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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第7章 青年たちと白竜
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7-4 暗示を解く方法

■■■


 昼食後、僕達は再び早川の暗示について話し合っていた。


「早川を倒しても、隆一が元に戻るかどうかは分からない……そこが問題ですね」

「んまあ、隆一さんが元に戻らなくても平気っていうんだったらそれでもいいんだけどねぇ」


 いたずらっ子の顔をして、姫奈ちゃんは面白そうに言う。


「いやぁ、いつものが二倍マシかな」

「二倍しか違わないのか。宗治さんにとっての隆一さんって何なんだ……」


 僕の返しに瞬時に突っ込む龍斗くん。

 僕は君のそんなところが好きだ。


「それは冗談として、少し気になったことがあるのですが」

「気になったこと?」


 黙々と昼食を食べている間、一つ考えていたことがあった。


「仮に隆一にかかっている暗示が能力者に依存しないタイプのものだったとしたら、どうやって解くのかな、と」


 「ああ、それね」と相槌を打って、少女は答える。


「暗示は基本的に、能力者にしか解けないようになってるの。だから、早川を説得するしかなくなるわね」

「なるほど、それはかなり難易度が高いですね」


 今までの話をまとめると、


 暗示には、能力者の状況に依存するものと、独立しているものがある。

 依存するタイプの暗示は、能力者を倒すと解ける。

 独立するタイプの暗示は、能力者を倒しても解けない。

 独立タイプを解くには、能力者を説得して解いてもらうしかない。


 ――といったところか。


 早川は「勝てば解放する」と言ったが、その言葉が嘘であったとしたら。

 その上に、暗示が独立タイプであったとしたら。

 考えれば考えるほど、キリがない。


「このままだと手の出しようがないですね……」

「うーん……困ったわね」


 腕を組んで、少女は思案する。

 僕に至っては、魔法分野の知識が不足していてアイディアなんて何も浮かばない。

 幻界に生まれ育ち、魔法がより身近となっている二人の意見が頼りだ。


「……“暗示を断ち切るナイフ”、とか?」

「は……?」


 少しの沈黙の後、唐突に龍斗少年が発言した。

 その後に、姫奈ちゃんが顔をしかめて龍斗くんを見る。


「幻界で一番高い山の頂上にあるって言われてるやつ。姫奈も聞いたことあるだろ?」

「そりゃ有名な話だから知ってるけど……それってただの迷信でしょ?」

「確かに世間では迷信って言われてる。でも、それを研究してる人もいるんだぞ」

「そこらへんの幻獣の角が落ちたものだって話もあるわよ」


 僕にはなんのことかさっぱりだが、どうやら幻界の伝説的な話のようだ。

 姫奈ちゃんの反応を見る限り、実界で言うところのツチノコレベルの信憑性だろう。


「その……“暗示を断ち切るナイフ”があれば、どんな暗示も解けるんですか?」

「らしいです。オレも詳しくは知らないですけど」

「一応、神界にまつわる伝説として幻界では言い伝えられてるわ」


 ――神界。


 人工的に創られた幻界、現実世界である実界とともに、もう一つの世界があると言われている。

 それが神やその使いがいるとされている神界だ。

 神界もこの剣の話と同様に、存在が確認されていない世界だ。

 むしろ神界は未確認云々というよりも、宗教的な話となっていく。

 何しろ、神という存在が絡むのだから。


「まあ、オレもそんな伝説にすがるより、とりあえず隆一さんを連れ戻すことを考えるけどな」

「……僕も龍斗くんと同じです。もし独立タイプだったとしても、それは早川を倒してから考えてもいいかなって」


 今は一刻を争う事態だ。

 あるかどうか分からないものを探しに行く時間があるなら、居場所が明確な隆一を連れ戻したい。


 急がないと、また――。


「アタシはその意見に賛成できない。そんなやり方じゃ後で何が起こるか分かんないもの」


 しかし、やはり姫奈ちゃんは納得してくれない。

 それも当然だろう。僕たちの言っていることは、考えることを放棄したような方法なのだから。

 だが実際のところ、そうする他に手立てはない。


「……でも、他に良い方法も浮かばないのよね」


 反対の意思を述べた直後、少女は溜息をついてそう言った。

 すると、僕の隣に座る少年が姫奈ちゃんより大きな溜息をつく。


「はあぁ……もう、考えてるこの時間が無駄な気がしてきた」


 苛立ちを隠せない様子で、龍斗くんは言葉を吐き出した。


「気持ちは死ぬほど分かるけど、このままなんの対策もなく行くのはさすがに――」

「姫奈ちゃん、すみませんが行ってきます」


 僕はそう言うと立ち上がって、玄関へ向かった。


「ちょっと、真田――」


 平静を装ってはいたものの、僕も内心は少年と同じだったのだ。


「真田、ちょっと待ってよ! まだ話が――」

「姫奈ちゃんの気持ちも分かります。だけど僕は」


 玄関のドアの前で振り向いて、少女に告げる。


「やっぱり僕は、手遅れになることが何より怖いんです」


 静かにドアを閉め、少し冷んやりとした風に気を引き締める。

 彼女に“怖い”と告げたときの僕の表情は、どんなだっただろうか。

 きっと、あの場にいた誰よりも情けない顔をしていただろう。


 もう少し早ければ。

 あのとき行動していたならば。


 僕は何よりも、そんな後悔を恐れていた。


「……とは言っても、急に勢いで飛び出すのはさすがに大人気なかったな」


 先ほどの自身の行動を振り返り、僕は反省する。


「さて、これからどうするか――」


 門の外へ向かう大通りに入ろうと前を向いたとき。


「真田さん?」


 聞き慣れた声が後ろから聞こえた。


「リリアンさん、お帰りなさい」

「ただいま帰りました。どちらへお出かけになるのですか?」


 振り返るとそこにいたリリアンさんの両手には、極太の脚を持つ引きずらんばかりに巨大な鳥が握られていた。

 そう、片手に一頭ずつ握られていたのだ。


「そ、その鳥は」

「お夕飯ですよ。今夜は百面鳥の照り焼きです」


 そう言って優しい笑みを浮かべるリリアンさん。

 やっぱりその、勇ましく握られた巨大鳥が非常に似合わない。


「い……いつもありがとうございます。夕飯が楽しみです」

「夕飯前には戻られるのですか?」

「ええ、多分。遅かったら三人で先に食べててください」

「承知しました。お気を付けて」


 リリアンさんはそう言うと、家の中へ入っていった。


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