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番外編② リアと子供

番外編2つ目です。

チチチ…


小鳥の囀る声が聞こる。

顔をあげればサワサワと心地よい風が吹き抜けた。


「今日もいい天気だね~」


『あぁ、そうだな』


バシャバシャ!

目の前では水しぶきが上がっている。


『まてー!』


『つめたっ!やったなぁ!』


『きゃー!!』


目の前の湖では新しく生まれた魔獣の子達が楽しそうに遊んでいる。私はルドと共に木陰で休憩中。

ここに来るまでは考えられもしなかったほど穏やかな時間が流れてゆく。


「ふぁ…」


心地よい風と暖かな日差しについ、ウトウトと船を漕ぎ始めていると、頭上から声が聞こえた。


『リアー!』


「…ん?」


見上げればそこには2m程の黒い大鷲のような姿をした魔獣がいる。彼の名前はリャタ。

翼を持つ魔獣達のリーダー的存在の彼はいつも空からこの島の見回りをしてくれている。


「リャタ、そんな急いでどうしたの?」


『リアぁ!小舟がここに向かってるよ。多分、人も乗ってるんじゃないかな』


「え…また変な人じゃないよね?」


『それはわからん。兎に角行くぞ。リャタ案内しろ』


『わかった!こっちだよ!』


私達は急いで、小舟の方向へ足を向けた。

着くとそこには既に舟がこの島へ乗り上げていた。

想像よりも小さなその船は恐らく大の大人が2人ギリギリ乗れる程の大きさ。リャタは人が乗っている…と言っていたが、船には布がかけてあり本当に人がいるのかよく分からない。


