第四話
「それで! あんた一体なんなんだ!?」
目の前の得体の知れない姫に対する警戒心は危険域にまで高まっている。
瞬時に左腕のブリンガーを『砲口』状態で突き付ける。この女には聞かなきゃいけない事が山程出来た!!
彼女は子供に言い聞かせる様な声音で俺に話し掛ける。
「落ち着いて下さい。
私の質問に答えて下さい。貴方は沼田「夜雨の事は知ってる!!」……そうですか、貴方は異世界の方ですね?」
異世界!? なんでそんな事を知っているんだ!?
「なんで、この世界の住人のあんたが……?」
彼女にブリンガーを変化させた『砲口』を向けて、発射する手前の状態で思わず固まってしまう。
「正確には私達『姫』は、この世界の者ではありませんから」
「え?」
『姫』はこの世界の、人間じゃ、ない?
「貴方の知り合いの沼田 夜雨は生きています」
「何を言っているんだ?」
そうだ。死んだ。俺が、救う事も、守る事も出来ずに死なせてしまった彼女は俺の腕に抱えられるだけの大きさになって、壺に入って、それで、それで、落ちて。
「貴方がその証明です」
「……何言ってるんだよ!? ちゃんと答えろよ!?」
口径を絞り、巨大な筒になったブリンガーの『砲口』を突き付けながら尋問する。もう本当に撃ってやろうか!?
「それでは、お邪魔しました」
そう言い彼女は指で空間をなぞった。するとなぞった空間が切り裂かれ始め、日向 緋が入れる大きさの穴が形成された。
逃げる気か!?
「待て!!」
収束した事で砲弾から砲撃になった破壊の閃光は彼女の目の前で霧散し、右腕から鎖を飛ばすが、彼女が切り裂いて生み出した謎の空間に侵入したが、日向 緋の左腕に掠って僅かな傷しか残さぬまま、空間に入っていた鎖ごと穴を閉じられた瞬間に何も無い宙に浮いているだけの状態になった。
「くそ。くそ! くそ!! くそ!!! くそ!!!! くそくそ、くそ!!!!」
マグマが地下から溢れる様に激情が、自分に対する不甲斐なさに対する憤怒が込み上げる。自分の力不足からヤタムナヤや漆、詩さんまで巻き込んでしまった。漆は日向 緋の能力で強制的に意識を切られた。俺は相手を捕まえる事も、みんなを守る事も出来なかった。
めちゃくちゃになった食堂に俺は立っていた。たった一人で。
俺は、負けたんだ。
ふぅ、なんとか逃げきれましたね。後は私の服を回収するだけですね。しかし……、
「意外と厄介ですね。あの鎖」
私は左腕の擦り傷の原因となった鎖は私達の脅威となります。
「痛っ……! 擦り傷でこんな痛みを伴うなんて……」
擦り傷。その筈なのにまるで刀で切り付けられた腕の様に重く、それでいて骨まで響く激痛が能力を使っても消えないのですから。
「毒? それとも、龍の力の再現?」
だとしたら何? あの男は何の怪物に準えられているの? 鎖に関連した物? 怪力? 神速? 深く考え過ぎ? もっと単純に、あの籠手から出てきた物。
「……鎖。……輪。……取り込む。……吸収?」
それなら世界蛇? それとも北欧の狼? それとも神と争った台風? 違う気がする。彼の名前に何かある? 彼の名前は確か……。
「尾口、鉄郎。尾、口。尾が口?」
まさか、あり得ない。創り出せる筈がない。あの子一人にそんな力は無かった筈。でも、龍の力、尾口、そして何より沼田 夜雨の知り合い。
彼女の言っていたアレを本当に……?
「出来るよ」
「!? あ、貴女は……」
「全く、ダメじゃん! 私の男を不安にさせる悪い子は、このメイ・ツオナウがお仕置きだぞ!」
「メイ・ツオナウ。
! ……MAY・TUONAU?」
!! まさか!? 貴女!?
