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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
熱風と離別の交響曲
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side: 冶金職人 瞳の輝き

「はぁ……つってもなぁ。拳や足じゃぁあんま凝ったもんは作れねぇ」


 ほんの数分前に知り合った小さき戦士の武器、それを息巻いて作るだなんて宣言したは良いものの、オラはどう良品を作ろうか思案を重ねていた。


 轟々と燃え盛る炉の炎を見つめながら、更に温度を高めるべく特製の薪を追加する。


 思えばひどく久しぶりだ。こんなにも意欲にあふれ、真っ当に客の事を考え冶金をするというのは。


 オラは有名になり過ぎた。けれど早かれ遅かれどうせオラはこの街に来ていただろうし、ここでしか生きられないとも理解はしている。


 少し前に服を受け取りに行くとオラの工房を出て行った小さな背中は、それでも確かに戦士のそれだ。


 この国の求める人材である事は間違いない。


「……どっからぁ、来たんじゃろぅなぁ」


 この国は言うなれば、はみ出し者の吹き溜まり。その中でも特に秀でた者だけが、この街で市民として受け入れられている。


 街唯一の出入り口、その反対の壁沿いの、はみ出っぱなしの浮浪者共が作り上げたスラム街。


 外で受け入れられずこの街でも受け入れられなかった悲惨で愚鈍な存在はそこへ集まる。それでも初めはこの街で生きていこうと努力するものだ。


 最底辺からの成り上がりはまずあり得ない。首輪を付けたあの小僧、首輪なんて付けてる奴は話題になる。


 スラムからやって来た可能性も一瞬考えたが、過去に首輪少年の話題が出回った事はない為その線はすぐに切り捨てた。


 この街で、娯楽と言えば噂話くらいだからな。いや、強いて言うのであれば闘争そのものが娯楽か。


「……はっ、難儀な国じゃのぅ」


 だが、それが自分には合っている。オラは心からそう思う。


 初めは兄弟子に勝ちたくて、弟弟子に負けたくなくて必死になって冶金の術を磨いたものだ。


 鉱石を見て、鉱石の声を聴いて、金属の輝きに見とれ金を打つ。命を吹き込んだ自らの子を泣く泣く殺し、もう一度命を吹き込み直す。


 オラの熱が他の奴らと違うと気が付いたのはかなり後の事で、結局師を超え独立を言い渡されてもなおオラは技術を高める事だけを考えていた。


 それにオラだっていっぱしの職人、自らの作品が評価されれば嬉しいもので、自分が良いと思った物を見せ、使ってくれることに一時期は喜びすら感じていたのだ。


 だが、オラがある種の幸せに浸れていたのはその時までだった。技術が高まり良い物が打てるようになると、必然的に名声も高まってくる。そうすると偉い豚共がオラを訪ねて来るようになる。


 オラは実用的な物しか打たん、使われる物しか打たん。だからオラの作った物を自らの装飾品扱いにする奴らが許せなかった。


「さぁ……どうぅするかぁ」


 フウカの坊主はあの小柄ながらも力は相当なものだった。


 見た目ではっきり分かり、人としての形を歪めるほどの濃い獣人(ヴィード)の血からなるものか、異なるものか。見た目からは想像できない程の膂力と腕力を身に秘めているのは良く分かった。