『リャタ、本当に人は乗っていたのか?』


『だから多分だってば。あの通り布がかけてあるからさよくわかんないんだよね…でも、ゴソゴソ動いてるとこは見たよ』


私達はもの陰に隠れてそれをじっと観察する事にした。

しかし待てども待てども、布から誰かが出てくることは無かった。


「…ちょっと見てくる」


『あ、おい!リア!』


私はルド達を置いて小舟に近づいた。

中を除くと、リャタが言っていた通り布が被せてありその下を何かがゴソゴソと動いている。


「…あの」


小さく声をかけると、それはピタッ!と動きをとめた。


「あの…出てきてくれない?」


そう声をかけるも、それは微動だにしない。

痺れを切らした私は恐る恐るその布を捲り中を確認すると、そこには小さな子供がいた。


「子供…?なんでこんなとこに」


その子は手足を縛られ、口元には猿轡をされている。

かろうじて見えるその瞳は恐怖で染まっていた。


「えと…今それ外すね」


私はすぐ後ろまで近づいてきていたルドとリャタに少し距離を取るように目で合図を送った。ただでさえ怖がっている子を、これ以上怖がらせないためだ。

彼らは渋々といった体で私と舟から距離をとった。

そのことを確認し、私はその子の拘束を解いてあげた。


「はい、取れた…っわ!」


『『リア!!』』


その瞬間、私はその子に押し飛ばされてしまった。

突然の事で思わず後ろにひっくり返ってしまう。

折角距離を取ってもらっていたというのに、ルドとリャタは私を心配してか大急ぎでこちらに向かってきた。


『リア!大丈夫?』


『おい小僧。我のリアに何をする!』


「2人とも、私は大丈夫だよ」


鼻息粗く、子供を威嚇する彼等を何とか諌める。

その間、人間の子は此方を伺いながらもガタガタと震えていた。寧ろ2人が来たことでより怖がらせてしまったようだ。私は安心させるためにゆっくりと優しく語りかけた。


「君が怖がることは何もしないよ。誰も君を傷つけたりしない。大丈夫。安心してって…言っても無理かなぁ、本当に何もしないよ、」


必死に語りかけていくうちに少しずつ警戒をといていったのか強ばっていたからだから徐々に力が抜けていくのがわかった。


「私達は怖くないよ、大丈夫」


恐る恐る顔を上げたその子は、私と同じ赤い瞳に黒い髪をしていた。人には珍しいその色彩に驚いた。

しかし、その子からは魔獣の気配はしない。ルド達も特に反応はない。という事はこの子は正真正銘、人間だ。

黒髪に赤目は一般的には魔獣の色として忌避されている。という事は…この子はきっと迫害にでもあったのだろう。

よく見れば、服はボロボロで肌が出ている部分は痣だらけだった。私はルドを見上げた。こんな子を放っておけるわけがない。


「…ルド」


ルドは暫く考え込んでいたが、私を見て仕方がないと言わんばかりに溜息をこぼした。


『はぁ、リャタあれを取ってこい』


『えー、僕あれ嫌いなんだけど…』


『早く行け』


『…はーい』


そう言ってリャタに取りに行かせたのは魔力を吸収し弾く力のある特別な花だった。それは一見繊細なガラス細工のような見た目をしている。5つある花弁は水晶のような煌めきを持ち、光にかざすと7色に変化した。落とせば直ぐに割れてしまいそうなそれは意外にも強度は高く、ルドが踏みつけても壊れることは無い。


リュカが持ってきたのはその蕾。

未だ子猫のようにビクビクと震えている彼の元にそっと近寄り花を手渡した。。


「はい、これは御守り。今はとりあえずそれ持っててくれる?」


「…」


彼は無言で私の手から花を受け取ってくれた。

その事にほっと胸をなでおろした。先程のように振り払われたらどうしようかと思ったが…大丈夫そうだ。

この地の魔力はこの子にとっても毒となる可能性がある。

そもそもここの魔力に適応できるものが少ないのだ。

だから、普段は決して人には渡さないその花を彼にあげた。これを持ってさえいれば、魔力に侵されることは無いから。しかしそれも花が咲くまで。蕾の様子を見る限り、およそ1ヶ月ほどで花を咲かせるだろう。


