幕間 淑女への道・その一
アルジェントを治療した翌日に話は遡る。
朝食を済ませたセリアはその足でアルジェントの部屋を訪れた。その道中、セリアは尾行されていた。誰にかというと、今お世話になっているアデルフィート辺境伯の次女シルクにだ。彼女はセリアの事となると残念な少女となり果てる。まだこの時セリアはなぜ自分の後を付けてくるのか、不思議でならなかった。
セリアの後をつける様子が幾人もの使用人に目撃されており、後にアインザックの耳にも入る事になる。
セリアが部屋に入るのを確認したシルクは足音を立てぬよう扉に近づくと、耳を当て中の様子を聞き取り始めた。
初めこそ、挨拶から他愛もない会話とシルクに耳に届いていたが、途中から全く聞こえなくなっていた。
「おかしいわね。何も聞こえないわ。お姉様とアルジェントさんは何を話しているのかしら?」
聞こえないのも当然であった。この時セリアは防音結界を張り巡らせ、一切の音が外部に漏れないようにしていた。
そして、聞き耳を立てる事に集中するあまり、自分の背後に忍び寄る影にシルクは全く気が付いていなかった。
「お嬢様、そこで何をなさっているのですか?」
「何って決まっているじゃない、お姉様の会話を盗み・・・えっ!」
恐る恐る振り返るシルクの後ろには、笑みを湛えるキースウッドがいた。
「き、キース、いつからそこに?」
「お嬢様が聞き耳を立て始めたあたりですかね。」
うそっ!・・・という事はほぼ初めから後ろに?全く気が付かなかったわ。
「きっ、キースもお姉様が何を話されているか気になるわよね? い、一緒に、ど、どおかしら?」
「お嬢様、淑女たるもの人様の会話を盗み聞くなどもってのほかです。ましてお客人の会話を!」
キースウッドの説教中にも拘わらず、中の会話が気になるかシルクの視線はちょくちょく扉へと向けられていた。そんなシルクに呆れかえったキースウッドはシルクの首根っこを掴むと歩き始めた。
「お嬢様、今週はマナーの授業を増やします。それとこの事は旦那様に報告いたします。」
「えぇー!!、それだけはいやぁ~。お父様に言うのだけは、やめてぇ~!!!」
キースに引きずられながら喚くシルクの姿に使用人一同頭を抱えていた。
お嬢様が立派な淑女になられる日はいつ来るのだろうか・・・その道のりの遠さに心の中で溜息をつきながら、キースウッドはシルクの教育について頭を悩ませた。
そんな一連の騒動を部屋の中から見ていたセリアは、何をしているのやら、と思いながらアルジェントとの会話に花を咲かせた。
そして本当の意味でシルクの奇行にセリアが気が付くのはまだ暫く先の事である。
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