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異世界に囚われた僕と囚われてた姫達  作者: TE$TU
三人目の姫との邂逅
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第七話

 

 ふへへ、やってるやってる! 戦ってるねぇ! うわぁ! 毛利ちゃん怒ってるから手加減なしだねぇ! テツローの体じゃなかったら出血のショックでもう死んでるよ? やっぱり怪我はしてても鎧が皮膚の代わりになって血液が外に流れてないね。


 え? 私が誰かって? そうです!私は魔王です! 我慢出来ずに見に来ちゃいました!

 しっかし、案外苦戦してるね? 何で? 記憶の通りなら善戦してる筈なのに、されるがままって感じだ。あのテツローなら簡単に対処法は分かるはず……。


(ぐおおおおおおおおお!! 毛利の奴めぇ!! 舐めやがってぇ!!

 こんな服、吸収してやる!!)


 ん? 四つん這いになってから動きが止まった。やっぱり咄嗟の反応が遅い? 普通なら、あの鎧を展開したあたりから服を吸収するのに。もしかして、人格が劣化してる?


「え、嘘! 糸が!?」


「毛利!! 計算違いだったなぁ!! 鎧の状態でも吸収能力を使用できる!! さぁ!! お返しだ!!」


 ……判断がつきにくいなぁ。おぉ、吸収した糸の能力を使って、今度は毛利ちゃんを切り刻む為に鎧から糸の細さの鎖を出した。

 そして鎖を地面に走らせ地面を切り崩し、体勢を崩した奴らごと周りの全てに向かって見えない刀の波を振るった!


 あっ、主人格が言っていた泥棒猫が毛利ちゃんの前に飛び出した!


「テツローに仲間殺しなどさせない!!」


 ……凄いね。本当に。

 左腕だけじゃなくて右腕も変化させてあの斬撃の弾幕を防げる物質に変化させて、両腕を盾に変化してる。

 あの領域まで扱うのに一年ぐらいの鍛錬が必要なこの世界に元からあった魔法の才能が目覚め始めてる。

 しかもちゃんと防いで受け止めてる。あれ以上操れない様にって考えなんだろうけど、それはまずいと思うんだ。


「漆? 今すぐ鎖から手を離した方が良いぞ?」

「黙れ!! 貴様は、テツローの力で! テツローが命がけで救ったヤタムナヤや、詩を殺すつもりだろう!!


 そんな事! 絶対にさせない!!」

(なな)……」

(榊原の言う通りだった。テツローに感化された人間が、殺そうとした人間が、復讐に燃えていた少女が今、我々を含めたヤタムナヤを、夜也様を守る側になっている。彼に託して良かった)


 感動的な場面なのかなぁ? 夜也ちゃんは名前を呼んで涙を浮かべてるし、久利生さんに至っては感慨深そうに協力して鎖に対処している三人の姿を眺めてる。

 鎖を受け止めた泥棒猫の後ろから毛利ちゃんと榊原がテツローに向かって突っ込む。彼女が動きを止めている間に毛利ちゃんが糸で拘束して、榊原が熱と打撃を組み合わせた連打で気絶を狙っている、と言ったところかな?


 でも、それは鎖が何も変化しなかったらの話じゃない?


「!? あぁああああああああ!!」

「漆!? どうしたの!?」


 盾で鎖を受け止めていた彼女が悲鳴をあげる。

 やっぱりね。鎖にあの子から奪った姫としての異能だった熱を加えて、受け止めてる両腕が変化した盾が赤熱してる。痛そ。

 しかし、えげつないなぁ。時間差でそんな攻撃するとは。あぁあ、榊原が悲鳴を聞いて動きを止めちゃったけど、毛利ちゃんは流石戦士。声に怯む事もせずに冷静にテツローの方を熱にも強い糸に変えて拘束したと思う。

 だって、鎧から線状の煙出てるし。


「くく、相変わらず冷淡だな? 毛利? 流石は姫だ!」

「!! うるさいわよ!!」

「うっ! ……はっ! この鎧が軋むとはね? 糸の硬さは百年前から変わってないなぁ!素晴らしいよ! 毛利(もうり)流々(るる)、いやモルリウル?」

「本当に! いけ好かない男ね!? あんたの腐った根性は! 百年前から、ちっとも変わってないじゃないの!!」

「そうか? そいつは悪かったなぁ!!」


 そう言えばあの時も驚いたなぁ。私達と主人格は繋がっているから情報は相互で行き来する。

 テツロー達を見てた夜雨の視覚情報から配布食料に混ぜていた人肉成分による姫の人工生誕がやっと実を結んだと思ったけど、姫の異能に自分の魔法を併用した時なんて信じられなくて会議中に飲んでたお茶吹き出しちゃったよ。周りの側近達が優しい目で見てきた時は恥ずかしかったなぁ。

 この世界の魔法を覚えて完全に物にするのに、私は五十年は掛かったし、何より併用させるのなんて無理! お互いに力が反発しちゃうんだもん!


