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異世界に囚われた僕と囚われてた姫達  作者: TE$TU
倭国第伍魔力研究所での日々
24/37

第漆話 中

 一年。私が片腕の状態でまともに走ったりできる様になるまでにかかった年数だ。


 当時の私は、失語症、と言うものになっていた為、それから約十年。人前で話す事が出来ず、筆記で生活する事を余儀無くされた。


 そして、五歳になった私は、私を助けた身元引き受け人になった研究員に頼み込んだ。何枚も紙に訓練校の絵を、訓練で相手を倒す絵を、奴らを殺す絵を、私が奴らの屍の上に立つ絵を描いて、研究員に見せた。


 研究員はそんな私に言った。


『君は弱い。……』


 その時の私は、その一言で何も書けなくなった。


 その頃からだ。私が子供らしからぬ自主訓練を始めたのは。


 私は最初に顔の右側を焼く事にした。勿論目は潰さない様に注意した。


 痛みはなかったが、母と同じ位置にあった額と頬の黒子が無くなるのは、ちょっと辛かった。


 研究員に左の頬を叩かれて怒られ、抱き締められて泣かれた。


 少しだけ、嬉しかった……。




 僕は落下の勢いに任せ穴から飛び出した。


 下にあったのは闘技場の地面ではなく、煮え滾る溶岩の海……!


「くっ!」


 咄嗟に籠手の鎖を天井に投げつける。上手い具合に刺さり、下の溶岩と天井の間で宙吊りになる。


 『顎門』が受け止めていた石が落ちて、音もなく沈んでいく。


 下の光景を改めて見て、絶句する。


 次から次へと流れる汗を拭う暇すら鬱陶しい。


 闘技場の地面は完全に絶えず流れ続ける溶岩の下に完全に覆われ、客席と闘技場を隔てる壁に当たった溶岩の欠片が飛び散り、客席の椅子に引火して暗い地下空間に不気味な灯りを灯している。僕達を捕まえた被験体管理室特殊武装隊の人間だろうか、天井が崩落して落ちてきた岩塊の上に三人ほど退避しているのが見えるが、あまり長くは持たないだろう。段々岩塊が沈んでいるからだ。


 一言で表すなら、地獄絵図。


 それが幾人もの命を奪った地下闘技場の末路だった。


 ふん、自業自得だ。それにしても……。


「五郎丸の奴、何処だ?」


 そう、肝心要の彼女が見当たらないのだ。この溶岩地獄を作った張本人が、あんなに光っているのに、こんな薄暗い空間で見つからない訳はない。


「お〜い!! 助けてくれ〜!!」


「ここだ〜!! 気づけ〜!!」


 下の三人が僕に気づいたようだ……。


 正直、探す為に必要な集中の邪魔なのだが……!


「あの()ならもう居ねぇよ〜!!」


 ! どうやら、目撃者の様だ。


 ターザンの様に重心移動と腕の力で鎖を振り、客席の椅子が燃え尽きた場所に飛び降りる。


 危なげなく着地して、その場で今度は両手の籠手から出した鎖を岩塊に投げ付け、突き刺す。


「うぅらぁああああああああああああああああ!!!!」


「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!??」」」


 そして、思い切り足を踏ん張り、腕に力を入れて綱引きの要領で三人の乗った岩塊を壁まで引き寄せる。


 ドン……!と岩塊が壁に当たった音がした。壁際まで移動して壁の上に仁王立ちし、岩塊に突き刺したままの鎖を右手に持ちながら下の三人に問い掛ける。


「女は何処に行った!! 答えなければ命はないと思え!!」


 助かったと思い安堵の表情を浮かべた三人の顔に驚愕が走る。


 ちっ! こっちには時間がないのに!! さっさと答えろよ!!


 苛立ちながら右手で鎖を引き寄せ、岩塊を少し斜めにする。


 一人が後ろに仰け反り落ちそうになるが、他の二人がそれを助ける。


 これで喋ってくれるかな? てか、喋れ?


