それは黒
「___簡単に言えば『闇操作』ですよ。主に影しか操らないので、傍から見れば影操作とも言えそうですが」
「闇操作?聞いたこともないな。五属性に分類される火、水、木、土、風なら分かるが…それに準ずるものだと?」
「えぇ、認識はそれで構わないかと。例があまりにも無いので理解しろと言うのは難しいでしょうが、嘘偽りなく、私の扱う神威は闇操作。手や物で触れるほど、霊力で闇に質量を与え、壁を立ち上げて防御をしたり、棘などを生成して攻撃したりといった感じです」
「…信ずるに値せんな。俺に対し、貴様は虚偽を宣告している。そんな貴様の言葉に納得させれるほどの力があると?」
ふむ、最もな言葉である。
一度失ったものは取り戻すのに時間が掛かると言うが、同じものだろう。
こちらの信用を少しでも取り戻すなら……やはり実演するのが早そうだ。
「では、言葉でなく行動で示しましょうか」
言うが早いか、こちらは身体の中を巡る霊力を意識し、水月付近で練り上げるようなイメージを持つ。
そして練り終えた霊力を足へと流し、足裏を通して地面へと走らせていく。
ある程度流したら、スッと手の平を上に向けたまま上げる。
するとどうだろうか。
立つ場所を中心として、左右と後ろの影から何かが生えたと思った次の瞬間、幾本もの触手のようなうねうねと動く細長い黒の何かが出来上がる。
集合体恐怖症にとっては厳しい光景だろうな、これ。
高御門 華懍にしか見せていなかったが、これで晴れてこの神威の目撃者は二人目になったわけだ。
さて、見ることを臨んだ人物はと言えば__口を開けて驚いた表情を見せていた。
発動する前にちゃんと説明したのだが……。
「…これがお前の神威か」
「えぇ、名を「闇の恐慌」。神威を授けた神が教えてくれました」
「闇の恐慌か。何とも悪魔のような名であるな」
「名だけではありませんよ。この見た目と様子から、実際に呪術だと誤認された事もありますから」
「…仕方もあるまい。お前はまず、そう思わせる風貌があるからな」
「こればかりは私にはどうにも」
こちらもまいっているんですよ…と伝えるために、分かりやすく肩を竦めて見せる。
相手は「悪かったな」と一言謝るが、こちらとは距離を保ったままだ。
「…それで、ホントにやれと?」
「あぁ、その為に来たのだ。ここで見ただけで帰っては意味などない」
頑固とも取れる相手の姿勢に、遣る瀬無いため息をついてからこちらも構える。
と言っても、これを出している間、自身の足は地面に縫い付けられているかの如く一歩も動かせない。なので、気持ちだけでも構えておくのだ。
周囲を確認し、場の状況を頭に入れれば、流れを浮かべる。
__よし、これで行こう。
ある程度の纏まりを付ければ、神威に意識を向ける。
先ずは教官に向かって触手を放つ。
放たれた触手は、弾かれたかのような速さで勢いよく突っ込み、教官に突撃する__が、その攻撃は相手の体に接触する前に、透明の壁にぶつかったかのような衝撃音を出して止まった。
「それが全力か?では返すぞ」
それを言うが早いか、目に見えない壁で堰き止められていた触手は、何故かこちらに対して、攻撃を行ってきたのだ。
「ッ__!!」
あまりに予想外な出来事に驚きはしたが、腐ってもこちらは術者だ。発動したのは己、ならばこの触手の手綱を握っているのもまた、己だ。
攻撃の軌道がこちらに向いた瞬間に、逸らそうと意識を向け__だが、触手を思うように動かせなかった。
操作出来ないと瞬時に悟れば、闇瀬は足元から影で構成された黒い壁を作り出す。
その直後にはズドドドド、と大きな衝突音が壁一枚隔てて聞こえてくる。
衝撃もまた大きく、立っている床に振動が伝わって少し蹌踉めきそうになるが、何とか意地で堪えた。
黒一色の壁なので向こうの様子は一切見えないが、教官はきっと、余裕そうな顔でも浮かべていることだろう。
…それはそれで、何かこう、嫌だな……。
せめて鼻を明かすくらいの事はしてやりたい。
だったら__
「これは如何でしょうか…?」
そうポツリと相手に聞こえるか聞こえないかの声量で言葉を零す。
相手に聞こえたかどうかは知らない。寧ろ聞こえてなくても問題はない。
ホントの問題は、気合を入れなければならないこの後のことだ。
一度、影に霊力を流すことを止め、足を動けるようにすれば、大きく上げ、まるで親の仇の頭を踏み潰す勢いで__影を踏み抜いた。




