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17 現実世界にて②

 ゲームプレイ2日目を終えての目覚めは、やはり快適だった。すくっと起き上がり、階下に降りる。そんな中考えてしまうのは、やはり昨日体験した出来事だ。

 王女と出会い、そして魔法を貰った。それがイベントだったのか。それとも、彼女(AI)の気まぐれだったのか。どちらだとしても、コクヨが得た魔法は、貴重なものに違いない。なんせ、まとめに載っていないほどのものなのだから。私はまあ、オマケで得してしまった感じだが。


「あらー、つゆり、今日も早いのねー?」

「ふふーん、偉いっしょー」

 下に降りると、昨日のように母がまた茶化してきた。私はそれを軽くいなして、リビングに向かう。しかし、そこに姉の姿はなかった。


「お姉ちゃんって、今日は大学、一限からあるんだ?」

「そうみたいよー」

「ふーん」

 今日はあの鬱陶しい挨拶を聞かなくて済むのか。それが嬉しいような、少しだけ寂しいような、そんな複雑な思いを持ちながら、朝の支度を済ませる。

 ……いや待った、寂しくない寂しくない。何毒されてるんだ私。

 ぶんぶんと頭を振りかぶって毒された思考を徹底的に排除し、朝のルーチンワークをいつも通りに済ませた私は、学校へと向かった。


 □


「めぐ、おはよ」

「あ、つゆり、おはー」

 今日は駐輪場で会わなかっためぐと、教室で朝の挨拶を交わす。


「ね、めぐ! クォーターズ・オンラインのことなんだけどさっ!」

「うわっ、いきなりどうした?」

 詰め寄ったら思いっきり引かれたので、「あ、ごめん」と身を戻す。


「で、何? どしたの朝から」

「あのね、話せば長いような短いような、なんだけど」

 彼女に、とにかく順を追って説明する。

 姉の様子が、最近少し変だということ。その原因を知りたい、ということ。エルフさんという有名プレイヤーが、姉である確率が高いこと。そのために、リーンディアになるべく早くに行きたいということ。そのため、恐らく高レベルプレイヤーであるめぐに、協力を願いたいこと。

 説明を終えると、めぐは自身のポニーテールを右手の人差し指でくるくると回す。これは彼女が考え事をする時の癖だった。私は彼女の思考が終わるのを待つ。

 やがて髪が回転を止めたかと思うと、めぐが口を開いた。


「うーん、正直なとこ言っちゃうと、あんまり長い時間拘束されるのは無理かな」

「えっ」

 てっきりめぐなら協力してくれるとばかり思っていた私は、思わず驚きに声を上げてしまう。すると彼女は慌てて補足してくれた。


「別に、嫌とかじゃなくてさ。私いま、メインの攻略してるトップ組に所属してるから。他のプレイヤーと足並み揃えたいんだよね。1日とか2日なら抜け出してもそんなにレベル差とかはつかないだろうけど、やっぱり躊躇しちゃう部分はある」

「あー、そっか……それもそうだよね」

 あの世界の楽しみ方は人それぞれで。私やコクヨみたいにのんびりとやっていこう、という人もいれば、グスちゃんみたいに自分の夢を再び叶えるためにプレイする人もいるだろうし、めぐみたいにメインイベントをばりばりこなす人も当然居るだろう。

 メインイベントの敵は強いらしいし、攻略しようとすれば、当然プレイヤー同士の協調性が要求されるに決まっている。そんな彼女をこちらの事情に引っ張り込むのは、とても気が引けた。


「あー、そっか……じゃあ他の人をあたってみるね」

 とは言っても、他のアテなどないわけだが。この場で言っても仕方が無いことなので、笑って身を引こうとする。が、めぐは「ちょい待ち」と、私を止めた。


「さっきも言ったけど「あんまり長い時間拘束されるのは無理」だって言ってるだけ。1日や2日なら大丈夫だよ。リアルの都合を優先したい時もあるって、みんな判ってくれるし」

「え、でも1日や2日で春国まで行けるの? だって、秋国からだと、一番遠いよ?」

「ほらそこは、強行軍って奴だよ」

「うわあ」

 思わず胸中の気持ちが声として外に出てしまった。

 めぐはそんな私の反応に、心底おかしそうに笑う。


「なるべく早く行きたいってのは、つゆりじゃんか! 大丈夫、私に任せておけばちょちょいのちょいやで!」

「ジョイくんっ……!」

 その流れがあまりにも嵌まりすぎて、お互いにぶっと吹きだしてしまった。


「まあ、ジョイ君は冗談としても。土日の2日間あれば、行けると思うよ。あ、ちなみにつゆりのレベルは?」

「んっと、まだ6……友達は4だね。で、もう一人協力してくれるドワーフの人がいるんだけど、その人は「隣国に行くくらいのレベルはある」って言ってたけど、具体的なレベルは聞いてないや」

 グスちゃんの戦闘面に関しては、あとはハンマーを振り回してるという情報くらいしかわからない。協力をお願いした時点で、もうちょっと聞くべきだったと今更反省。


「んー、せめてつゆりのレベルが2桁はないと守るにしても厳しいかもなー。魔法は何覚えてる?」

「『ファイアボール』と『ライト・ビロウ』の二つ。あとは妖精共通の飛行とテレポートだけ」

「お、プレイ2日目にして光属性の魔法ゲットとは結構やるじゃん。で、一緒に行く友達の子って、昨日言ってた闇精霊のコクヨちゃん、だっけ?」

「うん、それであってる」

「精霊ならギリ一桁ってくらいでも行けるかな。その子の覚えてる魔法は判る?」

 その問いかけに、私は一瞬固まる。一度ゆっくりと呼吸をして、自分の心を落ち着けてから、指折り数えて答えた。


「えっと、『ダーク・ビロウ』と、『リトルキュア』の二つだったと思う」

 蘇生魔法については、二人でした約束だったので、伏せることにした。めぐは友達だが、やはり守らなければいけない一線、というのもある。


「あ、HP回復持ちなんだ。なら結構アッサリ行けちゃうかも」

「そういうもの?」

「うん。私が守るにしても、さすがにノーダメってわけにはいかないからね。つゆりとそのコクヨちゃんには、自力で回復してもらわないと」

「あ、なるほどね」

 そこまで会話が進んだところで、朝のショートホームルームを告げる鐘が鳴った。私はまた後で、と彼女に手を振って、自分の席に戻る。

 とりあえず、何とかリーンディアに行く算段はつきそうだ。

 あとは姉を見つけたときに思わずドロップキックをかまさないよう、自制心を鍛えるだけ。

 たとえ何を見たとしてもこっそり探ろう。これは隠密活動。そう、私は妖精だけど忍者になりきるんだ、と決意して、ぐっと拳を握り締めた。


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