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 1人の老婆が露店を開き、自身の畑で取れた野菜を売っていた。


 …売れないねぇ……


 無理もない。

 領主のお膝元であり、かつては多くの行商人たちの露店が並び、領内一番の賑わいを見せていたアーニエルの街もずいぶんと変わってしまった。


 税が高くなったことで、関所の通行税、街への入市税、バザーへの出店料が上がったうえ、物が売れなくなった。おかげで馴染みの行商人たちはめっきり見かけなくなった。

 かわりに少しでも金を作ろうと泣く泣く家財を売る市民の、出店料を払っていない違法な露店ばかりが並んでいる。


 かつての活気はどこへやら、通夜のような陰鬱な空気がバザーに立ち込め、摘発の怒声ばかりがバザーに響いていた。


 思えば、行商人たちが減りだしたのはマルコが追放されてからだったような気がする。


 …何をしてたか知らないけど、あの役立たず殿がなにかしてたのかねぇ?


 何をしていたかも何も、むしろ積極的に行商人たちに声をかけ、通行料などで便宜をはかり、経済を回すようにしていたのがマルコなのだ。

 伯爵や他の者には帳簿をつけて請求書が来たら支払うだけの仕事と思われていたが、少しでも財政赤字を押さえて回復させるためにマルコはいろいろやっていた。


 …まっあの役立たず殿だ、考えすぎかねぇ。


 とはいえ、領主の館の中でマルコが何をしていたかなど知り得るところではないし、自分たちに直接関係しない対外向けの布告など気にしたこともない。


「おいっ!!」


「ん? なんだい??」


 突然喧嘩腰な客に声をかけられ、老婆はふと我に帰る。


「じゃがいもが1袋500ゴールドだって!? この前は300ゴールドだったじゃないかっ!!」


「すまないねぇ… 税金も出店料も上がっちゃってねぇ…」


 老婆は謝る。

 税が高くなったせいで値上げをしないと生活ができないのだ。


「うるせぇ!! 税があがって苦しいのは俺たちだって同じだよ!!!」


「そ、それは……」


 そんなの自分のせいではない。


「しかもなんだ!?ふざけんなっ! 前より袋が小さくなっているじゃないかっ!! これで500ゴールドだと!? ぼったくりじゃないかっ!!!」


「「そーだ!そーだ!!」」


 いつの間にか集まった野次馬から罵声と石が飛ぶ。


「ああ、やめとれ…やめとくれ……」


「うるせぇ!! 詐欺師からは没収だっ! 皆持ってっちまえ!!」


「「おーっ!!!」」


 みるみる人がたかり、商品の野菜が奪われる。


「待ってくれ、お代を…お代を……」


「うるせぇ!!」


 すがる老婆に拳が振るわれた。



 すぐに衛兵が駆けつけたが民衆は蜘蛛の子を散らすよう逃げ去り、ひどく怪我した老婆とボロボロに破壊された露店が残るのみだった。





 執務室の中、ベンジャミンは頭を抱える。


 …足らない……


 アーニエルではすでに二度の臨時徴税を行ったが赤字を埋めるのに届いていなかった。

 無理もない。

 何世代もかけて貯めこんだ貯蓄を使いきり、その勢いのまま赤字を作ったのだ。まともに考えれば一世代で返せるような額ではない。


 それでも… 追加の徴税を行うしかないか……


「その、ベンジャミン様…」


 部下の1人がおずおずと話しかけてきた。


「…なんだ?」


 不機嫌さを隠そうともせず、ベンジャミンはぎろりと睨む。


「あの、…また、今度はバザーで暴動が起こったのとこことです。」


「…そうか。」


 とりつく島も与えず、ベンジャミンはそれだけ答えた。


「あのっ! 最近はアラン様も暴動の対処に出ずっぱりでして、早くなんとかするようにと…」


 しかしアランとベンジャミン、2人の間で板挟みになっているのだろう。部下は引き下がらない。


「わかっておるわっ!!!」


 だがその態度がベンジャミンを激昂させた。


「だが、どうしろと言うのだ!! このままでは我々の給金すらままならないのだぞっ!!!」


「そ、それは……」


 部下は言い淀むが、下がらない。


「…まだなにかあるのか??」


「…すでに二度目の徴税を支払えず逮捕される者も出ております。これ以上の徴税は更なる混乱をもたらすかと……」


 そのくらいベンジャミンだってわかっている。


「その、無い袖は振れないと言いますか、乾いたスポンジは絞れないと言いますか… これ以上の徴税は無理です!お考え直しを!!」


 にもかかわらず、代案を出さず捲し立てる部下に嫌気がさした。


「…では、お前にはこの赤字を埋める、なにか妙案があるのだなっ!!!」


「っ!…そ、それは……」


 途端、部下はうつむき黙る。


「なんだ!? ないのか?? ないのに偉そうに語っていたのか!??」


「その… なにか売却する、とかですかね……」


「売却? いったい何を??」


 そんな簡単に売り払えて金にできる物があるならとっくにやっている。


「それは……」


 部下は再び口を閉ざしてしまった。


「ちっ…ったく、だったらそのまま黙っておくんだな!!」


 ベンジャミンはどかっと背もたれに体をあずける。


 …これ以上税を搾り取るのは難しい。かといって別に売却できるようなものもない。


 ……


 いや、待てよ?


 売るものがないなら作れば良い。

 税を徴収して、支払えない者から土地や物件を差し押さえれば売るものが出来る。


 そうだ、これだっ!!!



 そしてアーニエルでは更なる臨時徴税が行われるのだった。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます


はたしてこれはざまぁなのか???

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