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憧れのスカート  作者: 赤坂秀一
第二章 受験
9/52

9 高校受験

いよいよ高校受験です。

 晩秋、かなり肌寒くなり街にはクリスマスの音色が聞こえる頃、二回目の模擬試験がありました。結果は、ギリギリ合格点をクリアしていたけど不安だ。

飛鳥(あすか)どうだった?」

「うん、何とかクリアしてた。瑞稀(みずき)は?」

「私もギリギリだった」

 久美(くみ)玲奈(れいな)も何とか合格点が取れてるみたいでした。しかし、安心するのも束の間、期末テストがあります。中三は、ずっとテストを受けている感じです。

 期末テストが終わった後、三者面談がありました。

「今村さんは、城南高校(じょうなんこうこう)だったよね」

「はい」

 担任の野島先生はちょっと厳しい表情です。

「まあ、ギリギリですけど合格点は取れていますので大丈夫だとは思いますけどもう少し頑張った方がいいかな」

「先生、高校では飛鳥のこと受け入れてもらえるでしょうか」

 母は試験よりも私の身体の事が心配でした。

「GIDだから不合格とか無いでしょうか」

「大丈夫ですよお母さん。その辺は内申書でもお願いしますので、後は飛鳥さんの頑張り次第です」

 流石(さすが)にこればかりはどうにもならないのでとにかく試験で頑張るしかありません。


 学校が終わった後、私は治療のため大学病院に行きました。ここには幼稚園の頃から通っているので顔馴染みの先生や看護師さんも多いのです。

「やあ、飛鳥君治療に来たの?」

 声を掛けて来たのは検査の時に知り合った霧島(きりしま)先生です。

「はい、お久しぶりです」

「上杉先生から聞いたんだけど医師を目指すんだって」

「…… はい」

 私はちょっと(うつむ)き気味に小さな声で返事をしました。

「自信なさげだな、大丈夫か?」

「あ、…… はい」

 しまった、この先生も精神科医だから心理状態まで知られてしまう。

「まあ、何があったか知らないけど上杉先生にちゃんと話さなきゃ駄目だぞ。それじゃな」

 そう言って霧島先生は病棟の方へ行ってしまいました。あの先生はちょっと苦手です。


「それは厄介な人に会ってしまったね」

「はい、なにかいろいろ見透かされているみたいで……」

「それで、何かあったの?」

「試験の結果があまり思わしくなくて……」

「あ、そうなんだ。それならクリニックで勉強は見るから頑張ればいいじゃない」

 先生はちょっと安心した表情で言いました。

「僕は体調が悪いのかと思ったよ」

 そうか、上杉先生はホルモン療法の副作用を心配したのでした。

「飛鳥君あまり心配しなくても大丈夫だからね」

 上杉先生が私の目を見ながら優しく言いました。先生とこうやって話をするととても安心出来るのです。

