第十四羽. 初冒険・殲滅戦
『アル、テトラ、行動を開始するぞ。身体は休まったか?』
『問題ありません。』
『テトラもだいじょうぶ!』
『私が範囲魔法で牽制する。その後はアルが左から、テトラ右から強襲だ。』
セリアの言葉に了解の意を示すアルジェントとテトラ。二人からの返事を確認するとセリアは隠れていた茂みから飛び出し魔物の集団目がけて魔法を行使する。
「フレイム・ジャベリン!」
空中に複数の魔法陣が浮かび上がり、そこから炎で形成された槍が魔物の集団に襲い掛かっていった。
着弾と同時にアルとテトラが左右に分かれ集団に突入していった。セリアも《ツクヨミ》をストレージから取り出すと戦いの渦中へと身を投じて行った。
Side:アルジェント
「シェルストロマ」
アルジェントは接敵まで間に一定量のダメージを防ぐバリアを自身にかけるとそのまま敵陣へと突入していった。敵の目の前で急停止すると、その勢いのままシールドを叩きつける。
「シールドバッシュ」
複数の魔物が同時に吹き飛ばされ絶命していく。次の相手に目標を定めると剣にエーテルを収束させ、水平に振り抜く。
「ソニック・ブレイド!」
刀身に纏っていたエーテルが刃となり解き放たれる。そのエーテルの刃は進行方向にいる敵を次と両断していく。アルジェントはそのまま走り出し次の攻撃目標へと向かって行く。
粗方周りの敵を討伐したその時、死角からの攻撃にアルジェントの体が無意識に反応した。構えた盾に強い衝撃が走り、そのまま数メートル吹き飛ばされた。顔を上げるとそこには巨躯のオーク、王の名を冠するオークがこちらを見据えていた。
こちらを見据えるその眼からは一切の感情が読み取れない。眼だけでなく表情もまるで固まってるかのように変わることが無かった。思い返せば今まで倒した魔物も同じような目、そして気味の悪いほどに表情が変わっていなかった。本来であれば戦いによる高揚感や同族を殺された事による怒りといった感情が支配して然りである。
得体の知れない何かを感じ取り背筋が寒くなるのをアルジェントは感じていた。
オークキングはその巨体から想像できない速さで接近してきた。持っている巨大な棍棒を振りかぶり打ち付ける。オークキングの攻撃をかろうじて盾でいなすが、攻撃をする暇を与えない攻撃が繰り出されてくる。
私はセリア様の剣であり盾です。この程度の敵に臆している場合ではありません。
その強い思いと共にシールドバッシュでオークキングの攻撃を迎え撃つアルジェント。オークキングの態勢が崩れるといった形で競り合いの勝負が決した。そしてその隙を見逃さずアルジェントは自身が持てる最大出力の攻撃をオークキングに向けて放つ。
「ブレイド・オブ・ジャッジメント!」
剣の形を模した無数のエーテルの刃が地面からオークキングを襲いその命を奪っていった。
Side:テトラ
テトラは魔物の集団にある程度近づくとフレイム・バレットをまるで速射砲のように放ち始めた。それを搔い潜り接近に成功した魔物達は触手で両断されるか貫かれるかして命を散らす羽目になる。
魔物にとっては悪夢以外の何者でもないだろう。ただ今回はその限りではない。何せ感情が一切無いに等しい。
テトラは敵陣を軽やかに飛び跳ね、魔法や触手で次々と敵を葬り去っていった。
そしてテトラの眼前には一匹のゴブリンが立ちはだかっていた。王の名を冠するゴブリンが。
フレイム・バレットを放つがゴブリンキングにほぼ全てを弾かれ、また命中してもさほどのダメージを与えていなかった。
テトラの速さ、回避率はゴブリンキングを上回っている。ゴブリンキングの攻撃がテトラを捕らえる事はないが、テトラはテトラで相手を制する攻撃が無いのも事実であった。
そこでテトラは4つの分裂体を作りゴブリンキングの四方に配置すると、それぞれフレイム・バレット、アイス・バレット、ストーン・バレット、エアリアル・バレットを連続で放ち足止めをさせた。
その間に本体のテトラはエーテルの充填に入った。そして準備が整ったテトラ本体は分裂体に下がるように指示を出すが、それに逆らいゴブリンキングに取り付き始めた。
分裂体の行動に驚きつつも意図を悟ったテトラはゴブリンキングに向けて大きく口を開ける。
「元素砲!!!」
テトラから放たれた渾身の一撃は分裂体諸共ゴブリンキングを消滅させた。
Side:セリア
『残敵数:207』
初激で150体近くを屠った。
敵陣に向かって走り出すセリアは《オモイカネ》から残敵数を聞くと発動速度の速いフレイム・バレットを前方に向けてばらまき、遠方から接近してくる敵を削る。そして魔法を抜けてきた敵に対しては抜き去り際に始末していく。
混戦の中、敵を縫うように進むセリアの後ろには死体だけが残されていった。その姿はまるで踊っているかのようで、仮に観客がいれば喝采を受けていたであろう。
アルジェント、テトラの殲滅速度も同じランクの冒険者に比べればかなり早い。セリアに殲滅速度その比では無かった。
『残敵数:91』
初めからセリアはアルジェントとテトラに王の相手をさせる気でいた。だが残敵数を考えると少々荷が重いとも感じていた。
それなりに戦闘を経験した今、一気に方を付ける方が良いと考えたセリアは、後ろへ一旦下がり、敵から距離をとる。
『王、将軍を除外し、全ての魔物をロックオン!』
