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後日
マルコは早速魚の内臓やなんかを畑に撒きに来たのだが…
どうすれば良いんだ?
一応、視察やなんかをして良い土壌がどんなものかは知っているし、政策として土壌作りの支援策案を父に提言したことはある。
しかし具体的に現場レベルでどうしているのかまではさすがに専門外だった。
…とりあえず、撒けば良いのか??
「こんらぁ~! なぁにしてるだかぁ~!!」
ばっと撒こうとしたその時、後ろから大きな声で怒鳴られた。
びっくりしたー。
後ろを振り返ると身の丈2mはあろうか、頭には2本の角を持ち牛の尾を生やした大柄の牛人族の男が立っていた。
「畑さいたずらしちゃなんねぇえって… こりゃマルコ様じゃねが! すすす、すまねぇおら……」
「いや、良いんだが…」
……
「あんのぉ~?マルコ様? マルコ様ばいったいなぬを??」
一瞬の間の後、その牛人族は聞いてくる。
「ああ、コウ…蛇人族から魚の内臓やなんかが肥料になると聞いてな。撒きに来たんだ。」
「なんるほど、でもそのまんま撒いたらダメだべよ。」
「そうなのか?」
「ああ……」
言うには、そのまま撒けば根腐れの原因になったり、害虫を招いたり、さらにそこから病気に繋がったりするらしい。
「……だがら肥溜めさ作って腐らせて、水で薄めで撒ぐが。それか休耕田に堆肥置ぎ場さ作るんが良かよ。」
「なるほど、…そういえば名前は?」
「おら? おらはシロコロさ言うだ。産まれだ時ば白くてコロッとしでだらしが、今ばこげんでがなっぢまったがな。」
がっはっはっとシロコロは豪快に笑う。
確かに今の見た目でシロコロはいささか可愛すぎる名前でギャップがすごい。
「しかしシロコロはずいぶん畑に詳しいんだな。」
「詳しい?おらがが?? いんや、牛人族なら皆こんぐらいば知っとっとよ。」
「そうなのか?」
「ああ、おらだち牛人族ば畑ど共に生ぎ、畑に生がざれどるがらな。畑さ機嫌どる知識ばよぅさん持っとるだよ。」
山中の隠れ里で生活していた猫人族は狩猟メイン、蛇人族は漁メイン。どちらも畑は作ってはいたが小規模はものだったそうだ。コタロから聞いてはいたがやはりローグの地での農園エリアは牛人族に任せた方が良いだろう。
「ありがとう、良い話を聞けたよ。畑についてまたいろいろ聞かせてもらうかもしれん。」
「いんやそげな、おらごときが役に立でたなら幸いだべ。」
「ああそうだ。蛇人族に教わって魚の干物を作って見たんだが…持っていくか?」
「そいだら、少しだげ…」
シロコロは遠慮がちだが少し含みもある風に答えた。
「ん? 結構大量に作ったから遠慮しなくて良いぞ?」
「そいじゃなかよ。おらだち牛人族ば肉や魚ばあんま食えねだけだ。」
…うーん、なにか別に良いものあったかな?
「あっ、だどもあんま食えねってだけで嫌いってわけじゃなかよ。むしろおら、魚ば好ぎだ。」
シロコロはニカッと笑って見せる。
別に気を遣って無理をしているわけではなさそうだ。
「ならよかった。」
「んだ。」
マルコはシロコロを連れて家へと戻る。
「あっ、マルコ様~。」
家に帰るとミャアがトテトテと走り寄ってきた。
「お客様が来てますよ。」
「客?」
そこには何人かのドワーフの男たちが集まっていた。
「マルコ殿、邪魔をしておる。ワシはガンドールと申す。以後、よしなに。」
「ご丁寧にどうも。」
彼らもやはり故郷へ帰りたいのだろうか?
「ワシらドワーフはもの作りが得意、ああもちろん建築もお手のものじゃ。ここに街を作るのじゃろ? なにか力になれるのでは?と思うてな。」
「っ!本当ですか!?」
思わぬ言葉にマルコは思わず身を乗り出す。
「あ、ああ… あっ…… エルフたちのことじゃな。彼女らは本当にかわいそうじゃ、…とはいえマルコ殿の立場を思えば無理なものは無理じゃ。心中お察しいたす。」
「いえ…」
ガンドールは板挟みのマルコを思い、目を伏せた。
理解してくれているのはありがたいが、本当にガンドールたちはそれで良いのだろうか?
「ワシも案じてくれておるのか? ありがたい。
じゃがワシらは募兵に参加した身、帰れぬことは覚悟しておった。今さら戻ったところでワシらの部屋は甥子や姪子のものになっとるじゃろう。かといってまた兵士になるには…少し年を取りすぎた。
まぁ、無事を知らせる手紙くらい出させてもらえると嬉しいのぉ。」
「いろいろと伏せてもらわなければいけないことはありますが、それくらいなら…」
世界中を巡るキャラバンである九尾商会に頼めば手紙は届けられるだろう。
「…あんのぉ~?」
話をしていると所在なさげなシロコロが申し訳なさそうに口を挟む。
「っと、すまない。ちょっと待っていてくれ。」
マルコは急ぎ干物を取ってくるとシロコロに渡した。
「今日はありがとう。実は果樹がうまく育てられていないんだが… 今度見てもらえないだろうか?」
「おらでよげれば、もちろんでさぁ。」
シロコロはペコペコ頭を下げてから帰っていった。
「…マルコ殿、今のは?」
「ん? ああ、干物を作ったんだ。結構あるが、ガンドールもいるか?」
「おおありがたい。これは良い酒の肴になりましょうぞ。」
「残念ながら酒はないんだよ。だから醸造所も作らないといけないんだよな。」
海運を行うとなれば、腐らない飲み水としてエールやワインが必要となってくる。
「なんとっ!!!」
ガンドールたちドワーフはズイッと身を乗り出す。
「仕事終わりの一杯は最高の褒美であり、明日の仕事の活力じゃ。すぐに作りましょうぞ!!」
「ええっと… 一応建設予定地はここを想定しているけど…」
言わんとすることはわかる。執政者目線、酒は大衆の娯楽としても重要だ。
…ドワーフは酒好きが多いと聞いてはいたが、ここまでとは……
「おしっ、皆! 早速現地を下見するぞっ!!!」
「「おーっ!!!」」
ガンドールたちは嵐のように去っていき、翌日には醸造所の図面が提出されるのだった。
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