心許ない。瑞希を信用していないと言う意味ではなく、自身の視覚情報で確認できた方が安心する。しかしそれができない以上は瑞希の報告を頼りに事を進めなくてはならない。


「品物は?」


 京太郎の耳に幼さの残る高い声音が響いた。


(これは瑞希が確認した子どもの声か? まさか子どもが後にきた連中のリーダーか!?)


 想定外の展開に若干混乱しかけたがなんとか抑え、状況を監視する。たがそれ以上に子どもの容姿が気になる。体格、性別、年齢すべてが曖昧なその存在を想像する事は困難だ。


「ああ、ここにある。だが、まあ、まさか有名な実力派テロ集団が取引の場に子どもを連れてくるとはなぁ…」


 スーツ姿の口から出た単語が京太郎の頭を半数する。


 実力派テロ集団。日本にはそのような組織はあまり無い為、国外の組織であると取れる。しかし、何と言う組織で何が目的なのかを特定する事ができない。そもそも何故テロ集団がこんな壊滅寸前の元先進国に訪れるのかが疑問でしかない。いや、壊滅寸前の元先進国だからこそなのかもしれないが、それを今考えていても仕方がない。


「子ども扱いをするな。この世界には大人も子どもも関係ない。あるのはヤツらへの復讐心だけだ」


「ああ、失礼した。今の御時世には戦う者に年齢なんて不要か」

 先にいた集団のリーダーが武装した者の一人がケースを中央にあるテーブルに置く。


「カウント開始--」


 京太郎は瑞希に合図をつたえ、秒読みを始めた。


「5…」


 続いて後の連中の一人がケースを机に置く。


 京太郎はインカムのイヤホンが取り付けられている右耳の逆の左に耳栓をしてその上から強盗が顔を隠す為に使うフェイスマスクをカブり、サングラスを着ける。


「4…」


 二人が同時にケースを開け、中身を見せる。


 手前の先組のブリーフケースが物資、奥の後組のアタッシュケースが金であった。


「3…」


 両者は念入りにチェック行う。

「本物です。しかもかなり上物です」


「こちらも偽札ではないです。確認しました」


「2…」


「交渉成立でいいな」


「ああ、交渉成立だ」


 子どもはスーツのリーダーにそれを問い、スーツ男はそれに答えた。


 それを聞いた両組織の部下はケースを交換し、両方ともケースを閉じた。


「1--状況開始」


 閉じる動作を皮切りに行動を開始する。


 瞬間、二つの転倒音がした。


 ケースの近くにいた二人を瑞希が沈めた。だが二人の男は倒れこみ、周りの者に敵の襲撃を伝える事となる。


「しゅ、襲撃ッ!?」


 室内にいるスーツ男の一人が叫び、周囲に緊張が張り詰める。部屋の外に出ようとする者もいたが京太郎は素早く通気口の格子を外し、中に向けてベストに付けているものを二つ投げる。


「スタングレネードだ!」

まばゆい閃光と激しい轟音が鳴り響く。光と音によって敵の無力化を図る為殺傷能力が無い。誰も傷つける事無くこの場を制圧するにはこれしか無いと京太郎は思い至った。


 閃光と轟音が鎮まるのを確認して京太郎は拳銃を取り出して部屋に入った。


 周りには倒れ込む者となんとか耐える者のどちらかだけ。京太郎はすぐさま手前側の物資入りケースに手を掛ける。


「…無い」


 空のテーブルに若干豆鉄砲を受けた鳩の様な顔をして周りを--窓の方を見ると物資入りケースを持った子どもが足を乗せていた。

(まさか飛び降りるのか!?)


