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異端奇譚  作者: こーよー
1/4

平凡な異端者


 俺達の生きているこの世界の事を全て把握している存在なんていないと思う。

 人間である俺にだって人間の事が全く分からないんだから。


 そんな人間の中にもさらに人間と区別されるような存在がいるんだから。


 異端者


 人間から時々産まれてくる、けど人間と同じ枠に括るには余りにも異端である能力を有する存在。科学が進歩した現代に至るまで彼らの能力について分かっている事はほとんど無い。

 …でもだからといって異端者達に対する対応や見方に関しては近代からは随分進歩したと思う。今では異端者達を公的に取り締まる異端者達もいたり、普通に学校に通っている異端者達もいる……これに関しては異端者である事は公言されていない。やはり異端者である事は本人にとってまだ世間的に不都合がある事を否定できない。

 それもそうだよな。ほぼ人間とはいえテレビで出てくる異端者達は片手で岩を持ち上げたり、髪が光ったりしてて恐ろしさを感じるなと言う方が難しいよな。俺だって怖い。


 俺はただの高校3年生で運動は結構出来る方だけど片手で岩は持ち上げられないし、髪も光らない。

 当たり前だ。普通じゃないものを怖がるのは当たり前だ。


 それでも異端者は生活に溶け込んで来ていて、皆それを少しづつ受け入れて来ている。

 時々異端者の起こす事件が起きても俺とは無関係の話で、テレビで報道される被害状況に少し悲しみを向けてみる程度だった。それだけだった。


 でもそんな“普通“が今日で終わるなんてことも考えてこなかった。

 橋船広斗(はしぶねひろと)、高校3年生、俺は普通だった。


◇◇◇


 土曜日だった。学校からの斡旋で紹介してもらった企業への職場見学の帰りに早めに先生と別れて家に帰っていた。

 自分の運の良さを感謝するほどいい職場だと思った。家からそこまで遠くないし、高卒で働きたい人間は減り続けていて、待遇も厳しくなりつつあるのに丁寧に説明してくれて雰囲気も良かった。

 この職場で働けたら幸せだろうなあ。今から面接の練習に対するやる気が湧いてくる感じがする。

 営業スマイルから始めようかと思ったが素敵な職場に出会えていたのが嬉しかったのか、俺は、そもそも笑っていた。

 この笑顔を忘れずにいよう。会社の役に立つはずだ。


 本当に良かった。俺達兄弟を養ってくれている伯父さんに早く恩を返せるし、何より大和(やまと)を大学に行かせてやれそうだ。

 父さんと母さんが揃って交通事故で亡くなった時、伯父さんは親戚の誰よりも早く俺達を養うと宣言してくれた。仕事柄余り家にいることは無いし、結婚もしてないから基本家には俺と大和だけだけど家に帰ってきた時はお土産話をたくさん聞かせてくれる。


 それに、その時くらいしか大和と顔を合わせて話せないから機会をくれるのが一番ありがたい。

 大和は父さんと母さんが亡くなって以来、俺と余り話そうとしない。家でも俺を避けているみたいだ。事故の前はよく懐いてくれていたのに、ショックが強かったんだろう。ショックが強かったからあんな事を言ったりしたんだ。仕方ない。仕方ない。仕方ない。仕方無いんだ。


 嫌われていても俺の大事な弟だ。気兼ねなく生きてほしいものだ。それこそしっかり大学に行って楽しく暮らしてほしい。


 取り敢えず気が早いかもしれないが立派な社会人になるための第一歩として、今まで購読していなかった新聞をコンビニで買い、公園のベンチに座って新聞を読む。うちの学校の制服はそこまで派手じゃないから見ようによっては普通のスーツと変わらないだろう。 

 つまり今の俺は何も知らない人からしたら公園のベンチで新聞を読む立派な社会人に見える!!

 しょうもない第一歩だが俺は嬉しい。これは俺の人生の第一歩でもあるんだ。今まで飲めたことが無かったがコーヒーとか買っちゃえば良かったかな!!そうすれば立派な社会人レベルが上がりそうだったのに!!

