chapter11: 皇帝と異世界の勇者
町の大通りは、先ほどまでの喧騒が嘘のように静寂に包まれた。俺の視界の先にドイフ帝国の王。皇帝が部下の兵士にを担がれた椅子のようなものに座っている。周囲は兵士たちによって厳重に警備され、皇帝の通る道に並び立つ。
皇帝の周囲には美女たちが、女性らしい部分を強調したデザインの洋服で踊っている。ひらひらと洋服が風に舞うと大事な部分が見え隠れする。一言で言えばエロい。刺激的な絵面なのに、性欲が刺激されないことに俺は落胆した。
きっと、お子様ボディだからそういう欲求もないのだろう。そう思うと少し気が楽になったような気がしたが、それはそれで悲しい気持ちになってくる。
「皇帝陛下のお通りだ。道を開けろ! 」
兵士たちが民衆に向けて叫ぶ。超厳戒態勢の厳粛とした雰囲気のなかで、皇帝が徐々に近づいてくる。よく見れば、皇帝のすぐ横の席に誰かが座っている。
「あれ。陛下の横におられる方はもしや勇者様じゃないか? 」
徐々に皇帝一行が近づいてくると、誰かが言った。群衆にわずかなざわめきが生まれた。確か、勇者は異世界から来た高校生だと町民が言っていた。同じ異世界人として興味を抱いた俺は、勇者を凝視する。
「うわぁ。おっさんじゃん…… 」
俺は思わずそう口にした。勇者と思われる男性は、中年男性のようなビール腹でお世辞にも痩せているとは言えない体型だった。しかも、顔は脂肪で膨れており皮が弛んでいる。とてもじゃないが、高校生の青年には見えない。よくて、40代手前のおっさんである。
髪の色が若干日本人のような黒色をしているように見えるが、どこかくすんだ色で同郷の者かどうか判別がつかない。ずっと観察しているとぶるっと背中に寒気を感じる。なんとも形容しがたい容姿の不気味さと、瞳に宿る怪しい眼光を感じて恐怖を覚える自分がいた。
「ゆうしゃさまだー 」
雑踏の騒音が幼い澄んだ声によって再び静寂になった。年端もいかない男児が、母親と兵士たちの目を掻い潜って皇帝と勇者の前に躍り出てしまう。大勢の人たちの唾を飲む音が聞こえてきそうな状況で、勇者と思われる男が言った。
「餓鬼。俺様の前に立つ許可を誰が与えた? 」
「ぼ、ぼく。ゆうしゃさま、すき。たたかいのおはなしききたいれす」
舌足らずな4歳ぐらいの子供の可愛らしいわがままだ。でも、この状況ではまずいのだと俺の直感がそう告げている。心の警笛がうるさく鳴り響く。
駆け足で母親がやってきて、子供を庇うように覆いかぶさると叫んだ。
「申し訳ありません! わ、私が目を離した隙にとんだご無礼を。
どうか。どうか。子供のしたことです。寛大な御慈悲でお許しください!!! 」
地面に頭をつけて深く謝罪する母親と、状況がわからず困惑する息子。訳も分からず母親に頭を押さえられて頭を下げる。誰しもがこの後の親子の顛末に息を飲んだ。
あまり勉強が得意だったわけじゃない俺でもわかる。この中世のような時代に王の通り道を塞ぐ行為が、最悪死に直結するような重罪となることを。
「仕方ないのう。我の前で無礼を働く輩は何人たりとも容赦はできぬが、子供のしたことよ。無罪放免とはいかぬが、情状酌量の余地はあろう。英雄こやつらの処遇はお前に任せるぞ」
