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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第9章 過去と射影兎
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9-7 四年前の事件2[◆]

 幻界へと繋がる転送ゲートをくぐり、僕と隆一は急いで山の麓を目指す。

 幻界では冷たく重い雪がひっきりなしに降り続けており、地面のぬかるみで何度も転びかける。


 言葉を交わすことなく走り続け、10分程で山の入り口へとたどり着いた。


「なあ宗治、ちょっとおかしくないか?」


 隆一はピタリと足を止め、僕に問いかける。


「おかしいって、何が?」

「鈴音に居場所を教えるって……これ、なんかの罠とちゃうかなって」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 民間人に幸民隊であることを明かし、拠点の場所まで伝えていく行為。もしその情報が正しいものであれば、僕たち政光隊が有利になる。そんなことは考えずとも明白だ。

 それをわざわざするということは、僕たち政光隊を嵌めるための行為である可能性も十分に考えられる。


「どうしようか……様子を伺う?」

「とりあえず洋館を探して、陰から様子を見ようや」


 隆一はそう言うと、山へと入っていった。


 山の中は平地よりもぬかるみが酷く、身体中が泥だらけになった。

 時刻は夜の9時くらい。山の中は暗く、山道沿いに時々ある灯りを頼りに登っていく。

 少し登ったところに、古ぼけた洋館がひっそりと建っていた。


「この洋館やな」

「誰か出てくる……! そこの生垣に隠れよう」


 洋館の庭の入り口にある生垣の裏にしゃがみ込み、枝の隙間から様子を伺う。

 玄関から周囲を気にしながら出てくる男。右手には、刀が握られている。

 吹雪の中でわずかに灯る電灯に照らされ、その人相が明らかになった。

 その人物は――


「――早川はやかわ敦士あつし


 隆一の旧友。僕と同じ中学校に在籍していた少年。

 彼が何故ここにいるのか。僕と隆一は無言のまま、彼の動向を監視していた。

 庭を入り口に向かって歩いていく早川。

 入り口付近で立ち止まる。

 そして、僕たちの隠れる生垣の方へと顔だけを向けた。


 ――もしかして、バレたか?


 そう思った瞬間、


「なあ、そこにおるんやろ?」


 早川はニィっと笑い、生垣に向かって手の甲を下にした形で指をさす。


「遠慮せんと出てこいや。おもてなしくらいしたったる」


 さした指をくいくいと持ち上げ、僕たちに出てくるよう促す。

挿絵(By みてみん)

「しゃあないなあ。僕からそっちに行ったるから、ちゃんと挨拶してくれや」


 そう言って早川は、ゆっくりと僕たちの方へと向かってきた。

 僕が姿を見せるべきか迷ったとき、隆一はすかさず立ち上がった。


「久々やなぁ、隆一。元気しとったか?」

「おう、俺はこの通りや」


 嬉しそうに声を上げる早川に対し、隆一は警戒しながら言葉を返す。


「元気そうで良かったわあ。中学卒業してから会わへんから、僕寂しかってん」


 奇妙なくらいに爽やかな笑みを隆一に向ける早川。

 が、すぐに笑顔は消え、視線を斜め下に移した。


「で、今日は“お友達”も一緒に来てはるんやろ?」


 早川はそう言って、僕の方を凝視した。

 僕はそっと立ち上がる。


「どうも。友人の真田宗治だよ」

「真田か、お前の顔も久々に見たわ」

「俺も早川とはあまり関わりがなかったから、ぼんやりしてるよ」

「僕も久々すぎてよう覚えとらへん。せや、もっと近くで顔見せたってや」


 その瞬間、早川は生垣を飛び越えて、片手に握る刀を僕に向かって振り下ろす――!


「――っ!!」


 腰に差していた刀を抜く前に、隆一が僕の前に立ち攻撃を防いだ。


「宗治、ここは俺に任せて洋館に忍び込んでくれ」

「隆一……そんな縁起の悪い言い回しするなよ」

「こんな会話できる余裕があるんや、絶対生きて帰るで!」


 その言葉を聞くや否や、僕は隆一に早川を任せて洋館へと玄関から入っていった。



 キィ、と音を立てて扉が開く。

 中は開けたホールとなっており、奥に階段がある。天井は高く、大きなシャンデリアがぶら下がっている。

 しかし灯りは灯っておらず、左右に並ぶウォールランプの微かな光だけが唯一の明かりだった。

 階段の前に一人がけの小さな椅子があり、その椅子で少女――三上瑠里が俯いて座っていた。


「瑠里っ!」


 瑠里は驚いた表情で顔を上げた。

 駆け寄ってみると、彼女の両手は後ろ手に縛られており身動きが取れない状態だった。


「宗治、どうして……」

「説明はあとでする、とりあえず今はここを出よう」


 刀で縄を切って解き、自由になった彼女の手を取り出口へと向かう。


「ちょいと待ちな」


 階段の方から、男の声。

 振り向くと、黒髪の少年が階段を一歩ずつ下りてきていた。


「その子は返してやる。だが、一つだけ条件を提示してもいいか?」

「条件……? 分かりました、聞くだけ聞きます」


 黒髪の男は階段を下りきると、人差し指を立てて言う。


「彼女を返す条件はたった一つ。黒井那奈子くろいななこを解放することだ」


 黒井那奈子。それは、政光隊の拠点――はるどきで働く少女の名だった。

 黒髪の大人しい少女で直接言葉を交わしたことはなかったが、鈴音ちゃんと同い年ということでなんとなく記憶に残っていた。

 だが、僕たち政光隊は彼女を人質にとった覚えはない。黒井さんの意志ではるどきに残っているのだ。


「解放も何も、僕たちは黒井さんを人質にはとっていません。彼女の意志で拠点にいるんです」

「那奈子が自分で……? そう、なのか」


 黒髪の男は僕の言葉を頭ごなしに疑うことなく、ただ顔をしかめた。


「……事情はよく分からないが、だったら奈那子に伝えてほしい。それを呑んでくれればこの子を連れて行ってもいい」

「分かりました。聞きましょう」


 僕が頷くと、男はこう言った。


「伝えておいてくれ。“幻界に帰ってこい”と」


 僕を真っすぐに見据える黒髪の男。

 黒い髪に、猫のような瞳の男の言葉――“今”になって、ようやくその男の言葉の意味を知った。



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