第26話
「ノアがいなくなったですって! どうしてなの?」
「なんだって! どういうことだ!」
久しぶりに社交場へ行きオリバーと帰ってみれば、ノアが行方不明だという報告を受けた。
「どんな状況でいなくなったんだ?」
子守の女が前に進み出た。
「申しわけありません! わたくしが古い絵を捨ててしまったところ、それは坊ちゃまの大切な品物で……。2人でゴミを出しにいった裏門へ行ったところを……」
「リードさま! 彼女は裏庭で倒れていました! 何者かに襲われた模様です!」
「わたしが絵を捨てさえしなければ、坊ちゃまは……」
「わかった。犯人の心当たりは? 何か要求はしてきたか?」
「それがなにも……。怪しい人物の目撃情報もありません。自警団への連絡はどういたしましょうか?」
「待ってくれ。彼らが動いてもことを大きくするだけで、真相はわからないだろう。ウィンター公爵も子供が誘拐されたと言っていたな……子供を攫うのがはやっているのか? なにかの一味か?」
「そのようなうわさは最近ありません」
「おお……ノア……どうしたら……」
「エマ……しっかりしておくれ」
「あなた……オリバー……」
わたしはオリバーに抱きつき泣き崩れた。
ノアに何かあったら、わたしはいったいどうしたらいいのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
オリバーは従業員や衛兵たちを連れ街や山へ捜索に出かけた。
場合にはよっては河もさらうそうだ。
わたしは長いすに横になり、なすすべもなく横たわっていた。
「ノア、ノア、どうか無事でいて……わたしはいったい、どうしたら……」
――コンコン!
「奥さま……ルーシー・ウォルターさまがお見えです」
「ルーシー・ウォルター……なんの御用なの?」
わたしは色めきたった。
こんなときになんの用事だろう?
彼女の初めての接触にとまどうばかりだ。
とりあえず通してもらうことにした。
元伯爵令嬢が向こうから赴くとはよっぽどのことだろう。
ルーシー・ウォルターは侍女を従えやってきた。
「奥さま……こんなときに申しわけありません……」
近くで見るルーシー・ウォルターは、やはりとても美しい人だった。
茶色い髪に茶色い瞳の愛くるしい美人でしとやかな印象を受けた。
愛妾をしてきた割には聖女のような雰囲気を身にまとっていた。
「なんで、ございましょうか……?」
「実は……お宅の息子さんを目撃したものですから……」
「なんですって! いまですか?」
「いいえ、少し前です。わたくしは今日、王城に上がっていたのですが……その……どうしてもバーバラ・パーマーのことが気になって、西の離宮の裏を通って帰りました。そうしたら偶然にも、馬車からお宅の息子さんとダニエル・リードが降りてくるところが見えたのです」
「ノアと……ダニエルさまが……? たいへんだわ! ほんとうに彼でしたか?」
「間違いないと思いますわ。ダニエルのことは小さいころから知っているので、見間違うはずありません。わたくしはいま帰ったばかりなのですが、侍女からリード家の息子さんが行方不明になったと聞き飛んで参りました」
「とても助かりました! すぐにオリバーに知らせますわ!」
「ノアが早く見つかるといいですわね……。わたくしも心より祈っております」
「本当にどうもありがとうございました!」
ルーシー・ウォルターは帰っていった。
すぐにオリバーに使いを送った。
わたしは矢も盾もたまらず、衛兵から馬を借りすぐに出発した。
もしもノアがバーバラ・パーマーの屋敷にいるとしたら、たとえ国王であろうと奪還は不可能だ。
話がこじれる前に直接ダニエルに会って交渉しよう。
大金持ちのバーバラ・パーマーの元にいるダニエルが、なんの目的でノアを誘拐したのかはわからない。
わたしが叶えられる要求があるならば、なんなりと受け入れようと思っていた。
――パカッパカッパカッパカッ!
とにかくノアの無事を祈る一心で馬を駆った。
◇ ◇ ◇ ◇
「ハアハア……」
あっという間にバーバラ・パーマーの宮殿に着いたわたしは、裏の森へ回りそこへ馬を繋いだ。
慎重に裏門へと近づいていく。
見張りはいなかった。
今日も門の鍵は開いていた。
そうっと門を開け中へ入ろうとしたとき、どこからか視線を感じた。
咄嗟に振り向くと、森の奥に誰かいた。
よく見るといつかの赤毛の娼婦だった。
こんなところで何をしているのだろう。
疑問に思ったが、こんなところでグズグズしていると誰かに見つかる。
いそいで裏庭を突っ切り、いつかクロエが教えてくれた秘密の通路に入っていった。
奥のバーバラ・パーマーの部屋から話声がしてくる。
音を立てないように忍び足で近づいていった。
覗き窓からなかを見る。
「うまくいったな……あとは……」
「ウフフフフフ……悪い人!」
むっとするおしろいの匂いが鼻を突いた。
暗闇で裸の男女が長椅子に座っていた。
真っ白な裸体が闇に浮かび上がる。
男が突然、顔を上げた。
心臓が凍りつく。
「……オリバー!」




