10 クールな女子高生
いよいよ高校生活が始まります。
私達は中学校を卒業しました。最初の年は恐喝事件に巻き込まれどうなることかと思いましたが無事卒業する事が出来ました。しかし、県立高校の合格発表は明日なのです。卒業式の帰り道、私は不安を隠しながら言いました。
「瑞稀、明日合格発表一緒に見に行こう」
すると瑞稀も……
「勿論だよ。お願いだから私ひとりにしないでよ……」
瑞稀もやっぱり不安なのでした。私だけじゃないんだ。
「ねえ、発表を見たあとみんなで集まらない」
久美が誘って来た。久美は不安とか無いのかな、それとも……
「うん、今後五人揃うのは難しいかもしれないしね」
「飛鳥と瑞稀は別の高校に行くんだしなあ」
みんな何処と無く淋しくってやっぱり不安なんだと思う。
「それじゃ明日結果を見たあとバスターミナルで良い?」
「うん。LINE送るね」そう言って私達は別れました。
「あれ、飛鳥どこに行くの?」
「大学病院だけど」
「治療?」
「うん、今日は検査もするから時間が掛かるの」
「検査って?」
「ホルモン治療は副作用があるから偶に検査をして副作用が無いか調べるの副作用がある場合はそれに応じてホルモン製剤の量を減らしたりして調整するの」
「治療って言っても大変な思いをしてるんだね」
「もうだいぶん慣れたけどね」
その後、私は大学病院までバスで行きました。
「飛鳥君、今日は卒業式だったでしょう。明日でもよかったのに」
「でも、明日は県立高校の合格発表で、その後みんなで逢う約束をしてるから」
「そうか、もう高校生になるんだよね。最初に来た時はまだ幼くって可愛かったなあ」
それを聞いて私はいたずらっ子のように「今は可愛く無いでしょう」と言うと「うん、綺麗になったね」と言われちょっとだけ胸がドキッとした。
「明日は報告に来るんだろう。美彩が楽しみにしてるから」
「はい、夕方いつもの時間に」
私は月に二回上杉先生とお話をするのが楽しみです。それはホッとするひと時だからです。その後、検査と治療をした私は大学病院を後にしました。
翌日、私と瑞稀は城南高校へ行きました。不安だけれど瑞稀と二人で合格発表の掲示板まで行き受験票を握り締めて自分の番号を探します……
「えっと…… あれ…… あっ! あった!」
私が叫んだ時、隣で瑞稀が涙ぐんでいた。えっ! まさか……
「あっ! あった…… 良かった……」
小さな声で絞り出すように瑞稀が言った。私はホッとしました。
「変な声出すから無いのかと思ったじゃん」
「あ、ごめん。でも良かった」
「あれ、あの子」
私が視線を感じ振り向くと面接の後に私達のことを睨んでいたあの子です。またこっちを見て睨んでます。
「瑞稀、行こうか」
「飛鳥、どうかしたの?」
私が目で合図すると瑞稀もあの子に気づいたようです。
「あの子、なんだろうね」
「とにかく入学案内をもらわないと……」
そう言って私達は事務局の方へ行きました。その後、私は母にメールで結果を知らせました。
「ねえ、久美達大丈夫だったかな?」
「大丈夫だよ、反対に私達のことを心配してくれてるかもよ」
「そうだね、LINEしてた方が良いかな?」
「うん、そうだね」
そして、私達はバスターミナルへ向かいました。
「あれ、久美達いないね」
「まだ、時間が掛かってるのかな」
私達は待ち時間の間、入学案内を見ました。
「明日は仮入学だって」
私は案内を見て驚きました。
「ちょっと、入学式の翌日テストだってよ」
「ええ!」
「しかも英語だって」
「いきなり過ぎない」
「ほら、下の方に。英語のテストでクラスを決めますだって」
流石、進学校だけのことはあると思いました。
「瑞稀!」
久美と玲奈が手を振ってこっちへ走って来ました。その後ろから匠君も来ています。
「久美どうだった?」
「私達はみんな受かったよ。飛鳥たちは?」
「こっちも受かったよ」
「良かった、みんな合格だね。でも、なんか嬉しく無さそう。なんかあったの?」
「それがね、入学式の翌日に英語のテストがあってそれでクラスを決めるんだって!」
「なにそれ!」
「ひどいでしょう」
「でも、進学校はどこもそんな感じらしいぞ」
「うわあ、私三年間もつかな?」
瑞稀はちょっと弱気だ。
「まだ入学もしてないのに」
「だって……」
私達は笑って瑞稀を見ていた。しかし、これくらい勉強しないと大学なんて厳しいだろうと思います。だって私達がめざす大学はこの辺では有名で国公立の北山大学だからです。
その日の夕方、私と久美はクリニックへ行きました。
「先生、こんばんわ」
「あ! いらっしゃい。二人ともその様子だと合格出来たみたいね」
「はい」
「おめでとう。さあ、中に入って」
私達はいつものリビングへ行き美彩先生から最初の質問がありました。
「ねえ、制服ってどんなのだっけ?」
