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転生したらうさみみでした  作者: 黒鉄神威
第四章 幻の都編
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第六十六羽. 突入シャドウハノイ


 足を踏み入れた先は全体を淡い燐光が包み、宙を舞う粒子が空間の輪郭を不規則に照らしていた。


 「セリアねぇ、この宙を舞っているのって・・・。」


 「エーテルだね。」


 セリアが答えるより早くエルヴィンが答える。


 「本来なら肉眼で確認することが出来ないエーテルがこうもはっきりと見るなんてっ」


 特殊な環境下、例えば妖精が住まうとされる妖精郷などであれば、見る事が叶う現象である。通常なら決して見る事の叶わぬ現象にエルヴィンは興奮気味に話し続ける。


 歩き続ける事数分、進行方向から光が差し込む。それは外界とこの通路を隔てる境界が発している光であった。発光する光の境界を軽く触れると水面に広がる波紋の様に揺れ動く。セリアが腕を押し込むと何の抵抗も無くセリアの腕が境界の中に入り込む。


 引き抜いた腕に違和感や異常が無い事を確認したセリアが踏み出し境界に身を投じると、境界は何の拒絶をすることなく彼女を受け入れる。背後の光景がゆらぎ、まるで水面をくぐったように視界がねじれ色彩が反転する。


 そして、黒と灰が支配する影の世界がセリアを迎え入れる。セリア達の視界を陰影の深い無彩色の世界が包み、辺りには淡く鈍い光を帯びたエーテルの靄が漂う。


 足元には鏡面のような黒い石床が広がり、よく目を凝らせば微かに人の影が見える。そう、それは残してきた調査隊である。自分達が先程まで見ていた世界に入り込んだのを改めて実感した瞬間である。


 「・・・ここが、シャドウハノイ。本物の塔とは、まるで雰囲気が違う・・・。」


 見上げればそこには全ての光を吸収するような漆黒の塔がセリア達を見下ろしていた。


 『マスター、この空間にて異常なほどのエーテル濃度を検知、さらに空間および時間の流れにも歪みが発生しているます』


 『シャドウハノイを含むこの空間は封印機構の一つ。なんで・・・こんな不安定な空間なんだ。』


 『この空間に何者かが強制的に介入した痕跡が認められます。方法については不明ですが、それが原因で固定していた空間座標にずれが生じた結果と推察できます。』


 『このまま放置するとどうなる。』


 『修復機構が作動しています。修復確率・83%。崩壊確率・15%。このままで固定される確率・2%』


 『あぁ、わかった。このまま観測を頼む。』


 『承知しました。』


 セリア達は周囲を軽く確認した後、リアンの説明にあったようにシャドウハノイの裏側へと回る。そこには高さ五メートルを優に超える巨大な漆黒の扉が聳え立っていた。扉は金属に似た材質で構成され、表面には複数の魔法陣が刻まれていた。中央に3メートルほどの魔法陣、東西南北を囲む様に直径1メートルの魔法陣で構成されていた。


 中央の魔法陣には多重円環と幾何学的な紋が何重にも重なる構造を取り、ハノイの塔そのものを象徴するかのような荘厳な佇まいを見せていた。そして周囲の4つの魔法陣は中心の円環を囲む様に幾何学模様が刻まれ、円環にはそれぞれ四本の塔を象徴する紋章が見て取れた。


 魔法陣全体が微かに輝き出すと、北に配置されている魔法陣が強く輝き魔法陣が回転し始める。中央の蹄王・オルデニールを示す紋章が浮き上がると魔法陣がガラスのように粉々に砕け散る。そして中央の魔法陣に刻まれている多重円環のうち、最も外側の一層が光を放ちながら音もなく霧散する。


 続いて東。翼王・グリュオルニスの紋章が浮かび上がり砕け散り、中央の円環の第二層が溶けるように消えていく。南の牙王・ガルザヴァルグ。最後に西の甲王・ヨルゼルドと同じ様に砕け散り、中央の円環が全て消え去る。