「「せ」「い」「か」「い」「♡」」
「う!?」
く、首をいつの間に!? しかも、身体が!? 動けない!?
「「う〜ん」「貴女と接触」「する事はなかった」「筈なんだ」「けどなぁ〜」」
私の身体を押さえつけている彼女達は!?
そういう事!? じゃあ、捕虜になった方々は!? それにこの国に日本の文化を流入させたのは、全部!!
「貴女、それじゃ、この国を最初から……!」
「そう。「「僕」、私、「我」」の計画に則って、乗っ取らせてもらいましたぁ!」
あぁ、何て事なの。私は、能力を使っている。使っているのに発動しない。夜雨。貴女、この世界の人間を……。
「だから君はその時まで『夢』でも見てて?」
その言葉を最後に私は『夢』に堕ちた。
テツローがおちこんでます。私はテツローがおちこんでると、すごく、かなしい気もちになります。
テツローは今までわたしたちをまもってくれました。
たくさんけがをして、たくさんちが出て、わたしは泣いちゃいます。テツローはとってもいたいはずなのに、いつも笑って、あんしん、させてくれます。
テツローと遊びたいし、もっと一緒にいたいです。
カタハニアさん、が襲撃してから三日が経ちました。テツローさんはあの後、畑に種を植え終えると偶にしか顔を宿舎に見せなくなりました。狩りで捕まえた獲物や採ってきた植物や果物はいつの間にか保冷倉庫に入っているので、帰って来てはいるのでしょう。多分、作業小屋で休憩しているからお目にかかる機会が減ってしまっている様です。
でも、ご飯はちゃんと食べて欲しいです。この所、食糧の減りが遅くなった気がします。
テツローさんだけじゃなく、漆さんもテツローさんに付き合う形で、狩りや街に出かけている様なんですが、服には猛獣の物と思われる返り血の染みや、顔に打撲の痕があったりするので、無茶な鍛錬をなさっていないか心配です。
ヤタムナヤちゃんも、最近はめっきり笑う機会が少ない気がします。ご飯の時や授業の時には明るいんですけど、それ以外だと、いつも上の空で。
もう! テツローさんも漆さんもお説教ですね! ……じ、自信ないんですけど。
そして、彼らはやって来ました。
「この門を開けろぉ!!」
久々に畑の様子を見ていた俺の耳に正門から野太いノイズ混じりのおっさんの声が聞こえた。
正門まで急いで行ってみると、十人ぐらいの男の兵隊を背後に控えさせた骨みたいに細い男が拡声器を手に持って立っていた。
「ん?」
門越しに俺に気付いたな。完全に怪しい奴と決めつけてる目だ。
「何? あんたら?」
そんな態度ならコッチもそれなりの態度で応対する。
「……口の利き方がなってないな……! 我々は倭国戦闘部隊……」
「いいよ、長いのは、名前だけ言って」
カラスの鳴き声みたいな不快な声で高慢さを隠しもしない名乗りなんて聞きたくない。
「……貴様、余程処罰されたい様だな……!」
まるで小説のかませ犬にぴったりの小物が吐きそうな台詞だ。呆れてこのまま殺そうかと思うが、ちゃんと説明しないとね。
「俺ここの職員じゃないよ? 他の奴らは抵抗軍に寝返ったし」
「何だと……?」
おいおい、まさか何も知らないのか? だとしたら魔王も杜撰な情報伝達システムを開発しちゃったらしい。
「此処はもう俺の国だから」
「は?」
そう言った後、門越しにおっさんの胴体に手を突っ込み、心臓を掴む。掴まれた瞬間、間抜けな声を上げたおっさんを門にぶち当たるまで引き寄せ、背後に控えていた交戦準備を整えた兵士達に宣言する。
「あんたら全員、外敵として排除する」
心臓を握り潰した。