「えーっとベージュのブレザーとチェックのスカートで赤色のリボンタイかな」
「あ、今頃は白っぽいニットのベストだっけ!」
「そうそう、それにベージュでチェックのスカート」
「そうか、飛鳥さんには似合うかもね、久美さんは?」
「うちは、紺の上着とグレーのチェックのスカートです。ベストは白のニットで青いリボンタイです」
「聖華高校は結構シンプルなのね、昔は白と黒のちょっとカッコいいセーラー服だったのにね」
「セーラーは流石にもう無いですよ。でももう少し可愛いのにすればいいと思いませんか」
「そうだよね」
美彩先生も一緒になって話している。
「飛鳥はいいよね」
その話はもういいよとツッコミを入れたくなる。
「城南高校は進学校だけど制服は、なんかいい感じだね」
「でも、入学式の翌日は英語のテストだけど……」
「ああ、進学校じゃよくあることだよ。それでクラス分けするんでしょう」
「うん」
「そこで間違って良い点を取ると成績優秀なクラスになるから大変よ」
美彩先生は半分顔がニヤけてます。
「美彩先生、経験あるんですか?」
「ううん、私は間違わなかったから」
「美彩先生って高校はどこなんですか?」
「私は橋本学院高校よ。かなりの進学校だけど私は一番成績の悪いクラスだったけどね」
「それって、わざとですか?」
「半分はね、だってテスト勉強してないから! でもクラスでは毎回ベスト3に入っていたのよ。学年では四十位くらいだったけど」
「それって凄いんですか?」
「すごく無いよ! でも、三年になった頃は学年でベストテンに入っていたから」
「えっ! 成績が良くないクラスでしょう! なんで?」
「成績の良いクラスってどんどん先に進んで行くの。だから着いていくのに一生懸命で大変なのよ。でも成績が良くないクラスは復習してゆっくり先に進むから安心して着いて行けるの」
「でも、優秀な人って少しでも先に進んで知識を増やしたいんじゃないですか?」
「確かにそうだけど忘れちゃったら意味が無いのよ」
そんなもんなのかと私は思いましたが勉強せずにテストに挑むなんて無謀なことは出来ません。
高校の入学式が終わりクラス決めのテストが行われました。私も瑞稀も狙った訳では無いけど一番成績の悪い四組の女子クラスになりました。そこには私達の事をずっと睨んでいるあの子もいます。如月玲華、付属中学校からのエリートみたいですが……
「あなた達も同じクラスなのね」
彼女はいつもの如く私達を睨んでます。
「私はそこまで成績良く無いから」
「如月さん大学はどこ狙っているの?」
「北山の医学部よ」
それは私と同じだなんて到底言えなかった。
「あなた達は?」
「一応、北山大学だけど……」
「四組になった時点で無理ね」
「あなただって四組でしょう。北山大学医学部なんて無理なんじゃない」
瑞稀はかなり挑戦的です。
「私はどうでもいいのよ。親のいいなりなんてまっぴらだから……」
彼女は淋しそうだけどそれを一生懸命我慢しているように見えた。
「それじゃ行きたい大学に行けばいいんじゃない」
彼女は厳しい表情で睨みつけながら言いました。
「あなた達には分からないでしょうね! 私は医者になるために生まれて来たの。病院を継ぐためにね。家は祖父母も両親も兄もみんな医者なの。だから私も医者にならなきゃいけないと言われて来たの」
彼女は厳しい口調で睨みつけながら言ったので私はそれを聞いて何も言えなくなりました。しかし、瑞稀は違った。
「あなたは全てを家族の所為にしてるだけでしょ。言ってることがよく分からないわ」
「あなた! 人の話をちゃんと聞いてたの?」
またもや睨みつけられた。
「確かに親には強要されたかもしれないけどあなた自身はどういう事をやりたいか言うことは出来たんじゃないの?」
如月はそれを聞いて更に機嫌を悪くした。
「なにも知らないくせに好き勝手言わないで」
そう言って如月は行ってしまった。
「如月さんって結構我が強そうだね。それになんか冷たそう」
「それは、名前がものがたっているじゃん。如月玲華なんて聞いただけで寒気がするし冷たそうだもん」
確かに言われてみれば……
その日の夕方、私は大学病院に行きました。
「如月って言ったら一條市にある総合病院じゃないかな?」
「有名なんですか?」
「そうだね、一條市では二次救急の大きい病院だからね。評判もかなり良いみたいだし…… でも、どうしてそんなこと聞くの?」
「同じクラスに如月玲華って女子がいて病院の娘らしいんですけど家族が全員医者だからその子も医者にならなきゃいけないって」
「そうなんだ。ところで飛鳥君は何組になったの?」
「…… 四組です」
「あっ、そう。でも今のうちにしっかりと予習、復習をしていれば成績も良くなるよ」
「北山大学狙えますか?」