「わ、分かった! お、教えるよ! 地下だ! あの女、ここの地面に穴開けて、更に下に行ったんだよ!」


 何だと!?


「嘘じゃないだろうな!?」


「う、嘘じゃない! 本当だ!」


 くっそ、よりによって溶岩の中かよ! これ以上先に進むのは流石に僕も無理だぞ!?


「しゃ、喋ったぞ! た、助けてくれよ!」


「……誰が喋ったら助けるなんて言った?」


 鎖を思いっきり引っ張る。岩塊が完全に垂直になり、乗っていた三人は溶岩の上に投げ出された。恐怖と驚愕の顔で僕を見つめながら落ちる三人を、客観的に見れば、この時、僕は潰されたゴキブリを見る様な目で見下ろしていた。


 最初からこうするつもりだったので仕方ない。


 何故なら、もしあの三人が生き残っていたら、地上に戻った時に五郎丸に不利な証言をする事は間違いない。むしろ、奴らの事だ。脅しのネタにして五郎丸に関係を迫るかもしれない。金だけじゃなく、女の方にも。


 そんな可能性を残した人間は消した方がいい。


 だからさっさと五郎丸の力を封印しよう。そうすれば彼女は今まで通りの生活に戻れるのだから。


(オイ)


 思案していると、籠手が珍しく話し掛けてきた。


(なんだ? 今、大分急いでいるんだ)


(溶岩ノ中ヲ進ミタイノカ?)


(? あぁ。何か手があるなら教えてくれ)


(アルニハ、有ル)


(本当か!?)


(今、見セテヤル)


 そう言った瞬間に、僕は『顎門』になった籠手が大口を開けてきた。


 僕に向かって。


「は?」


 ばくん!




 十五歳になった私は訓練校を卒業して、訓練生として第二魔力研究所に配属された。


 私は訓練校では知識を取り込み続けた。抵抗軍についての情報、歴史、奴らが狙った姫という存在。姫の総数、姫の能力。そして、私の左腕の義手を応用した機械義手(バトルアーム)の独自開発の為に必要な知識、自らの内にある魔力を用いた運用法や運用効率の計算方法。農村出身の私では分からない言葉もあった為、必然的に私は六歳で入学し、卒業するまでの九年間を本の虫として過ごした。


 その間にも自主訓練は怠らなかった。毎朝走り込みを行い、家に帰ってからは勉学と鍛錬を交互にやりつつ、家事もした。


 出会った当初より少し老けた身元引き受け人から養母へとなった研究員の女からは、


『もう少し、女の子らしくしてみたらどう? おっぱいも大きいんだしさ?』


 と、言われたが、女らしさは強さと関係ないから要らない。と、突っ撥ねた。


 あと胸。謎だが十二の頃から急激に増えた。母は普通だった筈だが、何故?


 胸に脂肪なんて溜め込んでも無意味だ。ただ高飛車な女子を黙らせる武器の一つとしては、数えてやってもいい、と思っていた。


 その日、私は母と共に大陸統一後百三十年記念式典の余興の一つ、御前試合を見に来ていた。


 研究所に勤めている養母の親族として私も親族席に座って観戦する事になった。正直、気不味い部分もあったが、養母の親族とこの時初めて面会した。迎えに行った養母と共に来たのは腰の曲がった木製の杖をついた黒い帽子、黒い服に黒い手袋、黒い靴を身に纏った老婆一人だけだった。


 養母も両親を災害で亡くして祖母に当たるこの人に育てられたらしい。


 養母のいない間に聞いた初めての養母の身の上話に、私は声を出して、養母を呼んでみたくなった。


 お母さん。と……。


 その時の私は、まだ声は出なかった。


 今回の試合で戦うのは、当時の本部の本部長である男とメイ・ツオナウと言う、無名の地方の戦闘課の職員だった。


 その組み合わせを見て誰もが思っていた。


 本部長の株を上げる為、ひいては魔王様へのご機嫌取りの為、そして勝った者への褒美を確実に受け取る為の出来レース地味た試合だと。


 人国主義のこの国の方針に真っ向から喧嘩を売っていると。


 私もその一人だったが、御前試合用に設けられた闘技場にメイ・ツオナウが入場した際に空気は一変する。


 先ず入場してきたのは本部長だった。趣味の悪い装飾を施された鎧と、鈍器系の装備が積まれた全長五メートルの大型の人型機械兵器(バトルアームズ)に、観客席に居た男達の興奮の歓声が轟いた。


