第3話:パンのにおい
カフェ「Ao Bakery」の温かなパンと、美咲のやさしさに出会ったレイナ。
ほんの少し心を開いた少女は、初めて他人に「おいしい」と言葉をこぼす。
パンの香りがつなぐのは、栄養ではなく、心の居場所。
一方、父・陽介は、偶然そのカフェで娘と美咲の姿を目にし、衝撃を受ける。
カフェ「Ao Bakery」。
木の温もりを感じるカウンター席で、レイナは小さく座っている。
美咲:「あったかいミルク、好き?」
レイナ:「……うん。パパが、小さい頃よくくれた」
レイナはそう言って、少し照れたように笑った。
美咲:「そうなんだ。じゃあ今日のパンは、あの頃を思い出す味にしてみようか」
棚から取り出したのは、ほんのり甘いミルクパン。
レイナは一口かじり、目を丸くする。
レイナ:「おいしい……なんか、胸の奥がぽかぽかする」
美咲はその様子を見て、ふわりと笑みをこぼした。
その頃――
昼休み。
陽介は仕事の合間に、いつものカフェへ立ち寄る。
レジに並んでいると、ふと、奥の席に見覚えのある後ろ姿を見つける。
陽介:(心の声)
「……あれは……レイナ?」
レイナの向かいには、美咲が優しく話しかけている。
陽介はそのまま近づくことができず、少し離れたカウンター席に座る。
レイナが笑っている。
誰かと話して、笑っている――
それが、自分ではないことに、陽介は胸を締めつけられる。
食後、美咲がレジに戻ってきたタイミングで、陽介は意を決して声をかける。
陽介:「……娘がお世話になってます。父の陽介です」
美咲:「えっ……あの子のお父さん……?」
陽介:「俺……何も知らなかったんです。1000円で、レイナが……」
言葉が詰まる陽介に、美咲は静かに答えた。
美咲:「あの子、いつも強がってるけど、本当はとても寂しそうです。
でも……パンを食べてるときだけは、少しだけ笑います」
陽介は目を伏せたまま、深く頭を下げた。
陽介:「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」
夜、帰宅した陽介は、レイナの部屋をノックした。
陽介:「……レイナ。今日のパン、おいしかった?」
レイナ:「うん! 美咲さんのパン、だいすき」
陽介はその言葉に、ほんの少し微笑んだ。
陽介:(心の声)
「ありがとう、美咲さん。君のパンのにおいが、あの子の心を救ってくれた」
次回予告
「次回、『あなたがママだったら』
少女の願いは、静かに生まれていた――」