低く芯のある声で皇帝がいった。どこか威厳を感じさせる語調に、やんごとなき立場の人間である風格がにじみ出ている。群衆の想像とは裏腹に皇帝は、寛大な処置を勇者に命じた。
奈落の現状を放置するようなダメな奴だと思っていたが、意外にも良い王なのかもしれない。
「ああ、わかった。お前たちに判決を言い渡そう」
勇者が椅子から地面に降りると、親子の前に向き合うように立った。
「あぁ。皇帝陛下。勇者様ありがとうございます!! お慈悲を頂き、恐悦至極でございます」
母親はホッと安堵した様子で涙を浮かべながら、何度も頭を下げて感謝を伝えた。愛しい我が子を強く抱きかかえて死を免れたことを喜んだ。
「お前たちは死刑だ。ここで死ね」
だが、勇者はそんな親子に対して感情を見せない語調で冷たく言い放つ。腰に帯剣している武器を抜くと、周囲に緊張が走った。
次の瞬間だった。近くにいた十数人の兵士たちの首と胴体が分離した。それを勇者がやったのだと理解するのに、刹那の時を要するほどに躊躇なく。鮮やかな動きで人を殺したのだ。
切断面から血飛沫をまき散らして兵士たちの悲痛の叫びが木霊する。それを見た群衆はパニックになって、逃げだす者や狼狽してその場から動けなくなった者で騒然となった。
母親は目の前で起きた出来事に頭がついていかなかったようで、身動きがとれないようだった。いや、あまりの悲惨な光景に恐怖心のあまり固まっているのかもしれない。遠目に見ても大きく震えた様子で、死を悟った母親はせめて我が子だけでもと必死に子供の身体を抱きしめる。
「ぶははははははっ。害虫共がいくら許しを請うっても無駄なことよ。無様な姿、楽しませてもらったぞ!
精々最後まで我を愉しませて苦しんで死ぬと良い」
皇帝が愉快だと大声でお腹を抱えて笑い出した。勇者もそれに続いて、冷ややかに人を見下すような視線を向けて不気味な笑みを浮かべている。
人が死に目の前の親子に希望を与えてから、再び絶望に叩き落す所業は下衆の極みだった。皇帝も勇者もその行為を是として捉えていることが今のやり取りでわかった。
あぁ、だからこの町はこんなにも不条理であふれているのだと悟った。こんな愚王が政治を行っていても良い国には決してならないだろう。強い怒りを覚えた。
勇者は刃についた血を乱暴に払うと、親子の恐怖心を煽るように剣先をゆっくりと近づけていく。
「い、いやぁあああああああああああ」
子供のわんわん泣き叫ぶ声が町に木霊する。俺とヨナはお互いの顔を見合ってから駆け出した。何ができるわけでもない。でも、見過ごして逃げるほど理性的にもなれなかった。
「やめるんだ! 」
アーサーの太く逞しい腕によって、走り始めた俺たちは制止を余儀なくされた。二人で振り払おうとするが、びくともしない。
「見過ごすことなんてできないよ! おじさん、行かせて!! 」
ヨナが感情のままに声を張る。
「お嬢ちゃんたちが行っても何もできないだろう!!! 」
「俺たちじゃ何もできないかもしれない。
だったらアーサーも来てくれればなんとかなるじゃないか!
おっさん、強いんだろう!? 」
「俺は国に仕えた身だ。陛下には逆らえん。許せ…… 」
俺の問いかけにアーサーは項垂れるように言った。
「見損なった。人にあんだけ諭しておいて自分も信念がないじゃないか!
