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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第4章 青年と幻獣狩り
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4-6 港町と翼猫弓団

■■■


「ここが……港町」


 龍斗が夢を見ている間、宗治は隆一に案内されて港町にやってきた。

 丘の崖の下をくぐり、もう少し進んだところにある小さな町。集落と言ってもいいだろう。

 海はすぐそこで、丘から見える海の景色とはまた違った魅力がある。


「ここは海で漁するやつと森で狩りするやつしか居らへんから、ちょい気の荒いアホばっかやけど許したってな」


 隆一はそう言ったあとに、「俺もか! はっはー!」と陽気に一言放った。宗治はそんな幼馴染を横目に、冷静に話す。


「こんな集落みたいなとこあったんだな、知らなかった」

「まあ、ルーツは難破した海賊船のやつらが住み着いてひっそりと暮らしてたら一つの町になったっちゅう話やから、あながち集落も間違いではないな」


 隆一の豆知識に、宗治はなるほど、と頷いてこじんまりとした港町を見回した。

 ついてこいと隆一に手招きされ、港町の中へと歩いていく。

 町中を歩く人間は圧倒的に男が多く、皆背中に弓や大きな剣を背負っている。海側には漁船が並んでおり、網が無造作に載せられていた。

 隆一の言うとおり、港町にいる人々は狩猟や漁で生計を立てている者がほとんどのようだ。

 宗治はそんな初めて訪れる町の様子を見回してから、自分の前を歩く見慣れた背中に目を向けた。

 彼も町の人と同じように弓を背負っており、それが狩人の一員であることを示していた。


「しかし驚いたなぁ……まさか隆一が幻界に来て翼猫弓団のメンバーになってたなんて」


 宗治が元々実界の人間であったように、幼馴染である隆一も実界人だった。

 そのため、自分と連絡が取れない間にわざわざ幻界に来て狩りをしているという隆一に疑問を持っていた。

 自分がいない間に何があったのかと問おうとしたとき。


「お前が幻界におるって聞いてな、この仕事してたらいつか会えるんちゃうかなーとか思って」

「え、それだけのために?」


 宗治は意外な回答に目を丸くする。

 隆一はぴたりと立ち止まると、顔だけをこちらを向け――

 ――体をくねらせながら、わざとらしく悲しそうな表情で言葉を付け加える。


「せやかてぇー、何も言わんと行方眩まされたらぁー、嫌われたかなー思て不安なるやんかぁ?」

「お前は彼氏のメールを待ちきれない彼女か」


 宗治は鋭く冷たい突っ込みをいれると、顔だけを向けた状態で立ち止まったままの隆一の背中を押して前進するよう促した。

 宗治に押されながら歩き出した隆一の後ろで、宗治は静かに言葉を放つ。


「……大切な人も守れなかったような俺に、あの場所に居る権利なんてなかったんだよ」


 それはあまりに気弱で消えそうな声だったが、隆一はそんな彼の声もしっかり拾って言葉を返す。


「あいつは自分の意思で行動した、宗治が背負うもんなんかなんもないよ」


 きっぱりと言い切る隆一の後ろで、宗治は再び話す。


「だけど、俺がもっと強ければきっとあの人は今頃――」

「三上瑠里は自分の意思で死んだようなもんや、気にすんな」


 さっきより強めに言葉を吐くと、今度は諭すように宗治に言う。


「お前はその分精一杯生きたらええ。それでええねん」


 その言葉を聞いた宗治は、背中を押していた手を離す。隆一は振り向くと、宗治の肩をぽんと叩き、にっと笑った。

 宗治が顔を上げると、隆一の肩にも後ろから手が伸びていた。


「弥生ちゃん! やっと見つけた!」


 突然のことにびくりとして隆一は振り返る。隆一の真後ろには、眼鏡をかけた細身の男が立っていた。


「なんや坂上か」

「坂上か、じゃないよー! 急にいなくなるから皆探してたんだぞ」


 坂上と呼ばれた男は、隆一の両肩をがしりと掴むと、前後に揺さぶり始めた。


「あああさかっちゃんこれあかん俺これマジで酔うから」

