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異世界に囚われた僕と囚われてた姫達  作者: TE$TU
倭国第伍魔力研究所での日々
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第漆話 後

 僕はブリンガーが変化した潜溶岩艇で休息を取り、身体の傷や魔力の回復に専念していた。


 正直、時間の感覚が狂う場所で休んでいて良いのかと思うが、今の五郎丸に対抗するには完全な状態の僕でも難しいだろう。しかもここは彼女の領域と言えなくも無い。それによる新たな能力が生み出されているかもしれない。


 不安と使命感の両方が混在する不思議な心理状態だった。


 そして、事態は動いた。


(完全に回復したな。それと朗報だ。女が居たぞ)


 ! 何処だ!?


(我々の上方百メートルの溶岩溜まり上部だ。見ろ。あの女、火山を噴火させるつもりだ)


 はぁ!? よく見せろ!?


 確かに彼女は上に向かって西洋槍の様な形に変化させた左腕を突き出し、ドリルの如く身体ごと回転していた。


 ……嘘だろ? 上の地面を崩して亀裂を入れて、意図的に噴火させようとしてるのか!?


 なんでこんな事を……?


(さぁな。よっぽど腹立たしい事があるんだろ?)


 止めるぞ!!


(どうやって?)


 取り敢えず、


(取り敢えず?)


「轢き倒す!」


 全力で五郎丸に突進し、回転している彼女にぶち当たった。





 私は十九歳になり、第一魔力研究所に勤めていた。訓練生として魔物との戦闘、戦場への派遣、続けてきた自己鍛錬により私の肉体は一部分を除き、十五の時より遥かに筋肉質になった。


 (はは)は、二年前に結婚した。相手の男は私の事を知ってなお、コブ付きの母をコブの私ごと幸せにすると宣言していた。


 初めて母に紹介された時は感情の起伏に乏しい印象を受けたが、芯の部分は熱い物を持っているらしい。


 ただ、私はその時既に研究所で働いていて、戦闘課の寮住まいをしていたので、二人の新婚生活を邪魔する事は無かった。


 身体中にある大きな傷の幾つかは修業によるものだが、魔物や一年前に派遣された南の、……奴らとの戦闘で出来た傷の方が多かった。


 容易に体を穿つ速さの攻撃に私は真正面から立ち向かい、態と体に受け、両腕で相手を引き寄せ、左腕の機械義手で頭を叩き潰した。


 ある外皮が硬い魔物と遭遇した時は、口の中に砲身を突っ込む事で魔法を文字通り喰らわせてやった。


 戦地に派遣された私に届けられた手紙の中に、妹が出来た旨が書かれていた時は、同じテントに割り当てられた仲間と一緒に笑いながら涙を流して喜んだ。


 突然の左遷。


 憧れのメイ・ツオナウ閣下に面会できた事は嬉しかったが、要件が左遷宣告ではその思い出も台無しだった。


 姫、と出会った。


 地下闘技場の生贄として出てきた男と少女。


 そいつらは魔獣同士を掛け合わせて作られた混合魔獣の献体伍号を倒して殺した。


 間違いなく、姫の異能だ。魔王様が私に与えた天啓だ。復讐の第一歩だ。


 そして、そいつは私の目ノマエに敵としテやって来タ。


「おォオオおおグちィィイいいいいい!!!!」


 くっそ! 声だけで弾き飛ばされた! 注意をこちらに向ける事は出来たけど。


 なんで溶岩の中で音が伝わるんだ!? 非常識だ!?


(それだけの声量という事だろう。地上だったら今ので戦闘不能になっていたかもな)


 末恐ろしいな。さて、提案があるんだけど……。


(なるほど、それなら戦えるな)


 お、以心伝心。ならやってくれ。


(あの女はさせるつもりはない様だ。向かってきたぞ)


 ! 左腕にあの球体を纏わせて、回転させてる!?


(破壊力と貫通力を高めて、中にいるお前ごと私を破壊するつもりだな。槍の状態で更に先程のように体ごと回転されて、まともに接触したら、文字通り、一()の終わりだな)


 面白いと思ってるの? 冗談にしては性質が悪すぎるよ。


「でも、避けるのも間に合わないな」


 さぁ、覚悟を決めろブリンガー!! 合体(・・)だ!!


 瞬間、僕の魔力が大幅に減り、顎門の形をした潜溶岩艇は爆発四散し、その破片が突進していた五郎丸にも当たり、彼女の動きを止める。


(おい、これはむしろ変身(・・)じゃないか?)