その間に、この子をどうするか相談しないと…


とりあえず私は彼を一旦この地で保護することに決めた。ルドはそんな私の意図を読み取ったのか嫌そうな顔をしながらも否定することは無かった。


『…リア、花が咲くまでだからな』


「うん、ルドありがとう」


私は彼と視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。


「私の名前はリア、お馬さんみたいな見た目の彼はルド。大きな鳥さんはリャタだよ。よろしくね」


「…」


「君の名前を聞いてもいいかな?」


暫く彼の瞳をじっと見つめて待つと、彼は漸く口を開いた。


「…ぃ」


「うん?」


「名前、なぃ…」


「…」『…』


それを聞き、私はそっとその子の手優しく握り締めた。幸い、その子は私の手を振り払うことはなかった。その事にまたほっと息をつく。


私達魔獣にはその人の感情・記憶を読み取ることができる。それは、魔獣が感情から生まれた存在だからだろう。

勝手に読むのは申し訳ないと思ったが、彼には黙ってそっと記憶を読み取ってみると…ここに来るまで随分と酷い扱いを受けていたことがわかった。

生まれて間もなく親に捨てられた彼は村の村長に拾われた。しかし、それは優しさなどではない。ある程度育つとあとは奴隷のような扱いを受けできたようだ。

名前も与えて貰えず、その色彩を持つと言うだけで暴力を振られ、遂にはこの島に捨てられてしまった。


『リア…』


「え…あ、ごめんね。驚かせちゃったかな」


私はいつの間にか涙を流していた様だ。

目の前の彼は驚いたのか、目を瞠目させた。


「…その、悪いとは思ったのだけどあなたの記憶を読ませてもらったの。あ、えと、人には不躾だったよね、勝手にごめんね!」


握り締めたその手に力を込めた。一瞬ビクッと肩を震わせるも、やはり最初のように私を拒絶することは無かった。

私は彼の瞳を確りと見つめた。少し動揺した様子を見せるも、彼も私を見つめ返してくれた。

その瞳には未だ、恐怖がチラついている。


「ずっと…辛かったね、苦しかったね。痛かったよね…よく、頑張ったね。もう、大丈夫だから。君はもう何も我慢しなくていいよ。君は、自由だよ」


「っ…」


そう告げるとその子はどんっと勢いよく私に抱きついてきた。

今度は後ろに倒れること無く何とか耐える事が出来た。

腕の中を覗けばその子は声も無く静かに涙を流していた。ぎゅうっと抱きしめてくるその腕の力はとても強い。


そんな彼が何だか愛おしくてついヨシヨシと頭を撫でてしまった。

この子はずっと、人の温かさを求めていた。

優しさを求めていた。家族を、求めていた。


私は、彼の望みを全て叶えてあげることは出来ないけれど…少しでも安心出来るようにしてあげたい。


「君は、とてもいい子だよ。私、君と出会えて嬉しいな。

私と出会ってくれてありがとう」


彼の記憶の中では常に大人達から罵詈雑言を吐かれていた。それを見た村の子達も一緒になって彼を蔑んでくる。

とても、苦しかったろう。悔しかったろう。しかし彼は決して抵抗することはなかった。すればより酷い扱いを受けるとわかっていたから。だからこそ、ただ体を小さく縮こませて耐えて耐えて、ずっと我慢してきた。

その事実がとても悲しかった。彼らは君の存在を否定したけれど、私はその分君を肯定してあげよう。


君は生きてていいんだよ。

生まれてきて良かったんだよ。


諦めないで良かったって、生きててよかったって君が思えるようにこれから沢山楽しいことを教えてあげよう。




何時しか腕の中で眠りに落ちたその子の頭をヨシヨシと撫でていると、私の体がふわりと浮かぶ。驚き顔を上げるとそこにはルドの顔があった。彼は態々人の姿になって私を抱き上げてくれたようだ。


「ルド…その姿嫌いじゃなかったっけ?」


「いつもの姿だとリアを運べないだろう…いつまでもここにいる訳にも行くまい。家に戻るぞ」


「ふふ、そうだね。ルドありがとう」


「ふん、我はその人の子を認めぬからな。早い所追い出してしまえばいいものを…リアは優しすぎるのだ。そもそも…」


そのまま説教を始めたルドをじっと見詰める。


文句を言いつつも私ごとその人の子を抱き上げて運んでくれる彼が一番優しいことを私は知っている。しかし、本人にこの事を伝えれば照れか分からないが猛抗議してくる事だろう。


でも、少しくらいはいいかな…


「リア、我の話ちゃんと聞いてるか?」


「うん、勿論聞いてるよ」


「…本当だろうな?はぁ、たく」


訝しげな目線を向けてくる彼に思わず苦笑が漏れる。


「あのね」


「ん?」


「ルドの優しいところ、私好きよ」


「なっ!」


「いつもありがとね」


「ぐぅ…」


顔を真っ赤にさせて固まってしまった彼はとても可愛らしい。思わず、ルドの頭もヨシヨシと撫でてしまった。


「くっ…これだからリアはっ!」


「なぁに?」


「なんでもない!」


『…ねぇ、2人とも僕のこと忘れてない?僕の目の前でイチャイつくのやめてくんないかなぁ?!』


リャタは何を言っているのだろう?