 それにあの、異邦の体術。全身を使って生み出された動力を身体に溜め、動きと共に一点に集中させ相手へ打ち込む重い打撃を相手に叩き込むソレ。


 背の小さな者がそのハンデを打ち消すために作り上げた武術なのだとは想像できる。あの機敏な動きは小さいからこそなるものだ。


 だけれどあの小僧に関しては、身体能力の時点でハンデを覆せるだろう。故にかの技を自在に行使した時の破壊力は並々ならぬものとなる。


「あん時、別の気配はぁ感じなんだ……けんど、あん白模様から……」


 確かに魔素を感じた。オラも地の魔法を使うからこそ込められた力には敏感だ。


 間違いなく本気ではあった、けれどもてる手札の全てを使ったわけではない。


 だからこそ、オラは悩む。あの時オラの身体は鉄塊にも等しい質量を誇っていたはず。


 それが浮かされる程の破壊力。下位の金属ではその力に耐えきれず自壊、もしくは歪みから使用者に牙を剝く。


 かと言って高位の金属を使うとなれば、それ相応の時間と労力、そして金がかかる。


 いや、金の問題は無いに等しいが……あの少年はアンの嬢ちゃん、つまり軍の監査官に作って来いと言われたって事だ。


 すぐに何かに使うのだろう。それこそ訓練、実践、はたまた試験か、とにかく用意しなければならない。


 ならば早急に一度限りの物を作って、その後改めて取りに来させるか。どうやら素手でも本人は戦えるようではあるし。


 くくく、と。漏れるような笑いが自然と喉の奥から湧いて出た。


「あぁ、いいじゃぁねぇか。良い使い手にゃぁ良いもんだよぉなぁ」


 オラが歯向かったんは豚は豚でも偉い豚だった。名声も何もかもを失い逃げざるを得なくなったオラは、結果としてこの国へと流れつく。


 自らが冶金術師であると伝えればすぐに工房が貸し出され、良い物を作ると尊敬され自らの工房を工面される。


 良くも悪くも強者に甘く弱者に厳しいこのユーミリァ、けれどそこにもやはり問題が付きまとった。


「あいつらぁ、ダメ、だろぅなぁ……。目ぇが、わりぃ」


 瞳の奥を期待の光で眩ませた弱い奴らが、オラの武器を使いたがったのだ。


 いや、正確には弱くはないんだろう。オラの作る武器を扱うだけの光るものを持っていないというだけだ。


 だけれどオラはそれが気に入らなかった。武器を使うのではなく使われる、使うものであるはずのオラの武器をまともに使いこなせん奴らにオラは武器を打つ事は無い。


 特大の剣を打ったとして、その用途は如何様か。


 叩き切る、外敵の攻撃を防ぐ、盾のようにして打ち砕く。それを考え部位ごとの重さなども調整し、刃の角度から鋭さまで全てを完璧に作り切ったとする。


 けれど凡夫はそれを使いこなせない。ただ何となく、その完璧を使って普通の結果のみを残すのだ。


 それに精神性も大事だろう。良い物を作ると自分が強くなったと錯覚し、自らを鍛えるという意欲が減衰する。


 もっと強くなりたいと思ったらまずは自分を鍛えるべきだろう。そしてその次に自分に見合った武器を選ぶ。


 武器ってのは余程画期的でもない限り主役にはならねぇ。武器を作る側の冶金術師であるオラが言うのは滑稽かもしれないが。


 あの少年、フウカの坊主はきっとそうはならないだろう。オラを見つめて来たあの瞳が傲慢に曇るさまを一切想像できないのだ。


 だからこそオラは手を貸す。オラの作った物を十分に……いや、十二分に使いこなしてくれそうな彼奴に、オラは武器を打つ。


「フウカの坊主の手ん形はぁ、覚えとる……あとはぁ、何を使うかじゃぁ……」


 『鋼』は論外。あの力に耐えられない。かと言って『重銅』を使うと火力は上がるだろうが俊敏性が損なわれる為不向きだ。


 なら、『青銅』ベースに『黒奇石』でコーティングを施すってのは……。


「……ダメだぁ。手間ぁかかり過ぎる、間に合わねぇなぁ」


 丁度いい武器は作れるだろうが一週間は掛かるだろう。それも中途半端な作品に仕上がるに違いない。それに接着に『銀葉』も使用する必要がある、あれは今丁度切らしてるんだ。


 なら……。あぁ、そうだ、良いのがある。


「『脆硬鉄』……まぁ、ぶっ壊れる前提じゃぁあるがぁ……一週間くらいならぁ、持つだろぅなぁ」


 ある意味鍛冶師泣かせの金属、『脆硬鉄』。名前の通り脆くて硬い金属素材。


 使い捨ての道具や詐欺紛いの武具なんかにしか使われないそれは、自らの作品への愛情に富んだ鍛冶師だったら絶対に使わない金属だ。


 けれど、今回の用途にならピッタリだろう。本命を作るまでの時間稼ぎ、即興の小道具としては十分すぎる。


 更に更に加工が楽と来たもんだ。さて、さっそく取り掛かろう。


「はぁぁ……手はぁ、抜けねぇなぁ」


 過去一度たりとも手を抜いた事なんて無いけれど。


 オラは炉の前から退き、『脆硬鉄』の在庫を取りに工房の奥へと引っ込んだ。

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