第17話 別行動のネロとえっちゃん
その日の朝、グレンハルトの調査隊に合流したえっちゃんは退屈していた。
魔物が近づいてこないように辺りを威圧しながら、人間たちの速度に合わせてゆっくりと森を歩く。最初はご機嫌でえっちゃんとお話していたネロは、途中で寝てしまった。人間たちにはえっちゃんの言葉は分からないし、ただただ黙って森を歩くはめになった。
えっちゃんは今、ちょっとご機嫌ななめである。
お昼が近づき、人間たちが少し長めの休憩をとると言うので、ストレス発散がてら狩りに行くことにした。ネロもお腹が空いたのか、ようやく起きてくれた。
人間たちの休憩場所でイライラの威圧を放っておいたので、魔物が近づくことはないだろう。
一方でえっちゃんは気配を消して狩りを行う。
『えっちゃん、なにをかるの?』
『お昼ご飯だからな〜、何が食べたい?』
『う~んぼく、りあのさんどいっちがたべたいなぁ!』
『それは無理だぞ!今日は俺たち二人だけなんだから!』
『そっかぁ、じゃあ、おさかなは?』
『魚かぁ、たまにはいいな!川に向かおう!』
川までは少し距離があったが、ストレスを発散したいえっちゃんは、もの凄いスピードで森を走り抜け、あっという間に到着した。
『すごーい!えっちゃん、はやかったねー!』
『そうか?ふふん!よし、さっそく魚を獲るぞ!』
『おー!』
気合いだけは十分なネロだったが、水に濡れたくはない。ただ川岸から様子を伺うだけだった。
えっちゃんは大きな岩の上に立ち、静かに川を見つめている。川面が揺れたその瞬間、鋭い爪が水を切り裂き、魚が宙を舞う。
どさり、と銀色の大きな魚がネロのそばに落ちた。
『うわー!おさかながとんできた!おっきいー!』
はしゃぐネロに、ちょっとだけ胸を張る。
えっちゃんは次々と魚を獲っていく。ある程度獲ってようやく満足したようだ。
『この魚はグリムトラウトと言って、脂が乗っててすごく美味しいんだ!』
そう言ってえっちゃんはガブリと食べる。ネロもえっちゃんを真似てガブリと齧り付いた。
『ほんとだ!おいしいねぇ!りあがやいてくれたら、もっとおいしくなるよ』
『確かにそうだな。お土産に持って帰りたいけど、俺はリアのような空間収納がないから無理だなぁ』
『ぼくもないよ。あったら、りあのおべんとうを、たくさんいれておくんだ!』
『それいいな!でも、使えないしなー。そうだ!あの人間たちが持ってるバッグ!マジックバッグというやつ、アレを報酬で貰えるようにリアに言ってみよう!』
『まじっくばっぐ?なーにそれ?』
『人間が使ってるの見なかったか?なんだか物がたくさん入るバッグだよ』
『そうなの?じゃあ、それもらおう!』
グリムトラウトを食べながら、ネロとえっちゃんの話は盛り上がっていた。
ネロが1匹、えっちゃんが10匹を平らげ、人間達の元へと戻った。戻る途中にグリムバイソンを見つけたので、それも狩って食べた。
狩とネロとのおしゃべりで、えっちゃんの機嫌は直った。
だが、お腹が満たされたネロはまたしてもえっちゃんの背中で寝てしまい、午後もやっぱり退屈するのだった。
夕方になり、人間たちが野営の準備を始めた。
そういえば、いつまで別行動なのか詳しく聞いてなかった。今夜はリアのところに帰ってはいけないのだろうか。そう思っていたとき、
『りあが、かえってきてって、いってるんだって』
『リアが?なんで分かるんだ?』
『ノルがそういってる。ノルとは、はなれていても、わかるの』
『そうなのか!すごいな!』
『すごいでしょ〜!えへへ』
えっちゃんは昼時と同じく、辺りに威圧を放って、オーレリアの元へ急いで帰って行った。
***
寝落ちしてしまったオーレリアは、ハッと目を覚ました。
「あぁ、しまった。どのくらい寝てたかな?」
起き上がると、いつの間にかオーレリアの背中の上で寝ていたノルがずり落ちる。
『……すぴー、すぴー』
全然起きない。ノルをソファーに寝かせ、外の様子を確かめる。よかった、まだ夕方にはなってない。
そこで、女神様にここを離れて大丈夫か聞いていなかったことを思い出した。
「女神様にも手紙を送ろう」
オーレリアは急いで女神様に手紙を書く。さっきゼフィに指導を受けたばかりなので、ちゃんとした手紙になったと思う。
程なくして、女神様からの返事が届いた。
"久しぶり〜、オーレリア!元気にしてる?そっちでの暮らしはどうかしら?楽しんでくれていると嬉しいわ!困ったことがあったらいつでも言ってね♡ねー聞いて!私この間ね、
〜以下中略〜
それで要件はなんだったかしら?そうそう、そこを留守にしても大丈夫かって話だったわね。あまり長くならなければ大丈夫よ!そうねぇ、できれば5日〜6日ぐらいで戻って欲しいわ。もっと精霊が増えれば長く留守にしても大丈夫なのだけどね。
オーレリアは人族の町は初めてよね。楽しんで来てね。あ、お土産はいいからね!いってらっしゃい!
