序
気がついた時には打ち上げられた河原で呆然と天を仰いでいた。カチカチと歯の根から音が鳴り、吐く息は真冬のように白い。覚えているのは苦し気に顔を歪めながらも、笑みを浮かべている父の姿。その後はあっという間に濁流にのまれ、上も下もわからなくなってしまった。
(……ここ、どこだろう…………)
起き上がろうとしたが鋭い痛みが全身を襲い、指すら動かせずに諦めて脱力する。ぴちゃりと冷たい水の感触を体の下に感じ、忘れていた恐怖が一瞬で蘇る。
(このまま動けなかったら死んじまう!)
どうにかして動かなければと思うのに、身体を動かすどころか段々と呼吸も苦しくなってくる。じわりと滲んだ視界に生まれた時から傍にいる縹の姿が現れた。するすると懐に入り込もうとする細長い体に安心感を覚えてしまい、ハッとする。今の自分の体温では蛇の縹を死なせてしまう。痛みを無視して縹を遠ざけようともがこうとしたところに影がかかった。
「お前、生きてる?」
ぺちぺちと頬を軽く叩かれ、ゆっくりを視線を向ける。はっきりと見えないが人のようだ。
(縹を逃がしてやってほしい)
出したつもりの声は掠れた呼吸音になっただけだった。もう一度口を開くが身体が酷く重い。遠退く意識に抗おうとするのに瞼が持ち上がらない。
「……もう少しだけ頑張れ」
その声と自分を包む温かさに背中を押されたように、ぎりぎりの場所で保っていた意識はすとんと落ちてしまった。




