金獅子と、銀狼
原稿が尽きてしまい…少し間をおきます…m(_ _)m
来週から再開する予定です。
PS:連載中の「魔王の花嫁」が、まもなく完結予定です‼︎
よろしければそちらも覗いてみてください! ٩( ᐛ )و
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日が沈む頃になると、招待客たちは屋敷の大広間へと場所を移し、ダンスに興じ始めた。
私はメイドとして、招待客に飲み物を配って回っていた。
あれから私は、無事に鍵を元の場所へ戻し、誰にも気づかれずに会場へ戻ることができた。
使用人たちは皆お客様のもてなしに忙しくて、私が抜けていたことなど、誰も気づいていない。
きらびやかに着飾った紳士淑女の間を縫うように歩きながら、私はこれからのことについて考えを巡らせていた。
(この祝宴が終わったら、メイド長のイライザに辞めたいと申し出よう。シャーロットは使用人をこき使うパワハラ気質だし、仕事も激務すぎる。引き留められたとしても、強くは出られないはずよ)
そうしたら、ヴィンセント殿下の言うとおり、ひとまずお城に戻るつもりだった。
アーチャー家に帰ることも考えたけれど、地下室で見つけた証拠品の調べがどうなったのかも気になる。
そんなことを考えながら会場に紛れていた時、事件は起きた。
それは、飲み物の追加を取りに、調理場へ続く廊下を曲がろうとした時のことだった。
――ガシャン。
「も、申し訳ございません。お怪我はございませんか」
「いや、私のほうこそよそ見をしていた」
曲がり角で、私は誰かと出会い頭にぶつかってしまった。相手に怪我はなかったようだけれど、その衝撃で私はよろめき、盆に載せていたグラスを落としてしまう。あたりに、ガラスの破片が飛び散った。
「すぐに片付けますので」
そう言って顔を上げた瞬間、私は凍りついた。――目の前にいたのは、なんとランスロット殿下だったのだ。
「で、殿下……。とんだ失礼をいたしました。どうかお許しください」
「いや、私は大丈夫だ。それより、君のほうこそ大丈夫か。転んだ拍子に、眼鏡を落としたようだが」
言われて、私ははっとした。確かに、変装用の眼鏡がない。
――ということは、今、私の赤い瞳がむき出しになっている。
慌ててあたりを見回すと、ランスロット殿下が、そばに落ちていた眼鏡を拾い上げるところだった。
「ほら、これ」
「あ、ありがとうございます」
私はなんとか顔を合わせないよう、うつむいたまま眼鏡を受け取った。けれど、こちらを覗き込んだ殿下が、一瞬眉をひそめたのがわかった。
「ん……? 君、どこかで……」
「あの、すぐに片付けますので。殿下はどうぞ会場へお戻りください」
私は眼鏡をかけ直して立ち上がり、一刻も早く殿下の前から逃げ出そうと、踵を返して歩き出す。しかし、背後から呼び止められた。
「ちょっと待て」
「……」
「君、ここの使用人だな。名は何という」
「えっと……」
顔を見られたらまずい。私はランスロット殿下に背を向けたまま、その場に立ち尽くす。けれど、殿下はつかつかとこちらへ歩み寄ってくる。万事休す――殿下が私の背後に迫った、その時だった。
「ランスロット、ここにいたのか」
「……兄上?」
ランスロット殿下が足を止めた隙に、私はそそくさとその場から退散した。
振り返って確かめることはできなかったけれど、あの声は、間違いなくヴィンセント殿下だ。
絶好のタイミングで現れてくれた殿下に、心の中で何度もお礼を言いながら、私は足早に廊下を後にした。
*** ――ヴィンセント視点
廊下でランスロットが、リアらしきメイドを呼び止めているのを目にしたヴィンセントは、すかさず声をかけた。
振り返ったランスロットは、目を見開いている。
「久しぶりだな、ランスロット」
「兄上、いらしていたのですか。お知らせくだされば、私のほうからご挨拶に伺いましたのに」
ランスロットは、立ち去ったメイドのことがしばらく気にかかっていたようだった。だが、ヴィンセントの姿を認めるや否や、こちらへ駆け寄ってきた。
「今日は、気まぐれで顔を出してみたんだ。私の滞在している北部の城は、リース子爵邸から近いからね」
「そうでしたか。久しぶりに兄上のお顔を拝見できて、嬉しく思います」
ランスロットは、表向きは好意的に答えた。
しかし、ヴィンセントはそれを軽く受け流して、本題に入る。
「ところでランスロット。世間を騒がせている、国王陛下の暗殺未遂事件のことなんだが」
「ああ、その件ですね」
「父上の持病が悪化されたため、捜査の指揮はお前が執っているそうだな」
「はい。事件に関しては、父上から私が一任されております。どうかご安心ください」
ランスロットは胸を張ってみせる。しかし、ヴィンセントはそれを一瞥した。
「お前は、犯人はコーネリア嬢だと確信しているようだな」
「はい。状況からして、彼女の犯行で間違いないでしょう。彼女は私の婚約者であるシャーロットを狙ったばかりか、そのせいで父上のお命まで危険にさらしたのです。放ってはおけません」
「彼女の犯行だと断定する前に、きちんと調べたのか。シャーロット嬢や、あの場にいたほかの者たちにも、毒を仕込むことはできたはずだ」
「――まさか、兄上はシャーロットをお疑いなのですか。彼女がそのようなことをするはずがありません」
ランスロットは、ヴィンセントの指摘に苛立ちをあらわにした。
「兄上、本件は私が捜査の指揮を執っております。兄上のお手を煩わせるには及びません」
「そうだろうか」
ヴィンセントは、不意にランスロットへ冷ややかな視線を向けた。
そして、おもむろに弟へ向き直って、こう告げた。
「確かに、これまではお前に任せきりだった。父上が病に臥せってからは、お前に苦労をかけることが多かったと思っている。――だからこそ、私はそろそろ王宮に戻ろうと思っているんだ」
「えっ……お戻りになるのですか」
ランスロットは目を見開いた。
「しかし、兄上にはご持病が……。それに母上も、兄上のお体を案じて、静養なさっているようにとおっしゃっていたではありませんか」
「ああ。マリアンヌ王妃は、私の体のことをいたく心配してくださっていたね。しかし、いつまでも引きこもっているわけにはいかないだろう。私もまた、お前と同じく、この国の王子として生まれた責任があるのだから」
「し、しかし……」
ランスロットは、まるでヴィンセントが王宮に戻っては都合が悪いとでも言いたげに、狼狽していた。
「近々、父上のご様子を伺いに王宮へ向かうつもりだ。その時に、マリアンヌ王妃にも話を通しておくよ」
そう言うと、ヴィンセントは踵を返して、ランスロットのもとを去っていった。




