第一話 幻想皇国アルカディアの第一皇女の誕生
かつて神の使徒とされた竜は世界の王であった。天を裂き、大地を統べ、あらゆる命の終わりを見渡していた。その力はあまりに強く、竜に一つの懸念を抱かせた。
竜は理解していた、このまま己が統べていれば、世界は予想より早く尽きることを。
ゆえに竜は選んだ。
「ならば我らは、人の姿を借り、月と夜を象徴とし、”管理する側”になろう」
自らの姿を捨てるのではなく、在り方を変え、正しく扱うための形として、竜は世界の王ではなくなった。
竜はその力を瞳に宿し、理性を人に宿し、知性を人に託した。かくして竜は”人の姿をもつ人の王”であり、世界の生命を導く”調停者”となった。
それは後に、竜血皇族と呼ばれる系譜を生み出した。
月は王の象徴、夜は国の証。それらは竜が己を縛る枷であった。
竜血皇族は人を捨ててはならない。
それは掟ではなく、世界そのものとの契約である。
幻想が尽きる時、月は名を捨て、夜は形を失い、竜は理性を失う。
それでも、国を守り続けるのだと。
そして今をなお、竜は眠らない。月と夜の下で全ての生命を見守り続けている。
これが幻想皇国アルカディアの始まりである。
_暗闇から起きるように体の感覚が戻ってくる。でも、おかしい。
うまく動かない、感覚も鈍い。戦場特有の気配もない。
ここはどこ?
そんな思考を巡らせているとすぐそばから声が聞こえている。
「我が子か、可愛らしい娘に相応しい名をつけねばな」
落ち着いた、温かい声。銀髪に高位の者であることを示す威厳ある服装そしている。
「そうだな、お前の名はヴァルクシアだ、ヴァルクシア・ルナ・ノクティルーヴァ」
私は 幻想皇国アルカディアの竜血皇族のクティルーヴァ家の第一皇女であり皇帝テネブリウス・エクリュム・ノクティルーヴァの一人娘として生を受けたのだ。
その名が落とされた瞬間、赤子である胸の奥に微かな”重さ”だけが残った。
意味はよくわからない、だが、それが自分のことであるという事は分かる。
_皇女、竜血皇族。
なんだ、それは。
思考はそこで止まる。止められたわけではない。赤子の脳ではそれ以上をあまり思考できない。
その瞬間抱き上げられる。
彼女の父、テネブリウスは、彼女を腕に収めると、まるで壊れ者を見るように、一度だけ目を細める。
「泣かんな」
ただの事実のように言葉を吐く。
「泣かなくてもいいが、笑っている方が俺は好きなんだがな」
その言葉にヴァルクシアはほんの少しだけ眉をひそめる。
好き?理解ができない。
だが、頬に触れた指の温度が妙に”安全”ということを伝えていた。
__そして、ヴァルクシアの価値観は静かに壊れたように”変わり始める”。
最初は何も理解できなかった。ただ関わられる回数が多い。
起きても抱かれ、泣いても抱かれ、何もしていなくても抱かれる。
「泣いたな、えらいえらい」
「笑ったな、可愛い」
「今の顔は反則だな」
意味不明な評価が日々積み重なっていく。ヴァルクシアは最初、それを”観察”だと思っていた。
だが違った、それはただの愛情だった。
時間が経っていくごとに、以前の思考が消えていく。惜しまなく注がれる愛情に、困惑しつつ受け入れていく。自然と体の年齢に合わせて子供、人間になっていく。
3歳になった頃には、ヴァルクシアはちょっと賢いただの子供であった。
父であるテネブリウスの跡をついてまわって、甘まえて好き勝手していた。
「お父さま!みてみて!」
気づけは言葉が軽くなり、語彙が柔らかくなっていた。
「お父さま、これなあに?」
「花だ、このくらいになると咲く」
「おはな!きれいだねえ」
「そうだな」
そして何より、__笑う回数が増えている。
「お父さま!これできたの!」
テネブリウスは何も言わず何か言えば、頭を撫でてくれる。
走り回り、怒り、泣き、笑い、拗ねる。
「もう!お父さまばっかりずるい!」
「何がだ」
「本読んでばかっか!」
「ヴァルクシアも読めばいいだろう」
「むずかしいのやだ!」
そう言って頬を膨らませる。だが次の瞬間には、侍女にお菓子をもらって機嫌を直している。
「これおいしい!」
「そうか、よかったな」
「お父さまも食べる?」
「後でな」
「えー今がいいの!」
テネブリウスは少しだけ黙ってから、それを受け取る。
「....甘いな」
「でしょ!」
誇らしげに笑う。
その姿は、かつて戦場を駆け回り、”魔女”と恐れられ、”戦闘人形”と呼ばれた過去とは、完全にかけ離されていた。
いやあ、時間の経ち方を書くのは難しいですね。主人公の名前はヴァルクシア、愛称ルシアちゃんです!
親の愛を受けて、感情が豊かになった、子供らしいルシアちゃんは可愛いですね!これからも怒涛の展開が多いと思いますが、初めて書いている作品でもあるので温かい目で見てくれると嬉しいです!