あんたが忠誠を誓ったのはあんなクズだったのかよっ!! 」
王からお屋敷を賜るような立場の人間だ。国に仕えていたとしても何も不思議じゃない。でも、あんな理不尽なことを当然のように振る舞う輩に媚びへつらう奴だとは思わなかった。
そのぐらい、俺はアーサーという男を信頼していたのかもしれない。きっとこの人は自分の強い意志で生きているのだと。そう思ってしまうぐらい強い男に見えたのだ。
失望が心と言う紙に墨を落としたように色が広がっていき、やがては燃ゆる怒りとなってお腹の奥底から脳天を焼き尽くしていくのだった。
俺は、アーサーの弁慶の泣き所を狙って渾身の蹴りを入れた。このおっさんを振り払うためには、急所を狙うしかない。
「ぐっ」
小さく唸る声と共に俺たちを拘束する腕の力が弱まった。その隙に俺たちは親子の元に駆け寄った。
「お前たちの下賤の者が俺様に近づくとはとんだ無礼な奴め。
わかっているのだろな! お前たちもここで死ね」
勇者に近づくと、彼はすぐにこちらに気が付いた様子で睨み付けながら言った。とても不快そうな表情で、どこまでも人を見下すような立ち振る舞いだった。
「英雄やめろ!! 」
勇者が剣を俺たちに向けようとした時だった。背後からアーサーの張り上げた声で言った。
「おやおや、懐かしい。騎士団長殿ではりませんか。いや元騎士団長殿と言うべきかな? 」
皇帝が椅子から身を乗り出してアーサーを見つめる。アーサーはゆっくりと警戒しながら、俺たちの元へ近づいてくる。
「あの時は世話になったな」
「いかに、お前といえど二度の恩赦はないぞ。我の前に立ちふさがるでない。もうお前にはかつてのような力もなかろう? 」
皇帝は蔑むような口調で言った。
アーサーの怪我のことを言っているのか? そういえば、どうして怪我をしてしまったのか聞いたことがなかった。
「お前。誰の許しを得て罰を免れておるのだ? 」
勇者が驚愕に瞳を見開き、怒りに顔を歪めて言った。
「まぁいろいろあってな」
「完治しているな」
アーサーが適当にはぐらかそうとしたが、勇者はさらに追及する。対するアーサーは動じた様子もなく勇者を見据えた。それを見ていた皇帝が声をうわずらせながら狼狽して言った。
「なにぃぃ。おっ、おい英雄なぜじゃ。聖女でも治せないはずではなかったのか!? 」
「俺様の呪いを解いたようだな。言え。誰が治した? 」
勇者の周囲だけ極寒の地にいるような冷気が漂い始めて、俺とヨナはぶるっと震えた。鋭く怪しい光を宿した眼光に、負の感情をのせてアーサーを睨み付けた。
「なぁに、酒飲んで寝てたら治ったのさ」
「見え透いた嘘を…… !
我の名を持って命ずる。アーサー真実を言え! 」
埒が明かないと痺れを切らした皇帝が堅苦しい言葉遣いで言った。
「? こりゃあ、驚いたな…… 」
アーサーがぼそりと呟いた。
何がおかしいのかわからない俺とヨナはお互いアイコンタクトを取る。俺たちがあずかり知らぬところで何かが起こったらしい。不気味な笑みで顔を歪ませた勇者が言った。
「くっくく。これは面白い」
「なぜっ…… 我の恩寵が効かぬだと。アーサー。貴様何をした!!
英雄アーサーを殺るんだ 」
皇帝は錯乱した様子で大声で言った。
「カリグラ。ここは退くべきだ」
勇者は冷静な口調で淡々と言った。
「なぜだ! お前がいればあんな奴余裕で勝てるだろう!
あいつを生かしておくのは危険だ。俺の力も効かぬ相手だぞ」
「ああ、勝てるさ。だがあんたを守りながら戦うなら苦戦をする可能性もある。
準備を整えてから確実に潰すべきだ。万全を期して戦う相手だとわかるだろう? 」
「確かに…… 。あやつは強い。人間族最強を相手に慢心は禁物か。
ぐっ。仕方ない! お前たち城に戻るぞ!! 」
勇者の説得にようやく折れた皇帝とその御一行が、俺たちの元から去っていく。去り際に勇者が薄気味悪い表情でニタリと笑いながら、ねっとりとした視線で俺を見つめた気がした。ぞくぞくと全身に不快な感情と汗がにじみ出てくる。
あまりの気持ち悪さに吐き気を感じるレベルだったが、ヨナの声を聴いてハッと我に返った。
「よかったね。お蔭で助かったね。おじさんありがとう!」
ヨナがアーサーに感謝を伝えた。彼がいなければ皇帝と勇者を退けることはできなかっただろう。
