閑話 鬼の隨に
お久しぶりです。
だいぶ期間を空けての投稿が閑話かよ!と言うツッコミが聞こえてきそうですが、私は聞こえません。アーアー,ナニモキコエナーイ。
カラン、コロン、と無機質な床に下駄の擦れる軽快な音が部屋に響く。
二つ…いや、一つ向こうでは未だにどんちゃん騒ぎが続いているのか、叫び声や爆発音等が聞こえてくる。
此処はそれに反して随分と静かなものであり、向こうの喧騒も相まってより一層に静けさが目立つ。
それもそうか、ここでは泣き叫ぶ者も、本能のまま動くモノも、皆々等しく死に絶えた。
転がるのは冷たい床に負けじと冷たくなった死骸ばかり、壁には赤い華を咲かせているものもある始末。
人間、悪魔、種の違いを問わず、両の手で掬うには、余りにも溢れんばかりの死がそこには広がっていた。
紅い唐傘を差した白い少女は、徐ろに着物の端を折って屈めば、他と比べればまだ出来て新しい血溜まりに手のひらを付けた。
本来であれば身体中を熱く巡る血潮も、その役割は今となっては果たすことなく、冷たい感触を返すそれは蒸発して消えるのを待つばかりであった。
「…古今東西、人というものは変わらぬものよな。奪い、争いにより、何かを生み出す。何かを見出す。その過程で犠牲になる者共を顧みることなく…」
手のひらを濡らす血溜まりから手を引けば、真っ白な手を赤く染め上げた血が、まるで帰る場所は其処であると言うようにぽたぽたと滴り落ちていく。
「そしてそれから産み出され、生きる上では糧とし、鏖殺し、略奪する妾達もまた、同じか」
その様を暫し眺めてから、彼女はペロリと手の中の血を舐め取った。
それから少しの間、まるで場違いな観光を楽しむかのように周囲を散策していた彼女は、ふと何かの気配を察するかのようにある方向を向けば、そのままふらふらとそちらへ歩を進めた。
先程の静けさが支配する場よりも、幾分か辺りが騒がしくなった道を歩くこと数分。
そこは広間のような、大きな空間が広がっていた。
ホールなのか、かなり大きな待合室なのか、大きさの割に占める人の割合があまりにも不釣り合いであり、空虚さを感じさせる其処には一人の男が立っていた。
「…僕を討ちに来た、というわけでも無さそうだね。君はどちらだい?」
男の方も、少し前から彼女を気配を気取っていたのか、入ってくる前からこちらを向いており、姿を視認すれば問い掛けを投げてきた。
少女はその問い掛けに少しだけ間を置いてから徐ろに口を開く。
「敢えて答えるならば、どちらでもない。妾はただここに来た、それだけじゃ」
「その割には随分と目的を持って向かってきた様に感じられるけど…まぁ、君は対象じゃないからね。好きにすると良いよ」
「無論、そのつもりじゃ」
一人の男と一人の少女、ボーイ・ミーツ・ガールと言うには年齢差がかなりあり、そうでなくとも場と空気がそれを語るには相応しくない程に物々しい。
語る言葉は互いに少ないが、それでも知ろうとすること、納得するものがあったのか、会話はそこで途切れた。
「して…」
男はそこで終わりと見たか、少女から視線を外して顔を逸らそうとした時、彼女がそれを遮った。
彼女の漏らした問い掛けの始まりでもある声を聞いた男は、不思議そうな表情を浮かべて視線を戻した。
「貴様は一体、何を望む」
「そうだね…僕が、いや…僕たちが生きるための意味、存在証明、とでも言おうかな」
「……それは諍いでは済まぬか」
男の答えを聞いた少女は少しばかり顔を俯かせ、悲しさが見え隠れする声色で男へと問い掛けた。
「それが無理なのは君もよく知っているだろう…?」
しかし男はそんな少女の様子を考慮せず、ぴしゃりと言葉で叩き伏せた。
少女はそれ以上の言葉を発することもなく、顔を俯かせたまま背を向け、入ってきた場所へと歩いていく。
男はそれを止めることも無く、ただ去り行く背中を見据えるのみであった。
そして出入り口から着物も含めた白く端麗な彼女が完全に見えなくなったところで、男は視線を逸し、天を仰いだ。
「だからこそ、君は迷い、悩み、考える。互いに辛いものだね。だって僕と君の願いは__」
悪魔の気配を感じ取った、その割には血の匂いがあまり感じられなかった。
だからこそ、物珍しさも確かに多少はあったが、確認する為に赴いてみた。
淡い期待を胸に抱いて。
しかしそれも無駄であった。
それもそうだろう。
この空港の占拠を成したのも、悪魔を放ち、退魔師と曲がりなりにも戦争を引き起こした張本人だからだ。
彼女はそれを知る術は無いが、しかし直感は酷く高い。
遅かれ早かれ気付くのは時間の問題であった。
彼女が気落ちし、悲しみを携えたのはまた別の理由だった。
あの者は妾と同じ願いを抱いておる__。
これこそが彼女を気落ちさせた理由であった。
悲しませるに足る理由か、と笑うものも居るかもしれない。
しかし彼女の、そして彼の願いは奇しくも同じものであり、それは命を賭けて挑むのも惜しくないと思わせるものであった。
久しく見ぬ、同族でありながらも同じ願いを持つ相手に会え、共感さえ出来れば背を共にすることも吝かではないと思えたからこそ、分かち合えぬ手段に背を向けるしか選択肢が無かったから、彼女は悲しみを抱いたのだ。
暫く歩いた後、彼女は来た道を振り返り、ポツリと言葉を溢した。
そしてその言葉は、まるで今まさに聞いているかの如くあの場に残った男と殆どが被ることになった。
「やっぱり僕らは、血と屍肉に塗れた、負の連鎖を繋げる獣になるしか道は無いんだよ…」
「本当に我らは、血と屍肉に塗れた、負の連鎖を繋げる獣になるしか道は無いのか…」
これは誰も知り得ぬ悪魔と魔人の会話の一幕__。
はてさて、久々のお話でしたがどうでしたでしょうか? 文章力が落ちてる気がしてならない作者です()
今後としては、これを期に無力と同時進行くらいでこちらも投稿していければなー、と無謀なことを考えていますが、多分投稿頻度とかは今までと変わらず亀以上の鈍さだと思います、はい。
そんなのでも構わないぜ!と、懲りずに付いてきてくだされば幸いです。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。




