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プセマ遺跡

 翌朝、アイルとライラが依頼へ同行する旨を改めて皆に伝えた。当然レナードなどは、なぜアイルの気が変わったのか不思議がったが、昨夜のことは色々と危うい内容なため、真実は他の誰にも打ち明けていない。

 それから、六人は王都で馬車を拾い、小一時間かけてサンクトゥス王国領内の村へと降りた。そして、そこからは獣道のように、鬱蒼とした草木に囲まれた、狭く蛇行した道を徒歩で移動。プセマ遺跡へと近づくにつれて、ソフィアは口数がめっきり減り、話しかけても視線は下の方へと沈み込み微動だにもせず、まるで絞首台へと進む罪人のようだった。


 「プセマ遺跡、初めて来たがかなりでかい建物だな」


 「それに、目立った損傷も見られないし、とても千年前に建てられたものとは思えないね」


 タイロンとノエルが口々に感想を述べていく。全くその通りだった。

 薄暗い森の中に突如として現れた、異彩を放つ石造の建築物。その外観は、簡潔に言い表せば奇抜な趣向をした大きな屋敷で、石畳の一本道の先にある、入り口の屋根に当たる部分だけ奇怪に彫られた岩でできていて、異様に寸胴で高い。そこから急激に背の下がった、古ぼけた薄茶色の瓦葺きの屋根が左右に浅い階段状に広がっている。奥の方には、さらに大きな建物の上部が見える。非常に長い年数ここに鎮座していたせいか、建物の所々にはコケやツタが侵食し、雨風に曝され表面の色は剥げ落ちている。だが、それを支える石柱は一つも欠けることなく、建物を維持せんと強靭な脚を今なお地面に伸ばしていた。さらに、壁面に彫刻されたその幾何学的な紋様は、森の暗い感じと溶け合い、人を畏怖させるような荘厳さを放っている。それはある種の不気味さと言ってもいい。


 「さきほど聞いた村長の話では、ここら辺は長らく誰も寄り付いていないらしい。数年前までは、歴史的重要性から騎士が定期的に見回りをしていたらしいが、それも今ではないようだ」


 レナードが軽く説明する。千年という悠久の時を経た建造物なのだが、特に大したものは発掘されず、王国もこれ以上無駄な資金を使うまいと早々に見切りをつけたらしい。何のために建てられたさえ解明されてないというから驚きだ。


 「確かに、ちょっと近づきがたい感じもするね」


 ノエルも遺跡のきみ悪さを感じ取ったのか、少し顔色が悪い気もする。


 「魔物が巣食ってる可能性は十分にあるってことか。どうするよ? ここはまだほんの入り口みたいだが」


 タイロンは腰に手を当て、指示を仰ぐ。だが、当のソフィアからは何も応答がない。


 「ソフィア様?」


 「え? ああ、うん。とりあえず奥に進んでみましょう」


 一番近くにいたレナードに聞かれ、ソフィアはぼんやりとした様子のまま、今度は他の皆を取り残して、一人先へと進んでいってしまう。


 「ソフィア様、今朝からだいぶ様子がおかしいね。何か知ってる?」


 ソフィアに聞こえぬよう、声量を抑えてノエルが聞く。それに対して、お手上げという感じで首を振るタイロン。


 「わからねえ…… アイルたちはどうだ?」


 「俺にもさっぱり」


 「そうか」


 「日々の疲労が溜まってるせいかもしれない。皆、ソフィア様から目を離さないようにしてくれ。もし、危険そうなら依頼の中断も念頭に置いておいて欲しい。何よりも全員の安全が第一だ」


 アイルたちは、レナードの提示した方針に従うことにする。そして、急いでソフィアの後に続こうとするが、アイルはふと気づいて振り返る。棒立ちの状態で、ライラがぼんやりとプセマ遺跡を眺めていた。


 「どうした、ライラ?」


 「ううん、何でもない」


 そう言って、小走りにアイルの元へ近づくライラは、依然どこか憂いを帯びていて判然としない顔をしていた。なんだかいい知れぬ不安を感じる。ここに連れてきて良かったのだろうか。しかし、ソフィアはライラも指名していたし、仮に置いていくと言っても、彼女はそれを聞かなかっただろう。

 正面にぽっかりと空いた扉のない入り口をくぐり抜けると、現れたのは天井のない、庭のようなだだっ広い空間。正面には先ほど見えていた巨大な建物が静かに佇んでいる。その全貌は、尖塔を太らせて斜面をゴツゴツと角張らせたようなものだった。そして、その入り口へと続く道の両端には、石像のようなものが並んでいた。人の形を模したようだが、その全ては脚を残し綺麗に無くなっている。かといって、近辺に破片らしきものもなく、破壊されたのか、元々そういう造形だったのかはわからない。


 「何か妙だな」


 辺りを見回していたタイロンが呟く。


 「どうしたの、タイロンくん?」


 「いやな、依頼の話を聞く限り、ここにいいるかもしれない魔物ってのは相当凶悪ななんだろ? でも、見てみろよ。足跡もなければ、捕食された生き物の残骸や、糞一つねえんだ」


 「確かに、何一つ痕跡が無いのはおかしいな」


 タイロンの隣に並んだレナードも賛同を示す。

 

 「そもそも、どうして依頼主はここに魔物がいるかもしれないと思ったんだろうな。こんな場所をわざわざ訪れた理由もわからねえし」


 「そうだな…… ソフィア様、その辺り依頼主に聞いていないのですか?」


 「ごめんなさい。あんまり詳しくは……」


 ソフィアは弱々しい声で、項垂れた。


 「でも、ここまで来て引き戻るわけにもいかないわ」


 「そうですね。でも、ソフィア様、警戒は怠らないようにお願いします」


 「ええ、わかってる」


 ソフィアが再びゆっくりと歩き始める。仕方なく他の皆もそれに続いた。

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