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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第11章 青年と彼女
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11-3 宿探し

■■■


 日はすっかり沈み、辺りは既に真っ暗となっていた。


 瑠里の案内で、僕は山を下りて村にたどり着くことができた。

 周辺は八割がた田畑が占めており、残りの二割にぽつぽつと民家が建っている。

 日が暮れていることもあってか、聴こえてくる音は虫の声ばかりだ。人の声や足音はほとんど聞こえてこない。


「静かな村だね」

「うん。ここはかなり山奥で寂れてるから、盗賊や悪人も寄り付かないんだよ」

「ああ、なるほど……」


 確かにこの程度の規模の村ならば、盗賊も来る意味はないのだろう。


「さて、とりあえず泊めてもらえそうな宿や民家を訪ねてみよっか!」

「うん。案内を頼むよ、瑠里」


 大きく頷いて、瑠里は僕の前を元気よく歩いていく。

 跳ねるように進んでいく彼女の姿はまるで小さな子供のようで、少し愛らしさを感じる。


 まずは一軒目。


「ここは村で唯一の旅人向けの宿だよ」

「村で唯一ってことは、ここがダメなら民家をあたるしかないってことか」

「うーん、そういうことになっちゃうね」


 瑠里はそう言いながら宿の前へと歩いていく。

 僕も彼女の隣に並んで、宿の前に立つ。

 木の扉をそっと押すと、質素で古びた受付場が見えた。

 カウンターの奥では、十歳くらいの少年が頬杖をついてこちらを見ていた。


「どうも。いらっしゃい」


 ぶっきらぼうに挨拶をする少年。

 その仕草に、僕はかつて共に暮らした少年をふと思い出す。


「こんばんは。今夜泊まれる部屋はあるかな」

「一応あるにはあるけど、今空いてる部屋はめちゃくちゃ高いっすよ」

「……おいくらかな」

「五万GP(ゴールドポイント)


 五万GP――GPは幻界における通貨。日本円換算で五万円。おそらく、高級旅館やホテルのスイートルームなどと同等の価値のある高級部屋なのだろう。

 しかし残念ながら、今の僕にそんな持ち合わせはない。

 が、物は試しだ。交渉をしてみる価値はある。


「実は僕、今お金がないんです」

「ふぅん。で?」

「どんな条件も飲むので、良ければ0GPで泊めていただくことは可能だったりしませんか……?」

「それは無理っすね」


 少年はきっぱりと言い切る。


「そりゃそうだよね、うん」


 隣でやりとりを聞いている瑠里はうんうんと頷き、少年の言葉に対して強く肯定の意を示した。


「いい大人がよくそんな交渉をしようと思い切りましたね。恥とかないんすか」

「ぐ、そ、それは……」


 ぐさり。

 この少年は、龍斗りゅうと少年よりも辛辣かもしれない。

 隣では再び「うんうん」と少年の言葉に強く頷く。


 やばい、このままでは交渉以前に人として扱ってもらえなくなってしまいそうだ。


「そう、ですよね。僕の考えが甘過ぎました」


 ここは素直に引き下がるのが吉だろう。隣の視線もちょっと怖いし。


「また余裕のある時に泊まりにくればいいよ」


 瑠里はそう言って僕に笑いかけた。


 二軒目。

 今度は畑に囲まれた大きめの民家の前にやってきた。

 家の隣には農作物を保管する倉庫らしき建物があり、いかにも農家といった感じだ。

 僕は扉についているドアノッカーを叩いた。

 木製の扉がゆっくりと開き、三十代くらいの小太りの女性が顔を覗かせる。


「こんばんは。旅人さん……かしら?」

「はい、こんばんは。夜分遅くにすみません」

「よくこんな山奥にいらっしゃったね。大層お疲れでしょうに、ちょっと待っててね」


 女性はそう言って扉を閉めると、少し経ってから再び扉から顔を出した。


「ほら、これ持っておいきな。うちの作物で焼いたパンだよ」

「あ、ありがとうございます」


 女性から大きな袋を受け取る。

 中を見てみると、両手で抱えるほどの大量のパンが入っていた。


「こんなに貰っていいんですか?」

「ああ、ここに旅人が来るのは珍しいからねえ。遠慮は受け付けないよ」


 女性はにっと笑う。


「ではお言葉に甘えて」

「うん、たっぷり甘えておくれ」


 僕が会釈をすると、女性は嬉しそうに頷いていた。


「甘えついでに一つ伺ってもよろしいですか?」

「なんだい? 何でも言ってみな」


 女性はどんとこい、と言わんばかりに胸を張り、僕の言葉を待っていた。

 