背後で親子が何度も何度も頭を下げて、今度は生を享受していることの喜びに震えていた。
「いや、俺は何もしていない。俺でも英雄には勝てないんだ。あいつはそれほどに強い。
だからこそ、おかしいんだ! なんで俺たちを逃がした…… 。なぜだ? 」
今回のヒーローであるはずのアーサーは腑に落ちないようで、どこか曇りのある表情で歯切れの悪い返事をした。
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アーサーに連れられて町の入り口付近までやってきた。ここから、奈落までは一刻《30分》ほどあれば着くだろう。ここから先は、すぐに帰れるのでアーサーにお礼を言って別れを告げた。
時は夕刻。日は地平線へ傾き、太陽が半分ほど顔をのぞかせている。優しい風が吹くと少し肌寒い。茜色に染まる空。雲は艶やかな朱色で自由に空を揺蕩っている。
俺とヨナは小高い丘の上で休息をとっている。二人で肩を寄せて大きな木の幹に寄りかかるように座ると、眼下に広がるパスティーユの街並みが広がる。期せずして2日間過ごしたパスティーユの町と奈落が見下ろせた。
「この町の人たちはみんな綺麗なお洋服にキラキラした飾りを付けているね」
「そう、だね」
ヨナが感情の読めない表情で、夕日に彩られた空を見る。
俺たちは上の町にやってきて多くの多くの事を感じていた。この町は物に溢れていた。多種多様なものがここにあるのは、海が近いから貿易が盛んなのだろう。日本には及ばないまでも豊かな生活を送っているように見えた。人々の表情は明るく、活き活きとしていた。
そんな光景を見ると、どうしても考えさせられる。じゃあ、なぜ奈落はあんなにも貧しいのか、と。
「さっきお店で見たんだ」
彼女から発せられる雰囲気がとても重たく冷たい感じがして、俺は頷くこともできなかった。
「お店の人たちお肉に魚。お野菜まで。いーっぱい捨ててただよ! もったいないよね。まだ腐ってもいなかったよ!! 」
悲しみや怒りといった感情がひょっこり顔をのぞかせた口調で言った。理不尽。そう思って仕方がない現状だった。
「俺も見た。やっぱりこの町はおかしい。なんで同じ町なのにこんなに格差があるんだ」
物質的に豊かなこの町では当然のことなのだろう。新鮮でないものや余ったものが出て、それを捨てることが当然といった様子だった。なんで一つの町でこんなにも貧富の差が極端なのだろうか。漠然とした不快感という絵の具を、綺麗な水に落としたように広がっていく。
「奈落は今日生きるための食べ物すらないのに。そんな捨てるほど余っているなら、少しは分けてよ。そしたらみんな幸せになれるのに」
ヨナの言葉が空気に溶けて消える。不条理なことは世の中にいっぱいある。でも、そんなありふれた世の中の理だからと割り切ることはできなかった。だからこそだろうか。ヨナの言葉に深く共感できたのは。
「皇帝も勇者も住人のこと何も考えてなかったね。いや、人の命をなんとも思っていない感じだった。だから、この町は不幸になってしまったんだと思う」
「わたし、今日改めて思ったの。皇帝になりたいって。だってあんな人たちに国を任せておけないよ。人の命を何とも思わない人に。人の感情を弄んで笑う人にこの町は救えないと思うから」
あの後アーサーから聞いた話だが、皇帝はお祭り好きで連日のように国民の税金を使って豪遊しているそうだ。勇者は国政に深く関わっているようで、彼が来てから奴隷産業が活発になったらしい。そのせいで多くの人が不幸になったそうだ。
でも、それは弱者たちの話。貴族たちはむしろ儲かってしょうがないらしく、勇者の存在は政治・経済の部分でも大きな影響力を持っているようだ。
「アーサーおじさんが言ってたこと。答えはまだわからない。でも、歩みを止めちゃいけないって強く思ったの! ねぇ。イリス。答えも出せないこんな私だけど…… 。一緒に着いてきてくれる? 」
ヨナが俯きながら弱々しい語調で語り始めた。徐々に語気を強めながら自分の決意を。意志を胸に刻みつけるように言った。
「そんなの決まっているよ! 俺はヨナの夢を応援すると決めたんだ。
夢を叶えるまで一緒に頑張っていこうよ!! 」