セリアからの指示に対して《オモイカネ》は戦闘区域の簡易地図を脳内に素早くフィードバックする。その地図にはロックオンされた無数の敵が表示されていた。
「フォトン・レイ」
魔法陣から放出された無数の光線はロックオンした敵に向かい空を駆けた。そしてその命を次々と散らしていった。
残り四体、それが今現在この戦場で生存している魔物の数である。アルジェントに立ちはだかるオークキング。テトラに立ちはだかるゴブリンキング。そしてセリアの前にはオークジェネラル、ゴブリンジェネラルの2体。
《ツクヨミ》を回転させ、構え直すと2体のジェネラルに向け加速していくセリア。戦いの結末はあっけなく、一瞬にしてセリアにその命を刈り取られた。
「さて、アル、テトラをゆっくり観戦するか!」
観戦しながらセリアは可能な限り魔物の遺体を回収していった。そして回収をほぼ終えた頃、アルジェント、テトラの戦闘が終了した。
セリアが見守る中、激戦を勝利で飾ったアルジェントとテトラはセリアの下に駆け寄る。そんな両者に対して回復薬を与え、暫く休みように伝え、セリアもしばしの休息をとった。
「この辺りを少し調べてくる。」
両者に比べればさほど疲れていないセリア。彼女がそう言って立ち上がった、その時。
「騒がしいと思って出向いてみれば・・・」
セリアの真後ろ、居るはずのない場所から声が響いた。反射的にセリアは《ツクヨミ》を声のする方向に向けて振り抜くが、そこに姿はなく。
「俺の玩具が全て消えているではないか。」
今度はダンジョンの入り口付近から声が発せられた。
慌ててそちらを向くセリアの視界に黒衣のローブを纏った何者かが佇んでいた。声からすると性別は男性であろう。だが顔の部分が靄のようなもので識別が出来ない。
『《オモイカネ》、奴を鑑定出来るか?』
『既に実施しましたが、鑑定は不可です。』
鑑定が不可・・・遮断系のスキルか?もしくはそれほどまでに実力に差があるという事か?
「まぁ、それ程愛着があったわけでもないが・・・それなりに費やした。」
この黒衣の男を見たときからセリアは今までにない不気味な感覚を覚えていた。そして嫌な汗が彼女の背中を濡らしていた。そしてそれはアルジェントも同様であり、その顔には先程の戦闘以上に緊迫した表情を見せていた。
「紛い物共、お前らのその命で贖ってもらおう。」
”紛い物”?どういった意味だ?黒衣の男が放つその言葉には明らかに侮蔑・差別の色が織り交ぜられていた。だがセリアは”紛い物”という言葉に人族の亜人種対するそれとは違う何かを感じ取っていた。しかし答えに至る必要な情報が根本的に欠如していた。
「いきなり現れた相手に、はいそうですかと、差し出せるとでも?」
絞り出すように出したセリアの声に、
「それでは面白くないだろう。俺自ら手を下しても良いのだが、俺も忙しい身だ。こい、コクヨウ!」
ひょうひょうと答える黒衣の男の隣に黒い靄のようなものが生じ、そこから一人の男が姿を現した。背丈はセリアと同時くらいであろう。特徴的なのが額から二本の角が生えていることだ。服装は和装に近く腰には刀を差している。
『彼の者は個体名:コクヨウ。種族:鬼人』
即座に《オモイカネ》から鑑定結果がもたらさせる。
そしてそのコクヨウと呼ばれてた男は殲滅した魔物達と同様に虚ろな、感情の無い目と表情をしていた。
「お前らの相手は此奴がする。とっ言っても今の此奴では・・・」
セリアに顔を向けると何かを確認するような素振りを見せると。
「倒せないか・・」
一言呟き、黒衣の男はコクヨウの胸のあたりに人差し指を押し当てた。
「使い潰す事になるが、まぁ、仕方がない。それに代わりはいくらでもいる。」
セリアの目は黒衣の男の指を通して禍々しい何かが移動していくのを微かにではあるが捉えた。そして用を終えた黒衣の男はダンジョンの入り口に向かい歩き始めるが、歩みを止め振り返ると。
「もし此奴を倒して俺の下まで辿り着けたら、多少の情報は与えてやる! 足掻けよ、紛い物共!」
言葉を残し再び歩を進める黒衣の男の姿が蜃気楼のように消えて行った。
「グッッッギグァガァァァァ!!!」
黒衣の男が消えると同時に男が突如として叫び声し、全身の皮膚がひび割れ、目は赤く血走り始めた。そしてみるみるうちに身体が大きくなり始めた。
目の前で起こっている状況に危機感を抱いたセリアは、少し離れた場所へアルジェントとテトラと共に短距離転移で移動した。両者がまだ回復仕切っていない事は見るに明らかだった。
「アル、テトラ、あいつの相手は私がやる!」
告げると短距離転移で戻るセリア。そこには変貌を遂げた鬼人族の青年がいた。その身体はもとの体積の三倍程の大きさの巨躯に、肌の色は灰褐色に、そして表面には赤く血管のようなものが浮き出ていた。その姿にはもとの面影は殆ど無く、額から出ている2本の角が彼が鬼人族であった事を物語っていた。
そして先程までとは打って変わり獰猛な眼差しをセリアに向けていた。
『どういった原理かはわかりません。個体名:コクヨウは魔物化しています。』
『魔物化、だと』
《オモイカネ》の報告に驚きつつも、コクヨウの前進を視界に捉える。《ツクヨミ》を強く握りしめ、臨戦態勢を取るセリア。
次の瞬間、数メートル吹き飛ばれ、セリアは地面を転がっていた。
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