 全ての円環が消失した瞬間、中央の魔法陣全体が光り輝きやがて光の柱と化す。その光はゆっくりと収束し、やがて一筋の光となる。


 光にそって扉が割け・・・。


 セリア達をシャドウハノイへと誘う深淵が・・・口を開ける。



 ◇◇◇◇◇◇


 外観から判断する以上に広い空間がセリア達の前に広がっていた。それが足を踏み入れたセリア達の感想であった。頭上には天井が見えず白い靄が海のように波打ち漂っている。


 「セリアよ・・・。」


 「あぁ、分かっている。」


 「ふたりとも、どおしたの。」


 「アヤメちゃん、なにか魔法を放つかエーテルを放出してみな。」


 アヤメはエルヴィンの言葉に従って掌の上に炎を作り出そうするが、すぐに霧散していく。


 「これって・・・。」


 「そう、この空間内ではエーテルがすぐに霧散してしまうみたいだね。だから魔法の類は使用できないと思った方いいね。」


 「侵入者を確認。起動コード・・・承認。多関節多脚巨像兵(メカニカ・ティタニス)、コードネーム:ネフィリムを起動。」


 無機質な声が突然響き渡る。


 沈黙が流れ、辺りを確認するが、それらしき姿を捉えること事が出来なかった。セリアが上を見上げると白い靄に黒い点を確認する。それは徐々に大きくなる。


 セリアの空間探知が巨大な何かを補足する。


 「・・・来るぞ、上だっ。」


 セリアの警戒感がこもった声が走る。


 一拍遅れて・・・。


 ズドォォンッ!!!


 地を揺るがす衝撃音と共に頭上から巨大な何かが落下した。全身を漆黒と青白の金属で構成されたその存在は、着地と同時に地を抉り、粉塵と金属片を巻き上げながら滑り込む。十二本の多関節脚が不気味な音を立てて広がり、蜘蛛にも似た不安定な姿勢で、ゆっくりと身体を持ち上げていく。


 胸部に埋め込まれた紅い輝点が不規則に光を明滅させ、下を向いていた頭が持ち上がると威圧的な存在感を解き放ち、ブレード型の腕が妖しく光る。



 「侵入者をロックオン。排除行動を開始。」


 抑揚のない機械音声が、空間にこだまする。その声が終わると同時に、地を踏みしめる十二本の脚が一斉に駆動を開始する。


 「この状況で、あんな奴といったいどうやって戦えば・・・。」


 アヤメがセリアに目を向けると体内にエーテルを巡らせ、既に戦闘態勢を整えている姿が目に入る。まだまだ状況把握が甘い自分に反省しながらも、アヤメは瞬時にエーテルを全身に巡らせる。


 「来るぞっ。」


 セリアの声が響くと、ネフィリムのブレードがセリア達に向けて射出される。それを交わしたアヤメが懐に飛び込むが、それより速く鎖で繋がれたブレードがネフィリムへと戻る。振り下ろされたブレードを紙一重で回避したアヤメが反撃に出ると、十二本の足を巧みに動かし回避するネフィリム。


 「妾は魔術に特化しているからな、今回はおぬしらにまかせるのじゃ。」


 アヤメがネフィリムと戦闘を演じている後ろでメルディナが明るい調子で宣言する。


 「何言ってるんだ、メルッ、ちゃんと働いてよっ。多少の格闘戦出来るよねっ。」


 戦闘をこなしながらメルにツッコミを入れるアヤメ。


 「出来なく、無いが・・・妾のブランディング的にアウトなのじゃ。」


 そう言うとリュカとフレイアの横に移動したメルディナは、この戦いは完全に観客に回った。


 「ちっ、メルのやつ・・・後で覚えてよぉっ。」


 距離を取るアヤメに再びブレードが襲う。アヤメをかばうように前へ出たアルジェントが迫りくるブレードを火花を散らしながら受け止める。その反動で吹き飛ばされるが、その隙をついたアヤメが宙を駆け抜け、赤く煌めく斬撃を繰り出す。


しかしネフィリムの装甲は、ただ硬いというだけではなかった。魔術的な加護を帯びた合金の層が、アヤメの持つ俱利伽羅の攻撃を完全に弾き、装甲には傷一つ付いていなかった。火花が爆ぜる中、ネフィリムは機械音を発しながら脚を回転させアヤメを払い落とす。


 「なんて硬さっ。俱利伽羅の攻撃で傷一つ付かないなんてっ。」


 アヤメが距離を取って構え直す。


 アヤメが引いた事で次はセリアが前に出てネフィリムに攻撃を仕掛けている。セリアの攻撃も例外なく弾くネフィリムの装甲に絶句している一同の中でアヤメがある事に気が付く。セリアの素早い動きにネフィリムの攻撃はかすり傷一つセリアに負わす事が出来ないでいた。それでも、セリアの動きがいつもより明らかに悪い。見えている攻撃に対してはいつも通りなのだが、範囲外の攻撃に対して反応が一瞬遅れていた。