 子どもを身を乗り出し、外に飛び立つ構えになっている。


 京太郎は焦り、手を伸ばす。


 だが、


「おりゃああッ!!」


 子どもは気合いを入れるかの様に叫び、飛び出した為に京太郎は子どもを止める事ができなかった。


「え…、嘘だろ」


 京太郎の頭は真っ白と化した。


 依頼の失敗と子どもを救えなかったという二つの重責が京太郎を押しつぶし思考を停止させた。


『京、指示を!!』


 インカムより瑞希の声が聞こえた。だがその事には焦りっているのかいつもの淡々さに曇りが感じ取れた。それもそのはず、なんせ最善を尽くした結果が子どもを死なせたというものなのだ。当然瑞希同じく困惑しているのだろう。


 任務も失敗した今、直ちに物資の確認をし、この場を去らなければ下にいる後組の残りに襲撃を喰らってしまう。


『早く追いと物資(ターゲット)が持って行かれます!!』


 だが瑞希の言葉に耳を疑った。


 京太郎は思って事と違う様で、瑞希は離脱では無く追跡の指示を待っていた。


「まさか…」


 京太郎はある一つの考えを抱きながら窓から外を見る。


「うわ、マジかい」


 飛んでいた。正確にはビルからビルに飛び移るといった表現の方が正しいが人の形をした者がケース片手に飛び跳ねながらこのビルから距離を離していた。


 こんな芸当をやってのけるのは、ある二つの存在以外できない。


『早く追いましょう。あの子どもは混人種(キメラ)です』


 それは十二年前、突如現れ世界に襲いかかった殺戮生物。通称魔物。そしてその力を人の身に宿す混人種(キメラ)のみである。


 ---


 混人種とは魔物の力を人が取り込んだ存在である。至る理由は多数あるが共通するのは魔物の体の一部が人体の中に入ることである。


 しかしそれには魔物特有の魔力と呼ばれるものとの相性が必要であり、それが合っていない場合発症はしない。


 発症者には取り込んだ魔物の力を使う事ができる。


 故にロシア以外の各国の対魔物研究機関は魔物とともに危険視し、それと同時に研究対象として欲している。


「はぁ…はぁ……」


 月夜の照らす廃街区のビル群を飛び移りながら駆けるキシミヤ・ピチャルもまたその一人。


 自分の三分の一以上の大きであるブリーフケースを軽々と持ちながら、先程取引をした廃ビルから逃げていた。


「なんであんなトコにスレイヤーがいるのよ!」


 殺害者、または退治する者の意味を持つその名は魔物を狩る者が持つ称号。腕に付けた腕章がその証拠。


 魔物対策機関が対魔物討伐要員として育成している兵士(ソルジャー)の中から抜粋された魔物狩りの専門家(エキスパート)


 現代武器と研究によって開発された兵器を使い、魔物の脅威から人類を護っているが、キシミヤもまた魔物に分類されているので殲滅ならびに捕獲対象となっている為あまり快く思っていない。


「はぁ……、は……」


 その狩人からひたすら逃げる。だがその足は上手く進まない。


 外にいた狙撃手(スナイパー)から窓から飛び移る時と逃げている時の二回被弾していた。


 幸い麻酔弾だったが、二発分の薬がキシミヤの人としての半分を蝕んでいた。

「あ…!」


 着地に失敗し転倒する。頑丈な体の為大事には至らなかったが、精神にはかなりのダメージを与えた。


 起き上がろうとするが体に入り込んだ麻酔薬がその行為を止めようとする。


(かなり距離稼いだし、このままビルに隠れれば……)


 振り切れる。そう思考しなんとか立ち上げり、内部に続く扉に向けて足を進める。そしてその扉を開けようとした。


「待て」



 だが後方より声が聞こえ反射的に振り向くと、そこには先程部屋に侵入してきた覆面サングラス兵士が肩で息をしながら立っていた。


「やっと追いついた」


「…あんたも、混人種ね」


 声のトーンからして年は行ってない。十代から二十代のそれである。だが狩人が放つ気迫だけは今まであった中で最高峰の純一体(ピュアボディ)であるマリアをも凌ぐものである。


 ドス黒い気配。身のこなしに隙は無く、純一体を前に立ち振る舞いに何の変化も見せない。


 この者は危険だとキシミヤは感じた。自身もまた純一体ではあるが、麻酔の所為で思う様に動けない今の状況では勝ち目なんて無に等しいものだ。


 この手にあるケースを渡すのが先決であろう。交換条件を提示すればまだ逃げ延びるチャンスがある。


「残念だけど渡すのは無理。欲しければ奪う事ね」


 だがこれだけは死んでも渡せない。


 これを渡せば世界に希望が消えてしまう。


「やめてくれよ。子どもを虐めるとかなんだか悪い奴じゃないか。自分で言うのもなんだが一応は正義の味方って立ち位置なんだわなぁ」


 子どもと言う言葉に感が触るが堪える。


 この者は本当の意味で正しい事をしているのだろう。人類を守り、魔物を退治する善人であるのは重々承知している。だがキシミヤの中では自分とスレイヤーのどっちが悪人か善人と言う定義が有耶無耶となっていた。