 でも飲めなかったら勿体無いからやめて良かったかもしれない。そういった冷静な考えも社会人の第一歩だ!!凄いぞ俺!!取り敢えず今度ラテから始めてみよう。

 社会人レベルの事ばかり考えてないで新聞の内容も見なければ。最近の株の動きとか見ちゃおっかな!!何も知らないけど!!


 そんな事を考えていたが先ずは彩り豊かな1ページが目に飛び込んできたので正直に1ページ目から読んでみた。


 「“異端対策部異端課の快挙!!1ヶ月の検挙数が都警の1ヶ月の検挙数を上回る!!“

 公務異端者って少数しか居ないよな。それで都の警察全体の検挙数を上回るって……うむ、凄いな。」 


 口に出して言ってみたが公務異端者の数が少ないのは当たり前である。そもそも異端者は人間からニ千万分の一の確率で産まれると言われている。現在この世界の総人口は60億位だから大体異端者は300人位の割合で居ることになる。

 そう考えると全世界から異端者を集めても俺の通う高校の一学年とそう変わらない人数なのか。なんか少ないな。


 いや待て、何を口に出しているんだ、周りに人が居たら通報されてしまうだろ、検挙数を増やしてしまう。

 人がいなくて良かった……いや人がいないのか?それじゃあ俺の社会人レベルの高いこの姿を誰にも見られてないのか!? 

 なんか虚しい……俺は何の為に新聞を買って、コーヒーを買うかどうか必死に頭の中で議論していたんだ。虚しいな…コーヒーを買わずにここまでビターな経験が出来るとは、人生って分からないことだらけだな……


 と言うか新聞なんてわざわざコンビニで買わなくてもスマホで見れるじゃん、と思いついてしまった。本当に虚しいな、今日は。何だかいい職場に巡り合えたのにため息が出そうだ。

 

 カバンからスマホを取り出して電源をつ「緊急警報!!!!緊急警報!!!!」「うおあああああ!!!!」


 スマホが振動しけたたましい音を出す。

 やっぱり人がいなくて良かった。情けない悲鳴を上げてしまったのを聞かれなくて済んだ。


 「てか緊急警報?……異端者の犯罪の通報か。避難か…ここらへんならうちの高校が避難場所になってたよな。」


 さっき別れたばかりの先生と顔を合わせるのはなんか気不味いが、異端者の犯罪と言われたらそれどころじゃない。

 異端者犯罪は異端者の能力によるが災害に匹敵するほどの災禍を齎す事がある。異端者犯罪警報システムは以前起きた異端者犯罪における世界的大事件があってから作られたシステムだ。

 異端者の犯罪警報システムが鳴ることはたまにあったし、避難するのも2年に1回はある。小学校の頃に友達がレアイベントだの言って先生に怒鳴りつけられていたのをよく覚えている。


 すぐに学校へ行くためにベンチから立ち上がった。

 公園の一つしかない出入り口に向かった。その時だった。

 

 公園の目の前には建物と建物の隙間、所謂路地がある。

 昼でも暗くて、以前から防犯上どうなのかと俺が子供の頃から時々苦情が行っていた事を突然思い出した。


 そんな路地、の真ん中、人が立っていた。


 「「え」」


 …人?


 違う。違わない。あれは人の姿をしている。でも


 「あ…れ?ひ…人…だ……え…お…お…おかしいな…こ…こここの公園……はあんま……つ……使われ……ないって……兄ちゃん……い…言ったじゃんっ……」


 その““右腕““は細身な青年の身体に不釣り合いなほど肥大していて、血管が浮き出ている。 

 筋骨隆々────どころの話じゃない!!明らかに比率がおかしい!!

 絶対身体より腕の方が太い!!