 「ねぇ、セリアねぇの動き、少し悪い気がするんだけど。」


 セリアの動きを注意深く見ていたメルディナが、アヤメの疑問の答えに最初に辿り着く。


 「・・・あぁ、なるほどなのじゃっ。」


 「メル、何かわかったの。」


 「簡単なのじゃ。観えてないのじゃ。」


 「見えてない? セリアねぇは敵の攻撃を躱しているじゃん。」


 静かな調子でメルディナは続けた。


 「そうではない。セリアは普段の戦闘において自身のエーテルを薄く広く、それこそ戦闘領域を覆うように拡げ、あらゆるもの知覚するのじゃ。それこそ、熱、振動、エーテルの微細な揺らぎにいたるあらゆる情報を。されど今は・・・それが出来ない。」


 「あっ。」


 自分達が置かれている状況を改めて思い出し、アヤメの表情が引き締まる。アヤメの表情から理解した事を感じ取ったメルディナが短く答える。


 「そういう事なのじゃ。」


 「それじゃ、セリアねぇに不利ってことじゃんっ。」


 「待つのじゃ、アヤメッ。」


 不利な状況で戦っているセリアの為に駆け出そうとするアヤメをメルディナが制する。


 「なんで止めるの、メル。」


 「黙ってセリアの戦闘を見るのじゃ。セリアが不利なのは今話した通りなのじゃが、もともとセリアは空気の流れや振動といった、原初的な気配察知と直感で戦闘を行ってた。それに頼らなくなって久しいのじゃ。見ておるのじゃ。その鈍った感覚が徐々に研ぎ澄まされていく様を・・・。」


 戦っているセリアの顔を見て溜息交じりでメルディナは言葉を続ける。


 「それに・・・あの顔みみるのじゃ。実に楽しそうな顔をしているのじゃ。」


 セリアの表情に呆れた乾いた笑いが起きる中、アルジェントだけは違った感想を漏らす。


 「セリア様が楽しそうでなによりです。」


 そしてリュカとフレイアの応援がこだまする。


 「ママッ。頑張れっ!」


 セリアを向けて放たれたブレードを半身で躱すと、伸びた鎖の隙間を縫うようにネフィリムに接近して右手を振り上げる。


 赤く輝くネフィリムの胸部に振り下ろされた《ツクヨミ》は火花を散らすも、残る手応えはただ硬い。それだけだった。


 圧倒的な防御性能と、苛烈な攻撃。そして応答速度と身体構造は防衛機構とは思えぬ洗練された動きを実現していた。


 ネフィリムとの攻防が繰り返されていく中でセリアの唇が、ふと・・・緩む。


 鈍っていた感覚が徐々に研ぎ澄まされ、刃と刃の交わる中に身を置く高揚感がセリアを支配し始める。


 金属が軋む音すら心地よく。


 見えなく、聞こえなくなり、観え始める。次第にセリアの感覚は彩を置き去りにしていく。


 「セリアねぇの動きが良くなった?」


 アヤメの呟きが疑問形なのは当然と言えば当然であった。セリアの反応速度が異様なほどに速い。むしろ相手の初動で動き始めている。


 足元の振動、空気の流れ、金属の揺れ、音の間隔、全てが語りかけているような、そんな感覚の中にセリアはいる。


 ネフィリムは既にセリアの動きに自身の反応が追い付かなくなっていた。


 セリアは不意にネフィリムと距離をとる。右手で《ツクヨミ》を一回転させると、右足を引き肩幅よりやや広く足を開き、腰を落とし重心を低く、そして《ツクヨミ》の刃が、右肩の後ろに構えられた。


 刹那の静寂がセリアとネフィリムを包む。


 ネフィリムが声なき声で咆哮を上げると、セリアに向かって突撃する。十二本の脚は床を割り、両の腕はセリアの心臓と頭に狙いを定めていた。


 その質量と速度が生む圧倒的な重圧。


 それを前にしてもセリアの心は穏やかであった。見開かれた両の瞳は紅く染まり銀髪が淡く輝く。


 「表技・壱ノ型 無明一刀(むみょういっとう)


