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異世界に囚われた僕と囚われてた姫達  作者: TE$TU
三人目の姫との邂逅
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第六話

 私は内面の世界に閉じ込めた擬似人格を完全に封印する為に並列思考の内の一つの人格に仕事を任せた。


 おい、目覚めろ、偽物。


(……あれ? だれ?)


 お前は偽物だ。


(にせもの?)


 そうだ。お前は私が復活する為に用意された擬似人格だ。


(ぎじじんかく?)


 本来の人格ではない。暗示や催眠による複雑なものじゃない。より確実で単純で、私の妻の協力の元、実現した。


(つまの?)


 私の妻は『姫』でね。彼女の能力は夢。かなり応用の効く能力の代わりに、そろそろ限界も近いはずだ。


 あぁ、話が逸れてしまったな。どういった方法で君を私の肉体に植え付けたか、だったな。


 夢。と言っても単純な睡眠中のノンレム睡眠時に見られる幻覚や記憶のリフレインじゃない。彼女はね? 人類の見るあらゆる夢。将来の夢、理想の夢、願望の夢などのあり得たかもしれないもしも(if)の世界を観測し、移動し、干渉できた。つまり、平行世界、並列世界、並行世界などを支配できた。


(いふ?)


 そう。お前はその世界の中から選ばれた、私の記憶と体験をお前自身の世界に違和感のない様に追体験させただけの人格だ。何処にもいない、何処にも居場所がない幽霊だ。


(ゆうれい?)


 だから、お前は消える。用済みだ。


(ようずみ……)


 そうだ。……ぐわっ!?


(? どうした?)


 ……何でもない。暫く待て。私の用件を済ませたら、再度話し合おう。それまでは眠っていろ。


(……おやすみ)


 あぁ、おやすみ。


 本体が感じた痛覚を肩代わりされたな。攻撃を食らったのか?


 私の心に一抹の不安がよぎった。




「うおおおおおお!!」


 私は偽テツローの背後に一瞬で移動し、ヒヒイロカネと同等の硬さに変化させた左腕を頭に叩き込もうとする。失神させてから拘束し、元のテツローへの戻し方を聞き出す!!


 しかし、偽物のテツローはそれを上回る速度で移動したのか、目の前から消え、私の攻撃は空振りに終わる。


 そして真横から感じる殺気と寒気。


 その時、私はテツローに魔弾を発射される寸前の時以上の恐怖を感じたが、それを上回る形で怒りがこみ上げてきている。怒りとは長続きしないと思っていたが、そうか、愛する者の為に怒るとこんなにも力強く、こんなにも強烈に人は怒りを保てるのか!


 私は怒りを爆発させる!


「ぐわっ!?」


 すると私を中心に赤いエネルギーが球体状に広がり、偽物のテツローを数メートルは吹き飛ばした。しかし、私はその場でしゃがみこんでしまう。


「ぬっ……!」


 なんだ、この疲労感は!? まるで機械義手(バトルアーム)の過剰魔力消費をした時の様な鈍重な動きになる。私から出ているこの力(コレ)は、無制限で扱えるのではないのか? 判断を誤ったか……?


「喰らえ、(なな)


 ふん! 誰が……! くそ! 身体が重過ぎる! 意識が飛んでいないだけ、マシだが、あの魔弾を避ける挙動が出来ない……!


 私に向かって既に光弾は射出されているのに。


「くそ!」


 左腕を変化させ私の前面を防御する為の盾にするが、硬さは充分でも、衝撃を和らげるだけの柔軟性が足りない……!


 また、義手になるかもな……!


「そうはさせません」


 執事服を着込んだ髭を生やした青髪のの男が、何と素手で全ての魔弾を弾くのではなく掴み取り、奴に向かい投げ返していた。


 この男、まさか……。


「お前、私を止めた時にいた、炎の魔人か?」


 思い出すのは地下闘技場のあの戦い。炎、と言うか熱の化身と化した私を全力で止めたテツローを補助してくれた四つ腕の魔人。奴の放っていた雰囲気に似ている。


「お久しぶりでございます。背を見せながらという無礼は承知の上ですが、ご挨拶を。再びお会いできた事、心より光栄に存じます、(なな)様」


 むぅ、さ、様付けで呼ばれるのはこ、こそばゆいな。背を向けながらはしょうがないだろう。絶賛投げ返している最中なのだから。


「う、うむ。久しいな、バラン」


「漆様、その名は夜也様、……ヤタムナヤ様が我々に与えられた物ですので、その……」


 ! 成る程、彼らの名前はヤタムナヤにのみ許された、あだ名なのか。ならば訂正しよう。


「すまない。何と呼べば良い?」


「私の事は榊原、と」


 よ、呼び捨てか。見た目が年上の者をそう呼ぶのは、テツローで慣れてしまったな。


「分かった榊原。早速で悪いのだがあそこに居る詩を保護して避難させて欲しい」


「それならばご安心を。幕内様が既に……」


「幕内?」


「独特なお召し物を召されている方です」


 ……あぁ、確かに。何かの動物を模したと思われる着ぐるみの口から顔だけ出している男? 女? が、怠そうに何やら立ち上がったまま浮かんだ状態で詩の前で動物を模した人形達に護衛させている。ま、魔法か?