女神ディオーネより♡
「……長い。でも大丈夫みたいで良かった」
『ふわぁ〜』
「あ、ノル起きた?ネロにそろそろ帰ってきてって伝えてくれる?」
『え?うん。わかった』
ここがハイエルフの里だったら、風の精霊に伝言を頼むところだけど、ここの精霊はまだ小さいから、聖域の外への伝言は心配だった。もう少し元気になってからにしたい。
「さて、ネロとえっちゃんが帰って来るまでに夜ご飯を作っておこう。できれば、いつでも食べられるように多めにね」
『おれ、おにくね!』
「それはいつものことでしょ?わたしは、たまにはお魚も食べたいよ」
『おさかなは、おいしいけど、おなかいっぱいにならないんだよ』
「なるよ!ノルのお腹は穴が空いてるのかな?縫ってあげようか?」
『あいてないよー!だいじょうぶだよー!』
アハハと、楽しくごはんを作っていたら、バンっ!と勢いよくドアが開いて、ネロとえっちゃんが帰ってきた。
『『ただいまー!!』』
『おかえり!』
「おかえり!ずいぶん早かったね」
『退屈だったから急いで帰ってきた!』
『えっちゃん、すごくはやくはしったんだよ!かぜになったみたいだった!』
ネロが興奮している。よっぽど急いで帰ってきたのだろう。ノルに伝言を頼んでからまだ10分弱だった。さすがフェンリル。
「ネロ、えっちゃん、お疲れ様!もうすぐ夜ご飯できるからちょっと待っててね」
オーレリアはひたすら肉を焼いていく。やっぱりお料理用のお手伝いゴーレムも作ればよかったと後悔しながら。
ノルとネロ、えっちゃんは今日一日別行動だった穴を埋めるように戯れあっていた。
夜ご飯が出来て、みんなで席に着いて食べ始める。
今日はグリムディアのステーキにデミグラスソースをかけてみた。
グリムディアの肉は臭みもなく、思ったより柔らかい。赤身の強い旨みに、デミグラスソースがよく合った。
『美味い!』
『おいし〜い!』
『うま〜い!』
「うん!美味しいね!」
三匹は夢中で食べている。ネロが珍しくノルより早い。
「ネロめずらしく早いね。おかわりする?」
『する!』
『俺も!』
『おれも!』
みんなのお皿にお肉を追加して、今日のことを聞いてみた。
『すごく退屈だった』
『おひるは、おさかなたべたんだよ。おいしかったけど、りあのごはんがよかった』
『おれは、おひる、りあのみーとぼーるたべた!』
『ずるい〜!』
『ずるいぞ!』
なぜか胸を張るノル。あれはオーレリアのミートボールではなく、アルシアのミートボールなんだけど、まぁいいか。
「退屈だったかぁ。わたしたち、ご飯食べ終わったら調査隊に合流しようね。一応護衛の依頼だし、こんどはみんなで一緒にね」
『みんなで一緒ならまぁいいか!』