「馬鹿!男が変身と叫ぶ時は好きな女性にプロポーズする前の準備の段階でだ! 僕にはまだ早い!」


(無いはずなのに頭が痛い)


 何を言っているんだこいつは? 頭なんて無いだろうに。


 爆発の後から出てきた僕の姿は、全身にスラスターがある鬼。にちゃんとなっているだろうか。ブリンガー、全身鎧(スーツ)はどうなった?


(……問題ない。全身の装甲は人型になった事で顎門の時より厚みを増した。頭に付いているセンサー機能の二本角はお前の想像通り、日本の赤鬼を模した。呼吸も周りの熱を変化して酸素として常時生産されている。全身に付いているスラスターはこの溶岩の中でも十分な推進力を持ち、機動力を発揮するだろう。


 ただ……)


 なんだ? ブリンガー? その嫌な間は?


(お前の魔力が尽きた。鎖やスラスターの使用可能までの魔力が回復するには、最低五分は必要だ)


 な、何だと!? まだ魔力はあるだろ!?


(それは妖精を呼ぶ為に使われる魔力だ。私の行使に必要なのはお前自身の、多少は増えたカス魔力だ。)


(テツロー! 今からいう名前を叫べ! その者ならばその環境でも戦える!)


 クリクリさん!?


(早く叫べ!! 『バラン』と!!)


 気がつくともう体勢を立て直した五郎丸がこっちに向かってきていた!!


「バラン!!」


 僕の中の魔力がクリクリさんの時よりも多く減り、少しずつ魔力が減り始めた。僕と突進してきた五郎丸の間に入り、突進を二本(・・)の右腕で受け止めた存在。


 彼は青かった。真っ赤な溶岩の中で一つだけ青く燃える筋骨隆々の六本腕の巨人。


「バラン、参上いたしました。鉄郎様」


 お、おおおおおお!! かっ、かっこいい!!


「鉄郎様。このご婦人をどう致しますか?」


「あ、あの、殺さないで足止めしてもらえます? 彼女の力を何とかしないといけないので」


「承りました。では、クリクリ様からお聞きした地下闘技場まで押し戻します。鉄郎様もお連れいたしますが、よろしいですか?」


「は、はい、よろしいです……」


「では……」


 そう言うとバランさんは僕を残った四本の腕の後ろの右腕と左腕二本でしっかりと捕まえ、残った二本で五郎丸の体を押さえつけ、溶岩の海をロケットスタートで進み始めた。


 潜溶岩艇ブリンガーよりはやーい。状態である!


(私の存在理由が……)


 お、落ち込むなよ?


 真っ黒になって魔力切れを表したブリンガースーツがさらに哀愁を誘う。黒くなったのは僕の魔力がないって事だったのか。


 ? じゃあ、あの地下闘技場の時のあれは何だったんだ?


 そんな疑問を頭に浮かべた僕にバランさんが丁寧な口調で喋りかける。


「鉄郎様。地下闘技場に着きます。私は継続してこのご婦人を足止めいたしますので、鉄郎様は魔力の回復に専念して下さい」


「了解!」


 バランさんが勢いよく溶岩から飛び出し、僕達も地下闘技場に出る。


 そして、僕を投げ捨て、ええええええ!?


「ぬおう!?」


 と間抜けな声を上げて頭から闘技場の壁際の溶岩に突っ込んでしまった。


 何をするんだ、バランさん!?


 起き上がりバランさんの方に顔を向けると、目の前に光る刃の鋒があった。


 そして、その刃を辿るとそれに貫かれているバランさんの姿があった。


「バランさん!?」


(もしあのままお前を持っていたら、お前も貫かれていただろうな)


「オォグチィイイいいいい!!」


 狙いは俺ね。顔はバランさんの身体で隠れて見えないけど、とんでも無い事になってそうだな。


「ブリンガー」


(まだだ。少し魔力を貯めなくては)


つまり、俺の身体能力が重要になって来たわけね……!


(安心しろ。お前はあのメアリーの身体能力と嗅覚を手に入れた。格闘戦なら負けはない)


 あぁ、やっぱ吸収してたのね。


(当然だ。魔力を使わなくても、戦える様になるからな。お前とバランの二人で足止めしていろ。回復は今浸かっている溶岩でも十分可能だ)


 了解。それじゃ。


「合わせてください! バランさん!」


「御意」


 壁を蹴り跳躍、バランさんを飛び越えその先にいる五郎丸に、砲口にした左腕のブリンガーを向けて、放つ。


 溶岩が吹っ飛ぶが、その場にはもう居ないのは分かってる。センサーがいい仕事してるね。このままだと闘気球を纏わせた刃に変化した左腕に首を切り落とされるギロチンコースだ。でも……!