「もしお借りできる部屋があれば、一晩泊めていただけませんか……?」


 恐る恐る尋ねてみる。

 先程の宿屋の件もあり、僕は少し臆病になっていた。


「なるほどねぇ……だけどごめんね、うちは大家族なもんで空いてる部屋はなくってね」


 女性は申し訳なさそうに眉を下げる。


「そう、ですか。こちらこそ無理を言ってすみません」

「泊めてもらえそうな家をお探しなら、この道を真っすぐ行った肉屋を訪ねてみるといいよ。あそこの旦那は気前がいいから泊めてくれるかもしれない」

「肉屋さん、ですか。行ってみます。ありがとうございます」


 軽く会釈をして、女性と別れた。


 三軒目。


 僕と瑠里は、農家の女性から教えてもらった肉屋へと向かう。

 言われたとおり真っすぐに進んでいくと、毛皮が軒下にぶら下がっている店を見つけた。

 入り口の前で、中年男性が丁度その毛皮を取り込んでいる姿がある。


「夜分遅くにすみません。少しお伺いしたいことがあるのですが」

「おぉ、見ない顔だな。旅人かい?」

「はい、ついさっきこの村に来たばかりなんです」

「そうかい、そりゃご苦労さん。で、何のようだい?」


 両手で毛皮を抱える男性。一見、毛皮の主は生前小動物だったかのように見えるが、それは間違いだ。

 筋肉質な両腕に、人の頭が二つほどは並びそうな肩幅。そして僕より頭二個分ほど高い身長。

 そんな彼の体格が、毛皮を小さく見せているだけだ。

 この人を怒らせてはまずい。だが瑠里に野宿をさせるわけにもいかない。

 勇気を振り絞り、僕は大男に問うてみた。


「もし空き部屋がありましたら、泊めてはいただけないでしょうか……?」


 そっと、男の表情を窺ってみる。


「空き部屋ねぇ……」


 顎に手を当て、男は考える素振りを見せる。

 考えているだけなのだろうが、しかめる顔が微妙に怖い。


「……悪いねぇ、うちは空き部屋も干し肉やらなんやらで全部使っちまってるんだ」

「そう、ですか」

「泊めてやれねぇ代わりといっちゃあ何だが、二足牛にそくぎゅうの干し肉でもどうだい? ここの道を真っすぐ行った農家のパンによく合う肉だよ。持っていきな」

「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げ、肉屋を後にした。


 その後も酒場や雑貨屋を訪ねてみたりしたが、どこも泊めてくれそうなところはなかった。

 僕と瑠里は、月が輝く夜道をくたくたになりながら歩いていく。


「やっぱり、ただで泊めてもらおうなんて都合が良すぎるかな」

「うーん…………」


 瑠里は肯定の言葉も否定の言葉も口にせず、ただ首を傾げる。


「……どうでしょうねえ」


 じぃ、とジト目で僕を見る。

 その視線がとっても痛くて、彼女の居る方と逆の方向に目を向けた。


「後ろめたさは一応あるみたいだね」

「あ、あるにはあるよ。ただで泊まろうなんて、申し訳ないなあって……」


 なんだろう、変な汗が出てくる。自分の中で“ダメ人間”という言葉が浮かぶ。

 自室の部屋の金庫の中身も取り出さずに姫宮家を出てしまったことが酷く悔やまれる。

 ちゃんと出ていく準備をしていればこんなことにならずに済んだだろう……。


「……一つ提案があるんだけど」

「ん、提案?」


 ぽつりと放たれた声に振り向く。

 瑠里は少し俯きがちで、どんな顔でいるのか横からは見えない。

 わずかに髪の隙間から見える口を動かし、彼女は言った。


「嫌でなければ、うちに泊まる?」


 瑠里は歩く道の先にある小さな民家を指差す。


「そこの家、なんだけど」


 俯きがちの顔をほんの少し上げ、僕の顔を見上げる。


「瑠里の、家」

「そう。ボクの家」


 そう話している間に、気づけば僕たちはその家の前にたどり着いてしまった。

 橙色のランプが控えめに灯る、レンガ造りの小さな家。

 隣を歩いていた瑠里はその家の前で鍵を取り出し、鍵穴にゆっくりとそれを差し込む。

 キィ、とおとぎ話の小屋のような愛嬌のある音を立てて扉は開いた。


「狭いところだけど、どうぞ」


 扉を大きく開けて、彼女は僕を招き入れた。



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