「今日はほんっと散々な目にあったわー。リリちゃんはいないわ、姫奈ちゃんに蹴り上げられるわでさぁ……」


 坂上はまるでその鬱憤を晴らすかのように、隆一を揺さぶり続ける。


「あのー……坂上さん、でしたっけ」


 賑やかな二人のやりとりの中、宗治は控えめに手を挙げて坂上に声をかける。


「ああ、そだよ。どしたん?」

「リリちゃんって、もしや姫宮リリアンさんのことですか?」


 宗治は自分より幾分か背の高い坂上を見上げて尋ねた。


「お、良く知ってんねー! 君もリリちゃん狙ってんの?」


 坂上は隆一の揺さぶりをピタリと止め、嬉しそうに宗治の方へと歩み寄ってきた。


「いや、そういうのではないんですけど……僕、彼女の家に居候してるものでし、て――」


 宗治は言い放ってから坂上の驚愕を表す表情を見て、たった今話したことを後悔した。


「まぁーじかよー!? 同棲とかお前どーゆーご身分だよ!」

「え、マジで?」


 二人から同時に問い詰められた宗治は慌てて首を振り、言葉を絞り出す。


「あー、いやその、そういうことではなくて……これは偶然で」

「偶然でリリちゃんと同棲とかラッキーマンすぎるぞーこの優男!」


 坂上は宗治の両肩を掴み、隆一と同じように揺さぶり始めた。


「だ、だからそうではなくて。僕はただ住まわせてもらっているだけで……そういう関係ではなくてですね」


 視界が激しくぶれる中、宗治は誤解を解こうと話し続ける。


「信じられないのであれば彼女に直接訊いてみては……い、いかがでしょう」

「あ、それがいいね。そうするわ」


 坂上はやっと納得したようで、ぱっと宗治を解放した。

 宗治は揺さぶられ続けたおかげで酔ってしまい、その場でしゃがみ込んだ。


「大丈夫か?」

「ああ……なんとか」


 心配そうに声をかける隆一に、宗治は苦しそうに返事をした。


「で、弥生ちゃん」


 坂上は声のトーンを落とし、隆一に向き直る。


「弥生ちゃんは今まで何処に行ってたの?」


 坂上は自分の眼鏡をくいっと押し上げ、真面目な表情で隆一に尋ねた。

 尋ねられた隆一は、しゃがみ込む宗治の方に視線を落として答える。


「俺はこいつを探してた」

「え……?」


 宗治は驚いた表情で隆一を見上げた。


 ――俺のために? それだけのために?


「お前、なんでそこまでして」

「俺の知らんところでのたれ死んでたら胸糞悪いからな。せめて生存確認くらいはしとこうかな思て」

「弥生ちゃん……」


 隆一の言葉を後ろで聞いていた坂上は、納得したように頷いて、ぽんっと隆一の肩に手を置いた。


「弥生ちゃんがそういう趣味を持ってるってことはよく分かった! だけど俺は引いたりしないから安心して!」

「ちゃうがな」


 隆一は冷たく突っ込むと、今度は隆一が宗治に尋ねる。


「ほんで、ご用件は?」


 尋ねられた宗治は、幼なじみとしての話に一区切りをつけ、今度は翼猫弓団の一員として隆一と向き合う。

 もう一つの大切な、家族のような存在のために。


「ちょっとわけあって、竜の洞窟にある植物が欲しいんだ。それで、竜を足止めするだけでいいから力を貸して欲しい」


 隆一が返事する前に、その横にいた坂上が声をあげる。


「その植物っていうのは、もしや悪夢ウィルスの薬に使われるやつ?」

「あ、はい。その通り……なんですが」


 坂上の口からその単語を聞いて、宗治はまた「やめとけ」と言われるのではと思い、訴える。


「危険なことだっていうのは十分わかってます。だけどこのままじゃ龍斗くん――友達が危ないんです」


 坂上は黙って宗治の言葉に耳を傾けていた。

 そして何も言わずにくるりと回れ右をして、すたすたと早足で歩き始めた。

 隆一も、一言も返事せずに坂上の後についていく。

 イエスともノーとも言わずに黙って行ってしまう二人に向かって、宗治は言う。


「やっぱりだめ、かな」


 すると隆一がぴたりと歩みを止めて、振り返る。


「誰もそんなこと言うてないやろ?」

「え?」


 隆一は再び歩き始め、宗治に背を向けて言う。


「友達助けなあかんのやろ? 早よ行くで」




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