「先生とお話しすると何となく落ち着きます」

「そう、よかった。でも、これが僕の仕事だからね」

 その後、採血をしたあとその検査結果で今後のホルモン製剤の調整をします。採血はホルモン療法による副作用を調べたりホルモンバランスを調べるため偶に検査をするのです。

「それじゃ飛鳥君、クリニックでね」

「有難うございました」


 私は大学病院を後にして北条(ほうじょう)クリニックへ行くやいなや……

「飛鳥さん期末テストどうだった」

 美彩(みさ)先生に訊かれてしまった。

「あ、いや…… あまり良くなくて……」

 私は答案用紙を見せ復習をしました。

「でも、かなり良くなったね」

「そうですか?」

「だって文章問題以外は大体出来てるからね」

「あ、はい。単語はかなり覚えましたから」

 それともうひとつ教えて欲しい教科があります。

「あとは数学の図形問題なんですけど……」

「あ! それは秀一(しゅういち)さんに訊いてね。私は無理だから」

 キッパリと断られてしまった。

「先生今日は遅いんですか?」

「ううん、もう帰って来るはずだけどね。コーヒーでも飲んで待ってて」

 それから程なくして上杉先生は帰って来ました。

「秀一さん、飛鳥さんが図形問題を教えて欲しいそうよ」

「飛鳥君、どこかな?」

「先生、帰宅早々すみません」

 私は期末テストの答案を見せました。

「あ! これか、これは補助線を引かないとね」

「どの辺に引けばいいんですか?」

「今回のような場合は今ある辺と平行に線を引けば何かが見えてくる。ほら、同じ三角形が出て来たでしょう」

「あ、あとは面積を求めれば良いんですね」

「そういうこと。あと円や扇形は図形の中心から線を引けば二等辺三角形や正三角形を作ることが出来るからね」

「なるほど、有難うございます」

 私はしばらく復習をしたあとクリニックを後にしました。


 私は家でも遅くまで試験勉強をしました。数学で食塩水濃度を求める問題です。これもあまり得意では無いのです。

「あら、こんなの簡単よ」

「え! 美彩先生?」

 先生は、食塩水を私に無理矢理飲ませて来ました。

「うわあー! しょっぱい」

「これで食塩水の濃度が分かるでしょう」

 そこで私は目が覚めました。私はいつの間にか眠っていたようです。

「あ! 夢か」

 その日は勉強をほどほどにベッドで眠ることにしました。


 今日は終業式です。明日から冬休みです。しかし、今年は今日のクリスマスイブや一週間後のお正月も楽しむことは出来ません。冬休みが終われば私立高校の試験があります。その後、県立高校の選抜試験もあるため休み中も図書館通いになりそうです。家では姉が大学受験でかなりナーバスなのであまり家では勉強に集中出来ないからです。