別に誰もイチャついてなどいない。

首を傾げると、それはそれは深ーい溜息を落とされてしまった。


「私、リャタも好きよ?」


『うん、ありがと!僕もリア好きだよ。でも今それは言わないで欲しかったな!ルドすっごい目で睨みつけてきてるから』


「ん?」


なんの事だろうとルドに視線を戻すも顔をそらされてしまった。


『それより、ほら。家ついたよ』


「あ、本当だ」


森の奥、日当たりの良いところに私達の家はある。

本来魔獣に家は必要ないが、元が人間だった私の為にルドが用意してくれたのだ。

こじんまりとした二階建ての可愛らしい外見のその家は私のお気に入りだ。


「ただいまー」


家に着いてすぐ、私はベットに彼を寝かせた。

怪我の治療もしたいが、魔獣の私達は治癒魔法を使えない。しかし、この島には唯一治癒魔法を使える者がいた。

私はリャタにその子を呼んでくるように頼む。


「リャタ、あの子呼んできてくれる?」


『別にいいけど…僕、伝書鳩じゃないんだけどなぁ』


ブツブツと不満を漏らすもリャタは大人しく彼を連れてきてくれた。


『リア、呼んだ…?』


「ロイ!うん、この子の治療をお願いしたいの」


リュカの背中から飛び降りて来たのは、私達魔獣とは違い純白の毛皮に、満月のような美しい金の瞳をもった兎だった。彼はロイ。この島の魔力によって生まれた聖獣だ。

彼は私達がこの島に来て2年ほどだった頃にひょっこりと姿を現したのだ。驚く私達に『僕も、仲間に入れて?』と言ってきた。いつからこの島にいた定かではないが彼は相当長い時間この島に1匹で暮らしていたらしい。