「二対一である事を忘れないで頂きたい!」


 胸の傷が治っているバランさんが左右の二本の腕を交差させて上の一本を犠牲にして、下の腕で半ば食い込んで受け止めた。


 そして、自分の上にあるバランさんの刃が食い込んだ残った腕を踏み台にして飛び上がり、突き上げる形で五郎丸にドロップキックを食らわせる。


 衝撃音と同時に吹っ飛んだ彼女は、未だ燃えている椅子が残る闘技場の客席に叩きつけられ、転がる。


 そんな隙を見逃さずに、僕はバランさんの掌の上で準備していた。


(テツロー! 回復したぞ!)


「よし! お願いします!」


「御意! ふんっ!!」


 バランさんは僕を投擲した。


 と同時に回復した魔力でヤタムナヤの首輪の様な物を左手に作りながら、空中で右手にも同じ物を作り始める。


 五郎丸が起き上がり咆哮を上げながら僕に突っ込む。


 振りかぶられる球体を纏った五郎丸の右腕(・・)


 彼女の首目掛けて突き出される首輪を持った僕の両手。


 交錯する溶岩に薄く照らされる二つの影。




 僕の左の視界を彼女の拳が覆った。




 グシャッ!



 頭蓋骨と目玉が潰れる音がした。





 私は係長となり、姫と献体伍号を倒した男は私の部下として、補佐官になった。


 その、両名が同室なのは知っていたが、ど、同衾までしているとは……。


 その事をやっかむと、姫が反論してきた。


『テツローはね、すっごいあったかいんだよ? 一緒にいる時も、一緒にねる時も、手をつないだり、なでなでしてもらうともっとあったかくなるんだよ?


 ぎゅーてしてもらいたくなるし、もっともっとお話ししたいって思うんだよ? テツローのこともっと知りたい! って。


 そう思っちゃ、だめなの?』


 その姫の言葉が、昔、母に言われた言葉の続きを思い出させた。


『君は弱い。でも、弱いままでもいいの。君は子供だから。


 それでも強くなりたいなら、守りたい人を見つけなさい。


 私はあの時、ボロボロの君と出会って咄嗟に助けたわ。治療を終えた君の姿を見て、私は竦んで看病すら出来なかった。


 だから、私はこの子を守りたい。そう決めたの。


 今もそう。必死に立って歩く練習をやっていた貴女を、こうして仇を討ちたいと絵で伝えてくる貴女を、私は、もっと守りたいと思ったわ。


 そう思っちゃ、ダメかな?』


 そう言いながら手を差し出した母に私は……。私は……?


 あれ? なぜ、こんな昔の事を、次々と、思い出すんだ?


 これ、は死ぬ間際の人間が、見る、走馬灯?


 あぁ、そうか。私は、死ぬんだな。


 ……! ……な!


 誰、だ?


 お……! 寝る……! 五……る! 目を……るな!


 はは。ボロボロじゃないか? 馬鹿なやつめ。私の為に……。


 全部覚えてる。私がやった事。やろうとした事。こいつがした事も溶岩から伝わってきた。


 私の為に人殺しまでするとは……。本当に馬鹿だ。


 なん……! くそ! ち……しょう!


 おいおい、左目が潰れてるじゃないか? 涙を流しながら、煤だらけの顔を歪ませるこいつの顔が、何故だか悲しい。


 守りたい。こいつを守りたい。


 ……愛しい。


 あぁ、ダメだ。でも、これだけは、したい。こいつとだけ。


 こいつを、私だけの、今だけ、最初で、最後の。


 奴の頭を、黒い前髪を掴んで、無理矢理、唇を奪った。


「「ん……」!?」


 右腕の力が抜ける。


 ふふっ。これで、良い。これでもう満足だ。



「さよなら、テツロー。


 私の、初恋」







「ふざけんな……。


 ふざけんなあぁああああああああああああ!!!!」


 狼の遠吠えには様々な種類ある。喜びも、悲しみも。


 姫を救えなかった男の叫びに含まれるのは、己への怒りと姫への懺悔。目から溢れる涙と血涙。


 姫だった女は恋する少女の様に笑みを浮かべて、眠った……。

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