「飛鳥、数学の食塩水の問題分かったら教えて」

 私は昨日の夢を思い出してしまいました。飲んだからといって濃度が分かる訳ないのに……

「ごめん、私もそこは苦手で」

「じゃあ久美に訊かなきゃ駄目か」

 瑞稀も玲奈もやっぱり分からないのか。

「あれ、ところで久美は?」

「さっき職員室に行ったよ」

「なんかあったのかな」

 その時、久美が俯きながら戻って来た。

「どうかしたの?」

 私達が訊くと久美は元気なさげに言いました。

「どうしよう…… 私、聖華高校(せいかこうこう)行けないかも……」

 そう不安な声で言いました。

「えっ、なんで?」

「模試も期末テストも点数が取れてなくて……」

「でも、模試はギリギリだったって言ってたじゃん」

「そうなんだけど…… 合格点が百三十点でもそれ以上の点数を取ってる人が定員以上いたら……」

「え! そんなに取れてなかったの? 数学あんなに出来るのに」

「私、数学以外は本当に出来ないから…… 英語なんて壊滅的で……」

 久美は不安いっぱいでずっと俯いていた。

「久美、あと何点くらい足りないの?」

「あと二十点くらい……」

「それなら一緒に英語頑張ろうよ」

「え! 英語?」

「私も英語は駄目だったけど文章問題以外なら出来るようになったよ。二十点くらいならすぐに何とかなるよ」

「そりゃ飛鳥は私と比べ物にならないくらい優秀だから」

「点数増やしたくないの?」

 私はそう言って久美をクリニックへ連れて行くことにしました。勿論、美彩先生には事前に連絡しました。


 私達は、夕方六時過ぎにクリニックへ行きました。美彩先生は久美のために特別なカリキュラムを組んでくれています。

「先生、私にはそんなカリキュラム無かったのに」

「それは短期間で覚えなきゃいけないことが多いから仕方ないのよ」

「先生すみません無理言って」

 久美は恐縮して頭を下げています。

「いいのよ、一人も二人もたいして変わらないから。どうせならもっと早く連れて来れば良かったのに」

 先生はそう言ってくれたけど私は大変そうに思いました。

「やあ、飛鳥君いらっしゃい。あれ、もうひとり増えちゃったの?」

「あ、上杉先生すみません。このままだと受験に間に合わなくなりそうだったので……」

「それは構わないよ。英語だけで大丈夫?」

「今回は秀一さんの出番はなさそうよ」

 美彩先生は微笑みながら言いました。

「えっ! どうしてだい?」

「だって数学だけは得意なんだって」

「あ、そうなんだね」

 上杉先生は少しがっかりすると思ってましたが俄然、久美に興味を持ったみたいで休憩中、上杉先生と久美は数学の話で盛り上がっていました。

「ねえ、飛鳥が言っていた先生のことだよね」

「えっ、どんなこと言ってたの?」

「修学旅行で行った宮島のこと、いろいろ教えてくれたじゃないですか。そのことをみんなに話している時に先生の名前を出して話してたんですよ。みんな知らないのに」

「なるほどね」

 久美は先生達ととても仲良くなり明日の夜もまた来ることになりました。

「久美さん、飛鳥さんそれじゃまた明日ね」

 私達のクリスマスイブは勉強三昧の夜でした。


 年が明け学校が始まり、もうすぐ私立高校の入試があります。まだ、私立高校だしそんなに慌てることもないのに何故か焦ってしまう。

「飛鳥、どうしよう」

「大丈夫だから美彩先生の模試では余裕で合格点取れてるでしょ」

「そうだけど……」

 まあ仕方がない、私だってどうしようもなく焦ってしまう。これは試験が終わるまでの試練なのだ。でも大学を目指しているのにこんなところで焦ってどうするんだというところだ。

 姉も土日で大学入学共通試験がある。これは以前大学入試センター試験と言っていた試験です。こっちもいよいよ大詰めだ。


 そして、私立高校の入試です。私立高校はみんな城北高校(じょうほくこうこう)を受験します。私立高校は面接が無いので朝から夕方まで一日掛で五教科試験があります。一限目が国語、二限目が数学、三限目が理科、これは得意科目なので問題なし四限目が社会、昼食を挟んで五限目が英語です。英語は美彩先生から特訓してもらっているので大丈夫、たぶん……。数学は上杉先生からポイントとかを教えてもらってるのでなんとかなる……

 四限目の社会まで試験が終わりお昼ご飯です。私達は弁当持参なのでゆっくり出来ます。

「ねえ瑞稀、どうだった?」

「問題無いよ。それにここは五教科で百点も取れば合格出来るから」

 まあ、確かに滑り止めの受験だし保険みたいなものなのだ。

「久美はどうだった?」

「うん、何とか大丈夫。たぶん」

 怪しいところだけど大丈夫だろう。

 午後の英語の試験も無事に終わり私達はカフェでお茶でもしてから帰ることにしました。

「匠君達はどうだった?」

「まあ、余裕だろう」

 松野が笑顔で言った。

「松野大丈夫か? あんまり余裕ぶっこいていると後悔するぞ」

 引きこもりの治療を受けている梅崎君が松野に突っ込んでいる。この風景は日常だ。しかし梅崎君も薬はまだ飲んでるみたいだけどかなり回復したみたいで安心しました。霧島先生ってやっぱり優秀なんだと思いました。

