第24話 町を満喫する
騎士団本部を出たオーレリアは町の市場に向かった。空間収納に、『すぐに食べれるもの』を増やしておきたいし、調味料や自分で作れないものがあれば、たっぷり買い込んでおきたかった。
フリードリヒからは報酬の件もあり、明日まで町に滞在して欲しいと言われていた。明日のお昼までに町を出れば、えっちゃんなら夕方には家に着くだろうし、まぁいいかと了承した。宿にはもう一泊すると伝えてくれるという。
黄昏の獅子たちは応接室に残った。まだお話があるらしい。
だが、今オーレリアは一人で市場に向かっているわけではない。オーレリアの横には、エルフの青年がいた。
ガイウスがわざわざ呼んでくれていたらしく、応接室を出たところで紹介された。
「こいつはBランク冒険者のオリビエだ。慣れない町を一人で歩くのは大変だろうから、今日一日こいつと一緒に行動してくれ」
「はじめまして、僕はオリビエ。よろしくね!」
「えっちゃんもいるし、一人で大丈夫だよ?」
わざわざ自分の買い物に、冒険者を一日中付き合わせるのは悪い気がした。
「オーレリアさんたちは目立ってしまうから、変な輩が寄ってくるかもしれない。僕といれば兄妹に見えるかもしれないし、面倒なことには巻き込まれないと思うよ」
「そうなんだ。じゃあ、わたしのことはリアでいいよ。よろしくね、オリビエ」
そういうわけで、お目付け役としてエルフのオリビエが同行することになった。
オリビエは、肩までの長さの金髪に青い瞳で、エルフらしい美しい顔立ちの青年だった。エルフなので、ノルとネロとえっちゃんの言葉も理解できる。三匹にも今日一日よろしくねと挨拶をしていた。なかなかしっかりとした青年のようだ。
オリビエは、さすがにハイエルフのこともちゃんと知っていた。ハイエルフの里がある大陸にもエルフの里があって、そちらとも交流があるらしい。オリビエはこちらの大陸出身なので、行ったことはないそうだが。
歩きながらオリビエは、この町のことをいろいろ教えてくれた。グレンハルトの町はヴァルクレスト王国の辺境にあって、魔の森が近いので冒険者が多く集まり、そこそこ大きな町なのだとか。だから肉中心の屋台が人気で、多くの店を出しているのだそうだ。その屋台も季節によっていろいろ変わるので飽きないんだよと言っていた。
オーレリアたちは、まずは市場に向かって食材などを調達する。まだ畑で作っていない野菜とか小麦粉、チーズや調味料を手に入れた。特に小麦粉は大量に仕入れた。
「ずいぶんたくさん買うんだね」
「みんなの食欲がすごいからね。町に来たときにいっぱい買っておかないと!」
「そうなのか」
『りあー!つぎはやたいにいこうよ!』
『おなかすいちゃった!』
『屋台いいな!昨日食べたりなかった分を食べよう!』
「オリビエ、次は屋台だって」
「あ、あぁ、それじゃあこっちだ」
騎士団本部を出てから元気を取り戻したノルとネロとえっちゃんの勢いに若干引き気味のオリビエだった。そして、屋台の広場に着いてからは、さらにタジタジになるのだった。
「彼らの食欲はすごいなぁ!」
「そうでしょう?すごくよく食べるんだよ」
オーレリアとオリビエも広場のテーブルで一緒にお昼ご飯を食べる。今日はオリビエのおすすめのピザにした。チーズがたっぷり乗っていてトロトロで美味しい。
それと、ゆで卵入りのメンチカツのようなものもおすすめだ、と言うので買ってみた。それは、ノルとネロとえっちゃんがとても気に入ったので、大量に購入する。
「たまごかぁ。ニワトリほしいなぁ」
「え?ニワトリ?」
「うん、家にニワトリがいたら、毎日新鮮なたまごが食べられるよねぇ」
『そうだね!まいにちたべれるね!』
『ぼく、たまごだいすき!』
『俺もたまご大好き!』
「だよね。買えないかなぁ。オリビエ知らない?」
「いやぁ、さすがに養鶏場の知り合いはいないよ。ギルマスに相談してみようか?」