 あれのどこがかっこいい? 全く分からん。


 そして、次に入場してきたメイ・ツオナウの姿を見て、観客席、そして対戦相手の本部長すら驚愕した。


 彼女の装備していたのは機械兵器ではなく、舗装されていない街道の工事や岩肌が剥き出しの山道などの作業に使われる全長三メートル程の多脚型の機械義足(バトルレッグ)


 しかし、普通の機械義足(バトルレッグ)ではなかった。


 一言で言えば、刃。


 明らかに機械兵器(バトルアームズ)の武装の一つである大刃の形を機械義足(バトルレッグ)の装甲として転用したのだと分かった。


 御前試合の開始の合図が鳴り響いた。


 本部長が乗り込んだ機械兵器(バトルアームズ)は片手持ちの槌を、何と投げつけた。


 牽制か、はたまた相手の実力を見る為の布石か。


 回転しながら向かってくる槌をメイ・ツオナウが避けたか? 防いだか?


 蹴りと同時に放った機械義足(バトルレッグ)の刃で切り裂いた。


 世界が止まった。そして、震え始めた。


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 衝撃的な光景に観客席の人間が立ち上がり、熱狂した。


 機械兵器(バトルアームズ)の装備にはどれも魔王様が製造されるヒヒイロカネが使われている為、切り裂くなんて芸当をするには、あの機械義足(バトルレッグ)の装甲にもヒヒイロカネを使う必要があるが、そんな事を引き受ける前衛班の整備係の整備士などいる訳ない。


 金がかかるからだ。溶かして鋳造するにも、莫大な量の熱が無ければ変化を起こせず、研磨して加工するにも、ヒヒイロカネ製の鑢で数時間も削り続けなければならない。


 そこで気付く。あの機械義足(バトルレッグ)の装甲に削りカスのヒヒイロカネが使われたのでは?


 もしそうなら、加工済みのヒヒイロカネ製以外の装備や装甲に削りカスのヒヒイロカネを吹き付けるだけで、あんな芸当が出来るという事だ。


 私はその結論に至り、興奮した。そして、


「すごい……!」


 この時、声を取り戻した。


 その後の試合の結果は当然、メイ・ツオナウの圧勝だった。




 あのさ、本当に怖かったんだよ?


(ス、スマナイ……)


 ねぇ? 緊急事態であの時間のロスは痛いのよ。状況把握してる?


(……ハイ)


 よろしい。


「それにしても溶岩の中を進めるなんて、凄いな」


(当然ダ。コンナ温度、屁デモナイ。


 逆ニ熱ヲ魔力ニ変換シテ、オマエノ魔力ノ消費ヲ無クシテル。暫ク待テバ回復ニ転ズルダロウ。女ハ探スカラ、休ムカ、助ケル方法ヲ、考エテイロ)


「おぉ、すごい自信だ。じゃ、あとは任せた。ブリンガー」


(? ブリンガー、トハ何ダ?)


「お前の名前だよ。何時までも籠手子とか、籠手じゃ味気ないだろ?」


(ブリンガー……。名前。俺の名前はブリンガー)


 ん? 片言じゃなくなった?


(これから、よろしく頼む。テツロー)


 お、おう、あ。


(なんだ? テツロー)


「外の景色見たいんだけど……」


(分かった。透明になって外の光だけを熱を無視して内部に投影しよう)


「おぉ……! 思わず目的を忘れそうな景色だ」


(満足か?)


「あぁ、ありがとうブリンガー」


 それはこっちの台詞だ……。

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