 (嘘だあれって)

 

 「ね……ねえ……き…み……逃げな……いの?」


 (異端者だ)


 「えあ、いや!!その!!」


 (““アレ““に殴られたら死ぬ)


 「ど……どどどどうした…の?」

 

 (殺される。ここで何かしないと、何もできず殺されるだけだ。何か…何かしないと…!)


 「っあ…のそ…その!!!!」

 「……え!?……な…な…何?どどどうしたの……か…なって…」


 社会人には必要だからなんて言っていた飛び切りの営業スマイルで言った。

 

 「そ…その腕!!かっこいい!!凄い!!かっこいいよ!!」


◇◇◇


 「ほ……本当!?」


 少しの沈黙が明け、青年はオドオドした表情から一転して満面の笑みになる。

 …顔だけ見ると大和と同じくらいの年に見える。まだ若いのに犯罪か…なんて俺も大して変わらない年齢なのにな。


 「お…俺右近 ( うこん)!!こ……この腕はね!!に…兄ちゃんとお揃いなんだよ!!」

 「へ…え!!凄い!!俺橋船広斗!!お兄さんも…こんなかっこいい腕なんだあ!!」

 

 言葉に詰まりながら青年────右近の言葉に返事をする。

 名前を聞かれて思わず返事をしたのは先生との面接対策の賜物だろう。ちくしょう。

 右近は嬉しそうに兄の話を続けているがまっったく頭に入ってこない。ずいずいと右近が近寄ってくるから右近の右腕の存在感が強すぎる。ボディービルダー顔負け…と言うかここまでの筋肉は人間としておかしいのでボディービルダーには負けて欲しい。よく見ると腕と身体の接合部分がとんでもない事になっている。肉が引き攣れて何だが痛々しい。自分の能力なんだからもうちょっと適応してあげてほしい……俺は殺されそうなのに相手を事なんか考えるなよ!!弟と年が近い……それだけなのに

 右腕から目を逸らせずにいると右近が誇らしそうな笑顔で


 「さ…触ってみ……る?」


 とんでもない事を言われてしまった。

 断って変に刺激したら俺は簡単に右近に潰されるだろう。断ることなんて出来ないじゃないか…

 もう右近とは別の生物なんじゃないか?なんか無理やり生えてきてるみたいだし。そんな破綻した考えが浮かんでくるともう何もかもどうでも良くなってくる。

 そのまま俺は右近の右腕に触れた。


 (熱っっつ!!!!鉄板かよ!!)


 熱と血管の動きが手に伝わってきて鳥肌が立つ。怖い。


 「に…兄ちゃんはね、お…俺より強くって頭がいいんだ。兄ちゃんがいるから…お…俺今日までい…生きてこれてね!!」

  

 右近は兄の事を語りつづける。嬉しそうにあんな事をしてくれた、こんな事があったけど兄が助けてくれたと笑顔で語る。

 大和は俺の事をこうも慕ってくれているだろうか。

 いや、それ以前に俺は大和に対してちゃんと兄として接してあげただろうか。大和がそうしたいからと大和の意思を尊重するつもりで、俺は大和の事を放って置いていたんじゃないか?

 俺は兄として間違ってきたんだ。右近の兄の様にもっと話したりすれば良かったのか。

 楽しそうに語る右近を見ていたくなくて視線を逸らすと右近の奥にひしゃげた箱があるのが見えた。


 「……右近君?」

 「なっ…なに?」

 「奥のソレ…は何でしょうか?」

 「こっ!!これ…は金庫…!!だよ。」

 「金庫…?」

 「お…俺と兄ちゃんはね!!わ…悪い奴らからお金をと…取り返してるんだ!!こっこれはね……そ…そいつらから取り返したお金…なんだ!!」

 「……悪い奴ら…」

 「に……兄ちゃんとふ…二手に別れて…に……逃げたから……こ…ここで待ち合わせって……決めてて……人…いないはず…だった……のに。」


 あーそっか俺異端者犯罪警報聞いたんだ。忘れてた。

 その通報の原因の異端者の犯罪者なんだな、右近は。

 悪い奴らからお金を取り返す……ある意味正義かもしれない……けど犯罪だもんな。

 弟と年が近くて、良い子……お兄さん想いの右近に愛着が湧く。異端者で、犯罪者で…


 「動くな!!異端対策部4課だ!!速やかに能力を解け!!」


 振り向くと武装した人々が路地の入り口を塞いでいる。

(異端対策部だ!!)

