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雪山を進んで数日、マルコたちはついに山頂へ到着した。
「ここは…」
広く平坦な山頂。明らかになにものかによって整地がされており、中央には祠が1つ静かに鎮座してある。
「お前たちはここで待っていろ。」
「ああ、わかった。」
クウガの言葉にマルコは素直にうなずく。
祠の前に立ちはだかるのはアークデーモン。以前マルコとリオが辛くも倒せたデーモンの上位種だ。ついていっても足手まといにしかなれないだろう。
「結界は必要か?」
「いや、自分で張れる。
いと麗しき聖なる神よ。我が前に立ちはだかる悪しきものから慈悲の心で我らを護りたまえ。そは光の防壁、悪しきを阻む守護の光。…ホーリー・バリア!!」
光のベールが降り注ぎ、マルコたちを優しく覆った。
「ふっ、大丈夫そうだな。それでは行ってくる。」
クウガは落ち着いた足取りでアークデーモンへと歩を進める。
「ギリィ…」
それに呼応してアークデーモンも立ち上がる。
デーモンより大きく強く、そして禍々しい見た目。手にする得物もハルバートとれっきとした武器だ。
デーモンと対峙した経験のあるリオだけでなく、他の皆もそのヤバさを肌でひしひしと感じているのだろう、アークデーモンへと向かうクウガを固唾を飲んで見守っている。
2歩、3歩… クウガはアークデーモンへと近づいていき、
ダッ! ガキンッ!!
クウガの飛びかかりの一撃。
ここまでイエティ相手ならそれだけで決まっていた一撃も、すんでのところでアークデーモンに防がれる。
「ほぉ、再戦とは言え今の一撃… よく防いだな。」
「ウビィ……」
爪とハルバートがぶつかり合い、ビシビシと音が聞こえてきそうなほどの激しい競り合い。しかしこれまで温存していたおかげか、クウガが押している。
「前回はいいようにやられてしまったがな、今回は万全。前と同じと思うてくれるなよ!!」
もう片手での爪の一撃。辛くもそれもアークデーモンのハルバートに防がれるがその威力は凄まじく、アークデーモンの巨体を軽々吹き飛ばした。
「ふんっ!」
だがクウガは距離をとらせない。地を蹴り瞬時に間合いを詰める。
「どうしたどうした?防戦一方ではないか、ふははははっ!!」
ガキンッ!ガキンッ!ザシュ!ガキンッ!ザシュ!ザシュ!
爪による連撃。
アークデーモンは防ぎきれず身を捻りかろうじて致命傷は避けているようだが、次第にその攻撃は肉を抉る。
「ウビィ……」
一瞬の隙をつき、アークデーモンは大きな翼を羽ばたいて上空へと退避した。
「ふんっ光嵐の聖獣たる我を相手に空へ逃げるとは…我をなめるな!!」
雄叫び1つ。それだけで強烈なダウンフォースが吹き荒れ、宙を舞っていたはずのアークデーモンは地面に叩きつけられる。
「…ウビィ……」
「ふんっ我が万全なら貴様などこの程度よ。」
クウガの一撃はアークデーモンの首を捥ぎ、その身体は灰と消えるのだった。
「お疲れ。」
アークデーモンを倒したクウガをマルコは労う。
「ふん、我にかかればあのくらい敵でもないわ。」
口ではそう言うクウガだが長い尻尾をブンブンと振り、かなり上機嫌な様子だ。
「はいはい。それじゃダンジョンコアを回収して、帰ったらローグの地が安全になった記念のお祝いをしよう。今度はちゃんと準備にも時間をかけて魚料理も用意するぞ。」
「?…うむ。楽しみにしておるぞ。」
クウガは一瞬なにかが引っ掛かったようだが、魚と聞いてすぐに上機嫌に戻った。
「?」
「マルコさまーっ!」
その様子が少し気になったマルコだが、先に祠へと向かっていた皆から呼ばれる。
「どうしたの?」
「見てください!!」
興奮気味のミャアに促されてマルコもそれを見る。
それはダンジョンコアだった。だが見たこともないほどの大きさだ。大人の一抱えは優に超え、子供くらいはありそうなほどの大きさだった。
「これ、売ったらいくらになるんすかね?」
ミャアに同じく興奮気味のタイガが聞いてくる。
「いや、これは売れないかな?」
売ったところで高額になりすぎて買い手が見つかりそうもない。そもそも売る気もない。
「これは王家に献上しようと思っていたんだ。」
「えー、ただであげちゃうんすか? 勿体なくないっすか?」
タイガは唇を尖らせてぶうたれる。
「そう言わない。これは俺がちゃんと領主として認めてもらうために大切なことだし、それにただってわけじゃない。」
「どういうことっすか?」
「最初に十分な献上品を出すことでしばらくの間は追加の献上品、つまりは税の献上を免除してもらうつもりだよ。」
「えっと?つまりどういうことっすか?」
「街が安定するまでは税を払わないでするから街造りに専念できるってことだよ。」
「おおっ!」
これがマルコがダンジョン攻略を優先した理由の1つでもある。
「さて、モンスターズナイトから解放されたわけだし、きちんとした都市整備に法整備、税率の制定。これから忙しくなるぞ~。」
「うげぇ、なんか難しそうっす。」
「おにぃには無理よ。大人しくマルコに任せなさい。」
大量の宿題を前にした学生のような顔で言うタイガにリオが言った。
「そうだね。2人には騎士として野良モンスターの駆除とか任せたいし、こういった面倒な書類事は任せてよ。」
「だって。大人しく任せましょおにぃ。」
「うーん… でも俺も勉強したいっすよ?」
その発言にリオは目を丸くする。
「どうしたのおにぃ? なにか悪いものでも食べた??」
「なんすかその反応!? いや、バカなのはわかってるんすよ?だから勉強したいって感じっす。」
うーん…
そういえば猫人族の皆はそもそも読み書きすら怪しかった。タイガとリオは族長の子供ということでかろうじて出来るレベルでしかない。
「わかった。仕事の合間で良ければ教えるから。」
「やりぃ、ほんとっすか?」
「えっズルい!私も…」
「私も、教えて欲しいです。」
マルコの返事にタイガ、リオ、ミャアがそれぞれ答えた。
そうだな、学校も何とかしないと…
そんなことを思いつつ脇を見ると、クウガがなにかあれ?って顔をしていた。
「どうしたんだ?」
マルコはそっと話しかける。
「いや、なんだ… 我、ちゃんと話したよな?」
「なにをだ?」
珍しくクウガの言葉は歯切れが悪い。
「いや、あれだ… 我が知っているのは森のダンジョンの場所だと…」
だいぶ前に話したことだった。
「ああ、今さらなにを…ってまさか!!?」
知っているのは森のダンジョンってことは…
「ああ、このローグの地にはもう1つダンジョンがある。」
安心したら突然、クウガに爆弾をぶっこまれたのだった。
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