次の駅へ
列車が、動き出した。何とか戻って来ることが出来た俺は焦燥しきっていて、ぼんやりとしていた。
あの森での話。
あまりのショックに俺は何も考えられないまま、次第にまどろみの中へと落ちて行った。ただ、疲れた。
翌朝、早くに起きた俺は、疲れて重い体を引きずって、食堂車に向かった。最初は、朝食をとるだけ、のつもりだった。
山本は相変わらず厨房で忙しそうにしていたが、ちょうど仕込みも一段落したところで、手を止めて話しかけてくれた。俺は、森で見聞きして来たことを話した。
「俺はショックだったんだ。まさか人間が木になるなんて……」
多弁な山本が静かに聞いていた。
「木は言ったんだ。“俺たちは、人であることを捨てた”と」
この世界は、常識ではありえないことばかりだ。俺は、子供の頃に絵本で見た、夢物語の世界に自分がいる様だ、と、山本に何度も言っていた。少し興奮していたと思う。山本は、やはり静かに聞いていた。
俺がひとしきり喋ると、山本はちらりと俺を見て、口を開いた。
「人でも殺したんだろ。そいつら、自分を否定してんだ」
山本はさらに言葉を続ける。
「わかるよ。俺も人殺しだからな」
目を伏せた山本に対し、俺は何も言えなかった。山本もしばし押し黙り、列車のガタゴトと揺れる音が、妙に大きく感じられた。
沈黙はそう長い時間ではなかった様だが、俺にはかなり長い時間に感じられた。列車は音を立て続ける。俺は不意に重苦しくなった雰囲気を、黙って耐える他なかった。
列車は走り続ける。俺は何か、いたたまれない気持ちのままでいた。