夏祭り 24
着物なのに思い切り抱きついて、皺にならないかなとか着崩れしたらどうしようかと思ったけど、初っ端からあれだけ動いてるのだから気にしなくていいかと自己完結した。
「ねえサヨ、さっきかんざしって言ってたよね?」
前に来た時、どうしたのか忘れたかんざし。確かにさっきした。でも何でその話題が今出るのだろうか。
「言ったけど、それがどうしたの?」
「サヨはね、ボクにかんざしを預けたんだよ。そのときサヨは髪を結んでいなくて、次来る時は結んでくるからかんざしを刺してねって言ってた。」
はっとした。
あたしは今、髪の毛を1つに結んでいる。
イズマはそっとかんざしを取り出すと、それをあたしの髪の毛に刺した。
「うん。よく似合ってる。」
とても喜んでいるのが、イズマの声でわかる。
そしてかんざしを刺した手であたしの後頭部を、もう片方の手であたしの背中をぎゅっと抱き寄せた。
大好きな人と正面からこうして隙間なくぴったりとくっつき合う。手を繋ぐとかの比じゃないくらい、いっぱいの幸せで満たされて、どうしようもなく泣きそうになる。
「ねえサヨ、約束を守ってくれて本当にありがとう。ボクを好きになってくれてありがとう。ここにいてくれてありがとう。大好きだよ、すごくすごく大好きだよ。」
その瞬間、花火の音が聞こえた。
イズマの後ろで大きな花火が暗い夜空を照らす。
タイムリミット。これであたしは戻ることができなくなったことを、その美しい景色を見ながら悟った。
それでもいい。いや、それがいい。
花火が何発か上がった後に、あたしとイズマ以外の全ての色という色が消え、真っ暗になった。
だけど真っ暗になったのも束の間で、目の前にぼうっと朱色の鳥居だけ浮かび上がる。あの神社の鳥居よりもだいぶ大きい。それがあるだけで、あの夏祭りの光景は無くなっていた。
「これは……いったい?」
「後ろを見てごらん。」
ここに来た最初にも似たようなこと言われたな。あれからそんなに時間は経ってないはずだけど、懐かしく感じる。
とにかくイズマに言われるままに後ろを向くと、そこにはさっきまであった社は無くなり、なぜか大きなお屋敷があった。歴史とかの教科書に載ってそうだ。それぐらい歴史のありそうなお屋敷だった。
「さっきと全然違うんだけど、どういうこと?」
「ボクが願ったからこうなった。」
とても端的な答えで結果しかわからない。
「もっと詳しく教えて。」
「もともとボクはこの世界の半人前の管理者だったんだけど、サヨという半身を得て、ようやくこの世界の神となった。だからあの繰り返す夏祭りを終わらせて、サヨとボクが統治する世界を作ったんだ。ボクたちは2人でひとつだからね。サヨと暮らすにはまったく何もないのも味気ないし、住むところは作ってみたよ。」
半人前の管理者は一人前になると神になるんだね。なんかの漫画の設定?それとも行き過ぎた啓発か?
なんて思わなくはないけど、あの夏祭りを経験するとそんな存在もあるよね、という気持ちになる。そもそも最初から管理者とは言ってたし。
いやしかし2人でひとつって、あたしも神ってこと?
そんな疑問が出たのでそのままぶつけると、違うとのこと。
よくわかんないけど、イズマとずっと一緒にいられるならそれでいいや。
「もうこの世界から本当に出れないよ。いいんだよね?」
「上等。頼まれても出てやらない。」
「ははっ。ボクだって、2度目は逃がさないよ。」
あたしの頭部を支えるイズマの手に力が入り、ゆっくりとイズマの顔が近づく。
とても満たされた気持ちで、あたしは、目を閉じた。
本編完結です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。