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3.会話

 ルリハが飛び立ったのを見送ると、私は部屋へ戻って彼が渡していった白い紙を眺めていた。…これにあるモノを書く。そう彼は言っていたのを考えていると、部屋のドアが開いた。


「…起きちゃった?」


「はい…寝るつもりはなかったんですけど…」


 アヤカは机の上に置かれているコップに気が付く。


「誰か来ていたのですか?」


「うん、知っているかどうかわからないけれど、ルリハって人が」


「…そうですか、あの人が」


 やっぱり知り合いなのだろうか。確かに見た目はアヤカと同じくらいだった。…私とリンリンみたいに学校の同級生とか、そんな感じだろうか。


「あの人は師匠です」


「…師匠?なんの?」


「私の見える世界、見えている世界を、…なんというか教えてくれる人と言えばいいのですかね」


 どういうことなのだろうか。見える世界を教える?


「見ている感覚が同じ。もしくは同じように見ようとしている似た者同士。ということでもあると思いますけど」


 見ている感覚が同じ…それって本人にしか分からないんじゃないのか。同じように見ようとしている、って言うのは何となくわかる気がするけど。


「少し、お話を聞いてくれますか?」


「うん」


 アヤカは椅子に座った。私はお茶を持ってきて差し出すと、彼は「ありがとうございます」と言って受け取った。


「そうですね、私達。これはミカさん達が言う所の〝アヤカ達〟には物や人、それと大きく見れば生き物。そういうモノが、どうしたら次の段階へ行けるのか。その為にはどうしたら良いのか。と言うことが、何となく見えるのです」


「それは、実体を持たない物。…フィクションや物語もそうです」


「なるほど、…私とアヤカが同じものを見ても、私たちはお互いに、同じには見ていない。ということ?」


「ええ、そういうことです」


 アヤカは机の上に置かれた私の描いている仕事の本を手に取る。


「これは本にしか見えないと思うのですが、私からは本以外の要素の事も見えます」


「どんな風に?」


「それは…上手く説明が出来ないのですが…」


 アヤカは言葉を選びながら話していく。


「そうですね、植物ってやがて花が咲いて、実をつける。ってことは知っていると思います。…種類によりますけど」


「まあ、それはそうなるっていうのは、わかるけど」


「はい、それと同じです。ああ、この植物はやがて花を咲かせるだろうなって。そんな感じで本とか人とかが見えるって感じですかね」


 机の上に置いてあった煙草の箱を手に取り、私はアヤカの言葉を考えた。


「…となると、未来が見える。と言うことはないんでしょ?」


「はい。未来はわかりません。ですが、これはどうなるのか。ということは何となく見えます。そしてその伝達する手段。つまり会話です。その会話をどうするのかの為に、師匠に学ぶことになります」


 会話をする相手は私達。ということになる。


 見えないモノ、これからどうすればよいのか。ということは、実体化されているモノで語ることが出来ないからこそ、それは言葉にする必要が有る。


 言葉を持った文章は、過去も未来も語るのだけれど、そう言うことができる…何と言うか媒体みたいな役割。


 それが彼らの言う所の〝言葉〟の受け取りになる。


「もちろん、全てのモノが言葉に成っているわけではありません。だからリンさんのようにクリスタルを通して、見たモノを絵という形にするというのもあるわけです」


 私はアヤカの言葉を聞きながら、あることに気が付く。


 アヤカ自身は私に何を渡そうとしているのか。…この場合は別の世界の私にってことになると思うのだけれど。


「…さっき、ルリハにこれを渡された。この白い紙。これに私が何かを書くと、アヤカの…そして別の世界の私のツバサになりえる。って言っていたけど」


 白い紙を両手に持ち、アヤカに見せるように机の上に置く。


「…そうです。私が求めるツバサを手にした時、それは今いる場所から飛び立つことを意味します。そして、その向かった先で、別の世界のミカさんの求めるモノを作ることが出来ます」


「つまり、ルリハが居る領域に行くってこと?」


「はい、そうです」


 私は白い紙を見つめながら、アヤカの言葉を受け取る。では、何を書けばいいのだろうか。


「…そこに書くことは、ミカさん自身の内側に。既に言葉として実体化しているものです」


 そう言ったアヤカの方をみて、また白い紙に目を向ける。…私は知っているのだろうか。この紙に書く、何かの事を。

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