 

 さっき新聞で読んだ異端対策部が助けに来てくれたようだ。俺は助かるんだ!!

 でも、右近は捕まるのか… 


 「おい!!聞こえているのか!!」 

 「あ…えっ…あ…あああ!!」


 あー右近は臆病みたいだからな…こうも大勢に囲まれたら怖いだろうな。異端対策部にビビってパニックになるよな。


 「あ……お…俺の腕!!!!」

 「そこの”スーツの異端者”!!!!その右腕を下降ろせ!!!!」


 スーツ?右近はタンクトップだぞ?それにスーツを着てるのは。俺で


 「え?」


 ああ、痛々しく見えたけど、全然痛くないんだな。右近。

 全然気付かなかったよ。


 いつの間にこうなっていたのか。”俺の右腕”は右近の腕の様な筋肉の塊へと変貌していた。


 「え!?な!?は!?」

 「落ち着け!!落ち着いて腕を降ろせ!!」

 「いや違うんです!!これは…!!ご…誤解…って言うか!!」

 「お…俺の腕…は?」


 なんで?どうして?どうやって?何がどうなって?俺の腕がこんなことに!?

 制服は右腕の部分が弾け飛んでいるし、右腕本体はさっき触った腕のように熱を持っている。

 俺の制服、一張羅なんだけどなあ。3年間傷付けないように気を付けて着てたんだけどなあ。


 「……構え」


 合図を受けて武装した人々が銃を構える。

 俺じゃない。なんてどうやって証明できるだろうか。どうしてこうなったか俺にも分からないのに。


 「なんで…?」


 もう何もわからない。なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。

 俺、普通に夏休み明けにも学校行くつもりだったのに、学校行くどころか、家にも帰れないじゃないか。大和、俺が死んだら悲しむかな、何も思わないのかもしれない、むしろ喜ばれるかな。


 『お前のせいでパパとママは死んだ』


 ……そういえば、父さんと母さんの葬式の時、大和にこんな事を言われたな。なんで今思い出したんだろ。なんで今更思い出したんだろ。


 「忘れていたかったよ……」


 頬に熱いものが伝う。銃口はまだ俺を見据えて────


 いた。


 「は」


 そう思った時には既に俺は宙に浮いていた。

 自分で飛んだわけじゃない。

 俺は”突然現れた女性”に抱えられて、その人が”足だけで”飛び上がった。


 俺を小脇に抱えながら女性は壁の換気扇を経由して屋上に降り立つ。


 「動くな!!」


 俺に向けられていた銃口が女性に向く。しかし女性は平然とした様子で答える。


 「私は異端対応部だ。彼は私達が引き受けた。」

 「し…しかし!!こいつは犯罪者で!!」

 「犯罪を犯したのはこの人じゃなくて、そちらのオドオドした彼だよ。」

 「な…こ…これはどういう事で…?」

 