ヨナの問いかけに当然だと答えた。俺は異世界に来てヨナの夢を聞いたあの時決めたんだ。彼女の夢を応援していくために、やれることはなんでもやるさ。
「うんっ! イリス。ありがとう!! 」
心から嬉しいといった表情で頬を少しだけ赤く染めていた。ヨナはもじもじしながら、恥ずかしそうに言った。
「ねぇ、ここで約束しない? 必ず夢を叶えるって」
「いいねー。じゃあ、俺の故郷でやるおまじないみたいのやる? 」
「なになに!? それ、やるー! 」
ヨナが興味津々で前のめりになりながら食いついてくる。
「ゆびきりっていうんだけど、約束を誓うときにやるんだ」
俺は日本で約束によくやるゆびきりを教えた。ゆびきりをするときの言葉はあえて伝えなかった。あれは不吉な言葉を言っている側面もある。この場に相応しくないと思ったからだ。
「指切るの? 痛そう…… 」
注意はしたつもりだったが、ゆびきり自体がぶっそうなワードだったと言ってから気が付いた。下手に怖がらせてはいけないと急いで訂正する。
「あ、違う違う。自分の小指と相手の小指を重ねるだけだよ」
「そうなの! よかったぁ~」
俺が両の手で小指を合わせて見本を見せた。一人でやるので向きとかがおかしくはなってしまったが、雰囲気は掴んでもらえたようだ。
「じゃあ、そのゆびきりやろうよっ! 」
ヨナが嬉しそうに飛び跳ねながら言った。
俺たちは互いの小指をゆっくりと重ねるとお互いの目を見つめた。視線が合うと二人ともそっと視線を外して沈黙が流れる。
何とも言えない緊張感が漂う。その空気がとても心地よいものだった。ヨナと俺の間で言葉じゃない想いが、小指から伝わっているような気がして嬉しかったのだ。
俺は自分の想いを言葉にするため必死に思考を巡らせた。改めて発言するとなると、ちょっと気恥ずかしい感じがして、心臓がバクバクうるさく鼓動する。考えがまとまると自然と口を紡いでいた。
「俺はヨナが夢を叶えるまで手伝えることは何でもするよ」
「皇帝になったらイリスいなくなっちゃうみたいに聞こえる…… 」
しゅんと落ち込んだ様子でヨナが言った。自分の言った言葉を反芻すると、そう聞こえる気がして慌てて言った。
「あっ、いやいや。皇帝になってもずっと友達なのは変わらないよ。だからずっと一緒さ」
「うん! ヨナもイリスとずっと一緒にいる! 」
光がさして闇を払うように表情が晴れやかになる。身体全体を使って喜びを表現してくる。
「わたしは、皇帝になってパスティーユを豊かな町にする。そんでもって、全部終わったら今度はイリスの夢を手伝うんだー!! 」
堂々と宣言するようにヨナが言った。その言葉がどこまでも俺の耳に残るぐらい、強い決意が感じられた。
その言葉を頭が噛みしめて飲み込むと、最後の言葉にひっかかりを覚えた。
「お、俺のゆめ? 」
「そうだよー。なんでも言ってね! 私がんばるよ」
「うーん、夢か…… 」
ヨナの気持ちは素直に嬉しかった。自分の夢だけじゃなくて、俺の夢のことまで気を使ってくれた。その気持ちが俺の頬を緩ませていく。
「ゆっくり考えればいいんだよ。
イリスに夢ができたときは、私に言ってね。絶対手伝うから」
諭すように優しく。ゆっくりとした口調で言った。
「そうだね。もし夢ができたら一番にヨナに言うよ」
「えへへ。いちばん! ヨナはイリスの一番だからねっ!! 」
率直な気持ちを言葉にして紡いだつもりだったが、ヨナはとても嬉しかったようで顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。気がつけばほっぺは夕日に染まって真っ赤だった。
「ふふっ。そうだね。じゃあ、約束だー」
そんなヨナの姿を見て可愛いなと思っている自分がいた。そう気が付くと、無性に気恥ずかしさが沸き上がってくる。きっと俺もヨナと同じくらい赤くなっているだろう。そうわかるぐらい顔が熱かった。
「「ゆびきった!! 」」
羞恥心を隠す様に大きな声で、俺たちは約束を誓い合った。
丘の上に一陣の風が吹く。これが俺たちのスタートだと、世界が背中を押しているような錯覚を覚えるような風だった。ひらひらと舞い散る白いものが視界を埋め尽くしていく。
それが俺たちの近くの樹から零れ落ちる葉だと気が付き見上げると、純白の羽根が舞い落ちるような幻想的な光景が広がっていた。