「大丈夫?」


「は、はい! ありがとうございます!」


「眠い。胸。……枕?」


「ちょ、ちょっと!?」


 ……詩の胸を枕代わりにして眠り始めたぞ? 大丈夫か? 彼奴?


「幕内様はご婦人ですから大丈夫かと」


「心を読むな。それと同性でもあれは駄目だと思うぞ?」


 何だか執事ってだけで胡散臭くなってないか? 榊原。


「じゃ、邪魔をするな! 毛利!」


「うるさいわよ! あんたには徹底的に調教を施して! 夜雨の分までお仕置きをして! ヤーちゃんの分まで痛め付けるのよ!」


「私の妻と娘に欲情してる(恋してる)お前が私を生かしておく訳がないだろう!?」


 何やら腕を振るって斬撃を放っている童女とそれを当たる前に避けている男の会話とは思えない痴話喧嘩的な内容に唖然としてしまう。


 ……な、何やら複雑な人間関係が垣間見えた気がしたんだが?


「なぁ、榊原。あの童女は一体何者だ?」


 榊原の背後で未だ動けない私は今のうちに出現した者達の人間関係を知りたかった。


 純粋に興味が出てきてしまった。こういう詮索好きの所は義母さんの影響だな。絶対そうだ。


「毛利様は尾口様、テツロー様を乗っ取っている方の同僚で小中高大の同級生、奥方様であらせられる夜雨様との間で三角関係を展開しておられた方です。


 夜也様がお生まれになってからは四角関係に成りましたが」


 衝撃の事実発覚。愛憎渦巻く修羅場を演じていたのか。今は骨肉とか、血で血を洗う争いの方の修羅場を演じているが。


 た、大変なのだな。三角関係から娘を巻き込んだ四角関係へ……! 壮絶だ。


 ……あれ? 何だか私にも身に覚えが? というか、今の胸のときめきは何だ? テツローと私達の関係を立て嵌めていたのか?


 ……反論が出てこないな。


「五郎丸 漆よ。礼を言う。良く切っ掛けを起こしてくれた」


(なな)! 大丈夫?」


「うお!?」


 いきなりヤタムナヤと共に私の右側に現れた老人に礼を言われ、ヤタムナヤに抱き着かれた。私は急な事に対応出来ず、左側へ倒れてしまう。


「ヤタムナヤ? 喋り方が……!」


「治ったよ!」


「これが本来の彼女だ」


 本来の?


「久利生様、彼方の詩様も此方へ。お願い出来ますか?」


「もうやっている」


「きゃ!?」


「!……久利生? 何のつもり?」


 今度は詩と幕内の二人が虚空から現れ、倒れている私の右側に現れる。何やら幕内は不機嫌そうに久利生と呼ばれた老人を睨みつける。


 詩と別々に瞬間移動されたからか? というか瞬間移動したのか!? 凄いな!? 私の胸に顔を埋めて抱きついたままのヤタムナヤもこういう力を扱うようになるのか?


 ヤタムナヤ、その蕩けた顔は母性をくすぐられるぞ? 胸の感触でどんな顔をしているのか分かるなんて、今の私は感覚も強化されているのか?


 ……あれ? 戦闘中なのに何故こんなにもほっこりとしているんだ? 今にも感涙してしまいそうだ。眼に熱いものが……!


 私の今までの戦闘って一体……!


「幕内よ。今は戦闘中だ。しかも相手はあの尾口だ。力が戻っている。全盛期と同じとは言わないが、それでも強敵だ。それなら固まってより守りやすくした方が良い」


「……お尻打った。それにみーの人形はそんなに柔じゃない」


「そうか、悪かった。会うのが久々過ぎて忘れていたよ」


 よ、余計に険悪な雰囲気に! いやそれ以前に元から何か因縁があるのか? 確かにあの人形はこちらに向かってくる魔弾の流れ弾を真正面から受けても原型を留めている。若干煤けてはいるがそれだけ。丈夫なのは確かだ。


 すると今度はテツローの身体を全体を覆うように頭に二本角を付けた鎧が装着された!


 あれは私が戦った時に使ったテツローの奥の手か!?


「ふはははははは!! どうだ毛利!! この装甲には貴様の糸も……」


 確かに装甲には糸が巻かれている。あれが先程まで地面に斬撃痕を残していた攻撃の正体か!! 何という事だ! あの糸はどれだけの耐久性があると言うんだ!? しかし、それ以上に硬いあの鎧は更に何だ!? し、調べたい!!