 「彼は”確かに異端者”だ。しかし、彼の能力は今発現した、しかもこれまで前例のない能力。よって、私達で保護することにした。」


 何を言っているんだ?そんなわけない。だなんてこの腕を見たら言葉が出ない。

 俺は異端者だったんだ。普通じゃなかったんだ。

 驚いていても時間は進んでいく。

 武装集団は女性の言う事に納得したようで、右腕を抱えてすすり泣いている右近を拘束する。

 その様子を確認した女性は俺を抱えたまま家から家へ飛び移る。


 「い…いやいや!!ま…待ってください!!」

 「お、話せるほど落ち着いたようだな。」

 「…はい、あの俺が異端者ってどういう…それとあなたは…何なんですか?」

 「さっき4課の連中に言った通り、異端対応部だ。」

 「……俺の知る限り異端対応部なんて組織、聞いたことないです。」

 「あー……異端対応部は一応公的機関なんだがな、公には発表されてないんだ。」

 「…それ本当に公的機関ですか?」

 「まあ設立時に色々あってな、一応私も公務異端者の括りにいる。」

 「やっぱりお姉さんも異端者…なんですね。」

 「ふふ、お姉さんか。私がお姉さんに見えるか。」

 「あの…喜んでないでもう少し説明を…」

 「うむ、いい感じの屋上があったらな。」

 「えぇ……あ!!あそこ!!平たい屋上ですよ!!ほら止まってくださいよ!!あったんですから!!」

 「君意外と肝が据わってるね…?」

 

 女性は屋上に緩やかに着地するとやっと俺を降ろした。


 「それで……まずは何から話そうか、正直時間があまり無いんだ、なるべく手早く済ませるぞ。」

 「…取り敢えずお姉さんのお名前を聞かせてください。」

 「…まあコミュニケーションは…必要か」


 女性は少し不服そうにこちらを向き直した。


 「私は鬼ヶ島(おにがしま)(トガリ)。異端対応部所属の異端者だ。」

 

 「…名前、珍しいですね。」

 「私が自分で付けた名前なんだが。私は気に入っている。」

 「すいませんでした。」


 「それで尖さん、俺はこれから異端対応部?に連れて行かれて、どうなるんでしょうか。」

 「どうなる、とは?」

 「ええっと、じ…人体実験…とか…ですかね?」


 尖さんは笑って答えてくれた。

 

 「いや、そんな事しないよ、私達は異端対策部とは違うからね。」

 「あ、そうなんですか。」


 いや待て、その口振りだと異端対策部が人体実験をしてるみたいな言い草ですが。

 

 「してるぞ?」

 「俺尖さんが来てくれて嬉しいです…」

 「正直者だな……」


 「我々異端対応部は異端者との共存を目的としている。」

 「…共存。」

 「テレビで聞いたことがあると思うが、働く異端者、学校へ行く異端者、それらに関するサポートなどを行なっている。」

 

 考えればそうだ。いつも犯罪の対応で忙しそうな異端対策部がいつそういった社会に溶け込む異端者のサポートをしているのか謎だった。異端対応部が働いていたのか。


 「その、どういった形でのサポートなんでしょうか?」

 「イマドキの言い方をするとシェアハウスだ。」

 「シェアハウス???」

 「社会に出ている異端者達…彼ら全員が同じ家に住んでいるんだ。まあ家と言うよりかはデカいアパートのような物なんだがな。」

 「そこに…俺も住むんですか?」

 「そうだな、引っ越し費用はこっち持ちだから安心しろ。」

 「はあ…」

 

 シェアハウスは楽しそうだけど……大和は…家に一人になるのか…


 「ただ少しシェアハウスに住むに当たって少しばかり条件もあってな。」

 「…条件ですか?」

 「うむ、まあシェアハウスに住んだ異端者は全員異端対応部所属の公務異端者扱いになるんだ。」

 「はあ。」

 「そうなると少し異端者絡みの仕事をしてもらうことがある。それくらいかな?あと外でシェアハウスに住む異端者を異端者だとバラさないこと。」

 「仕事があるんですね…」


 ……アレ?と言うか異端対応部所属の公務異端者になるって……それは実質公務員に就職するってことじゃないか!?

 

 「給料は!?」

 「えっ、あ、ふ、普通の公務員よりかは高い給料を約束できるが「っっしゃあ!!就職先決定!!」

 「君なんか楽しくなってない?」

 「はい!なんかもう全部楽しい方向に考えようと思って!!」

 「…それもそうだな。」


 すいません、一ノ瀬商事さん。俺は公務員になります。とても丁寧に対応していただきありがとうございます。この御恩は一生忘れません。

 いくら素敵な職場でもこんな状況では採用してもらえないだろう。運が良いやら悪いやら。


 「ところでシェアハウスってどういう感じなんです?」

 「料理当番と掃除当番、ごみ出し当番が決まってるぞ。」

 「なんか可愛いですね。」

 

 少しまったりした空気になってしまった。俺は切り替えるように真面目な雰囲気を出して更に質問をした。


 「先ほど、尖さんは時間があまり無いとおっしゃっていました。どういう事ですか?」

 「………あ、忘れてた。」


 ちょっと?