 呟くように静かに、されど確かに耳に響くセリアの言葉。


 それと同時に静かな踏み込みがなされる。


 セリアの体内を巡るエーテルが、骨を、筋肉を、関節を貫き、果ては血流をも支配し細胞のひとつひとつを戦闘のために最適化していく。


 振るわれるは、無駄を削ぎ、理を超えた無明の一振り。


 ネフィリムに人のような感情があったのなら、取った、とそう感じていただろう。だがセリアの姿は既に背にあった。左わき腹から胸の紅光が通り右肩へ至る直線にそってネフィリムの上半身が滑り落ちる。残された身体が小さく震えると。十二本の脚が支えることを止め崩れ落ち、残され胴、腕と装甲を軋ませながら崩れていく。


 背筋を伸ばし刃を構えたまま残心の姿勢でいたが、ネフィリムが動く様子の無い事を確認したセリアはふぅっと一息吐く。すると、紅く染まっていた瞳と輝いていた髪がもとに戻る。


 「これで、鈍った感覚がもとに戻ったなっ。」


 戦闘の終結を悟ると次々にセリアに駆け寄る。


 「セリア様、まさに圧巻でしたっ。」


 「セリアねぇ、最後、すごかったよ。」


 「結局、俺の出番はなしかぁ。」


 「セリアよ、おぬしの身体構造はどうなっておるのじゃ。明らかに人の動きを逸脱しておるのじゃ。」


 「ママァ、かっこよかったよっ」


 自分に飛びつくリュカとフレイアの頭を撫でていると、エルヴィンから妙な要求が飛び出す。


 「セリアちゃん、お疲れのところ申し訳ないんだけど、あれ回収してほしいなぁ。」


 そう言ってエルヴィンが指を差した方向には、今しがたセリアが倒したネフィリムの瓦解した姿があった。


 「あんな物回収してどおするんですか?」


 「決まっているじゃないかっ。あれを解析して同じ物とは言わないけど、それ相応の物を復元したいわけさぁ。研究者の血が騒ぐんだ。お願いだよぉ。」


 「分かりました。その変わり一部は私も、もらいます。」


 嫌々感を出しながら答えたセリアは、ネフィリムの残骸をストレージに格納する。


 「全然問題ない。セリアちゃん、ありがとうっ。流石心の友だっ。」


 「そんなになった覚えは・・・ありませんよ。」


 「いけずなんだから、セリアちゃんはっ。」


 何か言い返そうとも思ったが、エルヴィンの頭の中は既にネフィリムの残骸の事で頭がいっぱいになっていた。何か呟きながら同じところをグルグルと回り始める。


 戦闘後の余韻に浸っていると、三度無機質な音声が響き渡る。


 「ネフィリムの信号をロスト。侵入者の生体反応を確認。第二階層を解放。」


 解放という言葉と共に頭上を覆っていた白い靄が晴れていく。部屋中央の床に巨大な魔法陣が描かれ淡く輝き始める。幾何学的な紋様がひとつ、またひとつと浮かび上がりやがて赤、黄、緑、青・・・複数の属性色が織りなす環状の光が床面に鮮やかに描かれる。


 「・・・これが、次への階層へと続く転移陣か・・・。」


 リアンの情報ではシャドウハノイの階層は全部で三階層。それぞれの階層には防衛機構が存在する。その内容については詳しい情報が伝わっていない。


 「準備はいいか。」


 セリアの言葉に皆が頷くとタイミングを計ったかのように一斉に足を踏み出す。


 「次の階層は休みたいなっ。」


 転移が始まるまでの少し時間にセリアが呟く。


 「次は妾の強さを全面に押し出していくのじゃっ!」


 セリアの呟きを聞いたメルディナが、威勢よく答えるのと同時に陣の中心から光の柱が立ち昇る。光の柱がセリア達を包み込み、一瞬強く光ると第一層から掻き消えるようにしてセリア達の姿が消えた。


 そして、その姿は第二層へと。転移前に抱いたセリアの希は露と消える事になる。


誤字・脱字等ありましたら、よろしくお願い致します。


【読者の皆様へのお願い】

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気合を入れて妄想に妄想を重ねて執筆する原動力になります。厨二病感満載の詠唱も考えて行きます。

改めてお願いします。

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