1
顔面に激しい衝撃。
眼前が90度左向きに変わった。
遠く聞こえるのはクラスメイトの叫び声──
「……知らない天井」
起き上がると体がジワっと痛んだ。真っ白なベッドに真っ白な掛け布団。痛みの持続に身構えるが、案外こなかった。
隣との空間を仕切る薄水色のカーテン。足元には
シューズがある。書かれた名前は『高本』。
高本……私の名前、高本だったっけ?そんな気もするし、そうじゃない気も。
シャっ、とカーテンが開いた。白衣を着た大人が姿を見せる。
「あ、起きた?大丈夫?一応マネージャーさんには連絡入れといたからね」
「……マネージャー???」
「そう。体育のときに顔にバレーボール当たって倒れましたって。まあ、舞台終わったばっかなんだってね。その疲れもあると思うから、今日はもう帰んなさい」
諸々の言葉が理解できず固まるしかできない。
カーテンで開かれた先、保健室の中にある鏡に私の顔が写っている。
グレーの髪、ショートヘア、顔立ちも服装も中性的、そしてとにかく──
「面が良い……」
どう見ても美形だ。
顔や体をペタペタと触る。自分が、美形になっている。
「え!?顔が綺麗!!え!?先生、私顔綺麗!!」
「え?そうでしょうね」
「何でそんな反応薄いんですか?私美形です!」
鏡に映る興奮している姿、それもまた美形である。
「女優なんだからそりゃ顔綺麗でしょ〜。はいはい、元気になったんなら教室戻りなさい。せっかく学校来られたんだから」
「先生、もう少し鏡に映る自分を見ていたいです」
「帰れ」
保健室から放り出され、足の赴くままに廊下を歩く。多分こっちが教室だ。
2-Bという札のある扉、勢いよく開けると、中にいた生徒たちが音に驚いてこちらを見た。席はちらほらいない生徒が目立つ。
こちらを見ている生徒は、揃いも揃ってみな顔が良い。
……何だこれ、みんなツラがいい……
その中でも、私の目には際立って見える4人の生徒がいた。
まず、ミルクティーベージュの巻き髪の彼女。名前は小坂ひより。
次に、青のボブヘアの彼女。名前は加藤灯。
長い黒髪ストレートの彼女。名前は富田久実。
そして、その中でも一層目を引くのが、綺麗な明るい茶髪の彼女。影山美麗。
「……ああ!!!!!」
電撃のように記憶が走る。
私は、普通の学生で
ゲーム……
美少女が好き
最初の攻略対象──
中性的な見た目の子にしよう
ぐるぐると頭の中に記憶が回る。
──ここは……恋愛ゲームの世界だ……
『光ヶ丘学園 〜School Girls Love〜』
しゃらくさいサブタイトルがついてるゲーム、それがこの世界だ。
芸能活動を始めた主人公が、芸能科のある高校に通い出し、同じく芸能活動をしている同級生たちと愛を深めていく物語。
……なんと18禁ゲー。
身体中を毛虫が這うような嫌悪感に襲われる。
夢に向かい、幼い頃から日々努力を重ている私たちが、前髪で目も見えないようなポッと出の男に絆されて、あの手この手で手籠にされるだと!?!?そんなことありえない!!!
何せゲームの特性上、ラッキーなんちゃらも多いシステムになっていたはずだ。このゲームを作った大人は分かってないんだろうが、着替えの最中を見られるとか、その日だけじゃなくその月中凹むようなクソイベントだ。
もう一度教室を見渡す。
主人公であろう見た目の男はいない。
……主人公の設定は3年生。
我々は今2年生。そのタイミンングで前世の記憶が舞い戻った。それには何か意味があるのではないか?つまり、この一年間、私が頑張れば、みんなが男とくっつくというのがなくなるのでは?
……決めた。私が先にあの子達を攻略する。
「高本、大丈夫か?」
先生の言葉で我に変える。
「……大丈夫です」
こんな世界、大丈夫です。
私は、絶対にこの子たちを男の手に落とさない。