 

 「そうなんだよ、時間がないんだ早く行かないと……」

 「あー!!だからその理由を聞いてるじゃないですか!!」

 「む…それくらいなら説明できるか。」


 また俺を抱える体制に移行しようとしていた尖さんはスッと腕を組んだ。


 「君が未確認の能力を持つ異端者である…とはさっき言ったね?」

 「はい…それが何かあるんですか?」

 「ああ、まず異端者の能力とはしっかり研究され、分析されていて、大抵の能力に名前がついているんだ。」

 「え、じゃあ…今俺の右腕がとんでもない事になっているこの能力にも名前が?」

 「ああ、その能力の名は右腕強靭 >(うわんきょうじん)。右腕が肥大し、筋肉質になる自律型の能力だ。」

 「名前そのまんまですね。」

 「仕方が無い、異端者の能力は始めて発現した異端者や後世の研究者が付けた物だ、センスはマチマチだし言語も違うからな。」

 「へぇ…」

 

 尖さんは咳払いをして説明を続ける。


 「それでだ!!橋船広斗君。君の能力はこれまで発見されたどの能力にも当てはまらない!!異端者の能力を奪う能力は今まで誰も見つけていない能力だ!!」

 「…そう考えると俺凄いですね。」

 「本当に自信を持っていいぞ?一番最近の新発見は7年前だから7年ぶりの新発見だよ。」

 「…なんか結構最近じゃないですか?」

 「どうやら最近の新発見のペースがおかしいだけみたいだぞ?」

 「そんな事あるんですね…」

 

 「えっと…それでその新発見の能力である事がどうして急ぐ理由に?」

 「そうそう、いや実はな、君が新発見の能力なのが重要じゃないんだ。重要なのは君の能力だ。」

 「俺の…チカラ…」

 「やっぱり楽しんでるね?」

 「男の子は幾つになっても結構こう言う超能力的なモノにテンションが上がるんです!!」

 「まあデータでもそう出てるな、男性の方が女性に比べ異端者の能力に対する憧れが強い傾向にあるらしい。」

 「本当にそうなんだ……」


 「そう、それで君の能力だが多分内容としては能力のコピー……と言うより能力を身体から奪うといった感じかな?」

 「……多分そうなんだと思います。」

 

 俺は熱くて太いままの腕を見て言う。


 「……例えるなら1日に限って1度願い事を叶えられる能力の持ち主がいたとしよう。」

 「はい」

 「そいつが願い事を叶えたあとお前にそいつの能力を奪せる。」

 「は…い」

 「そうなるとその能力で1日に2回願い事が叶えられるようになる。」

 「…良いことでは無い…ですよね。」

 「うむ、その願いで何か人々に悪影響を及ぼすかもしれんし、今は願い事の能力で例えただけだがもっと酷いデメリットを世界に齎す能力者の手にお前が渡ると……」

 「俺……ヤバいですね?」

 「ああ、ヤバい。だから今もこうしてお前の命を狙う輩が沸くのだよ。」


 そう言った途端尖さんは俺の後ろへと回り込み、拳で何かを弾いた。


 「え尖さん!?」

 「心配ないこの程度の銃弾なら跳ね返せる。」

 「いやあの今キンッって!!金属音が!!人の身体から聞こえちゃいけない音が!!てか銃弾!?」

 「しかし増えてくると面倒だな。よしこれ以上の説明は後だ!!行くぞ!!」

 

 俺は返事も出来ず尖さんに抱き抱えられた。


(……よく考えると女性に抱き抱えられてて、しかも守られてるって、ものすごく…)