「俺は数学がちょっと気になったかな」

「問四の問題だよね」

「うん。あれはちょっと自信ないかな」

「多分あれは引っ掛けだよ、私も迷ったから」

 久美が冷静に判断した。

「やっぱりそうか」

 どうやらみんなあの問題には引っ掛かったようでした。

「飛鳥、今日クリニックに行くでしょう」

「うん、とりあえず報告がてらね。久美も行くでしょう」

「うん、ひとりだとどうしようかと思ったけど一緒で良かった」


 夕方のいつもの時間にクリニックへ行きました。

「どうだった?」

 美彩先生も気になっていたみたいです。

「たぶん大丈夫です」

「そう、良かった。問題用紙とか持って来て無いよね」

「先生、問題用紙は持って帰れないから」

「そうなんだ残念!」

「でも数学のあの問題は気になるよね」

 久美は何気に言ったけどちょっと今は駄目だよ。

「数学はいいから英語で気になったとこは無かったの?」

「英語は先生がピックアップしていたから問題無かったかな」

 私はちょっと苦笑いでした。

 その後、上杉先生が帰って来てから例のあの問題で話が盛り上がりました。

「間違いなく引っ掛け問題だね。それで解くことが出来たの?」

「気づいたときには時間が無くて書き直せなかったんです」

「それは残念だったね。でも無事に終わって良かった。あとは県立高校の試験だね」

 とりあえず私立高校の試験は終わりました。なんとなくスムーズに私立の試験が終わったのでちょっと気が抜けた感じです。しかし、本命はこの後にある県立高校の試験なのでここで気を抜く訳にはいきません。


 試験が終わって数日後。

「飛鳥、私立の試験どうだった?」

 姉から何気無く訊かれた。

「うん、大丈夫だよ。意外とすんなり行った」

「そう」

「お姉ちゃんこそどうだったの?」

「B判定だったからたぶん大丈夫」

 試験前の姉とは思えないくらい機嫌が良い。

「ところでお姉ちゃんはどこの大学に行くの?」

「私?」

「うん」

「言ってなかったっけ、橋本大学の教育学部」

 なんと、姉は橋本大学を目指していた。私も私立は橋本大学や一條大学をと思っていました。どっちにしても姉とは学部が違うので一緒にキャンパスを歩くことは無いとは思うけど……

 その数日後、私立高校の合格発表が担任の先生からありました。

「私立高校は全員合格です。点数は希望者のみ教えますので聞きに来てください」

 やけに簡単な発表だった。


 三月、県立高校の一般選抜試験です。私と瑞稀は先生の引率で試験を受けに行きました。初日は筆記試験だけなので問題なしですが二日目、問題の面接です。ここでは私のGIDについて訊かれると思います。

「中にどうぞ」

「はい」

 返事をして中へ入ります。中には四人の先生方がいて私は注目されています。もう、それだけで緊張で胸が張り裂けそうです。

「お名前をお願いします」

「今村飛鳥です。よろしくお願いします」

「どうぞ、お掛けください」

 その後、志望動機や好きな教科など訊かれた後、例の事について訊かれました。

性別違和(せいべついわ)について中学校から聞いてはいますけど今村さんとしては何か要望はありますか」

「はい、戸籍上は男性ですがホルモン治療も受けていますので、女子生徒として扱って頂ければと思います」

「うちの場合男女別のクラスになる事がありますけどその時は女子クラスにという事ですね」

「はい、体育の授業も女子という事でお願いしたいのですが……」

 先生達は話をしています。やっぱり難しいのかと思った時でした。

「見た感じも女性そのものだと思います。男子と一緒にする方が問題がありそうなので女子として受け入れたいと思います。合格した場合制服も女性用でお願いします。後のことはその都度考えて行きましょう」

「有難うございます」

 なんとか無事面接も終わり、先に終わった瑞稀のもとへ行きました。

「飛鳥! 大丈夫だった?」

「うん、いろいろ訊かれたけど女性扱いしてくれるって」

「それじゃ後は合格発表だけだね」

「よし、それじゃ前祝いでお昼でも食べて帰ろうか」

「先生、私達お金持って来て無いですよ」

「お前達、昨日も引率の山田先生にご馳走になったんだろう」

「はい」

「俺もご馳走するよ。前祝いって言ったろう」

「やったー」

 その時、背後から冷たい視線を感じました。女子生徒から睨まれています。

「あ、私達うるさかったみたい」

 そう言っていそいそと静かに廊下へ出て行きました。

「他の人達も騒いでいたのになんで私達だけ睨むんだろうね」

「さあ? とにかく食事に行こう」

 私達は城南高校をあとにしました。これで高校入試は終わりあとは結果を待つだけです。



受験が終わり合格する事が出来たでしょうか?


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