9-6 四年前の事件1
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四年前の冬。外はイルミネーションがキラキラと輝いていた。メイン通りは赤と緑の装飾で彩られている。
だが僕は、そんな季節のイベントに浮かれている余裕なんてなかった。
地上ではイルミネーションが輝いているが空はどんよりとしていて、大粒の雨が絶え間なく降り続けている。
まるで、僕の心情を表しているようだった。
政光隊に入って約半年。各地で発生する抗争は未だ収まる様子はなく、僕たち政光隊は発生の度に止めに行っていた。
抗争は実界、幻界のどちらでも発生したため、僕達は毎日のように転送ゲートをくぐっていた。
「この生活、いつまで続くんやろな」
隆一が、窓際から外を眺めながら呟く。
彼のその言葉に、僕は何も返さなかった。正確には、返す言葉がなかった。
言葉が思いつかないとかではなく、返したところで何のためにもならないと思った。
いつまで続くか――そんなことは、お互いに分かっていたことだからだ。
二界統合の肯定派と否定派のどちらかが引くか、あるいは和解するまで続く生活だ。
あるいは――どちらかの中心となる存在が滅びるまで。
肯定派の中心となっているのは政光隊。政光隊の隊長である翁隊長がやられるか、否定派の民間武装集団――幸民隊の隊長、美山翔がやられるか。
このいずれかにより抗争が終結するまで、僕たちは元の生活になど戻れない。
「俺ら、高校もう半年もいっとらんのやな。卒業できるんかな」
「宿題はちゃんとやってるんだから大丈夫じゃないかな。先生もそこらへんは考慮してくれると思うんだけど……」
本来なら僕と隆一は高校二年生で、進路も固めていかなければならない時期だ。
しかし、この半年間ははるどきで待機しているか、抗争を止めに行くかのどちらかだった。進路を考える暇なんてなかった。
「進級するまでに戻れたらええんやけどなぁ……今の感じやと難しそうやな」
はぁ、と溜息をついて隆一は外を歩くカップルを目で追う。
「元の生活に戻ったら速攻彼女作るわ、俺」
「……よくこんな状況でそんなこと考えられるね」
妙なところで楽観的なのは今と変わらない。だが、彼の目は心の底からそう思っているような目をしていなかった。
どこかで諦めを抱いたような、そんな目をしていた。
「真田、飛鳥、ちょっといいかな?」
襖が開き、翁隊長が僕と隆一に尋ねる。
「はい、なんですか?」
「二人にお客さんが来たみたいなんだが……」
「客? 誰やろ」
僕と隆一は、顔を見合わせて首を傾げる。
「飛鳥の妹と名乗る女の子なんだが、どうも不穏なことを言っていてね」
「鈴音が……? 何て言うてたんですか」
隆一が隊長に尋ねると、隊長は視線を斜めに向け、顎に手を当てて言う。
「……友達が攫われた、と」
「――攫われ、た?」
隊長の言葉に対してそう発したのは、僕だった。
鈴音ちゃんの“友達”という単語を聞いて浮かんだのはもちろん彼女――瑠里のことだった。
「分かりました。その子と話をさせてください」
「分かった。玄関に居るから、話してきなさい」
隊長の許可が下り、僕と隆一は玄関へと向かおうとした。
その直前、
「今回は外出も特別に許可するよ。こっちのことは気にしなくていい」
隊長はそう言って、僕たちを玄関に通した。
玄関へ向かうと、ポニーテールに青い髪の少女――鈴音ちゃんがずぶ濡れで立っていた。
「兄ちゃん、さなくんっ!」
焦りの表情で僕たちの方へと駆け寄り、鈴音ちゃんは僕と隆一の手をきゅっと握る。
「瑠里ちゃんが、瑠里ちゃんが攫われてん! うち、怖くて逃げてもうた……っ」
手を握りながら、涙声で鈴音ちゃんは訴える。
「どないしよう……クリスマスプレゼント買いに行こうって誘ったうちがあかんかったんや……!」
「鈴音、落ち着け。お前はなんも悪くない」
隆一は鈴音ちゃんの目線でかがみ、鈴音ちゃんを諭す。
「兄ちゃあん……」
鈴音ちゃんは隆一に泣きつき、隆一は泣きついてくる彼女の背中を優しくさする。
「宗治、仕事や」
鈴音ちゃんが隆一から離れると、彼は僕の方を見て言った。
「ああ。鈴音ちゃん、瑠里は今どこにいるか分かるかな」
僕が声をかけると、鈴音ちゃんは涙を拭って答える。
「幻界の、幸民隊の拠点で待ってるって言うてた」
「言うてた……? 誰がや?」
隆一が尋ねると、鈴音ちゃんは首を横に振る。
「分からん。知らん人やけど、幸民隊の一員やって言うてた」
「幸民隊の……その拠点の場所はどこだろう」
僕が鈴音ちゃんに尋ねると、鈴音ちゃんはこう言った。
「転送ゲートをくぐってすぐの山の麓。そこの赤い屋根の洋館って幸民隊の人が言うてた」
「赤い屋根の洋館だね。隆一、すぐに向かおう」
隆一は力強く頷くと、鈴音ちゃんに一言告げていった。
「鈴音はしばらくこの旅館に居ってくれ。俺が戻ってきたら空港まで送ったるから、そのまま大阪に帰ってくれ」
「……分かった。待っとる」
不安げな表情で、鈴音ちゃんは僕たちを見送っていた。