 「情けない…」

 「余り口を開けるな。舌を噛むぞ。」

 「……」


 

 どれだけの時間を抱えられて過ごしたのか思い出せないが、尖さんに降ろして貰ったときには俺の前にはレトロな煉瓦で出来た建物があった。

 

 「ここまで来たなら大丈夫だ。安心しろ。この建物には認識を疎外する能力が付与されている。刺客達はどこに行ったか分かるまい。」

 「あ……はい。」

 「ん?威勢が悪いな、どうかしたか?」

 「…気持ち悪い…です。」


 酔った。乗り物酔いはしない質のはずだがずっと小脇に抱えられて猛スピードで移動していたらそりゃあ酔う。

 ジェットコースターより速かったんじゃないか?


 「ふーむ、やはり君は異端者だな。」

 「…なんでこれを見てそう思うんです……」

 「いや私の今の移動方法に耐えれるのは異端者特有の身体能力の高さ位だぞ。酔う程度で済んでいるお前は十分異端者らしい強さを持っているぞ。」

 

 ああそういえば異端者って全体的に身体能力が高いんだっけ……俺は確かに結構運動は出来る方だったけどそれで異端者かも!!とはならなかったな……

 

 尖さんの用意してくれた袋に盛大にリバースすると、建物のドアが軋みながら開く。


 「おお尖、おかえり!!」

 「輪廻(りんね)ただいま、ほら連れてきたぞ。」


 銀色の髪の男性がこちらを見て微笑む。


 「ああ、橋船広斗君だね。始めまして。俺は導身(しるべみ)輪廻。異端対応部のリーダーだ!!」


◇◇◇


 輪廻さんの先導で俺達は建物に入る。予想していた通りのレトロな内装にテンションが上がる。俺はこう言う雰囲気がある場所に弱い。


 「大抵の事は尖から聞いてるみたいだな!!説明の手間が省ける!!」

 「はい……これから俺は此処に住むことになるんですね。」

 「ああそうだ。君のことは既に調べておいたよ。弟が居るんだってね。」

 

 突然弟の話が出てきて輪廻さんの方を見てしまう。

 輪廻さんは俺を宥めて言う。

 

 「君の能力は本当に特殊でね。こういったタイプの能力は今発見されている能力の中にも少ないんだ。そんな希少な能力を持つ異端者の身内……普通に暮らすには余りにも危険すぎるんだ。」

 「と言いますと…」

 「弟君……大和君にもここに住んでもらう。」

 「……異端者しか住んでいないのでは無いですか?」

 「そうだな。だがただ異端者と言うだけだぞ。他は人間と変わらん。」

 「……取り敢えず、その話は後にしましょう。」

 「まあ大和君には今警護をこっそりだが付けているからね。暫くは安心だと思うよ。」

 「……ありがとうございます。」


 レトロな内装の通りの温かい色合いの電球が廊下を華やかに彩っている。

 今住んでいる一軒家は防犯設備もしっかりしてたし、電気はLEDライトだったからこういったタイプの電球にはどこか懐かしさと特別感を感じる。

 

 「内装を気に入ってくれたみたいだな!!良かった良かった。」


 かっちりとしたスーツとしっかりセットされた髪型から受ける印象とは違い、輪廻さんはよく笑うし、結構声がデカい。普通にうるさい。

 部のリーダー……要は部長である筈だが威厳と言うより親しみやすい雰囲気だ。俺が就職する予定だった一ノ瀬商事さんの社長さんみたいだ。多分俺は威厳があるタイプよりこういった親しみやすいリーダーの方が惹かれるのかな?