 何かが変わり始めたって事なのかな? 今彼らが戦ってる場所の休火山も元は「黙示録の獣」の伝説と関連があるらしい。黙示録なんてどこにも無かったけどね。

 それとも首都の近くにあった「ストーダ」って場所が復活する予兆なのかな? 不思議な力があったとか、確かリジュエ王国の王族の残していった文献だと約二百年前に消えたとか、海の底に沈めたとか書かれていたけど、実際はどうなんだろ?


 ま、主人格に聞けば一発でしょ。一番長生きだし。


(どうなの? 主人格?)


(うるさいよ!? 今はそれどころじゃ無いの!! こっちはとんでもない事になっちゃったんだから!!)


 え? 何々? ……うそ。


「かっ、かへ、かへう。かえる、ば、あ、あの、あのばしょ、に」


 何、この内面世界のテツロー? 蛇っぽいというか、完全に人間辞めてるじゃん!?


(見ての通り! 元にしたウロボロスに戻りつつあるの!!)


 うわーお、こっちもピンチ!!

 ……何でそうなったの?




「それじゃあ、緋さん? テツローと外に出てるテツローとの接続を切ってくれる?」

「言われなくとも切りますよ? 私も彼には少し恩が有りますし」

「お風呂を貸してくれたから?」

「そっちではありません!ホワイトバックから守ってくれた事です!」

「流石に五百歳を過ぎた女が、怖くて漏らしたなんて……」

「いい加減にせんと、喉元掻っ切るぞ? ワレェ?」

「わぁ……、流石は、高校まで地元の不良を支配した女番長……。凄みが違うなぁ?」


 うっ、弄りすぎたか。あっちの世界のからかい過ぎたあのカラオケ会を思い出してサブイボ立っちゃったよ。


 だから手刀を突き付けないで? 空間だってバッサリ切れる代物を突き付けないでよ?


「死なないんでしょ? 良いじゃないですか? 一回バラバラになるくらい?」

「あの、謝るから、テツローを助けて?」


 ん? 何で固まってんの? 怖いよ? 手刀突き付けられたままだと?


「……貴女が誰かに謝罪するなんて、それ程大切なんですか、彼が?」

「へへ、うん。最初は私の見つけた世界に放り捨てて、二十歳になるまで育つのを待とうとしたんだ」

「彼の私を見た時の反応を考慮しますと、その世界には私も居たんですね?」

「やばかったよ? テツローのストーカーになってさ? 私が直接二人の間に入らなきゃ間違いなくテツローを殺して後追い自殺してたね」

「ストーカーの所には断固異議を唱えますが、それなら他の世界に彼を移せば良かったのでは?」

「無理だった」

「? 貴女には不可能はあんまりないはずでは?」

「その『あんまりない』の方に入っちゃったんだよ。世界に挿入する時にウロボロスの肉体に魂を入れた状態でやっちゃったから、やり直しが利かなかったの。

 他の可能性の世界を観測して何とか危険は阻止し続けたけど、まさか惚れられるとはね」


 本当、最初に見られた時は驚いたよ。見えない様に平行世界から観察してたのに、世界の壁を掻い潜って私に声をかけて来た時の彼に対する私の反応は思い出すだけで恥ずかしい。

 顔から火が出るって、ああいうことを言うんだろうな。

 大慌てで私の両親とかを持ってきて夢で記憶を作って、辻褄合わせに走ったけど、人として、女として生活したのなんて何年ぶりだったんだろう?