 なぜならキシミヤがしている行いもまた覆面サングラスと同じく人類を守る行いだからだ。


「……確かにあんたは善人なのかもしんない。あんたも人類の為に正しい事をしてるのかもしんない」


 だからと言って迷う訳にはいかない。


「けどこいつは渡せない」


「そっか。わかった」


 スレイヤーは腰のホルスターから拳銃を取り出しこちらに向ける。だが臆してはならない。自分の夢の為。人々の希望の為にキシミヤは前を見据える。


「訳ありみたいだけど、こっちにも事情があるんだ。悪いけど奪わせてもらうよ!」


 ビルの屋上でそれぞれの善行の為、二体の魔物の戦いが始まった。


---


 なんとか追いつく事ができた京太郎はこの状況がとても不本意なものでしかなかった。


(これじゃ俺が悪人じゃないか…)


 必死な子どもに銃を向ける覆面サングラス男と言う場面に立たされた京太郎は傍から見て悪者のそれであった。早くも物資を確保し、この場から立ち去りたい程にメンタルを傷つけられていた。


 たがそう簡単に事は進まない。


 ゴム弾が悉く弾き返されてしまう。あの頑丈な体。


 そして、


「はああッ!」


 拳が唸り、コンクリートの分厚い床を叩き割る。


 小さい体に秘める怪力。あれは間違いなく鬼人(オーガ)の力だ。京太郎は自分と比べ、この子どもが純一体(ピュアボディ)と推測する。


 混人種には二つの分類がある。


 純一体(ピュアボディ)混種体(ミックスチュア)


 前者は一個体の体の一部を取り込んで発症し、その個体の能力や肉体特性を顕著に現れる。


 後者はあらゆる個体を取り込み続けた事で発症に至るが、多種多用の力を受け継ぐが純一体程の能力を得る事ができない。


 研究機関がこの二種類の混人種を研究した結果、推論ではあるが適正値の差ではないかと考えられている。


 人が混人種に至るには適正値の高さがものを言う。純一体に成ったものは適正値がズバ抜けて高い。逆に何個体も取り込み続けた結果発症し混種体は適正はあるが純一体よりも劣っている事になる。


 優性体の純一体と劣性体の混種体。


 それがこの場でどれだけの差異がある事か。


 京太郎(ミックスチュア)には圧倒的な差を埋め合わせる能力は無い。あの頑丈な肉体を貫く火力も筋力も持ち合わせていない。


「………」


「どうしたの? もう終わりなの?」


 だが勝機はある。


 純一体と言っても半分は人の部分が残っている。


 現に対峙する小さな体は、先程瑞希から受けた二発の麻酔弾によって足元がおぼつかかない様子。


 今の子どもの状態なら勝てると京太郎は踏んでいた。


 だが勝つには手札が揃っていない。その条件を満たす為に奮闘していた。


「ならこれで!」


 京太郎は胸に取り付けていた残るスタングレネードを投げつけた。


 バンッと轟音と閃光を放ち、周囲を光で染めていく。追いかけている最中に左耳の耳栓を外したので音が直に入ってき、気を失う事はなかったが轟音の衝撃で耳鳴りににた甲高い音が鳴り響く。


 しかし、その程度ではこの鬼人(オーガ)はびくともしない。視界を奪えたのはホンの一瞬。先程の室内でのグレネードでこの結果はわかっていた。


 すぐに距離を詰められた為に拳を握り応戦する。


「--硬った!?」


 予想以上の硬さに振るった拳が痛さを感じた。しかしまた間合いを詰めて打ち込み、反撃を躱し、打ち込む。蹴りを混ぜながらへばり付いて肉弾戦に持ち込む。

(やっぱり効いてないだろうな…)


