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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第9章 過去と射影兎
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9-2 八年前の風景2

 翌日。宗治と瑠里は、隆一と鈴音を公園に呼び出して瑪乃有が行方不明であることを告げた。


「嘘やろ……瑪乃有ちゃんが……?」


 鈴音の震える声に、瑠里は静かに頷いた。


「うん。もう一週間も帰ってきていないんだ」

「一週間か……」


 ブランコに腰掛ける宗治の隣に立つ隆一が、ぽつりと言葉を放つ。


「今も捜索は続いてるけど……生きている可能性は低いってさ」


 ブランコに腰掛ける瑠里の隣で、宗治は彼女の言葉に耳を傾ける。

 昨晩、瑠里が涙を流しながら打ち明けた事実。

 宗治にとっても衝撃だったが、鈴音と隆一にとっても例外ではなかった。

 だが、最も辛い思いをしているのは瑪乃有の妹である瑠里であることも、三人は分かっていた。


 俯く瑠里の目に涙が浮かぶ。


「……夏祭り」

「……へ?」


 唐突な隆一の発言に、宗治は訝しげな表情を浮かべる。


「夏祭り。来週の土曜にあるやつな」

「……それがどうした?」


 こんな時に何を言っているのか。宗治は理解が出来ず、隆一に問いかける。


「夏祭りに行って、美味いもん食べようや。んで、落ち着いて瑪乃有の帰りを待とう」


 そう口にする隆一の表情は、真面目だった。

 その言葉に、宗治と鈴音は返す言葉が見つからずに黙り込む。

 少しの沈黙の時間が流れたあとに、ブランコに座る瑠里が隆一を見上げた。


「ありがとう、隆一」


 そう言った瑠里の表情はやはり暗い影が残っていたが、柔らかい笑みを浮かべていた。




 瑪乃有が行方不明になったことを告げられてから、少し経った頃。

 宗治と隆一、鈴音、そして瑠里は、夏祭りにやってきた。

 薄暗い空の下は明るく賑やかで、道の左右にはずらりと屋台が立ち並ぶ。


「たこ焼き買うたけど、どこで食べるー?」


 人混みの中、先頭を歩く鈴音が振り向いて声をかける。


「人混み面倒やし、公園とかでええんとちゃう?」


 鈴音の兄、隆一が気怠そうに答えた。


「えぇー、そんなんいつもと変わらんやん」


 一方の鈴音はその回答を聞くや否や、あからさまに顔をしかめる。


「言うたかて、他に何処があんねん」


 対する隆一も、不機嫌な表情を浮かべて鈴音に問う。

 隆一の言葉以降鈴音の返事はなく、四人は黙々と人混みをかき分けていく。

 少し屋台と人通りが少なくなってきたあたりで、一人が口を開いた。


「あの……一つ提案があるんだけど」


 控えめに手を挙げて、隆一の後ろを歩く瑠里。

 瑠里の声に、前を歩く兄妹が同時に振り向く。


「近くの川の土手なんてどうかなって。静かで、花火がよく見える場所なんだ」

「川って……小学校の近くにある、あの川?」


 尋ねたのは、瑠里の後ろを歩く宗治だった。


「あー、あのデカい川か! 確かにあそこなら花火も見えてええかもしれんなぁ」


 しかし、その問いに答えたのは瑠里ではなく、隆一だった。


「でしょ? あそこなら花火から少し遠いから人はいないだろうし、ゆっくり食べられるかもって思って」


 瑠里は隆一に、ふわりと優しい笑みを浮かべる。


「ほんなら決まりやな! うち分からへんから、兄ちゃん案内頼むで!」

「おうよ、任せとき!」


 鈴音は一歩後ろへ下がり、隆一を前へ押しやった。

 もう一歩下がって瑠里と並んだ鈴音は、彼女に話しかける。


「なあ瑠里ちゃん、その川の土手ってめっちゃロマンチックな場所やな」

「え、そ、そうかな」

「だって、花火が見えて人がおらんのやろ? カップルで来たら絶対いい感じやん!」

「か、カップル……そう、かもね」


 目をキラキラ輝かせる鈴音と、顔を赤くして困惑する瑠里。

 そんな二人の前を歩く隆一が、おもむろに口を挟む。


「なあ、お前ら好きな人とかっておる? ちなみに俺はおらん」


 何気なく、さらりとそう言ってみせた。


「うちはおるでー。同じクラスでめっちゃカッコいい人おんねん」


 隆一の問いかけに対して、鈴音は堂々と答えた。


「瑠里ちゃんは? 誰かおるん?」


 鈴音はわくわくした表情で、瑠里の言葉を待っていた。


「ぼ、ボク? ボクは……えっと」


 目を泳がせ、答えに困っている様子の瑠里。

 そんな瑠里に、宗治は柔らかく笑いかける。


「無理に答えなくても大丈夫だよ、瑠里。俺も言うつもりないし」


 ――というか、聞きたくない。


 宗治は、瑠里の答えを聞きたいと思えなかった。

 それは、自身が彼女を好いているからといった理由ではない。

 自分にとって最も近しい人――近くにいて欲しい存在が、自分以外の誰かを見ていると思いたくなかった。

 恋愛感情とは異なる彼女への執着が、宗治の中にはあった。


 しかし、


「……いるよ。好きな人」


 ――え。


 その言葉を聞いた3人が、一斉に瑠里を見た。


「ほほお、それはそれは。聞かなあかんことがいっぱいありますなぁ」

「瑠里に好きな人なぁ……同じクラスのやつとかか?」


 興味津々な飛鳥兄妹の一方で、宗治はなんとか平静を保とうとしていた。

 だが、脈は明らかにいつもより早く、少し息苦しさすらも感じ始めていた。


「く、クラスは違うよ。同じ学校ではあるけど……」

「うちの知ってる人やったりするんかな」

「それは……ど、どう、かな」


 恥ずかしそうに俯く瑠里の後ろで、宗治は無理やり笑う。


「すずちゃんの知ってる人って言ったら、ものすごく限られちゃうよ」


 普段大阪にいる鈴音がこちらで知っている人と言えば、真田家の人間か隆一くらいだ。

 そうなると、選択肢はとても特定的となってしまう。

 つまり。


「鈴音の知ってる人言うたら俺と宗治くらいしかおらんやん。そら有り得んて!」


 わははと豪快に笑い、鈴音の頭をぽんぽんと叩く。


「ふふっ、有り得ないかな」


 飛鳥兄妹のやりとりを見て、楽しそうにそう言って笑う瑠里。

 そのとき、気のせいか否か。

 自分の前を歩く少女の視線が、親友の方へと向けられているような気がした。


 ――そういうこと、なのかな。


 そのとき、嫉妬に似た無力感を宗治は抱いていた。


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