寂しそうに告げる彼を私達は直ぐに仲間として受けいれ、それ以来とても仲良く暮らしている。

彼は聖獣という事もあり、治癒魔法等の難易度の高い魔法を簡単に操る。可愛い見た目に反して魔法のエキスパートなのだ。

ロイは快く私のお願いを聞きいれ彼の治療をしてくれた。


「ありがとう、ロイ」


『うん、じゃあまたね』


そう言ってロイは足早に去っていった。

リュカによると魔獣の子達と一緒に遊んでいた所を頼み込み連れてきたらしい。


「後でお礼しなくちゃ、何がいいかな?お菓子とか?」


「…リア、菓子はやめろ」


「なんで?私、料理好きだよ」


「いいから」


ルドはそう言って、私をいつもキッチンから遠ざける。何故だろう?不思議に思うも、ルドがそう言うなら別のものを考えようか



彼が目を覚ましたのは、倒れてから2日後の昼だった。

それを知らせてくれたのは私の代わりに様子を見てくれていたルドだった。


『お、漸く目が覚めたか…リアー、ガキが起きたぞ』


「ガキ言わないのっ!良かった…体は痛くない?私の友達が治してくれたんだけど、大丈…どうしたの?」


ベットから起き上がったその子は私を見つけると一目散に駆け寄って来るとそのまま抱きついてきた。

咄嗟に抱きとめ体調を伺うも返事がない。


「えと、大丈夫?」


そのままポンポンと背中を叩いてあげれば、漸く顔をあげた。


「…だぃ、じょぶ」


「そっか。あ、お腹すいてない?ご飯食べよっか」


本来魔獣の私達は魔力を糧にするため食料を必要としない。しかし、この子のためにロイに頼んで人が食べても平気な木の実などを作り出してもらった。

そこら辺に生えてるものはこの島の魔力を多分に含んでいるため、下手をしたら死んでしまうからだ。

他にもこっそりと人間の街に行って買ってきたもの等がこの家には常備されている。


私はこの子がいつ目を覚ましてもいい様にお腹に優しい料理を作っていた。

暖かいそれを差し出せば、彼は何故か困惑した表情を浮かべた。


「食べないの?…あ、そっか。あのね、これは君のだから誰にも遠慮しないで食べて大丈夫だよ、寧ろ温かいうちに食べてくれると嬉しいな」


彼は村にいた時、満足に食事を与えられてこなかった。

貰えたとしても許可がおりるまで絶対に手をつけては行けないと躾られていたのだ。

彼は恐る恐ると言ったていで料理に口をつけた。どきどきとした気持ちでその様子を伺っていると、料理を口に入れた瞬間何故かピタッと石のようにピシッと固まってしまった。


「あ、あれ…?どうしたの?もしかして…美味しく、無い…?」


「…」


彼は無言で首を振ると、そのあとは掻き込むようにして一心不乱に食べ始めた。よっぽどお腹が空いていたのだろう。

その様子にほっと胸をなでおろした。


「良かった、美味しい?」


「…ぅん」


その様子を後ろでルドが静かに見守っている。


『…リアの料理を口にするとは…こやつ、勇者か』


ぼそっと、ルドがそんな事を呟いていたなんて私は知る由もなかった。


※※


「さてと…これからどうしよっか」


食事も終わり、私達はリビングに移動した。

彼は私の服の袖を掴んで離さない。その手を取ってソファの上に座らせてあげる。私はそのまま隣に座ろうとしたが、何故かルドが人の姿になり私を膝の上に乗せてきた。


「ルド?どうしたの?」


「…なんでもない。それでどうするのだ?」


なんでも無くはないだろう。私の腰に回った腕を押すもビクともしない。仕方なく私はそのままの体制で隣に座る彼の顔を見れば、何故か頬をプクッと膨らませていた。

その顔があまりにも可愛らしくて、つい笑ってしまった。


「ふふ、リスみたい」


膨らんだ頬をツンとつつけばプスーと音を立てて空気が抜けていった。


「あ、そうだ。君の名前なんだけど、タラム…とかどうかな?

きみが寝てる間ずっと考えてたんだ。どう?」


「たら、む…?」


「うん、あ!その、気に入らなければ他の名前でもいいし君自身が考えてつけてもいいけどね」


慌てて伝えれば、彼は少しの間逡巡していたが直ぐに頷いてくれた。


「タラムでいぃ、よ」


「良かった、じゃあタラム。早速だけど、君はこれからどうしたい?」


「どぅ…?」


単刀直入に問いかければ彼…タラムは首を傾げた。

まぁ、確かにいきなりこんなこと言われても分からないか。


「えっと、そもそも君はここがどこだかわかってる?」


フルフルと首を横に振ったタラムを見て簡単にこの場所について説明することにした。


「ここは最果ての地。人間や生き物が暮らすことは出来ないと言われていたけど、今では魔獣達にとっては安息の地となっている場所だよ。人の間では魔国って言われてて私は一応、ここの責任者っていうか…魔獣達のリーダー的なことをやってる魔女のリア。

魔女って言っても、元が人間ってだけで魔獣なんだけどね」


「まじょ…?まじゅう…?」


「うん、魔獣は分かる?彼みたいな子達のことを言うんだけど…」


そう言ってルドに視線をやると、ルドはフンっ!と鼻を鳴らして顔を逸らしてしまった。


「なんかルドがごめんね、いつもはこんなんじゃないんだけど…」


何故か何処と無くいじけてるルドを放ってタラムに向き合うと大丈夫と首を降った。ありがとう、と気持ちを込めて頭を撫でると、頬を染めて俯いてしまった。


「魔獣…知ってる、よ。ずっと…そう呼ばれてた、し」


魔獣が人の地を去ってからまだ数年しか経っていない。

恐らく知ってはいると思いながら聞けば、案の定魔獣のことはなんとなく知っていたようだ。


「僕は…魔獣じゃなぃ、の?」


「君は人間だよ。魔力が強いだけのね」


「そ、か…」


タラムの言葉を否定してあげれば彼は安心したような、しかし何処と無く残念そうな顔をした。タラムはずっと魔獣と言われ暴力を振るわれてきたから、何故残念そうなの顔をしたのか少し気にはなったが…とりあえず今は彼の今後について話し合おうと思い私は敢えてその事は聞かないことにした。


「それでね、これからのことなんだけど…君に帰る場所がないのは勿論わかってる。でも、人間の君がここに居続けることはオススメしないかな。今はその花のおかげでこの地の魔力から守られてはいるけど…守りが消えた瞬間、君は魔力に侵されて死ぬかもしれない」