「そうだよね。じゃあ後でギルマスに聞いてみるとして、次は本屋と魔道具屋とー……」
『えー!ほんやさんつまらないよぉ』
『ぼく、ねむくなっちゃったー』
『なんか、運動不足だよな。ちょっと森まで走りにいかないか?』
「屋台の買い食いにたくさん付き合ったでしょ?次はわたしの番だよ!」
『『『ブーブー!!!』』』
***
一方そのころ、騎士団本部の会議室では、まだ話し合いが続いていた。
「ヴァイス団長、どう思うかね?彼女は安全な存在だろうか」
辺境伯代理のルーカス・ヘルマンが騎士団長に尋ねる。
「おそらく、こちらから危害を加えない限りは、敵対することはないと思います。君たちはしばらく一緒に過ごしてみてどう思った?正直に言ってほしい」
黄昏の獅子のメンバーに話を振っていく。
「俺たちが見た限りでは、とても穏やかな子で、危険な存在だとは思えませんね」
グレインが顎に手を当てて考えるように言った。
「そうですね。いろいろお話もしましたけど、とてもいい子です」
ソフィアは、昨日宿で一緒にお風呂に入ったことを思い出す。あの液体石鹸を売ってくれないかもう一度相談してみよう。
「そうだな、穏やかな子だよな。排他的な考えも持ってなさそうだし」
デュークは昨日の屋台での買い食いを思い出しながら言った。
「魔法は普通じゃなかったけどな」
ロルフは魔の森での出来事を思い出した。あのときは、もうダメだと思っていたから本当に驚いた。
「たしかにね!グリムサーペントを倒したときのあの魔法は凄かったよね!ソフィア、あれ何の魔法だった?」
ジーナもあの瞬間を思い出す。詠唱もせず、見たことのない魔法で一瞬でグリムサーペントを屠ってしまったオーレリア。表情一つ変えなかった。
「あれは、たしか無属性の魔法だと言っていました。でも、私はあのような魔法は知りません。ハイエルフ特有の魔法なのかもしれませんね。それに、結界魔法に空間収納。私たちとは魔力量から魔法形態まで、根本的に違うのかもしれません」
「ふーむ、実に惜しい」
ガイウスはギルマスという立場から、オーレリアの可能性を思い嘆いている。
「そうですか。彼女は町に関わる気はないとのことでしたが、定期的に魔の森の素材を売ってもらえるような取引はできないでしょうか?」
辺境伯の代理であるヘルマンは、すでに領経営の観点からオーレリアを見ていた。
「どうでしょう。オーレリア殿は面倒ごとを嫌うように思います。そのような話を持ちかけて面倒に思われたら、この町は避けて別の町に行くかもしれません。フェンリル様の足ならば、大した距離ではないでしょうから」
フリードリヒが今までのオーレリアの言動を思い返し、的確な感想を述べる。
「では、貴族の地位を与えて、囲い込むのはどうでしょう?」
「かえって悪い気がしますね。それこそ面倒だと思われるでしょう。下手に彼女を怒らせて、消し炭にされても困りますし」
グレインは魔の森の焼け跡を思い出す。見た目に反し、絶対に怒らせてはいけない力を彼女は持っているのだ。
「なるほど、では彼女に関しては何事も無理強いすることなく、あくまでも自然に対応することにしましょう。それが一番この町のためになるはずです」
ヘルマンが話をまとめて会議は終わった。
ハイエルフなどという、伝説の種族との係わり方については、誰も正解を知らない。ましてや、女神様のご神託を受けてやって来たオーレリアは、いわば神の御遣いだった。
なんて、そんな風に難しく考えるのは、ハイエルフを伝説だと思っているこの大陸の人たちだけで、当の本人は至ってのんきに、楽しんでいるだけなのだが……。
ともあれ、今回の町の代表者たちの結論は、オーレリアにとってはとても良いものになった。
彼らがあれこれと思案を巡らせる一方で、そんなこととは露知らず、オーレリアたちはグレンハルトの町を満喫しているのだった。