「無意味!!」


 こ、こっちに向かってきた! くっ! 左腕の変形が間に合わない!


「ねぇ? 着ている服は私の糸製なのを忘れたの!?」


ん? それがどうしたというのだ?


「!? ぐぁああああああ!!??」


 走っている途中に盛大にこけ、顔面から地面に突き刺さる勢いで止まった鎧姿のテツローの偽物。すると今度は激痛に苦しむ猛獣の様に叫び始めた!


 な、何やら苦悶の絶叫を上げてのたうちまわり始めたが、先程の台詞を考えると、何を彼女にされていると言うんだ?


「戸惑っているな。説明してやろう。テツローの着ていた服は全てあの童女が作り出した糸で出来ている。彼女はどんな形になっていても自分の糸ならば手足よりも生らかに正確に操作できる。あれは……。分解した糸を直接体に食い込ませて、肉体を掻き毟っているな。


 流石男嫌い。奴の股間は避けているが、それでも相当の痛みが全身を襲っているのだろう」


 ……つまりは全身を細い糸で削り取られているという事か? 少しづつ? 鑢に削られるようにか?


 お、怖しい。彼女には絶対逆らわないでおこう。テツローのとばっちりを食いそうだが、テツローなら守ってくれる。はっ! の、惚気てしまった!


「あの、漆さん? 大丈夫ですか? お顔が真っ赤になってますよ?」


 ふふ、詩。何を言っている。私は別に物語に出てきそうな白バルに乗ったテツローが私をお姫様抱っこで糸の魔王から救出する場面など一瞬で妄想してはいないぞ?


 ん? そう言えば脱力感が消えている? 魔力が回復しているのか?


「漆! 治った?」


 そう言って私に笑顔を向ける彼女の顔は、年相応の知性を感じさせる聡明な雰囲気を纏った物だった。


 ヤタムナヤ、お前は一体、何なんだ?




 全く、私の考えも聞かずに独善的な考えで動いてくれちゃって! 私の夫のつもりなら、ちゃんと計画通りに動いてよ! その所為でまた私が動く羽目になったじゃん! 本当! 勝手なんだから!


 それに目的も違う! 大陸の外に侵攻なんて誰に吹き込まれたの!? 浮気してたのかな!? こっちに来たら聞き出す!! 絶対に!!


(おれは、にせものだった。ゆうれいだった。いちゃいけなかった)


 うわ、お目当のテツローを見つけたけど、暗示の影響で幼児退行に近い状態になってる。ここまでやるかね、あの男。本当愛想尽きちゃった。私の言う事は聞いてたけど、愛はあったのかな? 十四年の年月があそこまで変質させた?


 さてと、このテツローを立ち直るように説得しましょうか?


「テツロー? それで良いの?」


(……だれ?)


「だれって、君を好きになっちゃった女だよ? 君を助けに来たんだけど、ここじゃ話し辛いから場所は変えるね?」


(……うん)


 ごめんね。今の貴方より、こっちの貴方の方が私は好きなの。


 私に従順で尽くしてくれて、本当に愛してくれて、私が女の子らしく女らしく恋愛出来る彼が……。


 私の為に命を平気で投げ出すような無謀で、台風の後の晴天に吹く爽やかな夏風を思わせる若い彼が。


 私の目的には彼だけが必要だから……!


 さて、その為にも……。


「お願いします先生!」


「……私をあの時、夢に幽閉したのは、この時の為ですか? 夜雨(よう)?」


「えぇ? 何の事?」


「全く、私は貴女の行動力が心底恐ろしい。


 彼のウロボロスを彷彿とさせる名前は、あの籠手による無限の吸収能力を意図していたのですか?」


「寧ろ、本物? みたいな?」


「……どういう事です?」


 あは! 食い付いた!


「んふふ? 気になる? やっぱり幻想種の可能性を研究していた君なら気になっちゃう?」


 その研究の為に時間を割いていたから、他のゼミの女の子達にお高くとまってた様に見えて友達が私以外居なかったなんて、知られてると思ってないんだろうなぁ。本人もきっと気付いていないだろうし。


「貴女に協力を頼まれた時から思ってはいましたが、随分と手間を掛けますよね? たかだか自殺する為に」


「えぇ〜だって〜死ねないんだも〜ん!」


 そう。私は死ぬ為にこの国を態々ややこしくした。その方が英雄から悲劇の英雄に格上げされるのに丁度いいしね!


「だから、貴女が恐ろしいんですよ。死ぬ事に何の躊躇いも持たない貴女が、本気で何かを為す時は更に躊躇がなくなりますから。


 自分を本気で愛する男を自分を殺す凶器に選ぶ辺りが特に物語っていますよね?」


「そう言いなさんな? 日向(ひなた)ちゃん? やる事やってくれたら帰してあげるからさ?」


 そう、今の貴女に相応しいあの場所にね?

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