因みに、ずっと花の蕾を持たせておくのも邪魔だと思いタラムが寝てる間に他の花を使ってペンダントにして首に下げさせている。初めに渡した蕾はちゃんと部屋に飾り置いてある。


タラムは、背筋を伸ばしてとても真剣な表情で私の話を聞いていた。だから、私は包み隠さず話をしようと思う。


「幸い、君には強い力があるから徐々に慣らしていけばこの地でも生活して行けるようになるかもしれない。でも…それはきっと少なからず人の和から外れてしまうことになる。もしかしたら人の形を保てなくなるかもしれない、とても危険なことなの」


「…」


「人間の地に戻るなら、君を信頼のおける人に託す事も出来る。正直、人間の君は人の元で暮らした方が私はいいと思ってる…今はまだ判断できないと思うけど、せめてこの花が咲く1ヶ月は待ってあげる。その間タラムが何方も選べる様に沢山の事を教えてあげるね。沢山学んで、経験して…その上で答えを聞かせて?君がどちらを選んでも君が幸せになれるように私は協力を惜しまないからね」


話を締めくくりタラムを見つめると彼はボロボロと涙を零した。

嗚咽を零しながら必死に言葉を紡ぐその様は、とても愛おしい。


「あり、がと…」


「うん、さぁ今日はもう寝ようか」


泣き続けるタラムを私は抱き抱えて部屋に戻る。

後ろにはぶすっとした顔のルドも着いてきた。


「…おやすみタラム。良い夢を」


「おやす、み」


額にキスを落とし、彼が眠りに落ちるまでその手を握り寄り添った。



※※


それからの1ヶ月は慌ただしくも楽しい日々をタラムと共に過ごした。初めに、彼の長く伸びっぱなしでボサボサな髪を切り身なりを整えてあげればボロボロの子供はどこにも居らず、とても可愛らしい顔立ちをした子供が現れた。

その後、魔獣達に彼を紹介し島を案内してこの地での生活を教えた。私に引っ付いて離れなかった彼は少しずつ魔獣達と触れ合い笑顔を見せるようになっていった。

その中でも、リャタと聖獣のロイとは仲が良く魔法を教えて貰ったり狩りの仕方を教わったりしていた。


その間にもタラムにはしっかりと読み書きやお金の使い方、人との接し方など人の世の常識を教えこんだ。

彼は飲み込みがとても早く、直ぐに理解し自ら実行していった。

その度に私は彼を褒めて頭を撫でて抱きしめた。

恥ずかしそうにしながらも拒むことなく受け入れてくれるタラムがとても可愛らしく愛おしかった。

まるで、自分に子供が出来たようで何だか嬉しかった。


タラムが来て半月がたった頃、私は彼にある人物を紹介した。

その人はこの島の魔力調査という名目で定期的に訪れる魔術師のおじいさんだった。

彼は人の国では賢者と呼ばれる位に地位が高く、魔力に詳しい。魔獣の私達にも差別なく接してくれる変わった人で、とても優しくて穏やかな人物だった。

ただ…魔法の事になると手をつけられないくらいの魔法オタクでもあった。初めてこの島に彼が訪れた時も、島の魔力に当てられ苦しみながらも興奮して何かを延々と口走っていた。正直、その時の彼の様子にはリドすら引いてしまっていた。

直ぐに人の地へ送り届けたが…何故かそれからというものこの地をよく訪れるようになった。その度に魔力に当てられ倒れる彼を人の地に送っているうちに段々と打ち解け今ではとても仲が良く、私自身彼から色々なことを教わっていた。

しかも彼は、毎回倒れてなんていられるか!と、この地の魔力に対抗するため魔力を弾く魔道具を自力で開発してしまった天才だ。それからはこの島を散策し、より魔獣達と仲を深めている。時折彼が持ってきてくれるお菓子はとても美味しく、今では皆からの人気者である。


この人は私たちに理解があり魔獣に対してもとても丁寧に接してくれる。だからきっと、人から迫害を受けてきたタラムにも優しくしてくれるだろう。タラムが人間の地に戻るのならおじいさんに引き取ってもらおうと思っていた。


