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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
熱風と離別の交響曲
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寂しい目覚めと身体の進歩

 森も砂漠も、目の覚め方は変わらない。瞼じゃ遮る事が出来なかった光がオレの眼に焼き付いて、それに気が付いた瞬間、オレは目が覚めた事に気が付くんだ。


「うっ……もう、あさかぁ……?」


 にいちゃんと離れて最初の夜は、にいちゃんの夢を見た。


 夢の中のオレもベッドで横になっていて、そんなオレの事を優しく抱きしめてくれるにいちゃんの姿。


 昨日まで当たり前だったそれは、夢だってのが嘘みたいにオレの記憶にこびりついている。


 硬いベッドから降りようと、身体にかかったままの薄いタオルをベッドの端に投げ捨てた。ベッドの端に手を掛けた瞬間、いつもと違う身体の調子にオレは気が付く。


 ってかこんなん誰だった気付く。大して力を入れていないのに、ベッドの木のフレームがミシッという鋭い悲鳴を上げたんだから。


「え……なんか、力が……」


 今まで鉛の鎧でも着ていたかのように、オレの身体は一晩のうちに大きな進歩を遂げていた。


 見た目上は何も変わっていないように見える。けど明らかにその出力は今までとは比べ物にならない。


 倍までは行かないはずだけど、その半分くらいは力が出る。それに魔素を動かしやすいな。


「ふぅ……シッ!」


 ファチッ!


「……うわ」


 やっばいなぁ。今までより更に威力が上がってる。


 オレは物の試しと構えて打った。空気が弾かれる独特な音が部屋に響いて、その力強さにオレは自分の事ながら驚く。


 ほんとに、なんでこんなことになったんだ? オレはベッドに座り込んで、にいちゃんとの繋がりを魔素で刺激する。


『にいちゃん、にいちゃん!』


『あ、フウ! 身体大丈夫!?』


『あ、あのさ、おきたら身体すっげぇんだけど、にいちゃんなんでかしらない?』


『……えっとねぇ』


 かくかくしかじか、にいちゃんはオレに、黒獣の心臓を焼いて食べた事やその後の事を教えてくれた。


 オレの中に吸い込まれていった、黒獣の残滓。それが解き放たれて、力になったんだって。


『オレ、スヴェーラ売っちまったんだけど』


『あー……肉、ってか心臓だけでも買い取れないか聞いてみよっか。調理に関してはどこかで頼んで……なんなら俺が火を出しても良い』


『ん、わかった。じゃあそーする』


 その事も資料室で聞いておくんだったな。この後もう一回あそこに行って軍に加入する予定だったし、その二つを聞いてみよう。


『……ね、フウ。大丈夫? ちゃんと一人で眠れた?』


『いちおー……やっぱりさみしいけどよ、一人でねれる』


『そっか……俺の方はね、まだ森の出口も見えていないんだ』


 だからどれくらい掛かるか分からない。にいちゃんは申し訳なさそうにそうオレに告げる。


 にいちゃん、すっごく悲しそうだ。そんなのにいちゃんのせいじゃないし、オレが早く迎えにきてほしいってわがまま言ってるだけなのにさ。


 だからオレは出来るだけ元気よく、強がってにいちゃんに答えた。


『だいじょーぶだ! オレ、にいちゃんと離れ離れでもがんばるから!』


『……うん。わかった。信じてるからね』


『うんっ』


『また、一緒に寝ようね』


『うん!』


 最後に微笑んでくれたような気配と共に、にいちゃんがオレの中から去っていった。


 身体の調子はすこぶる良い、なのににいちゃんが居なくなった瞬間の喪失感だけは慣れる気がしない。


 ベッドに腰掛けていた身体を投げ出し、硬い布団が背中を受け止める。寝起きの頭はすっかり冴えたけど、二度寝するのも悪くないかな。


「はぁ……にいちゃん」


 投げ出した薄い布団をベッドの上に引っ張り上げて、もう一度下半身を覆う。


 暑くて布団なんて必要ないけど、ベッドにいる間は布団をかぶりたくなるんだよな。


 眼を閉じるとまた訪れ始めた些細な眠気。オレは身を任せようと身体から力を抜き始めた。


 けれどすぐに、オレのそんな眠気は予想外に吹き飛ばされる。


 ガチャッ!


「おきゃくさーん! あさですよー!」


「へぁ!?」


「あっ! おっはよーございまーす!」


 突然ドアが大音量で開かれ驚いた後、更に大音量の高い声が叩きつけられる。


 咄嗟に飛び起き拳を構えて前を見据えたけれど、オレの動きは固まった。


「な、なんだ……?」


「ちょ、おきゃくさーん。朝起こしに来たのにその反応はひどくないですかー?」


 入口に立っていたのは一人の少女だった。


 灰色の短髪に、薄く日に焼けた肌。ある程度顔立ちは整って……るのかどうかは分からないけど、クラスにいたらもてそうな雰囲気の女の子。


 年齢はオレより少し上くらいかな。ダボっとしたズボンにへそを出した服を着て、ニコニコとした顔をしながら不満そうにそんな事を言う。


「っていうかぁ、おきゃくさん。無防備過ぎなぁい?」


「は?」


「あたし、女なんだよ? まあ別にあたし的にはいいんだけどさぁ……? うふふ、ちょっとくらいかくそ?」


 そう言ってオレの方へと指を指してくる、指の先には……。


 あ、オレそういえばなんも着てねえ。


「じゃあでてけよ。ここオレの部屋」


「ここはあたしの宿ですぅー、ま、いいけどねぇ、良いもの見れたし……」


「……」


 なんだコイツ。今まで接点が無かったタイプの女だ。


 オレが反応していないのに喋り続ける。ちょっと苦手かもしれない。


「ちょっと、反応くらいしなさいよ。あたしなんかに見られたところでどーって事無いって意味ぃ?」


「……」


「随分と寡黙なのね、まあ良いわ。早く朝食取りに来ないと母さんに怒られちゃうわよ、じゃあねー」


 それだけ言い残して彼女は部屋のドアを閉め、そのまま扉の前から足音が遠ざかっていく。少し離れた位置で同じような声が聞こえた。


「……いまのやつ、昨日はいなかったよな……」


 オレがチェックインした時、店内で受付をしていたおばさん一人だけだったはずだ。母さんって言ってたし、娘?


 まあ何でも良いや。オレは改めて息を整えると、しゃがみこんで地面に投げっぱなしにしていたボロの下着へと足を通す。


 ……服も買わねえとなぁ。オレは人に肌を晒しても平気なタイプだって自分でもわかってるけど、周りからの目は少し気になる。


 いくらくらいするんだろ、あんまり高いんだったら暫くはこれで良いけどさ。


 軍に入ったら金の支給とか……なさそうだなぁ、国民の殆どが入ってるって話だったし。


 身体を伸ばして息を漏らし、力加減が必要になった身体を解してからオレは部屋から外へ出た。

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