 それでも止めない。時が来るのをひたすら待つ。


「鬱陶しい!!」


 子どもは京太郎が顔面を殴るタイミングに合わせて飛び上がり足を振り上げてカウンターを狙ってきた。


「うおっとーー」


 すかさず回避に移り顔に迫り来る足を躱す。


 だがそれだけでは終わらない。子どもはすぐに足を振り下ろして京太郎のつま先目掛けて(かかと)をぶつけた。


「痛ッ!」


 地味に痛いこの踵落としは単なる次撃の布石でしかなかった。


「まだッ!」


 つま先に足を置かれたまま動けない京太郎に続けて拳打(けんだ)が襲いかかる。回避ができずその拳は腹を穿ち吹き飛ばし、コンクリートの床に伏せた。その弾みでサングラスは飛んでいき、内臓は響き、口から血液が零れ出す。


「畜生、容赦無いな…」


 多少の肉体強度と再生能力を持つ京太郎でも今のダメージはすぐに回復できるものでは無く、地に伏せ

たまま立ち上がる事ができなかった。しかしこのままノックダウンし、子どもを逃がす訳にはいかない。


「期待外れね。気配から相当のやり手と思ったけど、混種体で力も弱いし」


 京太郎に対してボロクソ言た少女は背中を見せ歩き出した。


「…じゃあね」


「ちょっと待てよ」


 (きびす)を返した子どもの足に向けてゴム弾を放つ。丁度足を次に踏み込む後ろ足に当たり、前足に引っかかった。


「んぎッ!?」


 そしてコンクリートの床を壊しながら顔面から激突する。


 京太郎から見れば、顔面が刺さっている様に見え、心の内で笑ってしまう。


「よくも、やってくれたわね!!」


 頭を床から抜いた少女の頭には血が登っており、麻酔なんかもろともせず真っ直ぐ京太郎に迫る。


 しかしそれはいけない。彼女は迫るのでは無く、逃げるベきだった。


「チェックメイト」


「なにを…?」


 それを確認する前に少女は胸に違和感を感じる。


「麻酔…弾。また、一体…」


 京太郎の手札が少女の意識を刈り取っていく。


 距離は京太郎にはわからないが、とにかく遠い事はわかった。


 榛原瑞希の長距離狙撃(スナイプ)。迅速であり精確でありミスは無い。


 京太郎にとて彼女の存在は、心の内に安心を生んでいる。


 頼れ、信じられる。信頼にたる存在である。


「掛かったな俺の作戦に」


 作戦とかは無いがとにかく考えが上手くいった事は褒めて欲しいと京太郎は思い。それが少女対して吐く言葉に滲み出ていた。


 少女の手からブリーフケースが零れ落ち、床に叩きつけられる。既に手に力が入らない程麻酔が回っている事だろう。


 次に少女は膝が床に着いた。


「さあ、大人しく投降しなよ」


 京太郎は痛みを耐えながら立ち上がり、頼りないゴム弾入りの拳銃を構える。


 少女は顔を挙げ、京太郎を見つめる。


 その瞬間京太郎は見た。目の前の少女の目にはまだ鬼の闘志が宿ってのを感じ取った。


「ウアアアアアア----ッッ!!!」


 目の前に入り京太郎目掛けて少女は突撃する。ヤケクソ交じりの特攻。もはやケースは二の次にただ目の前の男を殺す事だけに鬼は躍動する。


 しかし、

「言っただろう。チェックメイトだと」


 また遠くから銃声な鳴り響き、少女を襲った。


 延べ四発目の麻酔弾。


 しかし、少女に意識などもう余り無く。速度を下げる事もせず 直進していく。


 京太郎は瞬時に飛び去り距離を作る。


 だが少女は動く事は無い。既に満身創痍だ。もう動けないだろう。


 それでも少女は京太郎の目を睨みつける。


「その目を覚えた。次に会う時は最後と思え!!」


 そう吐き捨てると少女は飛んだ。ビルの屋上から無理に跳び去り、廃れた街の闇に消えていく。


 京太郎はその光景を無心に眺めていた。ただ、向けられる眼光に少しばかりの恐怖と悲しみと罪悪感を抱いてしまった。


『京、早く回収し離脱を』


 インカムから彼女の凛とした声が響く。


 京太郎は何を考えず、それに従い、ビルの屋上から跳んでいった。

週一で投稿できるようがんばります。感想ご指摘等ありましたらおねがいします。

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