「まだ高校に入ったばかりでしょう。大丈夫だよ」
上杉先生はそう言うけれどやっぱり不安です。
翌日、突然瑞稀が「飛鳥! クラブ活動どうする?」と訊いて来た。
「クラブ活動はやらないで勉強に集中したいかな」
しかし、瑞稀は顔をしかめて「それじゃ駄目なのよ。クラブ活動は必須で必ず入部しないといけないみたいだよ」
それを聞いた私は困惑した。
「クラブ紹介は入学式の後にあったみたいだけど、もともと入るつもりじゃなかったからどんなクラブがあるか見てないよ」
「私が調べたところでは女子に人気があるのはテニス部とかゴルフ部、アーチェリー部とかがあるよ」
「ふーん、文化系は?」
「文化系は、化学部とかパソコンクラブ、写真部とかがあるみたい」
クラブの入部案内を見ながら瑞稀が言った。
「でも折角なら身体を動かしたいかな」
「でも体育会系は男子部女子部で問題あるんじゃない?」
「確かに、学校から許可はもらっているけどどっちにしても試合とかは出れないだろうし、私のこと知らない人が多いだろうから……」
私は入部案内を見ながらひとつのクラブに目がとまりました。
「ねえ、自転車部だって」
「自転車ってロードレースとかあるんでしょう。足が筋肉で大きくなるんじゃない」
「でも可愛い系の女子部員がいるみたい」
「マネージャーじゃない?」
「五人も?」
瑞稀も不思議そうに見ています。「放課後に見学に行ってみようか」
「私は見学だけだからね」
「はいはい」
放課後、自転車部の部室へ行くと新しい自転車が十台くらい並んでいます。
「新入部員の方ですか?」
「あ! 見学なんですけど」
「部長、見学の方が来てますけど」
部室の中から慌てて三年生と思われる男子が出て来た。
「また女子か」
「裕樹君、そんなこと言わないの。ごめんなさいね私、部長の渡邊静香です。良かったら見学だけじゃなくて自転車も乗ってみてね」
「女性の部長さんなんですね」
「そう、珍しいでしょ。それに女子部員は五人なのに男子部員は二人なのよ不思議でしょ」
「ロードレースとかはでないんですか?」
「男子二人は出るけど女子は出ないかな…… だって百キロくらい走るんだよ。とは言ってもあの二人が頑張ってくれてるからやっと同好会からクラブに昇格したの。クラブになってまだ一年目なんだけどね」
「渡邊部長そろそろ始めますか?」
「あ、そうね。二人も行く? これから自転車でコースを走るんだけど」
私はとても興味があったので行くことにしました。
「瑞稀、私行ってくるね」
「え! 飛鳥が行くなら私も行くよ」
そして、私達は女子用の自転車コースを走りました。
「先輩、ここのコースってどれくらいあるんですか?」
「えっと、ここは三十キロくらいかな……」
「……」
三十キロって! 今日だけなら何とかなるけど毎日は身体がもたないと思いました。先輩達に遅れること十分ようやく戻って来ました。
「あら、あなたは早かったわね。もうひとりは?」
私は息を切らしながら……
「もう少し掛かると思います」
それから二十分遅れで顔を真っ赤に息を切らして瑞稀が帰って来た。
「瑞稀遅すぎ」
「あんた達が早すぎなの」
瑞稀は到着するなり地面に座り込んでしまいました。
「それで、どうする? 入部!」
「すみません、やっぱり無理です」
「…… 私も絶対無理。毎日三十キロなんてちょっと……」
瑞稀は女子部員からスポーツドリンクをもらいながら答えていました。
そして私達は文化系のクラブを探すことにしました。
その日の夕方、バス停で如月玲華に出逢った。なにか嫌な予感!
「今村さん、あなたどこか悪いの?」
いきなり訊かれた。どうしたんだろう?
「どうして?」
「あなた、北山大学病院に行ってるでしょう」
えっ! 見られてた。如月玲華に!
「精神科の診察室に行ってたみたいだけど…… 悩み事とかあるの?」
ここまで訊かれると仕方ないかな…… 変に誤解されても困るし、でも四組の担任がみんなに話してるはずだけど……
「私ね、GIDなの」
「えっ! それじゃ…… 男なの?」
「うん、MTF」
「手術とかしないの?」
「今のとこは考えてないわ、ホルモン療法だけ」
「学校は知ってるの?」
「先生はみんな知ってる四組の担任がみんなに話してると思ったんだけど……」
「…… そう、あなたも大変な思いをしてるのね」
「でも私は、凄く楽しいの!」
「何故そう思えるの?」
「前からするとみんな理解してくれるし、なんか生きてるって感じがするから……」
「…… 私もそうなれるかな?」
如月は思い悩んだような顔で私を見ています。
「なれると思うよ。たぶん……」
今日の夕焼けはとても赤い。でも、とても綺麗な夕焼けでした。
なんとか城南高校に入学出来たけど、そこで如月玲華と出逢い。新しい生活が始まります。次回はクラブ活動を開始します。