 張り合いのある人間らしい恋愛をして、二人だけで行楽に行ったりしてたあの時間は私の一生のほんの欠片にもならない短い間だったけど、私の心に残っている。


 テツローと過ごした時間だけだ。


 ……彼との生活が心から楽しかったから、嬉しかったから私も彼に惚れちゃったのかな。


 建国初期のリジュエ王国での生活は機械的だった。座ってれば神が作った使用人が何でもやってくれてたし、勉強も最初から出来てたから、教育の神の力を宿した人形に褒められた記憶しかない。

 仕事を覚えて管理人になって彼から社交界に誘われて、顔を出し始めた時は未知に対する高揚で胸を躍らせていたけど、結局退屈なのは変わらなかった。

 姉さんとの間に透明の泥みたいな息苦しい変な軋轢が出来てからは、夜也を身籠るまでろくに挨拶すら出来なかったし、あの頃から嫌になっちゃったのかな、王族の身分が。


 今の私の中にはテツローを利用しようとする気持ちと、本気で愛してる気持ちの二つが存在してる矛盾した状態だ。


 こんな状態が長続きしないのも分かってるけど、それでも私はあの世界で彼に出会えた事が、最高の幸運だ。


 だからかな? 気付いた時には彼に何も感じなくなってた。嫌悪も憎悪も。勝手に解釈した自分勝手な妄想に付き合うのはごめんだ。


 私は姉さん達とは違う、自由を覚えたんだから。


「夜雨!! 大変です!!」


「え?」


 緋さんの悲鳴に近い声に顔を上げた私の視線の先に存在したのは、ウロボロスになりかけのテツローの意識だった。


「どうなの主人格?」

「うるさいよ!? 今はそれどころじゃ無いの!! こっちはとんでもない事になっちゃったんだから!!」


 なんで!? 何が起きたの!? 私は何もしていないのに!?


「かっ、かへ、かへう。かえる、ば、あ、あの、あのばしょ、に」


 かへう? かえる? ……帰る? あの場所に? まさか!!


「見ての通り! 元にしたウロボロスに戻りつつあるの!!」


 純粋に意識だけが残る世界だから、ウロボロスの肉体に宿った本能がこっちの弱ったテツローの意識を侵食し始めたんだ!

 このままじゃ、外の肉体も変質して完全にウロボロスに戻っちゃう!

 テツローの力を取り込んで、無理矢理にでも元の世界に帰るつもりだ!!


(おぉい!? 私がいない所で随分と大事になってるじゃない!?)

「「! メイ!」」

(ちょ! そんな期待に満ちた感じの声で呼ばれても!?)


 え? 君にもちゃんと働いてもらうよ? あ、魔王はこっちでサポートね?




「うわ!?」


 いったー! いきなり転移ですか!? お尻打ったー!


「誰だ!」

「……ママ」

「「メイ閣下! ……ママぁ!?」」

「「「「……!」」」」


 あちゃあ……。やっちゃったかな?


「ど、ドドドどういうことだ!? ヤタムナヤのお母堂がメイ閣下だとぉ!?」

「おおお落ち着いてください漆さん!? きっと他人の空似ですよ!?」


 ……正直、主人格が髪染めてカラコン着けた程度の変化の私の容姿だけどさ、一発で看破されちゃったよ!


 当たり前なんだろうけどさ? ちょっぴり悲しいよね?


夜雨(よう)? 髪を染めたのか? 似合ってるが、黒い方が君に似合ってるぞ? はははははははは!!」


 ……この男、やっぱり見捨てられてるよ。しかも他者の肉体に入り込んだ影響で魂が汚染されて人格が邪悪に……。哀れ過ぎるよ。

 まだ彼女に自分が愛されていて、かつての力を未だに持っていると思って余裕綽々に高笑ってるよ。


「私は別人よ。ただし、私の創造主はヤタムナヤちゃんや君の言う通りの女性だ。

 主人格、夜雨は生きてるよ?」

「はははっ! やっぱりな! 彼女が私の前から消える訳がない!」

「彼女は君を消すよ」

「「「「「「「!?」」」」」」」

「……なに?」


 おいおい。みんな驚きすぎだよ? 夜也ちゃんや私のファンと思われる元職員の二人も、果てはあの久利生や榊原、毛利、あの幕内まで目を見開いてる。

 そして君は間抜けだね? 他人の体に入ってまで生き延びて、復讐するつもりとか今時流行らないよ?


「精神世界のテツローが危ないから君にその危険の肩代わりをさせて、その身体から完全に切り離してほっぽり出すってさ。残念だったね? 神子さま(・・・・)?」


 国を奪われ追放され落ちぶれた、神子の初代リジュエ王様?


 突っ立ったまま惚けている彼に、私は無防備な彼の顎に装着されている鎧の上から蹴りを放った。


 さぁ、間に合わせてね? 主人格? 魔王様? 早くしないと私だけじゃなくて、ここに居るみんなが本当に死んじゃうからさ?


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