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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
熱風と離別の交響曲
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side:ライン 心臓喰らい

「さて、と……」


 フウとの寝る前の会話が終わり、俺は適当な巨木の洞に土の壁で蓋をして、簡易的な拠点を作り上げた。


 外からの光はほぼ入ってこないけれど、フウほどではないにしろ俺も夜眼は効くから何とか中の様子は見える。


 考えているのはフウのこと、そして一刻も早くこの森から脱出する事だ。


「フウ、寂しそうだったな……」


 俺が言えたものではないけれど、フウは既に相当参っている声だった。


 強請られた励ましでケアは出来るみたいだけど、それでもあのフウの声を毎日聞くことになるのは俺の方も参ってしまいそうになる。


 フウにはいつまでも元気な声を出していて欲しいんだ。目の光が死んだフウは見ていられない。


 もう二度と、昔のフウに戻しちゃいけないんだ。


 そしてそれを何とかするために、俺は外に出なければならない。


「方向的にはこっちで良いんだよな……」


 フウが受け取った、あの声からのメッセージ。曰くフウがいる砂漠は南西で、この大森林は北東。


 太陽は東から登り西に沈む。俺は太陽を目安に見出した、おそらく南西であろう方向に進むことにした。


 もし、万が一この星の自転が逆、どこぞの超有名漫画みたいに西から登ったお日様が東へ沈む世界だった場合、俺の目論見は一気に最悪の方向へと向かった事になってしまう。それだけが危惧するところだ。


 あともう一つ、俺には悩みがあった。


「……マジで、どうしようかなぁこれ」


 腰につるした革袋、ずっしりとした重みを俺に伝えるその中には、そのままにしておくわけにもおかず持ってきた例のブツが入っている。


 皮ひもを解いて開かれた袋の中からは、赤色ではなく焦げ色をした輪切り肉の塊。


 しっかり調理済みだ。焼いたときに美味しそうな匂いが漂って我慢するのが大変だったけど、怖かったから何とか抑えた。


「匂い的には大丈夫なんだよね……それに、やっぱり美味しそうだ」


 虫が湧いているわけでも腐臭がするわけでも無い、ただ冷めてるだけの上質なハツ。


 そういえば今日ご飯食べてないな……この身体になってからあまりお腹が空かなくなったとはいえ、一日何も食べないと調子が狂う。


 腹が減った訳じゃないけど、極上の食欲をそそる肉が目の前にあるのに食べないというのは……。


「……あーもう! 食っちゃえ! うだうだ考えるのやめだ!」


 肉臭くなった革袋を床に置き、肉の一切れの表面を軽く水で洗い流してから目の前に垂らす。


 きっとこれは凄く美味いのだろう。味は想像できないけれど、それだけは良く分かる。


 意を決して大口を開け、一切れの心臓肉を口へ納めた。


「ん、んぐ……んぁー……ふぁんは(なんか)……」


 食感は少しだけコリコリとした柔らかな肉といった感じ。臭みもなく、苦みもない、それどころかほのかに甘く、確かに美味い。


 けれど……なんだろう、期待外れという他無い。すっかり冷めてしまったからか、先ほど洗い流したからか、いやそれが無くてもこの淡白な味は普通の範疇に留まっているような気がした。


 なんでこんなに俺はこの心臓肉に引き付けられたのだろうか。それは僅かな落胆と共に、肉を胃袋に収めた瞬間に起こった。


「ん゛!? な、ま、魔素がッ……! な、なんだ、なんだこれは!?」


 ずっと俺とフウの中でくすぶっていた、謎の感覚。フウが黒獣を傷つけた時、倒した時、そしてフウがワームを倒した時に感じた謎の違和感。


 それが溶けだし、身体中を膨大な魔素が循環する。身体の節々、俺の魔素が支配する領域へと圧倒的な物量で溶けだそうと


 体内に大量の熱湯を流し込まれたような激烈な感覚に、声にならない掠れた叫びをあげながらその場で蹲りそれが過ぎるのを待つ。


 けど、不快ではない。それどころか溢れ出て来る全能感におかしくなりそうで、俺は意識を集中させるためにとにかく光の魔術を発動させていった。


 詠唱はまず無理だ、だから魔素操作で無理やり発動させようとするけれど、魔術を使用するための精密操作が出来なくて、それらは魔法に成り果てる。


 大量の魔素によるごり押しの魔法、自らの中に渦巻く大量の魔素が消費されていくのを感じるが、それでもどんどん供給されて止まらない。


「うう゛ぅぅぁぁぁぁ……!」


 俺の腕輪が激しく光る。光の魔法で眩いまでの光の中ではっきりとわかるくらい、緑の光が腕から放たれている。


 そうだ、俺の方がこうなっているんだ、フウはどうなっている? あの黒獣を倒した時、俺と同じ謎の感覚をフウも味わっていたはずだ。


「うぅ、ぐっ……! はぁ、はぁっ、っ!」


 働かない頭の中、無理やりフウの中へと俺は侵入を試みる。


 暴れる魔素を絶えず発散させ、しかし光を発生させるだけだと足りずに身体中へと循環させた。


 身体は軽くて頭が重い、魔素の過負荷に苦しみながらもフウとの接続は完了する。


『すぅ……へへ、にい、ちゃ……』


「ね、てる……!?」


 フウの中にも魔素は渦巻いているのに全然苦しそうじゃない。それどころか優しく体内を循環して、フウの身体を優しく包み込んでいるような……。


 この違いはなんだ、なんで俺はこんなに苦しくて……いや、違う、苦しくはない、ただ力が溢れかえり発散しようとしているだけだ。


 まさか、これは俺を害するものじゃないのか……? フウは完全に無防備だ、だからすんなりとその魔素が吸い込まれていて、逆に俺は警戒しまくって反抗を示しているからこんなにも……。


「受け入れっ、ればぁ……! い、いのか……!?」


 こんな訳の分からないものを? こんな俺の身体を引き裂きそうな魔素の塊を!?


 だって俺は一度これに疑念を抱いてしまったから、フウみたいにそのまま受け入れる事は難しいんだ。


 それとも、俺が臆病すぎるのかもしれないな……。だってフウは、俺みたいにこの感覚に対して不快に思ってなかったし。


「わかった、受け入れれば良いんだろ……!? わかった、わかったよ……っ」


 太陽のような眩さを誇っていた魔法の光、それは俺からの魔素の供給が減るにつれ徐々に光量を衰えさせていく。


 一気に戻すと俺が破裂するかもしれない。まだ恐れを捨てられないながらも、時間を掛けて魔素の放出は停止させた。


「う、ぅぅぅぅ……」


 フウとの繋がりを切断し、俺は自分の中で渦巻く魔素へと身体を明け渡す。


 震えそうなほどの恐怖とは裏腹に、今まで敵だと思っていた魔素は余りにも温かくて。恐れる必要のないものだったと感じ取る。


 今まであんなに膨大だと感じていた魔素の塊は、けれどよくよく感じてみるとそこまで意味が分からない膨大さではない。


 俺の魔素と混じり合うように身体にしみ込み、魂の周りを覆うように集まりながら力の管を作っていく。


 少し抵抗しようとすればその塊は俺を抑え、抵抗を辞めれば何もしない。俺に害を加えないという思念のようなものが伝わって来た。


 最初から怯える事なんて無かったのかもしれない。けど俺にはそういう見極めが出来ない。


 ゆっくり眠っていたフウの寝言を思い出しながら、俺もゆっくり微睡と共に身を委ね続けた。

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