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兄と慕う人間を実験台にする様に遠巻きに見ていたハサンが、マルコスの絶賛する声を聞いて何事も無かったようにカウンターにやって来て「兄さんばっかずるいですよ‼」とサンドイッチ争奪戦が始まったのを横目に見て満足した私は二階の部屋を掃除すべく、店にあった掃除用品を借りて二階へ上がった。
部屋に入り、窓を開けるとこちら側は【商店通り】に続く道に面していて、賑やかな声がする。
「さてと、やりますか…。」
見るだけでげんなりする洗濯物の山を廊下に出し、埃を被った家具や、棚を掃いていく。
しばらく掃除に明け暮れたが、こんな大掃除は久しぶりすぎて腰にくる…‼絶対、明日、筋肉痛になる!!
ヨボヨボの身体に鞭を打ち、どうしたらいいか分からない物は隅っこへと追いやり「後でどうしたらいいかマルコスに確認しよう」と思いながら、シーツに被った埃をバッサバサ叩きだし、粗方整理された所でフと置いてある家具に意識を向ける。
まだまだ使えそうだし、日本では高値の付きそうなアンティークの家具を見てうっとりする。
「可愛い~……でもこれ、明らかにお姉様のやつだよね。」
亡くなってしまった姉の家具を捨てずに取って置いているんだ、思い入れがあるのだろう。
綺麗にしたのはいいが、居候の私が勝手に使っていい物か悩んでしまう。
それにしても可愛いな…と思いながら洋服ダンスをを開いてみると、そこには想像していた洋服ではなく一枚の紙が入っていた。
額に入っている訳でもなく丸められた紙に好奇心が疼いてしまい紐を解きそっと開くと、そこにはすごく美しいとは言えないが、人好きのする顔立ちの愛嬌のある笑顔でこちらを向く女性の姿が描かれていた。
「これがマリーさんかな。生きてれば私と同い年か。」
絵の中のマリーさんは、まだ20代後半くらいに見えた。
これと私の雰囲気が似てると言われると恐縮してしまう程には可愛らしい。
ボーっと眺めていると、コンコンとノックの音がして急いで絵をタンスに仕舞ってどうぞと声をかけた。
「そろそろ終わったかしら?店の方も落ち着いてきたからお茶をいれてきたのだけれど。」
入って来たのはマルコスで、先ほどとは違い正真正銘の家探しをしてしまっていた私はバレてない事にホッと息を吐いた。
「綺麗になったものね、なんだか懐かしいわ…。」
そう言いながら昔を思い出しているのか家具を愛おしそうに撫で、暫く物思いに耽っていた。
やだ、ボーっとしちゃったわ、と恥ずかしそうに顔を上げると、私の前にある洋服ダンスに気が付いたのか微笑みながらこちらに向かってきた。
「あら~、随分懐かしい物が出てきた!ふふ、これ私が描いたの。」
タンスからあっさりと絵を取り出して広げて見せてくれた。
よかった…私の足元に落ちている絵を止めていた紐には気が付いていないようだ。
それにしても、広げた絵は海外の絵画の様にリアルな描写で描かれててマルコスが描いたのなら画家でも食って行けそうなレベルで、友人と「○○描いて」ってキャラクターを言い合い描く遊びで『画伯』の異名を頂いた私には信じられないほどだ。
「綺麗なお姉様だね。」
目を見張る程では無いにせよ、麗しい部類に居ても何ら違和感はないので純粋にそう伝える。
「そうかしら?私はよく美人って言われて、隣を歩くのを嫌がってたわよ。」
分かる、分かるよ姉の気持ち…。
マルコスほど美形と並ぶのはさぞかし辛かったに違いない。
ここまで綺麗だと人外だよ、人外。
「私も姉がマルコスが美人で悔しいって、いつも隣を歩くのを嫌がるものだから、美人とか美形とか言われるの嫌だったわ。ふふ、時には人外なんじゃないかとまで言われてね。」
恐るべし、人外。人の心まで読むとは!!
「私と姉は血の繋がりがなかったから、人にそう言われると私だけが家族の中で違うんだって事を指摘されてる気分だったわ。昔からこんな感じだからよく苛められし、人に会うのがすごく嫌で、ほとんど家から出ない根暗な子だった。」
ちょ、自慢話かと思ったらいきなり強烈にネガティブな話きたんですけどー?!
こういうの駄目なの、私…何て答えるのが正解なのか分からなくてタジタジしてしまう。
「ふふふ、そんな顔しないで。幼い時の話よ、とっくに折り合いがついてるわよ。さ、今日はゴンザレス茶じゃなくてごめんなさい。でもそこそこいけるわよ、ボブソン茶」
私の気まずい顔を感じ取ったのか、場の空気を変えるように明るく言ったマルコスが隅に追いやっていたテーブルに、またも魅力を感じない名前のお茶が入ったティーポットを置いてくれる。
昔どんな事情があったのか分からないけど、今では薬局は街の人気店で、街の人達にも好かれてて、姉との関係も良好だった様子で十分に世渡り上手だと思う。
いじめられてたり、家族との血の繋がりが無かったり、不安定になりやすい幼少期に辛い思いをした事は確かだが、折り合いがついてるのも本当なんだろう、今のマルコスからは根暗だったなんて微塵も感じられないし。
私も場の雰囲気を変えようとするマルコスに乗っ取り、程よく渋みのあるボブソン茶を飲みながら、明るい声で部屋について色々話し合うのだった。
ありがとうございました。