タラムとおじいさんを引き合せるとタラムは初め初対面の、しかも大人の男性という事で彼を警戒していたがおじいさんの穏やかな雰囲気に直ぐに警戒をとき2人で色々と話をしていた。

おじいさんは黒髪・赤目のタラムに興味津々だった。

それからというもの、タラムはおじいさんと共に人間の地へ赴いたりして親交を深めていった。


1ヶ月後。

タラムはおじいさんに弟子入りしこの地を去った。

別れの際、彼は泣きながら私に抱きつきしきりにお礼の言葉を口にしていた。私も、タラムの事は自分の子供のように思っていたのでとても別れが悲しくて2人して泣いてしまった。


「タラム、元気でね。たまにはここに来て顔を見せてくれると嬉しいな」


「うん、リア…僕を拾ってくれて、ありがとう。リアに会えてよかった…僕、あの時生きててよかった」


「私も、タラムに会えてこの1ヶ月すっごく楽しかった!

タラム…これからも沢山楽しい事があるよ、頑張って生きて幸せになってね」


「うん!」


最後、私達は抱き合って泣きながらも笑顔で別れた。


『リア…泣くな。また会えるだろう』


「うん、そうだね…」


その日、私はルドに抱きついて眠った。

が、その数日後にはタラムはおじいさんと共に島に来ていた。


数日前、感動的な別れ方をしたというのに…だが、彼の姿を見て嬉しく思う自分がいるものだから、まぁいいかと思った。

ルドは何だか不機嫌そうにブツブツと文句を言っていた。


『やっとリアを独り占めできると思ったというのに…』




※※


タラムがこの地を離れてから数十年の月日が流れた。


「リア!久しぶり!」


「タラム…久しぶり、でも先週も来なかった?」


そう言って私に抱きついてきたのは出会った頃よりも成長したタラムだった。今ではすっかり身長をこされてしまい、私が見上げる形となっている。


相変わらず定期的にこの地を訪れては魔獣達と戯れていく。

そうしているうちに徐々にこの地の魔力に慣れてしまったのか、タラムは魔力を弾く花を必要としなくなっていった。

そのせいか、タラムの髪はひと房だけ白く染まりその瞳には金色が混じるようになっていた。彼は元々魔力が強かったせいもあり、ある程度育つとそこでピタリと成長が止まってしまった。

私はその事が気掛かりだったが、本人は皆とずっといられるからと笑っていた。

彼は賢者であるおじいさんと、今では親友と呼べるほど仲の良くなった聖獣ロイに魔法を教わったため世界有数の実力者となっていた。今では彼の右に出る者はいないだろう。


おじいさんが寿命でなくなるとタラムは数匹の魔獣とロイを連れて旅に出た。時折帰ってきては旅先での出来事を面白おかしく語ってくれる。私は彼らの帰りをルドと共に待つようになっていた


息子のように可愛がっている彼の成長ぶりがとても微笑ましい。

ルドは未だにタラムの事を認めていないが、何だかんだ仲がいい二人を見て私は幸せな気持ちになる。


殺伐とした日々は終わりを告げ、今私の周りには笑顔の花が咲く。

いつか、終わりが来るその日まで楽しく幸せな日々を送れることを切に願う。


「ルド、今日もいい天気ね」


『あぁ、そうだな』


私は今日もルドと魔獣達、そしてタラムと共に最果ての地…いや、魔獣の楽園で幸せに暮らしている。



…因みにタラムはいつしか私の代わりに魔国のリーダーとして魔獣たちを束ねる存在なる。彼は強い魔力にその容姿も相まって人から魔王と呼ばれるようになるのだが…それはまた別のお話。





















とりあえず、これで終わりです。

そのうちリカルドのお嫁さんのお話とか載せられたらいいなぁと思ってます。


お読み頂きありがとうございました!

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