 「あ、はい。でも、どうしてこんな古い建物なんですか?」

 「異端対応部の設立時に少しトラブルがあったのは聞いているね?」

 「はい。……どうして知ってるんですか?」

 「尖に通信をずっと繋げてもらっていたんだ。会話は筒抜けだぞ!!」

 「言い方が怖いぞ輪廻。すまないな広斗君、予め情報を共有する為に通信をしていた。許可を取れず申し訳無い。」

 「いえ大丈夫です。わざわざお気遣いありがとうございます。」


 入り口の正面にあった階段を上り、右に曲がる。

 廊下を進みながら話は続いていく。


 「設立時、異端対応部はそもそも作られない予定だったんだ。俺達が上層部を脅して作った。」

 「脅……!?」

 「ああ、だから設立の準備も何も無くてな!!俺の知り合いに家をたくさん持ってる人がいるからその人から急遽借りたんだ。それを今でも借りているんだ。買ってからずっと放置していたらしいし、もう使わないみたいだから実質貰ってしまった様なものなんだがな。あの人には頭が上がらないな!!」

 「凄いですねその知り合いの方……不動産を所持してるって、どこかの社長さんとかですか?」

 「いや、一般の異端者だ。そうだ!!今度落ち着いたらあの人に顔を見せに行こうか!!暫く会ってなかったしな!!良い機会だ!!」

 「一般の……異端者…」

 「しかもそんじょそこらの異端者とは格が違うぞあの婆さんは!!大御所中の大御所だ。まあ婆さんも君に会いたいと思うぞ?新発見の能力を持つ君に。」

 「はあ……」

 

 自分の能力にそこまでの価値があるのが怖くなってきた。俺はそんな大層な人間じゃないし、今までは普通な事と足が速いことしか取り柄が無い様な人間だったのに、1時間位でここまで持ち上げられるようになると気が引けてくる。

 さっきみたいに超能力ではしゃげていた頃の方が良かったような気がする。自分が何なのか怖くなってくる。

 それに命を狙われるようになっているのを忘れられない。尖さんがいてくれたから良かったものを。

 

 しかも狙われているのは俺だけじゃない、大和も、俺の身内だからと言うだけで狙われている。大和にはあんな目に遭ってほしくない。普通に暮らして欲しかったのに、俺のせいで。

 そういえば輪廻さんは伯父さんの事は言ってなかった。まあ伯父さんは今は海外にいるから居場所の特定に時間がかかるんだろうな。俺ですらどこに行くのか知らされていないし。伯父さんも危ないんだろうな。俺のせいで伯父さんにも迷惑を────


 「大丈夫か?また吐きそうなのか?」


 尖さんが顔を覗き込んでくる。

 腕に熱が全部行ってしまったかのように顔が冷たい。


 「いえ……怖くて、これからどうなっちゃうのかなぁ…とか。」

 「……その不安を解消する為の異端対応部でもある。やはり君を保護して良かった。」

 「それってどういう…」

 「異端対応部では異端者本人の能力のコントロールを教える活動もある。それに自分で自衛出来るよう戦闘訓練もあるぞ。」

 「訓練…?」

 「命を狙う輩がいるなら、お前が倒せるようになれば良いんだ。」

 「は」

 「お前は”異端”だ。お前も私と同じ様に家々の屋根を飛び移ったり、銃弾を弾く事が出来る様になる。」

 「…なるんですか?本当に?」

 「なるさ、この見るからに文弱な輪廻でさえ15階建てのビルから飛び降りて無傷で帰ってきたことがあるんだ。君は若いし体力もありそうだ。伸びしろしかないさ。自信を持て。お前は強くなれる。……弟さんの事も守れるようになる。」

 「…」

 「なあ尖!!どうして俺が文弱云々を引き合いに出したんだ!?」

 「お前はまだ何も分かっていないだろう。だが少しづつ知ればいい。少しづつ強くなればいい。」

 「……そうだぞ広斗。俺達はそんな異端者のサポートをするための異端対応部だ。」


 先導していた輪廻さんが扉の前で立ち止まり、俺に向き直って扉を開く。


 「俺達は異端対応部。歓迎するぞ橋船広斗。」


 「ようこそ、異端対応部シェアハウス戮力荘(りくりょくそう)へ。」


《1》完

 

趣味の小説です。お楽しみいただけたら幸いです。

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