エピローグ 魔王
「魔王様! これを!」
私がいつもの様に魔王城の中庭にあるガゼポで午後のティータイムを楽しんでいると、配下の人間が慌てた様子で遠くから手に何かを持って走ってきた。
やっと来た♡
表情を崩さない様に努力しているが、嬉しいのには変わりない。予定通りの行動。やはり私の恋人は私の物だ。
……先日、他の女が泥棒していたが、彼は私に夢中だ。
……まさか童貞が私じゃなく泥棒猫に取られるとは思わなかった。それは誤算だった。
……あんな声で鳴くのかぁ。可愛かったなぁ。
寝取られた事に憂鬱になりつつ、手紙を見せるように催促する。
「……見せてみろ?」
「ど、どうぞ!」
う〜ん……。やっぱりこの世界の人間は真面目すぎる。手紙を渡すのに、態々ひざまづいて顔を下に向けて差し出すのなんか、面倒臭い。それに胡散臭い。
渡された手紙を見てみる。
《魔王、首を洗って待っていろ。
犬と鳥が居る倭国第伍魔力研究所職員、尾口 鉄郎。
追伸
上の言葉の意味が分からない頭の悪い魔王だった時の為に一応、下に意味を書いておく。
必ず倒してやるから、待ってろクズヤロー♡》
……ふふふふふ。
ヤバい! 倒されちゃう! 私テツローに! あは! あはははははは!!!!
「ま、魔王様? お、お気を、静められて下さい」
ん? 声に出ちゃってた? ごめんね? 嬉しくってさ? 私に会いに来てくれるんだって!! 首を洗って待ってろだって!!
洗っちゃうよ!? 全身隅々!! あんなとかこんなとか呼ばれる場所も!!
だって私は貴方の女で、貴方は私の男なんだから。
「あの、どの様に対処いたしますか?」
「この研究所の所長宛にこの手紙をそっくりそのまま送り返せ。他の研究所の所長にもそう伝えろ」
「そ、その程度で、よろしいのですか?」
「あぁ、それで良い。そうすればこの手紙の男はあの猛獣や魔物、魔獣が彷徨く森に追い出されるか、所内で処罰を受けるだろう」
ま、そんな事で負ける様な男じゃないけど。うふっ!
「わ、分かりました! ではその手紙を……」
「いや、これは我が保管しておく。挑戦状など送られた事などないんでな?」
「いや、あの、どう控えめに見ても殺害予告としか……」
むう、しつこいな。えい!
「……ワカリマシタ。マオウサマガ、ホカンシテクダサッテ、ケッコーデス」
うん。よろしい! じゃ回れ右、駆け足で命令を伝えろ!
そう命令すると、配下は駆け足で走り去った。
……テツローの匂いが残ってるかな? スンスン。
え? 私の正体が知りたい?
いいよ? 教えてあげる。
そう言って私は元の情報の本流に戻り、他の平行世界の私が演じている人形を呼び戻す。
「ある時は倭国魔力研究所の本部長、メイ・ツオナウ!」
金髪の隻腕の軍服姿の少女が左腕を前に突き出して中腰で名乗り上げる。
「そしてまたある時はこの大陸を支配している魔王!」
紫色の髪に黒いローブ姿の女が右腕を掲げ、両脚を開き三角形になるような形のポーズで名乗り上げた。
「「しかしてその正体は!」」
名乗り終わった二人の真ん中で堂々と仁王立で紹介され、何処からともなく降り注ぐスポットライトに照らされた女。そう彼女こそ。
「テツローの恋人で最愛のお・ん・な♡ 沼田 夜雨で〜す!」
一昔前のアイドルのように無駄にその場で一回転して、両手を後ろ手に組み、体を横向きにして顔を真正面に向け、自分達三人以外誰も居ないのに、虚空にウィンクを一つした後、微笑んだ。
男はまだ女を知らない。彼女が何者で、自分が何者で、そして、どんな目的があるのかも。
そこに自分の真実がある事も。




